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心の犠牲者 ~不始末の後始末~

 その後――佐藤の遺体は、私の通報によって地元の病院へ収容された。

 私はというと、奴と同じ空間にいたということで地元警察に任意同行を求められ、鳴海刑事達の様々な問いかけに答える間もなく取調室へ入れられたが、すぐに釈放になった。

 そう…すべて予定通り…警察署の駐車場で半泣きになっていた鳴海刑事と加山巡査、そして怒りの形相で私を見つめる大倉刑事を見ながら、私はそんなことを考えていた。

 そして、事件は佐藤と中沢の間になんらかの因縁があり、それがもとで佐藤が中沢一家を殺害したという、ありきたりなカバーストーリーが出来上がって地元警察を中心とした関係各所に流布され、事件は終結となった。これは、わずか一日足らず行われた出来事だった。


『また、いつか、どこかでお会いしましょう!……今度は事件がない日に!』


 例のカプセルホテルで一夜を明かし、地元の警察署の前で加山巡査と別れるときに、彼は涙目でそう訴えてきた。

 だが……彼には悪いが、そのような事態は永遠に来ないだろう。これは私の偏見に満ちた考えだが、彼はまたどこかの辺境に飛ばされた挙句、事件が起きた時に私達と再会する運命にある……そう思えてならない。

 私達はというと、そのまま東京へ帰り、事件の捜査資料のまとめや経過報告書、事件ファイルの取りまとめなどで数日の間忙殺された。まぁ、いつものことだ。

 そして……その日はやってきた。


「――そんじゃ、聞かせてもらおうか」


 ある日の午後……すでに鳴海刑事と大倉刑事は退勤しており、今、この本部には私と鬼島警部の二人しかいない。

 てっきり昼寝でもして一日を過ごしているのかと思ったが、今日は私から今回の事件の真相を聞き出す日であると、彼女の頭には定められていたらしい。

……私は少し待ってほしいと言って、専用タブレットを取り出してここ数日音沙汰のなかった『その者』と連絡を取る。


『なんだ? 事件の報告書でも書き終わったのか?』


 相変わらず、事件が終われば能天気な様子の奴に対して、私はメッセージを送った。


『あの時、部下にこの事件の真相を打ち明けると約束した。止めても、私は喋るぞ』少し経ってから、返信が来る。

『君が信頼できる者ならば』


 文面は、それだけだった……私は『その者』との通信を終えて、子供のように目をキラキラとさせて目の前に座る鬼島警部の今回の事件の概要を説明した。と言っても、その大半は、あの時『その者』から送られてきた添付ファイルの中身に依拠している。

 簡単に説明すると、あの村では『組織』の研究部門による極秘実験が行われていた。

 その内容は、人間の操作……つまり、人の心理や思考を操作し、自由自在に操るという、にわかには信じがたい実験だ。

 実際、のちの調査で分かったことだが、あの村の近くには真新しいで電波塔があり、普通の電波塔としての役目を果たすほか、そういった実験に必要な電波を発信することができるようにもなっており、そのコントロールは佐藤が持っていたスマートフォン型の機器で行われていた。

 佐藤は『組織』によって指名された管理者……見張りという表現が近いが、そのような立ち位置だった。あの村が実験で選ばれるまでは、『組織』のスリーパーセルとしてただの一般人を装って生活していた。

 中沢卓也は『組織』に派遣された心理学者であり、その任務は佐藤と協力して実験経過を研究部門に報告することだった。

……普通に考えれば、ありえない…または眉唾物の話……なのだが、目の前にいる鬼島警部はいたって真剣な面持ちで私の話を聞いている。私は話を続けた。

 実際、初歩的な実験――村人に佐藤雑貨店で買わせたい商品を買わせる、などの実験は成功し、中沢も佐藤もうまくやってきた。

 しかし……そこで、佐藤に良からぬ考えが浮かぶ。

 彼は、少なくとも警察官任用の直後に『組織』によって間接的にリクルートされていた。だが、その後はさしたる任務などはなく、佐藤はそのまま警察官を定年退官。なけなしの年金と共に残りの人生を謳歌おうかして、『組織』のこともほとんど忘れかけていたその時、『組織』の工作部門から今回の任務を命じられる。

 あの後、地元警察は佐藤雑貨店を家宅捜索し、住居部分の二階、つまり寝室からそのような内容が書かれた日記を発見した。

 しかし、その日記は当然のように『組織』の別の工作員の手によって回収され、証拠品目録からも姿を消した……あれから特になんの騒動もないことから考えて、現場の警察官や刑事達はあの日記を単なる佐藤個人の妄想の類と片付けたようだ。

 話を戻すと、今回の任務を与えられ、実験も順調に進んだその時、佐藤はあることを考える。

 それは、実験の乗っ取りである。

 具体的に彼が何をしようとしたかというと、中沢に無断で数々の実験を行ったのだ。

 窃盗、暴行、姦通……人間が考えられる限り、ありとあらゆる悪行を村人達に行わせた。電波を発信する機器自体は佐藤が管理していたため、実行することは簡単だったことだろう。

 しかし、当然ながらそのようなことは中沢にバレる。

 ここで、二人の間にいさかいが生じた。実際にどのようなやり取りがされたかは不明だが、ともかくも、中沢一家は佐藤の手によって殺害されたのだ。そして、私が見た通りの結末を迎えた。凶器となった斧も、佐藤家の住宅から見つかっていた。なぜか、佐藤は凶器をそのまま保管していたようだ。戦利品として保管していたのか、それとも何らかの事態に陥った時に『組織』との交渉材料にするつもりだったのか……今では、それを知る者はいない。

……私は最後に鬼島警部に対して、あることを話した。ある極秘の医療施設で行われた、中沢家の解剖記録についてだ。

 死因は変わらずだったが、被害者達の体からはある者達のDNAが発見されたらしく、『組織』の調査部門が調べた結果、それはあの村に住む複数の村人達のDNAであることがわかった。そして、佐藤のコントロール装置となっているスマホの操作履歴からは、私達が事情聴取をしたあの老夫婦を操作した履歴が残っていた。


「……」


……私は鬼島警部の眉間にこれでもかとシワが寄ったのを確認すると、彼女をなだめるように言った。

 結局、ひいらぎ村は今年中に廃村ということになるそうだ。元々の人口減少に加えて、今回の事件のおかげであらたに移住者の見込みもない。そのため、住人達は近くの街に分散して移住したり、親族の元へ身を寄せることになるらしい。

……私が話し終えると、鬼島警部は何も言わずに立ち上がって、ソファにある私物のバッグを持つ。


「……この話、絶対奴らには聞かせられねぇな……」


 奴らとは、鳴海刑事と大倉刑事のことだろう。私は首肯した。


「そんじゃ、お疲れ様……」


 彼女は特にそれ以上言及することなく本部を後にする。私はその後ろ姿を見送った……この事件は、これで終わりだ。

 私は机の引き出しから黒革手帳を取り出す…そう、私だけの…私の内心の自由を具現化したと言っても過言ではない、あの黒革手帳だ。

 時刻は遅いが、筆が乗るせいかよく進む……今回の事件は、かなり筆致ひっちが荒くなってしまうだろう。

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