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「よっこいせっと。 あ痛たた、腰が」


 ACOからログアウトした俺は、小さめのアパートの一室で目を覚ます。 部屋にはベッドほどの大きさのカプセルが鎮座しており、それほどの装置でもなければフルダイブのゲームは出来ないのだと理解できる。


「んぐぐぐっ!! ふいぃ~そろそろロールプレイングも変えないとな~ 俺がしんどくなってたら元も子もないし」


 カプセルから出て、独り言を呟きながら背伸びをする俺だが、今日はそんなことよりもやらなければいけないことがある。 ズバリ、部屋の掃除だ。 一人暮らしをしているこの部屋は、いわゆる男子が住んでいる部屋と言えばいいのか、そこそこ汚い。 流石にゴミが散乱して居たり、パンツがそこら辺に脱ぎ捨ててあったりといったことは無いが、洗い物は放置してあるし、ゲーム類はテレビに繋ぎっぱなしになっている。 いつもならそれでいいが、今日に限っては放置していると怒られてしまう。


「んじゃあ部屋の片づけといきますか。 我が愛しの妹ちゃんに怒られる前に整理整頓ぐらいはしとかないとね」


 そう、今日は妹が部屋に来る日なのだ。 大学に行くために一人暮らしをしている俺を心配して、ちょくちょく顔を見に来てくれる妹をゴミ屋敷に入れるわけにはいかない。 そんなわけで部屋の片づけを始めた俺に待っていたのは、ファンタジーとの遭遇であった。


「ふんふんふ~ん 妹もののエロ本は押し入れに全部突っ込んで~っと」

『ふむ…お主がよさそうじゃの』

「は? 何が? え? ちょ、まっ」


 どこからともなく声が聞こえたかと思ったと同時に、俺の影が伸び、部屋の中を包み込む。 ゲームの中なら即座に行動し、影から回避できたかもしれない俺も、残念ながらここは現実。 抵抗する間もなく、影に飲み込まれた。


 影が消えたころ、片付いた部屋の中には誰の姿も残されてはいなかった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「ここは? ……何も見えない?」


 次に気が付いたら暗闇の中に居た。 暗闇といっても、俺の目には周囲が何も見えず、周りが黒で染まっていて俺の手すら見えない状態だから『暗闇』と称しているだけで、本当にそうなのかは分からない。


 何かできないかと周りを探ってはみるものの、足が地面についている感触こそあるものの、何かが手に触れるような感触もない。 それでいながらまるで水の中にでもいるかのような抵抗感がある。 不思議な感覚だ。 なんて考えていると、俺が部屋に居た時と同じような声がどこからともなく聞こえてくる。


『ここは人間の転生を行う場所。 と言えばいいかの?』


 後半になるにつれ、声が響く方向が定まって来る。 と気づいた瞬間、俺はその方向に向けて足を回していた。


『流石じゃの。 よう何も見えぬのに反応出来るものよ』

「ちっ」


 何かに触れた感触は有ったが、どうやら何者かの腕に阻まれたようだ。 焦っていない声色から、そう推測する。 それと同時に疑問も生まれてくる。 腕に阻まれたにしては位置が低い。 逆に足に阻まれたとしても位置が高すぎる。 そこから予測できるサイズ感は小さい頃の妹と同じぐらいなのでは……そう考えた後、俺は何者かに話しかける


「俺だけ見えないのは不公平じゃねえか?」

『ふむ、確かに。 ならば白で染めれば見えるかの?』

「っっっ!?」


 これまで暗かった空間から突然明るい場所に人間が放り出されたらどうなるのか。 知識でしか知らなかったものを俺は実際に味わっていた。 目が潰されるというのも納得だ。 どれだけ頑張って目を開けようとしても、体が拒否する。


 数秒の時間をかけ、ようやく開けられるようななった眼で何者かの姿を見ると、そこには……


「ロリ?」

『だれがロリじゃ!? 我か!? 我なのか!?』


 金髪と金眼が特徴的な、ロリとしか言えない程度の身長の女児が居た。 もしくは小学生。 纏っている衣服こそ真っ白な着流しで、よく神っぽい衣装と表現されるようなものだが、如何せんロリに似合っているとは言い難い。 とはいえ、本人?が驚いていることから、本来の姿はロリではないらしい。 とすると、俺が妹のことを考えていたのに姿が引っ張られた? なんて考えてみたが、そんなわけが無いか。 姿を自由に変えられる存在なんて実在はしないだろう。 いや、それを言うなら、そもそも影に飲み込まれるのもおかしいか。


『ふむ、おそらくはそれが正解じゃろうな。 お主の妹の小さい頃の姿に引っ張られた。 中々の想像力じゃの。 我の姿にまで影響を及ぼすとは、流石はロリコン』

「誰がロリコンだ!?」


 ろ、ろ、ロリコンじゃねぇし!? 百歩譲ってシスコンだとはしても、決してロリコンではないし!! そもそも小さい子なんてみんな好きだろうから、人類皆ロリコンだし!! 俺だけじゃないし!!


『語るに落ちたの』

「いや俺は語ってな……」


……2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,97,101,103,107,109,113,117,131,137,139,149,151,157,163,167,173,179,181,191,193,197,199,2


『そろそろ良いかの? 素数しか考えないのは分かったが、それだと話が進まんのじゃ』

「やっぱり、考えていることを読めると」

『そりゃあ神?的なやつだからの。 そんでもって話を戻すが、ここはお主を転生させる場所じゃ』


 211,223,227,229っと。 なんで俺なのか聞いてもいいか? 頭の中で自称神にそう聞き返しながら、俺は出来る限り好条件を引き出せるように思考を始める。 この考えも読まれているだろうが、それこそ考えていることが分かるなら最初から関係ないだろう。 おそらく俺が転生する?のは決定しているんだろうし。 それに考えた上で元の場所に戻してくれるとしたら、すべてのファンタジー小説でも同じようにしているだろう。


『お主が見ていて一番適しておったからじゃ。 ダンジョンを作成する才能においてはの。 ACOの世界ランク一位 深淵のダンジョン 盟主 斎藤造 それとも居上造と呼んだ方が』

「やめてくれ」


 その苗字は捨てたんだ。 それはそれとして、ダンジョンを作成する才能と言うからには、俺が送られた場所でダンジョンを作るってことでいいのか? あくまで一般人の俺に魔王を倒せとか言われても、どうしようもないぞ。


『そうじゃの。 ダンジョンのがわの部分を作ったのは良いが、放置していてすぐさま攻略されても困る。 だが、それを阻止するためのダンジョンマスターも人選が難しい。 なれば、異世界から連れてこようと思ったわけじゃの』


 なるほどな。 ダンジョンそのものはあると。 その上で俺みたいなのに頼むということは、割とダンジョンの方にも自由度が存在する。 自由度があるからこそ、一点特化のようなダンジョンマスターでは運営が難しいといったところか。 異世界がどうなのかは知らんが、よくある設定の様に人種などによる補正があるとすれば納得は出来る。 ただ、それだけであれば俺はことわr


『お主の妹も同じ場所に転生させてやろう。 あぁそれと、転生するとはいったが、向こうの世界に適するように体の中を変えるだけじゃから、外見の差異も安心してもらってよいぞ?』

「………最初からそのつもりだったろ」


 返答をせずに微笑みを浮かべるロリを睨みつつ、俺は溜息をつく。 これ以上文句を付けても、結局転生させられるのは変わらなそうだ。 問題の妹も異世界に連れてきてくれるらしいし、妹に限って断ることはないだろう。


「最後に……ダンジョンの形式はどうなる?」

『そうじゃの…お主の深淵のダンジョンの能力に準拠したものにすればよかろ。 ダンジョンコアの方に合成能力なども付けておこう』

「はぁぁぁ、分かったよ。 ついでに言語系だけはなんとかしてくれ。 言葉が分からないじゃ話にならないからな」

『了解じゃ。 それでは良いダンジョンマスター生を』


 ああ。 俺は透けていく体を見ながら、心の中でそう答えた。 本当にこれから異世界に転生するのかと、薄れゆく意識で疑問に思った瞬間。 神が嗤ったような気がした。


 すまん……美羽……………




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