表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

餓鬼 ~連続殺人~

「ちっ、またかよ……」

「ホント……ここのところ毎日のように報道されてますね」


 ある日、私の目の前で休憩時間中にテレビを見ていた鬼島警部と鳴海刑事はそう言った。

 もっとも、鬼島警部にとってはここで過ごす時間はほとんど人生の休憩時間のようなものだろうから、さして驚くことではない。しかし、普段真面目な鳴海刑事までもテレビに食いつくのは珍しい。

 私は仕事をしながらチラッと彼らが見ているテレビに視線を向けた。


『今日未明、横浜市港南区に住む大学生・大磯一輝さんが同地区の路上で遺体となって発見されました』


 ニュースキャスターの言葉と同時に映し出されたのは、遺体があったであろう場所の映像だった。警察の規制線とブルーシートが、事件の重大さを物語っている。現場検証をしている警察官たちや野次馬たちの姿が映り、次に被害者である男性の顔写真が表示される。そして、被害者の情報が読み上げられていく。


「この人……最近話題になってる連続猟奇殺人事件に巻き込まれて殺されたんじゃないんですか?」

「ああ、そうだ。犯人はまだ捕まってねぇけどな」


 鳴海刑事の問いに、鬼島警部はつまらなさそうな表情を浮かべながら答えた。


「え? じゃあ、何でこんな時間にニュースやってるんですか? だって、まだ捜査中なんでしょう?」

「いや、それがどうもおかしな話らしくてな……捜査本部を設置したはいいものの、捜査が全く進んでいないらしいんだわ。それで、報道だけが独り歩きしてるって感じらしい」

「はぁ……どこからそんな情報仕入れてくるんですか?」


 鳴海刑事は信じられないと言わんばかりに首を横に振ると、その横にいた鬼島警部が、手にしていた煙草を口にくわえて「お前は何もわかっちゃいねえなぁ」と呆れたように呟いた。


「アタシはな。まだここに来る前の刑事時代に方々にコネがあんだよ。全部そこから来たネタだ。この事件には不可解な点が多いんだよ。

 第一に、発見された遺体の状況だが、傷口を見た限りだと鋭利な刃物のような物で斬られたというよりは、切れ味の悪い何かで無理やり引きちぎったって感じだそうだ。

 第二に、遺体が発見された場所は、普段は人が通らないような裏路地だというのに、監視カメラが設置されていないという不自然さがある。まあ、これに関しては防犯上の理由もあるかもしれない。

 第三に、遺体に残されていた臓器や皮膚、筋組織なんかが少ないこと。第四に、そもそも凶器が発見されていないこと。つまり……」


 そこで一度言葉を区切ると、鬼島警部は再び煙草を吹かし、煙を吐く。


「これらの点からかんがみて、この事件は普通の殺人事件とは性質が違う可能性があるらしいぜ」

「普通とは違う?」

「ああ。何でも、今回の事件は人間の仕業ではなく、獣害の可能性が高いとかなんとか言ってたな」

「獣害って……都市のど真ん中ですよ?」

「だから、アタシにも良く分からんと言ってるだろうが。ただ、現場の奴らなんかはそういう風に見てるみたいだし、考えられる可能性としてはそれが一番高いってだけだ」

「うーん……そう言われてもピンときませんね。でもまぁ、この部署に来てからは変死体なんて珍しくないですし……でも、そうなってくると、捜査は難航するんじゃないでしょうか? 何か、決定打になるような証拠が残っているのならともかく……」

「だろうな。まあ、今のところは進展なしというのが現状だ」


 鬼島警部がそう言うと、鳴海刑事は『ふぅ…』と息を吐いて言った。


「それはまた……大変ですね」

「まったくだぜ」


 鳴海刑事の言葉に、鬼島警部は肩をすくめながら答える。そのまま、鳴海刑事は続ける。


「ちなみに、この連続猟奇殺人事件の最初の被害者は誰でしたっけ?」

「確か、最初は横浜市在住の女子高生だったはずだ。名前は……あれ? なんだっけ?」

「えぇっ!? 忘れたんですか?」

「うるせぇ! いちいち覚えてられるかよ! こちとら管轄外なんだっ!」


 鬼島警部がそう居直ると、鳴海刑事は不満を感じながらも次の質問をした。


「……もういいです。じゃあ、二番目の方は?」

「えっと、そっちはたしか武蔵野市の主婦だったかな」

「三番目は?」

「同じ横浜市内のOLだったと思うぞ」

「四番目の被害者は?」

「あ~、ちょっと待て。思い出すから」


 鬼島警部は眉間に手を当てながら必死に記憶を辿っているようだ。


「たぶん、横浜市の大学生だったはず……あ、違う。たしか、中学生だ」

「は? 中学生?」鳴海刑事は驚いたように目を丸くさせた。

「ああ。たしか、中二かそこらのガキが殺されたんだ。たしか、被害者は男の子で、殺され方も他の被害者達と一緒だったはずだ」

「う~ん…つまり、犯人は被害者の年齢や性別、職業などにはこだわっていないということでしょうか?」

「知らねぇよ。とにかく、捜査本部が立ってる以上、警察もちったぁやる気になってるってことだろうよ」

「……鬼島さんの言い方、まるで自分は警察関係者ではないみたいな言い方ですね?」

「ああ、今は暇を持て余すか弱き乙女だ」


 二人の会話を聞きながら、私はテレビに視線を向ける。


『次のニュースです。先月、都内で起きたバラバラ殺人事件の続報が入りました』


 画面は切り替わり、今度はニュース番組の映像が流れる。その映像では、一人の男性キャスターが神妙な面持ちで原稿を読んでいる姿が映し出されていた。


『先月未明、東京都武蔵野市に住む無職・上島保さん(34)が武蔵野市内の路上で遺体となって発見された事件について、警察は遺体の状況から殺人事件と断定し、捜査本部を設置し捜査に乗り出していましたが、その後の捜査の結果、遺体の腹部から検出された血痕から別の人間の血液が検出されたことが分かり、警察は犯人と上島さんがもみ合った際に犯人がケガをしたものと考え、血液のDNA検査と今後の捜査方針の再検討を行うとのことです。

 なお、遺体は現在、司法解剖中ということで、警視庁は慎重に調べを進めています。また、捜査本部は引き続き、捜査員を増やして捜査を続ける予定だということです。それでは、次はお天気コーナーです』


 そこまで読み上げると、女性アナウンサーは一旦言葉を切り、画面も切り替わる。そして、見慣れたお天気お姉さんの顔が現れた。


『続いては、今週いっぱいの天気予報をお伝えします。関東地方の天気は晴れ時々曇りの日が続くでしょう。日中の最高気温は平年並みの気温となりますが、夜になると冷え込む可能性もありますので、服装選びの際にはご注意ください。次に……』


 その予報通り、ここ数日はずっと晴天が続いている。このまま行けば、今週の金曜日までは快晴らしい。


「ま、どうやら捜査の方はそれなりに進んでいるらしいな」

「ええ。一刻も早く解決してほしいです」


 鳴海刑事はそう言って、改まった様子で鬼島警部に向き直る。


「それよりも鬼島さん」

「ん?」


 鬼島警部が鳴海刑事の方に視線を向けると、彼は不思議そうに問いかけた。


「いくら方々にコネがあるとはいえ……どうして鬼島さんは、そんなに内部事情に詳しいんですか?」

「……お前、女の秘密に手を突っ込もうってのか?」

「……そうですよね。すみませんでした」


……どうやら、鬼島警部の醸し出す不穏な気配を察知したらしい。鳴海刑事はそのままそそくさと自分のデスクに戻っていった。


「ですが、自分はますます分からなくなったであります」


 それまで、口を閉ざしてデスクワークに励んでいた大倉刑事が、鳴海刑事とバトンタッチするようにして鬼島警部と話し出す。


「遺体の皮膚や爪の間に血液が付着してたというならば、もみ合った隙に犯人が負傷したと理解できるであります。

 しかし実際は、その血液は遺体の損傷した腹部から検出されたというのは、いったいどういうことでありましょうか?」

「さあな。アタシにも分からねぇよ。まあ、そういうのは検視官とか解剖医の仕事だろうな」

「なるほど……」

「……まあ、アタシなりに予想するとしたら、今回の事件は獣害じゃなく、人間の仕業――しかも犯人は精神異常者かなんかだろうな。

 被害者になんらかの関係があるんなら怨恨って線も無くはねぇが、いまのところそんな情報はねぇ。

 どっかのイカレ野郎が、無差別に殺してるってことだろうな。血液なんかは……まぁ、犯人以外のものとは考えられないだろ?

 きっと犯人はどっかケガしてて、なんかの理由で被害者の腹を裂いているうちにうっかりケガした部分から血が付着した…そんなところだろ」


 鬼島警部から話を聞いて、大倉刑事はその場面を想像してしまったのか、口元を抑えて苦しそうにしている。


「うぷっ…と、とんでもない奴でありますな……」

「ま、アタシの言った通りだったらな。何度も言うが、いくらコネを使って情報を仕入れても、こちとら管轄外なんだ。実際に自分で捜査するよりかは情報に不足や不正確な部分だってあるだろ」

「でしょうな…」


 大倉刑事はそう言って再びデスクワークに取り組む。私も、パソコンの画面に意識を向けた。そのまましばらく時間が経つ……ふと気が付くと、時計の針は午後6時を指していた。

 この本部は地下にあるため、外の景色を拝むことはできないが、この時期ならばすでに外は暗くなっているだろう。鬼島警部が立ち上がる。


「んじゃ、ちょっくら飯食ってくるわ。あとよろしく~」


 私は鬼島警部の言葉に了承の返事をして、そのまま鳴海刑事と大倉刑事と共に仕事に没頭する。幸い、ここ最近はそれなりに仕事があって、退屈することはない。私は、黙々とキーボードを叩き続けた。


「――……鬼島さん、遅いですね…」


 それから時は経って時刻はすでに夜の9時過ぎ。ちょうど仕事が終わった頃合いに、鳴海刑事は時計を見ながらそう言った。

 確かに……私も仕事に没頭していて気付かなかったが、夕食を食べに行ったにしては帰るのが遅い…何かあったのだろうか?


「まさか、事件に巻き込まれたとかっ!?」


 大倉刑事がそう叫ぶので、一応、私は鬼島警部に電話をしてみる。


『――ああ。どうした?』


……彼女はいつもと変わらぬ様子で電話に出た。私は今何をしているのか尋ねた。


『ああ、メシ食い終わったところだよ』


……つまり、何もなかったということか。私はほっと安堵の息をつく。


『んなことよりも、ちょっと面白い情報が手に入ったぜ』


……私は彼女に話を催促する。


『実は、テレビのニュースでやってた連続殺人事件の続報があったんだよ。ほれ、例のバラバラ殺人の。どうやら、また被害者が出たらしい』


……この事件の犯人は、いったい何が目的なのだろうか? これだけ短期間に犯行に及べば、それだけ逮捕されるリスクもあるだろうに……私はその疑問を口にするが、鬼島警部はあっけらかんと答える。


『だから言ったろ? イカレ野郎の仕業だってよ』


 どうやら鬼島警部の脳内では、すでにこの一連の殺人事件はイカレ野郎が起こしたものだということになっている。

 私も、犯人はまともな存在ではないと思っている……だが、どうにもしっくりとこない。どこか違和感を覚えるのだ。

……そういえば、鬼島警部は今どこのいるのだろうか? それを聞くのをすっかり忘れていた。私は彼女に質問する。


『あ? あー……パチンコ屋の前だ』


……嘘くさい……パチンコ屋で夕食を済ませたというのだろうか? そんな馬鹿な。

 そこで私は、あることを考える……彼女が独自に持っている捜査網……遅くまで外出していた事実……私は鬼島警部に、もしかしてずっと連続殺人事件のことを調べていたのかと尋ねた。すると、電話の向こうで一瞬沈黙が流れる。そして――。


『……バレたか! へっへっへ、まあそういうことだ!』……やはりそうだったか。


 鬼島警部が、職務をサボって捜査をしていたという事実が露見してしまったようだ。私は、彼女にそれを注意しようとするが、その前に鬼島警部は口を開いた。


『……なあ、アタシに協力してくれないか?』


 鬼島警部は、そんなことを言ってきた。

……協力してほしい――その言葉の意味するところは、おそらくは事件の解決への協力だろう。鬼島警部は続ける。



『なんかさ……アタシの勘が言ってんだよ。『こいつはただ事じゃない』ってさ……ぶっちゃけて言うと、イカレ野郎の仕業ってのは半分ホントで半分嘘なんだ。実際のところは、そのイカレ野郎にアンタが言っていた『組織』ってのが関わっている気がする』


……私はその可能性を、真っ向から否定できなかった。

 だが『組織』……奴らはこのような目立つことはしない。考えられる可能性としては、なんらかの研究が失敗したかミスをしたか……そのどちらかだろう。

 その時、私の専用タブレットに『その者』から連絡が入った。私は鬼島警部に断りを入れて、奴と通信をする。


『すまないが、緊急の要件がある』


……その文面から始まった『その者』が寄越してきた案件を見て、私は電話越しの鬼島警部に捜査協力の件で良い返事が出来ることを心から喜んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ