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屠殺者の末路 ~それぞれの末路~

――翌日、都内某所にある病院の一室で矢代大地は目を覚ますことになる。


「……――ここは……僕は確か……」


 ベッドの上で横になりながら思考を整理している最中、病室のドアが開いた。そして、「目が覚めたみたいですね」という声と共に茶髪のショートヘアをした若い女性が姿を現した。


「あなたは……そうだ! あいつ! あの、僕、人に襲われて――」「落ち着いて下さい。もう大丈夫ですよ」


 彼女は微笑みながら、落ち着いた声で話す。


「えっと、あなたは……」

「私はそう……あなたにとっては、悪夢そのものというべきでしょうね」その言葉を聞いて、矢代の顔色が青ざめる。

「な…い、いったい、なにを……」女性は手元の資料に目を向けながら話し出す。

「なかなかひどいことをするものですね。十数匹の動物の殺害と、分かっているだけで四人の人間の殺害……まぁ、死刑は免れないでしょうね」

「し、しけ……? 死刑って……どういうことだよ!?」

「そのままの意味です。あなたは史上最悪の部類に入る殺人鬼ということですね」

「そ、そんなの嘘だっ! これは全部夢なんだっ!」


 矢代は必死になって否定するが、彼女はそれを冷たく突き放すように言い放つ。


「残念ですが、これが現実です。それと、あなたの身柄は警察ではなく、我々が拘束しました。これからは我々の監視下に入ってもらいます。もちろん、拒否権はありませんがね。それと、あなたはしばらくの間、入院生活を送ってもらうことになります。その間に、自分が犯してきた罪を悔い改めてください」

「嫌だ……いやだいやダイヤダッ!!」


 矢代は頭を振って拒絶反応を示す。しかし、彼女は冷静に対処する。


「それなら、一生刑務所の中で過ごすか、あるいは死ぬか、好きな方を選んでください」


 矢代はしばらく黙った後――。


「うわああぁぁぁッ!!!」


 ベッドの上であらんばかりの力を込めて暴れ回る。が、全身を拘束されているために部屋の中では彼の絶叫とベッドが軋む音が空しくこだまするだけだった。


「……――」


 女性はその様子をただじっと見つめていた……まるで、哀れなものを見るかのように……。


「……さようなら」


 女性はそれだけ告げると、矢代に背を向ける。


「ま……待ってくれ……助けてくれ……」


 女性がいなくなった病室では、これから自身に起こるであろう惨劇を前に震えるだけの矢代の姿があった。


                       ※


『同時刻』

……都内の某所で、ある会議が行われていた。室内にいる人間は全部で5名。その内、4名は全員初老に差し掛かっていた男性たちであり、残る一人だけが若い見た目の女性だった。その女性が話し始める。


「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。つい先ほど、新たな『組織犯罪特別対策班』が設立されました。私は、そこで班長として抜擢されました」


 その報告に最初に反応したのは、最も年配に見える老人の男性であった。


「ほう……君が新しい組織の長になったのか。それで……君の手腕を私に見せてもらいたいものだな」


 彼女はそれに笑顔で応じた後、真剣な表情を浮かべながら語り始める。


「今回、私が皆様にお願いしたいことは二つあります。まず一つ目は、この国の裏社会における闇をすべて払拭することです。そのためには、裏社会に深く通じている人間が適任だと考えています」


「ふむ……つまり我々は君に協力することで『貸し』ができるというわけだな?」


 彼女の発言の意図を汲み取った男性は、納得した様子でつぶやく。他の二人も彼女の思惑を理解したらしく、口元に笑みを浮かべながら彼女に向かって口を開く。


「なるほど。それで、二つ目の願いはなんなのかね? 我々に協力できることがあれば協力しようじゃないか」

「ええ。それは……」


 2人目の質問に対して答えるべく、彼女は自分の目的を口にする。その瞬間、3人は驚いた様子を見せる。


「……それは本気かね?……いや、君は冗談を言うタイプではなかったな。それならば……私も全力を尽くそうではないか」


 男性の力強い返答に対し、彼女は感謝の言葉を述べる。


「ありがとうございます」


 3人目の男性が静かに問いかけてくる。


「……私からいくつか聞きたいことがあるのだが、よろしいかな?」


 それに対して彼女は快く了承し、どうぞ、と促す。


「一つ目だが、具体的にはどんな方法で事を進めるつもりだ?」彼は彼女に具体的な方法を聞き出そうとする。

「方法は……特には考えていません。なので、私の思い付き次第で様々なことをしていきたいと思います」

「……なにか作戦はあるのだろう? ないのであれば……困るのだかな」

「大丈夫ですよ。私だって無策のまま、こんなことを口にするほど馬鹿ではありませんよ」


 自信に満ちた彼女の態度を見て、3人ともひとまず安心しているようだったが、最後の1人である男性が不安そうに話しかけてきた。

「……君、まさか、あいつをまた使うつもりじゃないだろうね?」


 あいつという言葉を聞いて、彼女の脳裏に過去の記憶が蘇ってくる。だが、彼女は努めて冷静に振る舞う。


「……ご安心ください。少なくとも、この班の仕事に関しては関知しません」

「ふむ、それならば……」


 男性が納得した様子を見せると、最長老の男性が小さくうなづく。


「……まぁいい。私は賛成だよ」


 1人が賛同すると、残りの者達もそれに同調するように首肯する。


「……わかりました。それでは、皆さんの力を借りることになるでしょうが、よろしくお願いします」


 彼女が頭を下げると同時に、四人の男達はそれぞれの反応を示しつつ、部屋を出ていった。


                      ※


『同時刻・警視庁地下資料保管室にて』


 私は昨日の戦闘が嘘だったかのように気分よく目覚めた後、こうして仕事場であるオモイカネ機関本部に出勤している。

 だが、いつもは私が一番乗りなのだが、今回は私が一番最後のようだ。本部にはすでに鬼島警部や鳴海刑事、大倉刑事がいた。三人は同時にこちらに目を向けると、驚愕の表情を浮かべる。


「神牙っ! ニュース見たかっ!?」


 鬼島警部が私にそう叫ぶ。私が首を横に振ると、大倉刑事も叫んだ。


「見てみろっ! 大変な事になっているぞ!」


 二人の言う通り、テレビをつけてみると、そこには衝撃的な映像が流れ始めた。


『速報です。今朝未明、警視庁の拘置所に収監されていた小此木容疑者が死亡しているのが発見されました。死因は不明。警察は自殺の可能性が高いとして捜査を続けています』そこで一旦CMが流れる。

「朝からずっとこのニュースのことでもちきりですよ。神牙さん、何か知りませんか?」


 鳴海刑事の質問に対して、私は何も知らないと答えた。


「神牙でも知らないってことは…タイミングよく小此木が自殺したってことか?」


 鬼島警部の言葉に、大倉刑事は首をひねる。


「しかし、いくらなんでもタイミングが良すぎるであります。まるでそう、口封じでもされたような……」


 その言葉に、本部内は静まり返る。

 私としても、その可能性は大いにあると考える。

 この事件の真犯人が矢代大地であることは、この場では私だけだ。その矢代は、『組織』の手に渡った。模倣犯でもない限り、もう類似の事件が起きることはないだろう。

 そして、元々矢代大地の身代わりとして出頭した小此木は用済みになった……こう考えれば、奴の死も理解できる。

 結局、世間に事件の真相が漏れる心配はないというわけだ。まぁ、連続殺人事件の犯人が警視庁管理官の息子ならばこの国ではさもありなん、というべきか……。


「ところで、今日は何をするんです?」


 鳴海刑事が聞いてきた。私はしばし考える。

 事件はすでに、表の面でも裏の面でも解決した……彼らだけには、事件の真相を話した方が良いだろうか?


「おい、神牙……どうしたんだよ? まさか、まだ具合が悪いのか? なら、休んでもいいんだぜ」


 私の沈黙を体調不良と勘違いしたのか、鬼島警部は私を気遣うように言った。

 私は、大丈夫だと返す。そして、事件の報告書を提出するように言った。その言葉に、鬼島警部以外の二人は仕事に取り掛かる。

……結局、今も私は彼らを『組織』関連のいざこざに巻き込みたくないと考えて嘘をつく…この嘘が、いったいいつまで続くことだろうか……。

 そんなことを考えながら、私は自分のデスクに座って専用タブレットを使って『その者』と連絡をとった。


『ニュースを見たが、あれは組織の仕業か?』

『その問いには、これから起きることを目撃してからでも遅くはないな。少なくとも、君ならば事件の結末としては多少なりとも納得してくれるはずだ』


 そうメッセージが来て、すぐにまた連絡が来る。


『午前十一時三十五分。警視庁捜査一課まで』


……画面にはそう表示されていた。私がその文言に首をかしげていると、『その者』から追加でメッセージがくる。


『これで、この事件は解決というわけだ』

『そうか。それなら、報告書と資料の作成に取り掛かる』


 私はそう返信して奴との通信を終えると、宣言通りに仕事に取り掛かる。

 そのまましばらく時間が経つと、『その者』が言っていた時間が近づいてい来る。

……私はみんなに、用事があって出かけることを伝えて、本部を後にした。そのまま廊下を歩いてエレベーターに乗り、捜査一課があるフロアまで向かう。

 そして捜査一課に入るのだが、警視庁の花形部署らしく午前中にもかかわらず慌ただしかった。

……さて、どうしたものか……『その者』からの指示では、ここに来れば何か面白いことが起きるはずなんだが……。


「おい」


 突然、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには本郷警部がいた。


「お前、どうしたんだ? ウチになんか用か?」


……困った…単に見学のために来たというのは彼に失礼だろうが……ほかに適当な理由が思いつかない。仕方ないが、結局私は見学に来たと答えた。


「へっ、なんだそりゃ? ま、好きにしな」


 そう言って、彼は迷わず課長のデスクに向かう…彼と関係を改善したことを、今は心からよかったと思う。

 私はしばらくそのまま手持ち無沙汰となり、本郷警部の視界に入りつつも備品のお茶を飲みながら時を待った。

……そして、時計が午前十一時三十五分を指した瞬間――。


「うわぁっ!!」突然、私達に協力的な捜査員が悲鳴を上げた。

「なんだっ!?」

「どうしたっ!?」その叫びに、同僚の刑事達は一斉に彼に視線を向けた。

「ひ、人が、人が落ちましたっ!」

「なにっ!?」


 その言葉に、本郷警部は自分の真後ろにある窓を開けて階下を見下ろす。


「……」


 そこには、制服を着た男性――矢代警視が倒れていた。

 彼は後頭部から血を流しており、赤黒い血は警視庁の敷地内にあるコンクリートにゆっくりと血の海を作り出していくのが、ここからでもハッキリ見える。


「な……か、管理官っ!?」


 さすがの本郷警部も、驚きを禁じ得ないようだった。


                       ※


――それから時間が経ち、私は再び自分の居場所である警視庁の地下へと戻っていく。あの後、私は現場に急行する他の刑事達に紛れるようにして現場へと向かった。そして到着した時にはすでに矢代警視の周囲には人だかりができていたが、その姿を確認した……当然だが、彼はすでに亡くなっていた。

 彼はしばらくしてやってきた救急車に乗せられて病院へと搬送されたが、おそらく死亡確認の通知だけが来るはずだ。私はその時にうまくその場を離れて、こうして本部へと戻っている。

 そこで、私の専用タブレットに通知が来た。『その者』からだ。


『納得したか?』


……結局、矢代親子は『組織』の手によって粛清されたのだろう。まぁ、当然と言えば当然かもしれないが、どうにかして事件を白日の下に晒して二人に法の裁きを受けさせられなかったものか……。


『ああ、一応は』

『手厳しいな。犯人もその協力者も始末したのに、まだ不満か?』

『組織が事件の真実を明るみにすることなく奴らを始末したのは、やはり警視庁という隠れ蓑を考えてのことか?』

『そうだな。組織にとって、警視庁は日本国内で有数の実力組織の潜入先だ。そうそう手放すはずはないよ』

『それなら、小此木は? 奴は組織の一員じゃなかったのか?』

『いいや、小此木は『組織』の人間ではない』

『どういうことだ? 』

『小此木は、組織にとっては捨て駒だよ。奴は元々は強盗殺人で捕まっていたんだが、顔と名前を変えて我々の工作員として保有していたんだ』

『それを矢代警視が自分の息子の身代わりとして使ったのか?』

『ああ、そういうことになる。しかも、息子の不始末をもみ消すために独断でな。まぁ、そのおかげであの親子をまとめて始末出来たわけだがな』

『そうか』


 まぁ、もし放っておいたら『組織』にとって壊滅的なダメージを与えていただろう。彼らには悪いが、自業自得というものだ。


『改めて言うが、これで今回の事件は全て終わった。ご苦労様』

『ありがとう。ところで、お前が寄越してきたあの女性…彼女はお前の部下か?』

『ああ、そうだ。それがどうかしたか?』

『いや……ただ、お前の部下にしては戦闘力に問題があると思っただけだ』

『それはまぁ、ウチは情報機関なわけだから、ガチムチ脳筋だけではやっていけないだろう。それでも、多少なりとも荒事には慣れているはずだ』


……よくわからないが、理解したことにしておこう。


『それで、報告書には真実を記すのか?』

『ああ、構わない。ただ、君の部下達にはどうする?』……正直、悩んでいる。だが、結局私の選択肢は一つだけだ。

『彼らには黙っておく』

『墓場まで持っていくつもりか?』

『彼らが報告書に目を通そうとしない限りはな』

『わかった。くどいが、ゆっくり休んでくれ』

『ああ』


 そうして、私は『その者』との通信を終えて警視庁の地下通路を歩いていく。

 そのまましばらく歩いていると、いつもの職場へと続く重厚な出入り口が見える。


「……ふぅ」


 私は深呼吸をして、扉を開けた――。


「あ、神牙っ! お前、今までどこにいたんだよっ!!」


 すると、鬼島警部がしゃべりかけてきた。鳴海刑事と大倉刑事は珍しくテレビにくぎ付けになっている。


「た、大変だぜっ! 矢代大地の親父いたろっ! 一課の管理官のっ! あいつが飛び降り自殺したらしいぜっ!!」


……この分では、彼らにこの事件の真相が知られることはなさそうだ。

 私は鬼島警部の言葉に調子よく反応しながら、彼らの輪に入っていった……。

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