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心の犠牲者 ~捜査の開始~

 私が色々と考えている間、私達は加山巡査が暮らす駐在所に到着した。外観は見たところ、二階建ての木造建築だ。

 加山巡査は私達を中へ案内すると、すぐに一階の奥の部屋へと入っていった。どうやら、そこが彼個人の居住スペースになっているらしく、部屋の中には簡易ベッドと机と椅子、それと、壁際に段ボール箱がいくつか置いてあるだけの質素な空間だった。

 彼はすぐに戻ってくると、持ってきた荷物の中から大きなファイルを取り出した。


「これが、本官が調べた事件の報告書になります」


 私は加山巡査に、それを持ってパトカーで地元の警察署まで行くことを伝えた。


「了解でありますっ!」


 加山巡査は敬礼した後、早速パトカーに乗り込んだ。私も助手席に座って、シートベルトを締める。


「では、出発しますっ! 押忍っ!!」


 加山巡査は力強く宣言し、アクセルを踏んだ。

 それから、私達は無事に県警本部のある市街地まで到着し、そのまま警察署へと向かった。

 道中、『その者』に話をつけ、所内の一室を私達専用の捜査本部として使えるように手配しておいた。この辺りは、さすがに奴は頼りになる。案の定、受付の警察官に事情を説明すると、すんなりと部屋に通してくれた。申し分のない広さのある、何の変哲もない会議室だ。そのまま、私達はすぐに会議を始めた。

 まず、現状について確認する。


「じゃあ、改めて今回の事件についてまとめてみるか」鬼島警部が口火を切った。

「被害者は、ひいらぎ村に住む中沢家の四人。死亡推定時刻は午後五時から六時の間。死因は……」


 そこで、鬼島警部は加山巡査が持ってきた資料に目を向けた。


「…資料によると、全部失血死って書いてあるな」

「押忍。ただ、検視官の方も詳しい死因は解剖待ちであるとのことで……」

「ふ~ん…まぁ、連絡が来たら聞いてみるか」


 そう言って、鬼島警部は被害者の身体的特徴や所持品などについてまとめていく。


「とりあえず、現時点で判明していることはこんなところかな……それで、これからの方針だけど、神牙?」そこで彼女は、私に話を振ってきた。


 私は鬼島警部から話を引き継いで、メンバー達に指示を出す。

 これまでの状況から考えて、殺害犯はひいらぎ村に潜伏、または現在も生活している可能性が非常に高く、最悪の場合は村人や犯人の親族などが妨害工作や証拠隠滅を行う可能性があることを伝え、捜査は昼の明るい時間帯に行い、夜はこの街に戻ってくる基本的な行動指針を指示した。


「……ま、妥当な判断だな」

「はい。異議なしです」

「了解であります」

「うむ、了解した」


 メンバー達が賛同してくれたので、私の指示通り、これからは昼間の捜査がメインとなる。だが、まだ他にも懸念事項はある。


「あとは、犯人の動機か……そこらへんが分かれば、犯人も絞れ込めそうなんだけどなぁ…」


 鬼島警部が思い出したようにつぶやくと、鳴海刑事も賛同する。


「そうですね。犯人はなぜ、あの村で猟奇的な殺人を行ったのでしょうか? 中沢家とはどのような関係だったのでしょう?」

「むぅ…仮に犯人があの村の人間であったならば、聞き込みで容疑者を絞れそうでありますが……」

「ま、それはさっきも言った通りだ。もうとっくに、村人達は口裏を合わせているかもしれねぇ。一応、そのことは頭に入れておかねぇと…」

「そうですね……それに、犯人の親族が犯行に関与している可能性も否定できませんし…」


……結局のところ、暗中模索と言ったところか…しかし、ここで立ち止まっていては何も始まらない。

 私はみんなに指示を出しつつ、自分自身でも情報を集めようと決意し、会議を終えた――。

 その後、私達は警察署で簡単な昼食を取った後、再びパトカーに乗って現場である村に戻り、村での調査を開始した。

 まず、最初に訪れたのは事件現場に最も近い民家……つまり、中沢家が殺害された際に、もっとも不審な出来事や物音を聞いた可能性が高い住人に話を聞くことにした。玄関前にいた老夫婦に事情を話すと、快く家の中に招き入れてくれた。

「いえね、お隣の中沢さんのところに警察の方が来ていたんですけど、あの時は何が何だかわからなくて……」


 老婆は申し訳なさそうな顔をしながら、当時の様子を語ってくれた。


「なにぶん、ここはのんびりとした村なもんで、まさか殺人事件なんて思いもしませんでしたよ」老人は淡々と答える。

「それで、当時は何か変わった様子などはありましたか?」


 鳴海刑事が質問すると、老婆も老人も首を横に振る。


「いえ、特に何もなかったと思いますが……あぁ、そうじゃ!」


 すると、老婆は何を思い出したのか声を上げた。


「そういえば、その日は夕方頃に中年くらいの男の人が訪ねてきたんですよ」

「なるほど……その男はどんな感じの男でしたか?」


 鳴海刑事が質問すると、老婆は当時の状況を思い出すように体を九の字に曲げて考え込む。


「えっと、背が高くて、体格が良くて……ちょっと強面こわもてっぽい人でしたかね。顔は…そん時にはもう暗くなってたんでよく見えませんでしたわい」

「そうですか。他には何か特徴はありますか?」

「う~ん、そうですねぇ……あっ、そう言えば、中沢さんとこの旦那さんが応対なさって、少し話したと思ったら旦那さんの方がいきなり家の方に戻っていって、しばらくしたら、なんか…書類の束みたいなもんを渡してましたなぁ…」

「書類? なんでしょう?」

「さぁ? ただ、それを渡した後は男の方はすぐに帰っていったみたいでしたが……」


……これ以上は聞いても無駄そうだ。私は老夫婦に礼を言って、その場を後にした。

 その後も、私達は手分けして他の民家を回ってみたが、特にこれといった情報は得られず、そのまま商店街にも聞き込みをしてみたが、同じような結果だった。そして――。

『佐藤雑貨店』……この村での聞き込みは、ここで最後だ。

 この雑貨店を営んでいる佐藤という人物はかなりやり手なのだろう。商店やその横に併設された住居はこの村で一番大きい。何か、有力な手掛かりが得られればいいのだが……そんな期待を抱きながら、私達は店内に入った。そして、カウンターの奥にいた初老の男性店員に声をかける。


「すみません。警察の者なのですが……」


 鳴海刑事が身分を告げると、彼は愛想良く応じてくれた。


「はい、どうかなさいましたか?」

「実は、先程からこちらの村で起こった殺人事件について調査をしておりまして、よろしければ、お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」


 鳴海刑事がそう言った途端、男性店員の顔は途端に曇り始める。


「……はぁ、まぁ、お役に立てるなら…それで、何を話せばいいのでしょうか?」


……協力はするが、消極的にですよ?……彼の表情からは、そのような感情が読み取れた……読み取れたというか、まぁ、私の独断と偏見でそう思っただけだ。世間体のために警察の事情聴取に眉をひそめる自営業者は珍しくない。

 しかし、そんな男性の態度など慣れたもの、とでもいうように鳴海刑事は事情聴取を始める。


「ではまず、被害者である中沢さん達とのご関係を教えてもらえますか?」

「中沢さんは、旦那さんの方はうちの店の得意先でした。色々と買って頂きましたよ。子供達も、うちの駄菓子なんかを買っていってねぇ……ただ、奥さんとはあまり面識がなかったなぁ…」

「そうですか……ところで最近、この辺りで変わったことなどはありませんでしたか? 例えば、人が増えたとか減ったとか……」

「う~ん……そうですねぇ……最近…というか、中沢さんとこはちょっと前にこの村に引っ越してきましたよ。それ以外は、特にねぇ…」


 そう言って、初老の男性は首をひねる…どうやら、老夫婦が目撃したという男は、この辺りには来なかったようだ。あるいは……私は男性に対して、この店の店主なのか尋ねた。


「ええ、そうですよ。佐藤博と言います」


 私は佐藤に、事件当日かその前後に見慣れない男性を村で見なかったか尋ねた。


「さぁ……覚えがないですね……」佐藤は否定する。


……仕方ないので、私は彼に礼を言ってその場を後にした。

 その後、私達はもう一度中沢宅で調査をすることにした。中沢宅に戻ると、そこには規制線だけで警官や刑事達の姿はなかった。

私達はその規制線を通ってあらかじめ持ってきていた家の鍵を使って中沢宅に入る。室内は、当然ではあるが事件当時のままで保存されており、相変わらず荒れていた。そのまま手分けして調査を進めるが、二階にあった遺体などはすでに運び出されているのか、そこには血だまりだけがあった。だが、それ以外には特に目新しい発見などはなかった。


「――う~ん、やっぱ現場捜査としてはここら辺が限界なんじゃねぇか?」


鬼島警部の言葉に私は同意した。だが……だとすると、これ以上は他に捜査のしようがない。あとは解剖結果を待つくらいだ。

……私は一度、警察署へ戻ることをみんなに伝えて、私達は中沢家を後にした。

――それから、数時間後……。


「……お待たせしました」


 鑑識課の人間が、解剖の結果を持って現れた。私達は捜査本部でそれを受け取ると、早速中身を確認する。


「死因は失血死…死亡推定時刻は午後四時から六時の間、か…」

「検視官の見立て通りでありますな」


 鬼島警部の言葉に、加山巡査が反応する。確かに、彼から受けた報告も似たようなものだった。


「だとすると、あの老夫婦が証言した男性が怪しくないですか?」

「ああ。だが、逆に言えば、その人たちしか見てねぇってのがネックだがな」

「あ、そうですね……やはり、中沢さんが殺害された際に一緒にいた人物が怪しいとは思いますが……」


 私は鳴海刑事の意見に賛成した。現状では、その男性を第一容疑者として扱うほかない。ただし、同時に私は、あの村の閉鎖性や犯人が村人だった場合についても言及した。


「そうですねぇ……僕も、現状ではその男性を捜査することが一番だと思います」


 私は鳴海刑事の意見に賛成した。確かに、その人物はいまだに謎の人物として扱われている。犯人なのかそうでないのかは置いて、彼の素性を明らかにすることは今後の捜査にとっても有益になるだろう。

 私はみんなに、ひとまずは中沢卓也と会話した謎の人物を捜査することを告げて、今日の捜査は終了することにした。

 その後、私達はこの街にある『組織』のフロント企業――そう、大倉刑事が絶賛していた千円ポッキリのカプセルホテルに宿泊することにした。その際、大倉刑事や加山巡査はたいそう喜んでいた。

 しかし私はというと……色々と用事を済ませ、自室で専用タブレット片手に浮かない顔をしていた。それも当然で、『その者』と連絡を取り合っていたからだ。


『――以上だ』


 私がこれまでの捜査結果を奴に伝えると、しばらくして返信があった。


『了解した。引き続き頼む』

『それともう一つ』

『なんだ?』奴に対して、私は真心こめてその文章を送った。

『また、加山巡査と会ったぞ』

『おお、彼か。彼は我々の間でも結構な有名人になっているぞ。どんな過酷な環境からでも生きて戻ってくるとな。まだ生きてたのか』


……奴の楽観的な文章に、私はそれなりの広さがある個室でため息を漏らすことになった。

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