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餓鬼 ~生き残った肉~

『その者』からの情報によってその存在を知った研究所を捜索しようと考えた時、このような事態を目にするとは思わなかった。

 私達の目の前には、天井にまで届くほどの紅蓮の炎が轟々と燃え盛っていた。

 幸いなことに、部屋の中に消火器が置かれていたので、それを使って鎮火を試みる。一体なぜ、こんなことに?……見たところ、ここは先程いた倉庫のような場所の隣に隣接した、これまた倉庫のような場所だ。

出入り口は私達が入ってきた扉の一か所しかなく、窓などもない。完全な密室だ。

……いくら考えても、目の前の状況を説明する答えが出てこない。

 だが、目の前の火は確実にその勢いを弱めていき、やがて煙と灰だけを残して完全に消火を完了した。その間もメンバー達は誰一人言葉を発することなく事態を見守り、あるいは行動していた。

 そして消火活動を終えて周囲にこれ以上の異変がないことを確認すると、私は恐る恐る火元だった場所に近づき、確認してみた。すると、そこにはやはり黒い塊があった。

 それは人の形をしていた。しかも一人ではない。二人分ある。大きさ的には成人男性ぐらいであろうか?

 その正体はわからないが、まだわずかに燻っているようであった。かろうじて燃え残った衣服から推察するに、この人物達は白衣を着ていたことはわかった……つまりこの男達が、ここで何らかの理由で死亡していたのを、私達は発見したというわけだ。

 今、世間を賑わせている、『組織』が絡んでいる可能性のある連続殺人事件において、もっとも嫌疑のある場所で……。


「おい、神牙」


 不意に、鬼島警部に呼ばれた。彼女は遺体の近くにある床から手帳を拾い上げて見せてくる。

……するとそこに書かれていたのは日記らしき文章。だがその内容を見た瞬間、私や鳴海刑事達は一斉に驚愕した。そこにはこう書いてあったからだ。


『二月一日。ようやく準備が整った。あと少しの辛抱だ』

『三月二十日。薬が完成間近になった。これで全てがうまくいくだろう』


「何だこれ……」

「何の話でしょうか……」

「わかりません」


 私も同感だった。日記にはそれ以上は何も書かれていなかった。

 だが……『薬』というワードが、私に不穏な感情を抱かせる。ここで『組織』の研究機関が何かの研究や実験をしていたというならば、まともな症状を起こす、あるいは症状を緩和する薬ではないだろう。

 私はみんなに、少し待つように言って隣の倉庫に移って専用タブレットを開いた。


『お前が知らせた研究所の跡地で、遺体を発見したぞ』

『犯人か?』


 私のメッセージに反応した『その者』は、どうやら私が事件の犯人を殺害したと思い込んでいるらしい。そこで私は、今起きた出来事を奴に伝えた。


『どうにも分からなくなってきたな。その二名の身元は分からないのか?』

『いや、まったく。燃えた遺体から判断して、男性であることと医者なんかが着ているような白衣を身に着けていたということくらいだ』

『ということは、その二人は過去にその研究所で働いていて、何らかの理由で閉鎖されたその場所へ潜入し、何らかの理由で焼け死んだと?』

『まぁ、その可能性がないとは言えないな。少なくとも、私達の目の前で焼死したのは間違いない。悲鳴などは聞かなかったがな』そこまで会話して、奴からの返信が少し鈍った。

『ということは、眠らされていたか猿ぐつわでもされていたか、どちらにしても、何者かに殺された可能性が高いということか?』

『ああ。その犯人がどこから逃げたのか。その犯人は今回の事件にも関わっているのか。それこそ、あの二人が何者なのかまで、ほとんどが謎の状態だがな』そう送信してから数分後、再び返事が来た。

『どうする? 撤退してタケミカヅチにその建物を掃討してもらうか?』


 タケミカヅチ……『組織』が保有する、戦闘部隊……奴らに任せてしまったら、おそらくこの建物は灰燼かいじんすだろう。その場合、もし証拠などもあれば丸ごと消え去る羽目になる。


『いや、まだ調べてない箇所もある。それからだ』

『分かった。また何かあったら連絡してくれ』


 私は奴との通信を終えて、みんなの元に戻る。そして、まだ捜索していない場所を調べた後、この建物を封鎖することを伝えた。


「……ま、死体が二体もあったらな…」


 鬼島警部は遺体に目を向けながらそう言った。他の二人も、異存はないようだ。

 そのため、私達は先ほどよりも素早く二階を捜索していく。だが……何も見つからなかった。

 結局収穫と呼べるものは得られず、私達は一階に戻った。すると……階段付近で、大倉刑事が何やら立ち止まっていた。私は彼に駆け寄る。


「どうかしたのか?」

「いや、なんだか……」


 彼はそう言ったまま、階段付近の壁などを見つめている。私は彼の視線の先に目を向けるが、特に不審な点は見当たらない。

 だが、大倉刑事はおもむろに壁に近づき、そこにあった扉の横のプラスチック製のカバーを外す。


「む?」


 すると、その中はカードリーダーになっていた。私がそのことについて彼を称賛すると、彼は頭をかく。


「……普段から、何かあった時のための避難経路などを確認していたからな…」……彼の臆病な性格を、今は褒め称えたい。

「おい、どうした? なんか見つけたのか?」


 後ろから鬼島警部がきたので、説明をする。


「ほー、そりゃすげぇな。それで? 肝心のカードはどこだ?」


 そこで、私は『その者』からもらったカードキーの存在を思い出し、ポケットから取り出してカードリーダーに通した。すると、機械から『ピッ』と電子音が鳴り、隣にある扉がガチャリと開く。思わず、私はその場で立ち尽くしてしまった。


「どうかしましたか、神牙さん? 入らないんですか?」


 後ろからそう言ってくる鳴海刑事に対して、私は疑問を口にした。

 この施設は、明らかに閉鎖されてそれなりに時間が経っている。電気、ガス、水道、基本的なインフラはすべて停まっている。それなのに、どうしてこの機械は作動しているのか……。


「……正念場だろうな」


 鬼島警部は、手にする拳銃を点検しながらそう言った。それを見て、他の二人も同じようにする。

 そう……先ほどから聞こえる換気扇の駆動音のような音にしても、この施設にはいまだに何かあるのだ。私はショットガンを構えつつ、そっと扉を開けて中をライトで照らす。そこは……地下へと続く階段があった。もはやベタな展開だ。


「……行くぞ」


 鬼島警部はそう告げると、ゆっくりと下りていく。私達もそれに続く。

 階段を降りきって、再び扉を開けると、そこには地上の研究所と同じような無機質な空間が広がっていた。ライトの明かりで見える範囲では、そのどれもが研究室のようだが、一つだけ違う点がある。それは――。


「うぅ……」


 後ろで、大倉刑事がうめき声をあげる。そう…この空間は、赤黒い液体がそこかしこに飛散していた。確認するまでもなく、鼻腔をくすぐる不快な鉄の臭いからして、まず間違いなく、この液体の正体は血だろう。

 おそらく……これが、この研究所が閉鎖された原因であり、今回の事件が起きるきっかけと考えられる。見える限りでは、ほとんど致死量ともいえる血痕が壁にも天井にも飛散している。もちろん、この惨劇が起きた時に被害者が一人だったとは限らないが、どれほどの人間がこの惨劇の犠牲になったのかは、もはや定かではない。

 私は意を決して、この空間を捜索することにした。すべての答えは、おそらくここにある……私の勘が、そう告げていた。

 私は近くにある研究室に足を踏み入れる。室内は暗かったが、やはりここも持ってきたライトのおかげで、すぐに視界は確保できた。

 私は注意深く、机の上に置かれた書類を手に取る。だが……そこに書かれている文字は、私にとってまったく理解できないものだった。


『被検体ナンバー003』

『被検体ナンバー074、拒絶反応により死亡』

『実験結果、成功』


……ここに、この事件に関する手がかりが眠っていることだけは分かった。だが……それが何かまでは分からなかった。次に、私は部屋の片隅に置かれている、大きなガラスケースの中に入ったものを見やる。これは……人間の骨か? だが……それは明らかに異形な存在になっていた。人間なのか、それともそれ以外の何かなのか、それすら分からない。まるで、怪物のように。

 やはり、ここでは違法な人体実験などを行っていたようだ。まぁ、今更驚くことでもないか……私がきびすを返して部屋を出ようとすると、背後から物音が聞こえた。振り返ると……鬼島警部が、壁に貼り付けられた資料らしきものを見ていた。私は彼女に駆け寄り、その内容を確認する。


『BS-AAS変異体の点滴静脈注射による全被検体の経過観察』……そこにはそう書かれていた。おそらく、ここでの実験の経過報告か。何か重要なことが書かれているかもしれないため、少し読んでみることにした。


『投与開始より五日後、血中濃度の上昇が確認された。引き続き、投与を継続。さらに三日後の深夜、被験者の身体に異変あり。その後、被験者は暴走し、施設内の研究員全員に重傷を負わせる。その際、数名の死者が出た模様。しかし、翌朝になると被験者は正常に戻った。

 それ以降、同様の症状は見られず、被検体は安定状態にあると思われる。なお、この件に関して警察へ通報しようとしたが、当所の判断でそれを却下した。理由は、本件が世間に知られることによる社会的混乱を恐れたためである。今後、定期的に血液検査を行い、経過を観察する』


 なるほど……要するに、この研究所では何らかの方法で、人を人ならざる者に変えようとしていたというわけだ。だが、それは初期にはうまくいかなかったらしい。

 死者が出たとのことだが、廊下の血痕はその時のものではないだろう。おそらく、その時の事故の証拠は入念に隠滅されたはずだ。実際、警察への通報も妨げられたに違いない。

 私はさらに読み進めていく。すると……そこには、驚くべき内容が記されていた。


『被検体ナンバー01-06、拒絶反応により死亡。また、その際に発生した火災によって、多くの死傷者を出した。以後、このような事態が起きないよう、各被検体に特殊な薬剤を注入してから点滴静脈注射を行うことにする。今後は、この方法にて被検体を管理していく方針とする。尚、本日より試験的に、この方法を試行する』


 被検体の死亡と、研究所の火事……そのようなことは、噂にも聞いていなかった。どうやらこの研究所は、かなり機密レベルの高い研究に従事していたようだ。記録は続く。


『被検体No.07に、薬品を注入して投与を開始。その直後、被検体が暴走を始める。しかし、今回は前回以上の被害を出すことなく鎮圧に成功。その後も継続的に薬物の投与を継続する。同時に、被検体に対する心理テストを実施する。その結果、被検体には高い知性と社会性が認められた。今後の成長が期待される。また、その他の被検体も同様の措置を行う』


 どうやら、実験はある時点で成功し始めたようだ。だが、今私達がこの場にいることが、最終的にその実験が失敗に終わったことを意味する。おそらく、この後は……最悪の展開が待っていたのだろう。記録はまだ続いていた。


『被検体No.08に、薬品を注入して投与を開始。直後、被検体が暴走し始める。しかし、今回も前回以上の被害を出すことなく鎮圧に成功。その後も継続して薬物の投与を続行。並行して、被検体に対する心理テストを実施。その結果、被検体に高い社会性が認められず。他の被検体とのコミュニケーションが取れないことが判明。知能指数こそ他の被検体よりも高いものの、他者との関わり合いができないことからして、この個体は失敗作とみなす。よって、この個体には特別な処置を施すことに決定』


『被検体No.09に、薬品を注入して投与を開始。直後、被検体が暴走を始める。その後、多数の負傷者を出しながらもこれを鎮圧。この一件で、被検体に対してより強い薬剤の使用が必要であることが分かった。また、今後も引き続き実験を続ける必要がある』


『被検体No.10に、薬品を注入して投与を開始。直後、被検体が暴走し始める。その後、負傷者多数出しながらこれを鎮圧。この実験の結果、被検体No.07の時と同様に、被検体には他の被検体とは異なるアプローチが必要ということが証明された。ただし、今回の実験で分かったのはここまでである。引き続き、被検体に対する実験を継続』


『被検体No.13に、薬品を注入して投与を開始。直後、被検体が暴走し始める。その後、多くの死傷者を出し、さらに炎上。この実験結果を受け、当所は今回の被検体に対しての投薬を断念することに決定。以降、実験を再開することはできないものと考える。尚、この被検体は焼却処分することが決定している。これ以上、実験の犠牲者が出ることを防ぐためにも、これは必要なことである。尚、このことは一切公表しないこととする』


 どうやら、実験の過程で複数の廃棄処分、つまり被験者の殺害が行われたようだ。まぁ、ある程度予想はしていたが。


『被検体No.11と12、拒絶反応により死亡。理由は、研究員が薬剤の投与量を多くしたことと判明。そのため、今後は実験の管理体制を強化することとする』


『被検体No.16、拒絶反応により死亡。被検体に使用した薬物の量が多かったためと考えられる。原因究明のため、現在被検体No.17以降の被検体は使用していない。今後については未定』


『上層部より実験の再開を許可された。実験を再開。被検体に薬剤を注入して投与し、被検体の覚醒を待つ』


『No.07から被検体No.15までの被検体は死亡、または廃棄処分とした。残った被検体に対しては、薬物による強化処理と外科的改造手術の実施が決定した。まずは、被検体No.16に実施予定。詳細は追って報告する』


 その後も記録は続いていたが、特に目を引くような記述はない。しいて言うならば、そのどれもがなんらかの違法性を帯びていたことくらいだ。私は最後の記録に注目することにした。


『おそらくこれが私の最後の記録になるだろう。上層部は我々を見捨てた。鎮圧部隊もほとんどが無力化され、今はドアの外から骨が砕ける音や肉に食らいつく音だけが聞こえる。こんなことになると知っていたら、高い給料につられてこの研究所に来ることにはならなかっただろうに。

 おそらく、上層部は今回の騒動でこの研究所を不完全な形で廃棄処分とするだろう。この記録も手付かずのままなはずだ。これを読んだ人へ。どうか、この悪行を世間に知らしめてほしい。私はもう無理だ。奴らに食われて死ぬくらいなら、自分で死ぬ』


……私はファイルから目を離して、天井からぶら下がる死体を見つめた。おそらく、この記録は彼がつけたのだろう。どれほど無念だっただろうか……。

 いずれにせよ、この研究所では最終的に収拾不可能な事故が起き、こうして廃棄されたわけだ。出血量に対して遺体の数や体積が少ないのは……おそらく、この日記が示唆しさする通り、食べられたからだろう。

 私はこれ以上この部屋で探すものはないと考え、メンバー達と共に他の研究室を捜索することにしたが、他の研究室も同じようなものだった。どの部屋の資料にも人体実験の記録があり、さらには職員の遺体も発見した。そのどれもが、大磯と同じような状態だった。つまり、体を食べられているような跡があり、程度の差こそあれ、筋繊維が肥大していた。

 そして、ついに最奥の部屋の前に辿り着いた。扉の隙間からは光が漏れている。どうやら、まだ電気は通っているらしい。地上のカードリーダーがまだ動いていたのも、ここの電気系統が無事だったおかげだろう。私が準備はいいかと聞くと、皆は黙ったまま首を縦に振った。

 私達は武器を構え、勢いよく扉を開ける――中に入ると、そこには白衣を着た男性達の死体が転がっていた。首元には何かに噛まれた跡がある。同時に、不快な血や臓物の臭いが鼻腔をくすぐる。


「うっ!」


 途端に大倉刑事がよろめくが、彼もここが正念場とばかりになんとか持ちこたえたようだ。

 そして、部屋の明かりがあるおかげで、ハッキリと視認できた。部屋の中央…そこに一つ置かれた椅子に座り、片腕を点滴に繋がれた、その存在の姿を……その者は、静かにこちらに目を向けた。

 その姿は、一言で言うならば『異形』であった。

 背丈はおよそ2mほど。全身は青白く、皮膚は所々ケロイド状になっており、手足の先端には鋭い爪がついている。顔は人間の面影があるが、目は爬虫類のようにギョロリとしている。口元は鮮血に濡れており、ここからでも口蓋と歯の変形が見て取れる。

 頭部も髪は所々抜け落ち、皮膚が剥がれ落ちている。頭皮が見えるどころか、一部からは頭蓋骨まで見えてしまっている。

 さらに、肩甲骨の辺りから腕が四本生えている。そのうち二本は人間のものと同じだが、残りの二の腕に当たる部分はまるで昆虫のそれのような外骨格に覆われていた。

 背中に生えたもう一対の腕は、指先がそれぞれ鋭利に尖っており、先端から赤い液体がしたたり落ちる。

 だが、それだけの有様にもかかわらず、その存在は苦痛にあえぐ様子も見せず、ただジッと私達に視線を向けているだけだった。


「グゥオオォ……」


 化け物は喉の奥底から絞り出すように声を出すと、ゆっくりと立ち上がった。その動きは非常に緩慢であり、今にも倒れてしまいそうなほどだった。

 しかし――次の瞬間には信じられない速度で駆け出し、私達の目の前に迫ってきた。

 私は咄嵯にショットガンを構えて発砲する――が、散弾はその体を捉えることはなく、虚しく壁に着弾する。

 私は銃を捨て、ナイフを抜いて構える――その直後、私の右腕は凄まじい力で掴まれ、そのまま引き千切られそうになる。

 私は痛みを堪えながら、左足で回し蹴りをくらわす。すると、化け物の口から悲鳴が上がり、私の右手から力が抜けた――同時に、ナイフで人間の弱点を切り裂いていく。


「ギャヤーッ!!」


 構造が似ているのか、切り裂いた部分から大量の血液を垂れ流しながら、化け物は悲鳴を上げて後退する。


「せいっ!!」


 すると、私の真横からすさまじい物体が通り抜けていったと思ったら、風圧と共に大倉刑事が化け物に突進するのが見えた。そのまま化け物は吹き飛ばされ、座っていた椅子やその他の点滴などの医療器具をなぎ倒しながら倒れこむ。

 私はその隙に散弾銃を拾って構え、みんなに合図をした。

 刹那――大量の拳銃弾と散弾が、倒れこむ化け物に向かって浴びせかかる。

 最初は動いていた化け物も、私達が放つ弾丸が残り少なくなる頃には全身を鮮血で濡らしてピクリとも動かなくなった。

 私は撃つのをやめるように言って、散弾銃を弾を込め直した後に構えながら化け物の生死を確認する。しばらく様子を見ていたが、化け物が動く気配はない。私はそれを確認してからようやく安堵のため息をつくことができた。

 それから、全員の無事を確認してから部屋を出ることにした。ここの調査は、『組織』の別部署に任せればいいだろう。地上へと戻る途中、誰一人言葉を発することはなく、ようやく研究所の外に出て乗ってきた車に戻ってきても、沈黙は続いた。

 仕方ないので、私はみんなにねぎらいの言葉をかけて拳銃と弾丸を返してもらう。そして、そのまま大倉刑事に警視庁まで帰るように言って車に乗り込む。

 他の者達も乗せて車が発信すると、私は専用タブレットを開いてメッセージを送った。


『研究所の地下で異形の存在と交戦。これを殺害した。おそらく、あれが事件の元凶だ。掃討と調査を頼む』少し経ってから、返信がきた。

『了解。よくやった。ありがとう』


 私はそのメッセージを見て、タブレットをしまう。

 これでいい……あの施設で何が行われていたのか、鬼島警部達がすべて知る必要はない。少なくとも、これでちまたを騒がせている連続猟奇殺人事件は幕を下ろした…被疑者死亡として、だが……。

 今は……それでいい…ふいに外に目を向けると、先ほどまでの暗闇に包まれていた世界が夢だったのではないかと思わせるほどの快晴が広がっていた。

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