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第二十九話 <管理人さん

「甘い蜜を吸えるだけ吸おう、ですか。それはとっても、素敵な名前だと思います!」


「やはり、お前なら分かってくれると思っていたぞ。では、私たち三人のこれからについて話そう。私が考えるに、お前、私たちに雇われないか?」


「雇う、ですか?」


「私たちがお前に提供できるものは二つ。一つは、この学院について。もう一つは他でもない、金だ」


「なるほど。それに対して、私は魔族側の動きを逐一報告する、といったところでしょうか」


「理解が早くて助かる。お前も、この提案に異論はないな?」


「もちろんだ。何せ、俺も同じようなことを考えていたからな」


「では、賃金体系については後にするとして、先に現時点での調査結果をお話ししましょう。その方が計画も立てやすいでしょう」


 縛られているというのに、器用に正座をすると一つ咳払いをして報告を始めた。


「まずは、最重要人物である学院長についてです。控えめに言って、あれは無理です」


「俺の聞き間違いでなければ、お前の話が計画立案に役立つはずだったんだが」


「聞き間違いじゃないですよ。あの学院長に関わることより愚かなことは、そうそうありませんよ」


「私たちからも一つ情報を提供しよう。学院長は私たちに目を付けている」


「そもそも、俺たちがこの学校に来た原因の一つは学院長にあるからな」


「......そうきましたか」


「まあ、あれだ。無理っていっても、細かく探っていけば抜け穴もあるだろう」


「あの学院長の注意点、一つ目は目視するな、です」


「あの髪は蛇だったのか?」


「そんなんじゃありません。たとえガラス越しだろうと、監視のために肉眼で見ていると、気を抜いたときにはもう目が合います。ソースは私です。あの日も、今日みたいに暖かったんですよね」


 待ったをかけたいが、こんなところで止まっている余裕はないんだろうな。


「続いて、あの学院長の部屋はお城です。その堅牢さは、明らかに普通の教室のそれではありません。正面の扉には、学院長の魔力もしくは許可が下りないと開かない仕組みになっています。では窓はどうかというと、衝撃への耐性はもちろんのこと、室内に設置されたカメラにもばっちり映ります。となると、魔族特製の、対象の魔力の痕跡が強く残ったものを吸収させるとその魔力の反応を追う、魔鏡も当然使えません」


「目視で観察することはできず、魔族が作ったストーキングにうってつけの道具も使えない。そこから分かったことは?」


「最初に言ったように、あの学院長に関わることより愚かなことは、そうそうありませんよ」


「そして、私たちはその学院長に目を付けられている、と」


 三人寄れば何とやらとはいうが、ここまで絶望が深まっていく寄合もそうそうないだろう。

 というより、学院長のステータスが異常すぎるだろ。勝負ごとに必須なものは情報で、情報を集めるために欠かせないことが監視だ。しかし、直接、間接問わずに目を使っての情報収集ができないときたもんだ。


「管理人さんといい学院長といい、どうして厄介極まりない相手とばかり、関わりを持ってしまうのか」


「管理人さん、ですか?」


「そうだ。刹那の間に何でもこなしてしまう、超がつくほどのハイスペック管理人さんだ」


「その管理人さんって、あのおじさんですよね」


「いや、せいぜい二十歳くらいの、どうして管理人さんをしているの分からないほどの若いお姉さんだったが?」


「え?」


「え?」


「この学院の寮の管理人は、白髪で背筋のピンとしたおじさんですよ」


「そんな冗談は通じないぞ。俺は、短い期間のなかでかなりお世話になったぞ」


「私も管理人らしき男を見かけたが、確かに元気そうなおじさんだったぞ」


 今度はそうくるか。

 学院長の危険性を再認識したつもりだったが、やっぱり管理人さんは超越してきたってことだ。


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