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第十二話 同盟

「デザートなら、良さげなところをさっき見つけたぜ」


「なら、そこに向かうとしよう」


 店を出て、一分程度歩くと俺が目を付けた店の前に着いた。


「これはすごいな。今回の締めくくりに相応しい」


 展示されているサンプルを見て、すぐに惹きこまれたのだろう。すでに彼女の目は輝き、サンプルに釘付けになっている。


「じゃ、入るか」


 返事もせずに店内に入って席に座ると、素早くメニューを取って眺めだした。

 これまでの二店とは異なり、時間をかけて選ぶようだ。そう思っていたのも束の間、メニューを俺に渡してきた。


「もう決まったのか?」


「ああ。どれも魅力的だが、一つだけ強く輝いていたのがあったからな」


「特別訴えかけてくるものがあったってことか。俺ももう決まっているから、店員を呼ぶぞ」


 未だ客となる生徒がいないおかげか、手を挙げてすぐ店員がやって来た。


「先にいいぞ」


「では、ティラミスパンケーキ一つ」


「俺は、フレッシュフルーツパンケーキで」


 手短に注文を済ませると、さっきご対面した学院長の話題が浮上してきた。


「あの学院長、妙だと思わなかったか?」


「妙、というと?」


「奴は、魔法学において最高峰とされる学院の長だ。家系だけでなく実力も確かなもので、窓や扉などに組み込まれた魔法陣からは奴が纏うのと同じ魔力を感じた」


「それなら、生まれだけで今の座に収まったわけではないってことだろう。健全な環境じゃないか」


「そうだ、奴の実力は申し分ない。だからこそ、一つの疑問が出てくる」


 その疑問が彼女の口から出ようとしたところで、パンケーキを乗せた二枚の皿を店員が持ってきた。

 テーブルの上に置かれたパンケーキの見た目たるや。デザートという言葉で画像検索をかければ、トップに出てくるだろうその外見。


 パンケーキへの挨拶を済ませ、早速一口大に切って口にする。


 柔らかい。それも、見た目から期待していたまさに完璧な柔らかさ具合。この感触を表現するために、ふわふわという言葉が生まれてきてくれたのだろう。

 さらに、フルーツをお供にせずとも、パンケーキだけで十分に満喫させてくれる絶妙な甘さ。甘すぎず、かつ飽きの来ないあんばいで舌を楽しませてくれる。


 しかし、同じ皿に乗っている以上無視はできまい。映えに一役買っている、色とりどりのフルーツたち。バナナやイチゴ、キウイ。どれも魅力的だが、特別に気になるのは黄緑のこれ。 

 まさか、パンケーキとともに登場してくれるとは思わなかった。ただ、まだ本当にそれかは分からない。すぐに確かめねば。


「......やっぱメロンだよな~!」


 それも、当たりはずれもあるなかで、間違いなく当たりのメロンが採用されている。この味、素早く口いっぱいに広がって唯一無二の風味で身体中を満たしてくれる。

 メロンで当たりを出してくれると、当然ながらほかのフルーツにも期待してしまう。


「メロン、美味そうだな」


 次はどのフルーツを食そうか目移りしていると、向かいからそう聞こえてきた。顔を上げると、俺のパンケーキに視線が釘付けとなっているお向かいさんが見えた。


「俺も、ティラミスが気になっていたんだ」


 その台詞を言い終えたときには、既に目の前までフォークに刺さったパンケーキが迫っていた。


「等価交換だ」


「はいよ」


 何の抵抗もなく口を開くと、ティラミスとパンケーキの絡んだところが口に入ってきた。上質な組み合わせを満喫した後、一口分のメロンを差し出すとすぐにお向かいの口の中へと吸い込まれていった。


「いいメロンを使っているな」


 満足げに俺と同じ感想を口にすると、再び自分のパンケーキを黙々と食べ始めた。

 デザートも変わらず美味しそうに食べているお向かいに倣って、俺もまたフルーツを味わい始めた。


 そこから穏やかに時間が流れること数分。コーヒーも飲み切り、幸せに満ちたランチの時間は終了した。


「そういえば、学院長がどうのっていう話。結局、何を疑問に思ったんだ?」


「そのことか。別に忘れてくれてもいい。深入りすると面倒ごとに巻きこまれるのが、世の常だ」


「どんだけ核心を突いたことを疑問に思ったんだよ。そこまで言われると、かえって気になってくる」


「本当に知りたいのか? この考えを持ったところで、おそらく百害あって一利なしだぞ」


「あいにくと、俺はゼロから一にすることが得意でな。少なくとも、相手にそう見せかけることくらいは造作もない」


「はあ......。そこまで言うなら、正直に伝えよう。だが、この謎を知ったことでお前に不利益が生じたとしても、私は一切の責任を持たない。それでも構わないなら、話すとしよう」


「安心しろ。俺は、不利益を被らないための努力に時間を割けるタイプだ」


「なら、話そう。先に奴について重要な点をおさらいすると、実力を以って王国最高峰の魔法学院の長となった。安全面では、自身の魔法で窓や扉を強化するほどに余念がない」


「では、何故奴は宝石をたかが魔族一体に奪われたのだと思う?」


 魔法の実力は申し分なし。危機管理にも漏れがない。

 そんな学院長が、かなり出来のいい宝石を持ち歩いている状況で、ちょくちょく物騒な事件も起こしている魔族の一員によって窃盗の被害に遭うのだろうか。


「確かに、もっともな疑問だ。違和感しかない」


 下を向いて考えこんでいると、向かいから声がかかる。


「もしかして、お前も同じ疑問をすでに抱いていたのか?」


「どうしてそう思った?」


「明確な根拠があるわけではない。だが、お前が考え込んでいる様子を見て、なんとなくそう感じただけだ」


「仮にそうだとして、俺は一体何を考えこんでいたことになる?」


 もしお前と私の考え方が似ているならば、そう前置きして答えが発表された。


「どのくらい甘い蜜を吸って、どのタイミングでここから退散するか」


「なるほど、お前はそう考えるのか」



「大正解だ! いや~、やっぱり怪しいと思ったのは、俺の考えすぎじゃなかった。会う前からイケメンの話を聞いておかしいとは思ったんだよ。あの日、学院長が泥棒を追いかけてくる様子はなかったのに、褒美は出すってのがかなり気になっていたからな」


「どうやら私たちは上手く付き合っていけそうだな。奴の監視を切り抜けるなら、一人より二人の方が何かと都合がいい」


「そうなんだよ。どれだけ頭を回転させても、裏をかく方法が一向に思い浮かばなかった。それくらい、あの学院長には目に見えない迫力があった」


「しかし、二人ならば話は変わってくる。そもそも、一人と二人では情報収集の時点で大きな違いが出るというもの」


「これでひとまず、心配事は消え去ったわけだ。それじゃあ、甘い蜜を吸えるだけ吸って、面倒ごとからはそれが起きる前に退散するための同盟の結成を祝って」


「乾杯! それからティラミスとフレッシュフルーツ、一つずつ追加で注文だ!」







ストックが絶滅危惧種になりました。

ただ、まだ粘れると信じています。

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