第二十三話 ショッピングタイム
「きたねーぞ!」
「どこがだ。お前が見落としただけだろ」
「奇数個のイチゴの内の一個を、俺から見えないように隠していやがったな!」
「偶然だ。たまたまイチゴが転がって、お前から見えにくい位置まで移動してしまっただけだ」
「じゃあ、最初に俺が指摘したときに食べるなよ! あれは確信犯だろうが!」
「お前がいきなり大声を出したせいで驚いて、ついそれまでの動作を継続してしまったんだろうが」
「よし、じゃあイチゴに突っかかるのは止めよう。その代わり、お前のメロンを一口くれ」
「何故そうなる! このメロンは、議論に次ぐ議論を重ねた結果、この上ない精度で同じサイズに切り分けられたものだろう!」
「お前がイチゴを一個多く食べたことを踏まえれば、これは正当な要求だ」
「イチゴの数ごときでうるさい奴だ。たかがイチゴ一個の違いじゃないか」
「二つの籠に入っていたリンゴとバナナ。その両方もお前が食べたんじゃねーか!」
「あれはお前から差し出したものだろう」
「俺が差し出したのは、籠一つ分だけだよ。もう一つの籠からは、俺のいない間にお前が勝手に取っただろ」
「しょうがないだろ! 魔法を使用した直後だったんだ。私には回復の時間が必要だったんだ」
「台所に置いた籠まで行けたってことは、最初の一籠で十分に復活できているだろ!」
この野郎、魔力不足から回復するのに三時間はかかるかもしれない、なんて弱々しいことを言っておきながら、俺が自分用にとっておいた方の籠にまで手を出しやがって。
今となっては、元の偉そうな態度へと完全に復活していやがる。
「私は常に完璧であることを目指す。それゆえ、いくらか回復したようでも、全快でなければ理想には届かないのだよ」
「他の人も食べるフルーツを奪って叶う理想なんか捨てちまえよ! それより、完璧主義者ならフルーツ分配の完全なる均等を目標にしろよ」
「この私が掲げた理想を捨てろだと。貴様、いい度胸をしているな」
「やるつもりか。言っておくが、お前が行動を起こす瞬間に、俺の持つスプーンはお前の目の前にあるメロンに届いているぜ」
この勝負は譲れない。ここで譲ってしまえば、俺はイチゴを見捨てた薄情者となってしまう。既にイチゴは失われてしまったが、せめてその敵だけは討つ。
「しょうがない。メロンを取られるのは損失が大きすぎる。あれをお前の好きに使え」
ため息をついた奴が指差した先にあったのは、隣の部屋から持ち出してきた路上の金貨。その価値からして、駄菓子一個でこの話は終わりだ、と言いたいのだろう。
おいおい駄菓子で手を打てるかよ、と前世の俺なら思っていただろう。しかし、ここは異世界だ。駄菓子という単語に異世界の、という修飾語が付いただけで、この提案は途端に魅力的なものへと変身する。
「そこまで言うなら、俺も妥協をしてやろう」
「私の優しさをしかと受け止めろ」
そうか、異世界の駄菓子屋か。前世ではありえないほど、駄菓子屋に対して心拍数が上昇している。加えて、初めて異世界のお金を使用する機会なのか。
「どうした? さっさと行ってこい。心配しなくてもお前の皿から取ったりはしない。また面倒臭く絡まれるのは勘弁だ」
「いや、そういうんじゃなくてさ」
「言いたいことがあるならはっきり言え」
「初めての買い物だから、ついてきてほしいな~なんて」
「ガキかお前は!」
「金の単位とか分からないし、初異世界駄菓子で外れを引きたくないだろ!」
「何故お前が怒る! まあいい。お前について行った方が、あらぬ疑いをかけられることもないだろう。ほら、金を持ってさっさと出発するぞ」
こうして駄菓子屋へと向かっていった俺たち二人。しかし、この時の俺たちは完全に油断していた。ここ最近、学校では何が起きているのか。そんなことは知る由もなく、無謀にも学校へと歩を進めるのであった。




