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第三十九話 再会

「あれ、私、寝てた?」


「おはようさん。目をつぶって問いかけに応じない様を寝ていたというなら、十分近く睡眠時間を確保していたぞ」


「測定はどうだった?」


「サファイアが頑張りすぎてな。色々あって、また別の機会にってことになった」


「がんばったの? それはお疲れ様」


「この男の杜撰なサポートに比べて、クラースの撫でときたら。お前も少しは見習ったらどうだ」


「なんだ、俺にも頭を撫でてほしかったのか」


「お前の手が頭に触れたとき、お前の関節は悲鳴を上げることになると思え」


「そんな脅しをしなくても、撫でたりしねーよ。お前を撫でるくらいなら、野良猫を撫でようと努力するさ」


 こいつの上から目線を知って、それでも頭を撫でようなんて気は全く起きない。俺がさして女子に対して免疫を持っていない、そんなことは一切関係がない。他の女子の頭を撫でない理由にはなってしまうかもしれないが、サファイアに対しては全然関係がない。


「どうした、じろじろと私を見て。もう一度、私の魅力に気づきでもしたか?」


「ああ、気づかされたよ。お前から頼み込んできても、絶対に撫でてやるまい。そう思える魅力を感じ取ったさ」


「それなら安心だ。私がお前にそんな頼みごとをする日は、一生来ない。ゆえに、私もお前も不快な目に遭うことはない。これからも、お互いに気持ちのいい日々を過ごせそうだ」


「二人は仲が良いの」


「語尾にのが付いたところは高評価だが、その意見には異を唱えさせてもらおう」


「私とこいつの仲が良いと表現できるなら、勇者と魔王だって仲は良いと言えてしまうさ」


「でも、言いたいことを言い合っている。それに息も合っている」


「上からくる相手には、一切の配慮をなくす。これが俺の流儀だからな」


「生意気相手には、完全に優しさを消す。これが私の信条でな」


「やっぱり、息がぴったり。それがとっても、うらやましい。私は」


「は~い、チャイムが鳴ったので教室に戻ってください。三時間に遅れたら駄目ですよ~」


「今日は片付けの当番だから、二人は先に戻ってて」


「......やはり、クラースは何かを抱えているな」


 体育館を出て教室に向かっていると、さっきと同じように肩を貸して歩いているサファイアが話しかけてきた。

 サファイアも、魔法以外にもクラースに何かあることは感じているようだ。

 それにしても、人間関係より趣味の優先度が高かった俺が、人間関係の問題に向き合おうとするとは。縁とは不思議なものだ。


「もう一人で歩ける。早くパンを買ってこい」


 他人より自分への優先度がずば抜けて高かった俺が、交渉の結果とはいえパシられるとは。本当に、縁ってのは不思議なものだ。


「惣菜パン、やはり存在していたか」


 商品の名称に違いがあるわけでもなく、前世と一切変わることない惣菜パンとおばちゃんのセットを六階にて発見した。 

 このお決まりの構図は、かえって前世では生で見ることがなかったわけだが、不思議と安心感を覚える。これでほっとできるなら、スーパーで割引シールを貼られた弁当を見たら、俺は膝から崩れ落ちるんじゃないだろうか。


「注文するかい?」


「焼きそばパンにカレーパン、メロンパンとソーセージパンも頼む。それから、飲み物はいちご牛乳で」


 無料という響きの素晴らしさを感じながら、教室に戻ってサファイアに獲得した品を見せると、瞬時に俺の手からパンが消え去った。


「すぐに喉につまらせて飲み物を欲するあたり、お前は予想を裏切らないな」


「いっぱい食べるの」


「そう。こいつは食事で何もかもを補える器用なやつなんだ」


 視線だけで不満を伝えるあたり、眼前のパンへの欲望はまだまだ尽きそうにない。

 一度俺のことを睨んだ以降は、ひたすらパンを消化していった。パンが全部ホットドッグだったら、アメリカのフードファイトの現場と見間違えるだろ。

 流石にこれは、共感を誘えないか。


「もう食っちまったのかよ。五分で完封しやがった」


「舐めてもらっては困るな。私は、何事にも秀でている存在だ」


「早食いでそんなに威張るなよ。見てるこっちが悲しくなる」


「何だと」


 何度目かも分からない口喧嘩が始まらんとしたが、チャイムが鳴ったことで勃発することはなかった。


 号令の後、初見の教師は数字やら記号やらを書き連ねていった。


「当然といえば当然だが、こいつも来ていたか」


「先生と知り合い?」


「確かに知り合いはいるが、あの先生じゃないんだよな」


 クラースは不思議がっているが、これ以上は隠し事のため言うことはできない。 


 俺は、できれば世界を超えてまでこいつには会いたくはなかった。前世では、大嫌いな虫の次くらいに嫌いだった可能性が高い。

 思うに、俺もあいつも、互いに心が通っていなかったのだろう。そうでなければ、それほど関係は悪化しなかっだろう。どちらかがもう少し歩み寄ろうとすれば、俺たちの関係性は大きく変化していたのかもしれない。しかし、どちらもその道を選ばなかった。だからこそ、自然と顔をしかめてしまうのだ。


 お前もそう思わないか、数学よ。


毎日投稿でも、今回が何話目か分からなくなってくる病。

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