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第七話 勝ち組

「あと三十秒遅れていたら、俺のグーがお前のみぞおちに入っていたからな」


「あと十五秒遅れていたら、私の会心の一撃が貴様に直撃していたぞ」


「え~と、すまない。状況がよく呑み込めないのだが」


 野次馬が散って、おじさんと眼鏡スーツもそれぞれ馬車で去っていった後、俺たちはイケメンを手招きして呼び寄せた。そして、八つ当たりをした。否、現在進行形で八つ当たりをしている。

 イケメンの表情はさっきまでの余裕を感じさせるものから、苦笑いへと変化を遂げた。分かりやすく動揺もしている。当然だ、俺だって助けた相手からグーだの会心の一撃だの言われたら、平然とはしていられない。何なら、喧嘩を買いに行こうとするかもしれない。


「それでも! 俺はどうにかして、蓄積されたストレスを解放しなきゃならない。たとえどれだけ無礼だろうと、心の安寧を取り戻すには必要なんだ」


「私に秩序を取り戻すためには、お前に混沌をぶつけるしかない。だから我慢しろ」


「君たちの力になれるならぜひそうしたいが、流石に負のエネルギーを受けるというのは。特に君たちの名誉にかかわりはしないかい。解散したとはいえ、まだ君たちに向けられている目も存在する」


「俺もこいつも、周りに知り合いがいるわけでもないし、名誉なんでどうでもいい。それよりも、お前に分かるか? どれだけ入念な身体検査を行っても、一銭の金すら出てこなかった相手に向ける、看守の視線。そこに含まれる憐れみを!」


「貴様には分かるまい。湯気を忘れたパンとスープに憎しみを覚えつつも、がむしゃらにかぶりつき、結果として体が暖かさに包まれた後に襲ってくる虚無感を!」


 互いに鬱憤を晴らし終わった後には、肩で息をしている元被告の二人と、それをどうにかなだめようとしている、裁判では弁護をした王国騎士団団長の構図。

 ようやくストレスを解放でき、息が整った時には頭がクリアになり冷静に思考することが可能となった。


「よし、弁護助かった。じゃあな」


「私も大人だ。これ以上の文句は言うまい。じゃ」


「ちょっと待ってくれ、君たちには話があるんだ」


 慌てて呼び止めてくるイケメンだが、あまりそれには従いたくない。

 確かに自分で言った通り、周りに知り合いなどいるはずもない。だから、名誉など知ったことじゃない。だが、恩人に対して開口一番八つ当たりという行為は、人として失ってはいけないものに関わってくる気がする。


「......詫びればいいか?」


 目を合わさずにそう聞くと、少し前で動いていた金髪も静止した。俺ら二人に共通するものは、図太さだ。しかし、今回のはあまりに分が悪い。ジュウゼロでこっちに非がある。

 恐る恐る目線を上げると、そこにいたのは爽やかスマイルをしたイケメンだった。


「気にしないでくれ。そもそもこの件は、僕の部下が起こしたミスだ。実際のところ、捕縛した君たちは、何の法にも触れていない」


「うむ、確かにそうだな。ならば、私たちが謝る必要などどこにもないわけだ」


 少し間を空けての発言だったが、彼女のように解釈したほうがいい。いや、むしろしてやるべきだ。俺たちは騎士団の失敗を大目に見てあげようとする、そんな寛大な心の持ち主だ。


「じゃあこの件については終わりとして、話ってのは?」


「それについては、馬車に乗ってさせてもらいたい」


「聞き耳はない方がいい、そういうことか」


「ああ、一応今回の事件に絡んでいるからね」


 会話のキャッチボールが終わった丁度そのタイミングで、屋根のついた立派な箱を引いた馬車が俺たちの横に停まった。


「こんな立派な馬車に乗っていいのか? 身分不相応の感がすごい」


「実は僕もこれに乗るのには毎回少し抵抗があるけれど、君たちが遠慮することはない。それに君たちに会ってもらいたい人がいるんだ。その人のことを考えれば、この馬車が礼儀の上で最適だ」


「一体どこに連れていくつもりだ? 長旅は勘弁してくれよ」


「移動中、外の風景は見えないけれど、着けばすぐに分かるようなところだ。心配せずとも、二十分も乗っていれば着く距離にある」


 あまり役立たないヒントを受け取ると、馬車のドアが開く。イケメンがドアを開く姿は実に様になるが、馬車の中の様子がその注意を一瞬で逸らす。


「外見からして覚悟はしてたが、これは立派ってレベルじゃね~な」


 シックな赤を基調とした内装で、座らずとも柔らかな感触が分かるソファに、窓を覆っている金色の花を装飾として用いているカーテン。特にソファからは座らずとも柔らかな感触が伝わってくる。イケメンに対して鋭い目を向けていた彼女も、今やソファに身を任せて目をつぶっている。


「うわ、これが馬車かよ」


 今朝乗ったのと同じ乗り物とは到底思えない。動き出したことも分からないほどの快適さ、これがこの世界の勝ち組の証か。


「さて、そろそろ目的を教えてもらうか」


 てっきり寝たのかと思っていたが、存外真剣な声でイケメンに告げた。


「そうだね、ここなら大丈夫だろう。ではまず、行先から説明しよう。この馬車は今、グロリア王国の王都スパークに位置する、王立ブリリア魔法学院に向かっている」


「ちょっと待て。聞きなれない横文字が三つもあった」


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