第二十五話 落とし物に注意
「ちょっと待ちな。この小金貨、偽物だね」
「「......は?」」
「最近、偽金貨の噂が出回っていてね。使われ始めた当初は、誰も気づかないほどに精巧な作りだった。だけど、一週間くらい前からいくつもの店が偽金貨を使われたって騒ぎ始めてね。それで私も、念のためと思って警戒を始めたんだけどね。あんたたちだったかい」
「違う、誤解だ、ばあちゃん。俺たちはその件と何の関わりもない!」
「そもそもこの金貨は、路上に落ちていたものだ」
「じゃあ、どうしてそれをあんたたちが持っているんだい?」
「それはあれだ。あの~、拾って持ち主に返そうとしたんだが、いざ返却しようとしたら感謝のしるしに受け取ってくれと言われてな」
「そうそう。その時は、まさかそれが偽物だなんて俺たちは知らなかったから、この店で堂々と使おうとしてしまったってだけのことなんだ」
「持ち主に返そうとしたら、お礼に受け取ってくれと言われた。そうだね?」
「その通りだ。私たちは何も知らなかった」
「それなら、その持ち主の顔や声は知っているわけだね」
「え?」
「何だ知らないのかい?」
「いやいや、俺たちは返そうとしたから知っているさ。けど、声は鼻声だったし、顔もフードで見えなかったんだよな」
「そうだな。残念ながら、特徴はほとんど分からなかったな」
よし、何とか彼女も気づいてくれた。もし、このままばあちゃんのペースにしたら、偽金貨の持ち主を捕まえなければいけなくなる。
だが、ここで先手を打つことで、それを回避して穏便に済ませる未来が見えてくる。俺たちとばあちゃんは、あくまで対等な関係。ゆえに、俺たちに何かを強制させることもできない。
「一応言っておくけどね。この店の中には、いくつかカメラが仕掛けられているんだよ。もちろん、レジはしっかり映るようになっている。この意味が分かるね」
これっぽちも対等じゃなかった。上下の関係に、大きすぎる差がついていた。経緯はどうあれ、俺たちが偽金貨を使おうとしたのは事実だ。
ここまでくれば、打てる手はもう一つしかないだろう。
「一か月くれ!」
「一週間だよ」
その返答から逃げ出すように、俺たちは駄菓子屋を後にした。
「ど~するよ」
息を切らしながら部屋へと戻って水を一杯飲むと、そんな言葉が無意識のうちに出てきた。
本当に、どうしたものか? 駄菓子に偽金を使用した罪に問われるのは真っ平ごめんだが、犯人を探し出すことなど不可能に近い。だって会ってないんだもの。
かといって、早々にこの学校から逃げ出すわけにもいかない。そんなことをすれば、それこそ偽金を使用する犯罪者となってしまう。
「そんなに歩き回って、一体何をしているんだ?」
「静かに」
部屋中を歩き回っている運命共同体に声をかけるも、返ってきた言葉はいたってシンプルなもの。それでも、何かしらの考えに基づいて行動していることは分かる。
彼女が真剣な顔つきをするのは、頭を使うときか食べ物を目の前にしたときのどちらかだ。おそらく今は、前者の方だろう。そうでなきゃ、かなりマズイ。
忙しく歩き回っていた彼女だったが、唐突に立ち止まったかと思うと、俺の方に早足で近づいてきた。
何か思いついたのか、俺がそう聞くより先に耳打ちをしてきた。
「姿は見えないが、ベランダに何者かが潜んでいる。私が右、お前が左の窓からベランダに出て挟み撃ちをする。くれぐれも大きな音を立てるなよ」
信じがたい話ではあるが、この場面で冗談を言うメリットなどどこにもない。
足音を立てないように細心の注意を払って、タイミングを合わせて窓を静かに開く。ベランダに出て二、三歩進んだところで、ハンドサインに従って停止する。
次の合図を待っていると、彼女はどこからか輪っかのつくられた縄を取り出しておもむろに投げた。
「むぎゃ!」




