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第二十二話 復活

 ショックを受けたのは事実だが、管理人さんの魔法による治療と最後の一言のおかげで活力がみなぎってきた気がする。

 何の取り柄もない? 主人公になれない? だからどうした。俺は俺の道を進むんだ。決められた道を歩くなんて、そんなことは退屈でしかないに決まっている。魔力はせいぜい、俺に宿れなかったことを後悔するがいいさ。


「戻ったぞ~」


「随分と早かったな」


「管理人さん様様だ」


「どうした、まだ顔に血が付いているか?」


 テンポよく言葉が返ってくることを想定していたが、彼女は俺の顔をじっと見たままで何も発さない。このシーンだけを切り取れば、ようやくラブコメが始まるのかとも思えるだろうが、あいにくとそれは幻想にすぎない。実際のところ、彼女は俺の顔を見て首をかしげているだけだ。


「そうじゃない。もう血は取れているようだ」


「だったら他に何が」


「お前、魔力を獲得しているぞ」


「......は?」


「外側に現れているわけではないが、今のお前は魔力を有しているぞ」


「よっしゃ、きたーー!」


 魔力がないというどん底まで落としてからの、魔力が芽生えるという覚醒展開。これは燃える。

 自分の道を切り拓くなんてことよりも、主人公としての道を歩いていく方がよっぽど楽だし充実しているだろう。何より、主人公という言葉の響きに絶対的な価値を感じる。


「興奮する気持ちは分かるが、もっと静かに喜べ。鼓膜への刺激が強すぎる」


「いや~、悪い悪い。そうか~、ついに俺も魔法が使えるようになるのか。こういう胸熱展開を繰り広げられると、全身から活力がみなぎるな」


 明日からの学校生活では、もちろん魔法の実技の勉強もするだろう。最初は慣れないから苦戦するだろうが、やがては前世の趣味の経験も活きて、この国を代表する魔法使いに上り詰めるかもしれない。いや、あえて実力を隠して暗躍という道もあるな。

 魔法って素晴らしい。使えると分かった瞬間から、世界が変わったように感じる。これほどまでに、無数の選択肢が目の前に表示される経験など未だかつてなかった。


「早速、魔法に関する勉強をするかな」


 いくつかある教科書の中から表紙に魔法と書かれたものをピックアップし、目を通していく。


 うん、全然分からない。てっきり、魔法陣とか呪文とかいうものが出てくると思いきや、魔脈とか魔法の冬なんていうまったく聞き覚えのない言葉ばかりが目に付く。多分、今読んでいる教科書は、実技ではなく学科よりなのだろう。それならしょうがない。この世界では、俺は生後二日なのだ。この若さで、魔法に関する知識を豊富に持っていろなんてことこそ、無茶というものだ。

 気を取り直して、実技についての本を見つけるとしよう。


「これだな。表紙に、魔法と実技の両方の単語が入っている。美しい響きだ」


 なるほど、理解した。これは習うより慣れよというやつだ。振り返ってみると、体育で実技を上達させるために教科書を読むなんてこと、全くしなかった。これは魔法にも当てはまるのだろう。

 教科書には、魔法を使う際のポイントなどが細かく書かれている。しかし、実技をまるで経験していない俺からすれば、コツを言われてもまずはやってみなきゃ何も上達しないだろ、というツッコみを入れざるを得ない。


「こういう実技に関する教科書、お前は読んだことがあるか?」


「初心者が読むような、そんな本は読まない。私が読むとすれば、それよりはるかに上のレベルの本だけだ」


 隠すことなく不機嫌な表情をしていたお向かいさんに尋ねると、渋々ながらも答えを返してくれた。

 相変わらず偉そうな口ぶりなのは気になるが、他にすることもないから俺が手にしている教科書を退屈そうに眺めているあたり、本当に興味がないのだろう。


「お前も、魔法を使わないうちからそんな本を読むのは止めとけ。どんな魔法にも、その時々で使用者の色が出る。だというのに、前もって型を知っておこうとするなど、愚かにもほどがある。型はいつでも習得できるが、魔法に宿る色は常に変化するものだ。だから、そんな本ごときにお前の色を奪われるなよ」


「......めっちゃいいこと言うじゃん」


 控えめに言って感動した。心に染みわたった。感銘を受けるのは、大抵偉人や二次元のキャラが発する言葉だった。

 しかし、今回は偉人でも二次元のキャラでもない。目の前に存在する、今を生きている相手からの言葉だった。それは、どうしようもないくらいに頭の中で反芻されて、その度に言葉の意味が強く心を揺さぶってくる。


「なんか、ありがとな。魔法について、これまでとは全く違う考え方が急激に湧いてきた。お前のおかげだ」


「迷える子羊に手を差し伸べることも、私のような存在がすべき一種の義務のようなものだ。だから、まあ何だ。そんなに感謝をする必要はない」


 彼女には様々な印象を受けた。感情のコントロールができない子どもだとか、包丁いらずで食べられるフルーツだけを自分で全て食べる嫌な奴だとか。

 きっと、これから先も様々な感想を抱くのだろう。プラスもマイナスも。

 だが、少なくとも今だけは、俺は彼女に対してこんな感想を抱く。


「それでも、ありがとな。お前は最高の運命共同体だ」




「きたねーぞ!」


「どこがだ。お前が見落としただけだろ」


 それから数分後、三〇三号室の中で絶対に譲れない口げんかが勃発した。


二十八話まで少し文量が短くなると思いますが、寛大な心でお許しください。

こちらにも予定があるのです。

けど、三月にはしっかり復活します。


それと、明日から三月までは二十一時ピッタリの予約投稿となります。

どうか、見つけてあげてください。

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