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第十三話 イケメンも大変

「それじゃあ、イケメンのいる中庭に行くとするか」


「うむ。ここの飯は最高だったことだし、早く寮の食堂も覗いておきたい」


 店を出て階段を下り、中庭の方まで行くとそこにはイケメンがいた。ただ、決して一人でいたわけではなく、大勢の生徒たちに取り囲まれていた。


「二人とも、十分に休憩はできたかい?」


「お前はどうだ? 母校でゆったりできたか?」


「できれば、周りの生徒たちに道を譲ってもらった後で聞いてほしいんだけど」


「そうか。なら、私たちは校門の前で待つことにしよう」


「もしかして、聞き間違えていないかい?」


「大丈夫。しっかり聞こえているぞ。後輩たちに道を塞がれて動けない団長さん」


 はっきりと相手に届く声量での会話を済ませると、人気者の様子を見ながら俺たちは校門の方へと歩いて行った。


「やっぱりすごいんだな、あのイケメン」


「奴ほど英雄という言葉に相応しい者は、そうそういないからな。この王国に限って言えば、奴以外にはいないだろう」


「その割に、お前はさほど尊敬していないようだ」


「昔から、完璧そうに見える存在ほど危うさを秘めている。これは奴にとっても変わらないと、私はそう思っているからな」


 真面目な顔をして言うってことは、そう思わせる何らかの根拠があるのだろう。かくいう俺も、たとえ俺たちのことを助けてくれた恩人が相手でも、全幅の信頼を寄せるなんて性格ではまるでない。どちらかといえば、まずは疑うの方が俺には合っている。


「分からなくもないがな。けど後輩たちに取り囲まれている中、突破を試みながら苦笑いをしている時点で完璧とは少しずれている気もする」


「その考えも間違いではないだろうな。ただ、ああいう種類の厄介なところは、どこまでが本物なのかという判断がつかないところにある」


「そういうもんか」


「そういうものだ」


 考えても分からないようなことは、考えるだけ無駄だ。ゆえに、俺はイケメンの方をもう一度眺めてこう思うのだ。いい気味だ、と。



「すまない、待たせてしまったね」


 特にすることもなく、忽然と始まったイケメンのサイン会を眺めだしてから数分後、申し訳なさそうな顔をしてイケメンが駆け寄ってきた。 


「俺としてはおもしろかったから、気にしなくていい」


「私も有意義な時間を過ごせた」


「はは、それなら良かった、のかな。それじゃあ、君たちを寮の方へと案内しよう」


 一分ほどイケメンを先頭に歩いていくと、これまた立派な建造物が見えてきた。


「ひょっとして、あれか? かなりのサイズだな」


「そう、あれがブリリア学院の寮だよ。学院に通う生徒全員が利用することを想定されているから、千人近くが快適に使用できる広さになっているんだ」


「とんでもねーな。そこまでするか」


「それくらい、この学院は教育の質の向上に力を入れているということだ。そして、その取り組みに実績が伴っているからこそ、変わらず人気が高い」


「この学院に入学するために留年するというのは、決して珍しい話じゃない。僕の同級生たちも、年齢には多少の差があったよ」


「それくらい、そもそも魔法が重要ってことか。なるほど、ためになる。それで、一体いつになったら入り口に辿り着くんだ」


 巨大な寮の一部はさっきから視界に入っているが、一向に入場門らしきものが見えてこない。この段々早歩きになりそうな時間こそが、金持ちだけが持つことのできる特別な時間かもしれない。俺としては、一刻も早く投げ捨ててしまえることを希望するがな。


「そう焦るな。どんな時にも余裕を持つことが肝心だ」


 自覚できるほどにはスピードが上がったところで、隣人からそう声がかかる。


「そういうお前も、早歩きしている俺と同じペースじゃないか」


「目的地が見えているにも関わらず、まるで中に入れないというのはひどくもどかしい」


 ストレスとともに寮のフェンスに沿って歩いていると、ようやく大きな扉が見えてきた。どうやら、イケメンは最後の曲がり角をまだ曲がっていないようだし、門の前で休憩するとしよう。


 っと、あの光は。


「おっと、足が絡んだ」


 早歩きをしたせいで、乳酸がたまって足が絡まってしまった。まあこんなこともあるさ。幸い、誰かに見られたわけでもない。

 ただ、一つ気になることがあるとすれば、すぐ隣にも俺と同じような体勢になっている金髪がいることだ。


「どうした? 急にこけたりして」


「体が鈍っていたから、久しぶりの早歩きで足が引っかかっただけだ」


「怪我はしてないようだし、早く立ち上がった方がいいぞ。いつ誰に見られるか、分かったもんじゃないからな」


「いやいや、お前の方こそピンピンしているじゃないか。私はか弱い乙女だから、立ち上がるのにまだ時間がかかる」


「それなら仕方がない。じゃあ、俺が先に立つとしよう。だから、お前の左手を俺の右手からどけてくれないか? 押さえ込まれているから、立ち上がれないんだ」


「何を言っている。お前の右手が私の左手の上に乗っているんだ。立ち上がるに際して、お前が手を気にする必要はまるでないぞ」


 こいつ、やっぱり気付いていたか。

 寮に向かって早歩きで進みながらも、視界に入った路上の輝き。この国では、どういうものが使用されているかは知らないが、光っているのであればそれ相応の物だろう。

 つまるところマネーだ。


 そして、今ここにマネーを巡る戦いの火ぶたが切って落とされた。


週の初めから、この作品を読んでくださりありがとうございます。

少しでも印象に残ったシーンがあれば、ぜひ星マークでの評価をよろしくお願いします。

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