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第三十五話 強敵

 年齢や職業に対する身長のギャップは二次元で慣れているが、目の当たりにすると、何とも愛らしいな。現実的に考えて、なんて言葉が途端に野暮に思える。


「私が教室に入ってお二人のことを紹介したら、お二人も教室に入って自己紹介をしてください。それでは」


「今のところ、担任は当たりのようだ」


「平和や安寧という言葉が似合う、私たちにぴったりの教師だったな」


 担任の感想を述べていると、少しだけ開いたドアから俺たちを紹介する声が聞こえてきた。


「転校って初めてなんだよな。意外に緊張するな」


「怖気づいたか? 堂々としていれば充分だ。難しいことを考える必要など何もない」


「いや、そういうんじゃなくて。アウトのラインが全く分からない」


「アウト? そんなの、コンプライアンスに引っかかることを連呼しない限り、言い間違いということで誤魔化せる」


 コンプライアンスどうのじゃなくて、そう目で訴えかけると、ようやく俺の身元を思い出したように軽く頷いた。


「そういうことなら、私が先に自己紹介をしよう。模範としてくれて構わない」


 異世界から転生した勇者である、なんてことがバレたときには、瞬く間に国のお偉方まで伝わって、こき使われてしまうに違いない。

 彼女にしても、勇者と知り合いであるとバレてしまえば、面倒ごとに巻き込まれる可能性が高い。

 ならば、自己保身に対する考え方が酷似している俺たちが、勇者という事実を隠すことは当然だろう。  


「それでは、自己紹介をお願いします」


「よく見ておけ。お前はこれを真似するだけでいい」


 上から目線で俺に一言二言告げると、教壇の前へと進み出た。


「私の名前はサファイアだ。よろしく頼む」


「......え~と、もう少し」


「お前、サファイアって名前だったのか!」


 自己紹介の延長を促そうとする担任の言葉を遮り、教室内に無遠慮に声を響かせたのは誰か。他の誰でもない。俺だ。


「そういえば、お前にはまだ名乗ってなかったか?」


「初耳だ。にしても、サファイアか。相性がいいかもな。俺の名前は蒼なんだ」


「サファイアと蒼。確かに、無視できない繋がりがありそうだ」


「え~と、仲が良いのは微笑ましいですが、皆さんに向けて自己紹介を」


「俺の名前は言ったとおりだ。あとはそうだな。辺鄙なところから来た。よろしく」


「さて、席に着くとするか。私たちはどの席だ?」


「ちょっと待ってくださいね! え~と、前から三列目の窓際二つの席が空いているので、そこを使ってください」


「一番後ろの列、しかもこの時期の窓際か」


「実に快適に過ごせそうだ。もう既に、快適そうにしている生徒もいるな」


「あ! 起きてください、クラースさん!」


 これから俺たちのお隣さんになる生徒は、暖かな日差しに包まれてぐっすりと眠っている。教師の声でも起きないところをみると、俺たちが座る席にもより大きな期待を持てるというものだ。


「御覧の通り、クラースさんは眠ることが好きなので、授業中に気づいた際にはどうかお二人が起こしてあげてください。隣に他の生徒さんがいないので、これまでは起こすことにも一苦労だったんですよ」


「私たちに起こせるのか? 教師が肩をゆすっても、まるで効果はない生徒だぞ」


「いっそ、器用に眠ることを特技として認めて、それを伸ばす方針で育てるのはどうですか?」


「伸ばす方針にしたら、授業の意味がまるでなくなっちゃうじゃないですか~! って、もう授業ですか!」


 先生も頑張って起こそうとはしていたが、最後まで起きることなく、授業の始まりを告げるらしいチャイムが鳴った。


「しょうがない。ここは、新たに隣人となる私たちが一肌脱ごうじゃないか。そして、強い印象を残してやろうじゃないか。私たちが尋常な生徒ではないことを、ここで知らしめてやるとしよう」


 ついてくるように目で促されたので、教室内の映画館で見るような階段を上って、渋々ながら熟睡している新しい隣人の前で立ち止まった。

 よく眠っている相手に下手に刺激を加えると、手痛い仕返しにあうのは一つのお約束だが、調子に乗っているこのルームメイトを説得する役割を担うことも勘弁だ。

 どちらを天秤に乗せるのも勘弁願いたいが、お約束の展開と目の前の調子乗りであれば、眼前の相手により強い危機感を抱くべきだろう。


「それで、具体的には?」


「挟み撃ちだ。私が前から声で仕掛ける。お前は、後ろに立って全力で肩を揺さぶれ。手を抜けば、その分無駄に体力が奪われていくと思え」


「とめどなく溢れる上から目線は置いといて、作戦については理解した。もっとスマートな方法だと思ったが、随分とアナログちっくだな」


「新旧どちらも取り入れる、それが私には可能だからな」


 皮肉に対して、こうも自信に満ちた返しをされると、蓄積されていたストレスもなくなっていくようだ。新たな発見だな。


 一度、目を合わせると、彼女の挨拶を皮切りに作戦が開始した。先生? 愛らしくおろおろしているから問題なし。


「おはよーーございます!! 授業の始まりだぞ!」


ありがたいことに、PV数は着実に増えてきました。

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