第三十七話 ハロウィン
「二時間目の始めは、二人ともこの教室にいてください」
収穫がゼロに近かったであろう一時間目が終わると、疲れ切った顔の先生が俺たちの席に近づきそう告げた。
「二人は一緒に実技を受けないの?」
「二人にはまず、魔法測定を受けてもらう必要があります。それが終わり次第、皆さんと合流する予定です」
「がんばって」
「任せておけ。魔法測定など、すぐに完璧なスコアで終わらせてくる」
「ガス欠にならないといいけどな」
「私にいらぬ心配をするより、お前は自分の心配をしたらどうだ?」
「安心しろ。すぐに魔法を扱えると考えるほど、俺は慢心してはいない」
そうじゃなくてな、そう言ってサファイアは俺に顔を近づけると、先生やクラースに聞こえないように言葉を発した。
「お前から、魔力の反応が消えている」
「は?」
「一体どういうことだよ! つい昨日、俺に魔力が宿ったんじゃないのかよ」
「確かに、お前からは魔力の反応を感じた。だが、今朝の時点で、既に魔力を感じられなくなっていた」
「魔力ってのは、毎日がハロウィンなのか? 魔力かいたずらかを皆に迫って、魔力を持たない相手には、半日だけ魔力を与えるのか?」
「よく分からないことを言わずに、次の時間を切り抜ける方法を考えろ。いくらあの女が入学を認めたとしても、魔法を使えないと判明すれば、無一文に逆戻りだぞ」
それは私がこの学校から逃げる際に不都合だ、てところか。
「何かあったの?」
「いや全然。ちょっとばかしスタートラインに戻っただけだ。俺たちのことは気にせず、クラースは実技を頑張ってこいよ」
「それなら、私は体育館に行ってくる。困ったことがあれば手伝うから、相談してね」
「悪魔も感激するようなその優しさだけで、この男は充分持ち直せる。すぐに行くから、待っていろよ」
いつ逆鱗に触れるか予測できないから、常に気を張れだったか? ひどい勘違いをしていたものだ。自己の利益など抜きにして、クラースは本気で俺のことを心配してくれている。
異世界は俺に厳しくすることしかできないと思っていたが、最高の癒しを毎日のように通う学校のなかで与えてくれた。
魔力がなくなったことに納得したわけではないが、ひとまず活力は出てきた。あとは、みなぎるエネルギーをいかに放出するか。
「二時間目が終わった後、ダッシュで菓子パンを買ってきてやると言ったら、お前は俺に協力してくれるか?」
「状態次第で数を変更することは可能か?」
「片手で数えられる数であれば、飲み物もつけよう」
「何が望みだ?」
「二時間目、思い切りぶちかませ。それと、口裏を合わせてほしい」
「思い切り、それでいいんだな?」
「ああ。その方が、何かと都合がいい」
計画は立てた。他にすべきことは、先生の発言をいくつか予想しておくことだけだ。
残念だったな魔力。俺に宿ったままでいれば、化けることができたというのに。今の俺にお前は必要ない。パトロンが大魔法師という、格好いい肩書を呆気なく逃したことを後悔しているがいいさ。
「準備ができたので、二人とも私についてきてください」
一階まで降りて少し歩くと、測定室と書かれたネームプレートが見えてきた。
「二人には、ここで魔法の測定を受けてもらいます。成績には関わりませんが、これからの教育方針に重要となるので全力で挑戦してくださいね」
「あんまりそういうことを言わないでくださいよ。重要とか知っちゃうと、自然と緊張しちゃうんですから」
「すみません、余計なことを言いました。リラックス! 二人ともリラックスですよ。この測定は重要、ではありますが、落ち着いて自分の力を発揮することに集中してください」
「先生、こいつには遅すぎたアドバイスの可能性が高いぞ。すでに動揺している」
「えぇ! だ、大丈夫ですか!」
「平気ですよ、溢れそうなのは確かですが、溢れても害にはならないので」
「そういう問題ですか!?」
「さ、行きますよ」
豊富な種類の的に、見るからに何かが飛んできそうな機械、つい昨日生で見た武器まで揃っている。
「さて、ここは私から受けさせてもらおう。我が力をとくと見せてやる」
「あの~、測定は一度で終わりじゃないので、くれぐれも配分には注意してくださいね」
「残念、先生。サファイアはもう、自分の世界に入り込んでいる」
「で、でも、ちょっとだけ威力が強まるくらいですよね」
「変なところで有言実行なんですよね、あの魔法使い」
先生がもう一度注意をしようとしたところで、サファイアが魔法の詠唱を始めた。
ごめんな先生。サファイアが加減する可能性は、限りなくゼロに近いんだ。
さて、掴まれるものを探すとしよう。




