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第三十話 あと四日

「よし分かった。あの管理人さんは理解不能な存在だった。それで、学院長はどうする?」


「一番分かりやすいのは、極力関わろうとしないことだ。しかし、それが現実味を帯びない以上、監視に期待するしかないだろう。監視すらままならないのは承知の上だ」


「大丈夫です。私に考えがあります!」


「学院長は、外でうたた寝をして隙を見せてくれるような相手じゃないぞ」


「分かっていますよ、そんなことは! 私が注目したのは、ずばり外出時間の長さです」


「確かに忙しいとは言っていたな。実際のところ、今も用事があって学校にはいない」


「しかし、それは弱点とはならないだろう。留守にする時間が多いことを、奴が見過ごすとは思えない」


「もちろん、離れていてもすぐに部屋に戻れる仕組みがあるのは事実です。室内に設置されたカメラや魔法が異常を認めると、瞬時に学院長の元へ伝わるようになっています。その信号を受け取ると、転移魔法を利用して瞬く間に自身の部屋へと戻ります。これも、私で実証済みです」


「誇らしげなことは置いといて、その高い防御力を打ち破る術を見つけたのか?」


「はい、これは素晴らしい考えですよ。あの学院長をですね」


「あの学院長を?」


「魔法が使用できない場所へと誘い込む、です!」


「さて、駄菓子屋にこいつをつきだすとするか」


「経緯はどうあれ、偽金を持ち主はこの魔族なわけだしな」


「お願いですから、縄を引っ張らないでください! ていうか、どうしてこの縄は解けないんですか! 特技の一つが脱走の私からすると、かなりショックなんですけど」


「転がって抵抗するな。引きずりづらい」


 半泣きになりながら抵抗する魔族と、冷ややかな視線を向ける人間の構図か。この世界の情勢は知らないが、ここ三〇三号室においては、魔族と人間の間に明確な力関係が生まれている。


「今の案は本気で却下するとして、他に重要そうな情報はないのか?」


 あまりに激しい格差が生まれていたので、仕方なく助け舟を出す。


「ありますとも! えーと、あれです。学院は大きいので、空き教室がちらほらあります!」


「よーし、気合を入れて引っ張るとするか」


 こいつが大変な目に遭ってきた原因は、ただ血統云々だけじゃなくて、このポンコツぶりにあるような気がしてならない。


「まだ続きがあります! だから、どうか足を止めてください!」


 あと数歩でドアノブに手がかかろうかというとき、キッチンの台に何とかしがみついて懇願してきた。

 歯を食いしばって全ての力を握力に総動員している姿を見ると、自然と罪悪感が湧いてくる。それを一切気に留めていない金髪を見ると、余計に心に訴えかけられてしまう。


「止め止め。ただ結果を報告させれば、それでいいんだ。優先度の高さについて考えて報告するなんて、まだ早かったんだ。もう一度、始めから丁寧に説明を始めさせよう」


「そうです。弁護の仕方には物申したいですが、ここはこらえます。私にもう一度だけチャンスを!」


 三人の中で二人が相手に回ったことが明らかなため、張っていた縄はまもなく地面に落ちた。


「最初に、私に与えられた任務のことからお話しします。私が送り込まれた理由は、今から約二か月後に開催される合同新人祭を襲撃するための下調べです」


「ちょっと待て。今、二か月後といったか?」


「はい。七月の中旬に開催されるのが常なので、およそ二か月後ですね」


「何故それを一番に言わなかった!」


 よく分かる。その気持ちは痛いほど分かる。だが、ここはこらえてもらわねば。今にも縄をつかみそうな手をおさえつつ、先を話すよう促す。


「具体的には、教師陣の実力や傑出した才能を持つ生徒、それから学院長についての調査を命じられました。私が集めたそれらの情報と、内通者が集めている情報を照らし合わせて襲撃を遂行しようというのが、この学院を標的にした計画です。この任務を受けた私は、四月から学院の調査を内密に進めて、毎晩報告するという日常を過ごしていました。最初に目を付けたのが学院長で、相手にすべきではない存在だと分かってからは、他の教師や生徒たちの監視を行いました。それぞれの特徴や注意すべき相手についての報告が一通り済むと、今から一週間後の奇襲のために、学院の弱点を探っておくようにと新たな任務が下されました。私が、仕掛けやすい場所として選んだ場所がこの寮でした。だから、人の出入りを記録して、都合のいい時間と場所を調査しました。ですが」


「陽気に誘われて、思わずうたた寝をしてしまったわけだ」


「その通りです」


「なるほどな、そういう経緯があったのか」


「来週じゃないか!」


「まあ落ち着けって。細かく説明してくれただろう」


「そうですよ。丁寧に報告をしましたよ」


「そうだな。随分と丁寧な報告だった。だが、丁寧な報告をしているほど時間はないぞ!」


「そう興奮するな。聞き捨てならないことはいくつかあったが、一番差し迫ったものでも一週間だぞ。あと七日もあるんだ」


「厳密にいうと、四日後ですね」


「おっけー、そうかそうか。あと四日もあるんだ。落ち着いていこうぜ」


「拳を握り締めているが、本当に落ち着けているのか?」


「もちのろんよ。あと四日後だろ。四日もあるんだ。四日もあれば何でもできるだろう」


「そうですよ。加えて、ここには魔族側の情報に目ざとい私がいるんですよ。金曜日の朝一に来る可能性も、なくはないですが、問題はありませんよ。ほら、魔族の私も朝には弱いので」


「決めた、すぐに駄菓子屋のおばちゃんと会わせてやる。よかったな、駄菓子を見れるぞ」


「最短距離で行くとしよう。安心しろ、どの位置取りがいいかは私の頭の中にある」


「まったく安心できないんですが!」


回復しました。

これからもよろしくお願いします。

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