表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/53

第十七話 神ってる

「すてーき、ぱすた、ぱんけーき」


「さっき食べたものを口にしても、どこからともなく現れはしないぞ。それより、もっと足に力を入れてくれ。俺もお前の魔法で心身ともに疲れたんだ」


 彼女が言うには、魔力操作において自分より優れた存在はあまりいないらしい。ただ、すこし魔力量に問題があるだけで、他は完璧とも言っていた。

 強大な力の一端は、ついさっき確かに目にした。しかし、何とかベッドに横になることのできた彼女からは、戦闘力皆無という印象しか受けない。今から魔法の実技試験が始まったら、言い訳につぐ言い訳で回避せざるを得ない状況に置かれること待ったなしだろう。


「フルーツくれ。キッチンにおいてあったやつだ」


「ここまでくると、いっそ尊敬するよ。寝っ転がりながら、偉そうに食べ物を催促できる奴はそうそういないだろうよ」


「喧嘩を売っているなら、三時間後くらいに買ってやる」


「冗談だよ。いくら俺でも、今のお前に喧嘩を売るほどの悪徳業者じゃない。それじゃあフルーツを持ってくるから、好きなのを食べろ」


 フルーツが入った籠をベッドの近くに置くと、俺は秩序をすっかり失った三〇四号室の前まで向かった。


「あまり意味もないと思うが、証拠隠滅がんばるか」


「何かありましたか?」


 もう駄目な気がしてきた。証拠を隠滅する部屋に入ろうとした時点で呼び止められるって、これがお天道様はいつも見ているってことか。

 だが、ここで知られるわけにはいかない。ドアの向こうに隠された惨状を知られてしまえば、いよいよあの学院長にとって都合のいいようになってしまう可能性が高い。

 ゆえに、真後ろのドアがきしんでいるようでも、戦わなければならない。


「いや、なんでも。少し盛大に転んじゃっただけです」


「そうですか。それにしては、随分と大きな音が聞こえてきましたが」


「恥ずかしながら、俺は着痩せするタイプなんですよ。よく細いだのなんだの言われますが、実際はまるで違います。そんな俺が転んだら、自慢じゃありませんがある程度大きな音も出せちゃいますよ」


「そうですか。そこまで言うのなら、きっとそういうことなのでしょう。もし怪我をしたようなら、一階の治療室を訪れてください」


「ご配慮ありがとうございます」


 何とか切り抜けたぜ。まあ、絶対に納得していないことは明らかだが、一難去ったことには違いない。さてさて、今度こそ証拠隠滅の時間だ。


「すいません、気になったことがまだ」


「はい!」


「どうしました?」


「授業中のどのタイミングに指名されても、元気よく返事をする練習をしていただけです」


「そうですか。それは感心ですね」


「俺ってば意識が高いですから」


「前向きな姿勢は素晴らしいです。ところで、何故平日なのにここに?」


「そりゃあ当然の質問ですね。確かにおかしい。生徒たちは皆、学校で自身の本分を果たしているというのに、何故この寮に住んでいる俺はここにいるのか」


「はい、気になります」


「実はな、俺は特別生なんだ」


「特別生、ですか?」


「ああ。詳しいことは学院長に聞けば分かるが、俺は特別生としてこの学校に明日から通う身分なんだ」


「なるほど。だから今日は寮で体を休めていたのですね」


「そうそう。理解が早くて助かるよ」


「もし何かありましたら、一階の管理室までお越しください」


「おっけ。困ったことがあれば頼らせてもらう」


 最後に軽く一礼をして、管理人は階段の方へと歩いて行った。


「それじゃ、ちゃちゃっと済ませるか」


「すみません。もう一つだけ」


「よーし! 次は何だ? 生徒手帳を見るか? それとも服装について質問するか?」


「いえ、そうではありません。ただ、一つお伝えし忘れたことがあったのを思い出しました」


「そいつは一体?」


「私は明日の午後も三〇四号室の掃除をするので、それまでには綺麗にしておいてください」


「......おす」


 全部お見通しだったよ。そりゃそうだよな。部屋の中から、何かが落ちる音が盛大に聞こえたもんな。せめて、誰にもこのことをシェアしないことを祈るばかりだ。


「あの管理人、一貫して無表情だったな。正直なところ、あの人に詰められるよりかは、キッチンの台にしがみついている方が、よっぽど心穏やかでいられそうだ」


「掃除道具一式は、こちらでよろしいですか?」


「ありがとうございます!」


 反射的に深々とした礼をしばらくの間継続させてから、廊下を見渡すと、すでに管理人さんの姿は見えなくなっていた。

 もうただの管理人じゃなくて、管理人さんだよ。学院長も相当に不可思議な存在だが、管理人さんにいたっては不可思議さを見なかったことにしておきたい。それくらい、触れちゃいけない感じがする。

 そう考えると、現時点で俺は二人恐れる人ができたわけだ。まず、神っぽい感じの案内役ことハク。それから管理人さん。


 よし! 証拠隠滅頑張るか。管理人さんのお手を煩わせないためとしたら、かなりやる気が出てきた。張り切っていこうじゃないか。少しでもさぼったら、俺にとっては、神と同列の管理人さんの逆鱗に触れてしまうつもりで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ