胡散臭い霊能者と知り合ってしまった
京都に存在する大学もピンキリだ。
まあ多くは語るまい。
京都にはその歴史の経緯もあってか、宗教系の大学や短期大学が多数存在する。
仏教もだしキリスト教もだ。
皆川ユウキと幸徳井晴香が通う大学も、偏差値は極めて高い訳ではない、宗教系の大学である。
この表現は侮蔑的にならないよう、言葉を選んだものだが。
全体の偏差値的にはアレでも、例えば古文書の解読では国立大学を凌いでいたり、史料にそこしか無いものがあったり、知る人ぞ知る特定分野の研究者がいたりと、決して入学試験時とか「多くの学生の質」だけで判断してはならないものと心得ている。
「君、なんか凄いモノ背負ってるね」
皆川ユウキに話しかけて来たのも、そういった大学生であった。
ユウキが京都駅のすぐ近くにある、どす黒いスープで有名なラーメン店で待って並んでいた時に、いかにもなチャラ男がそんな事を言って来たので
(なんだ、こいつ)
と無視しようとした。
ユウキはガチガチに真面目という訳ではないが、チャラくもない。
ギャル男というか、パリピというか、そういう連中とは程遠い。
逆に言えば「陰キャ」とか「非モテ」な類だろう。
「ねえ、無視しないでよ。
つーか、俺見た事ないタイプの守護霊、いや違うかな、そんな霊背負ってるんだよね、君。
普通霊って、甲冑着てたり、刀持ってたり、弓矢持ってたりしないから」
ユウキは思わずその男を見返した。
言っている事に思い当たる事があるからだ。
それでも胡散臭いので、返事をしたりはしない。
「信じられないよ。
普通、霊って四百年くらいしか遡れないんだ。
今なら関ヶ原の頃の霊がギリギリ。
なんだけど、君のその霊、もっと古いよね?
五百年よりはもっと昔、千年前?
平安時代?
あれ、平安時代って武士居たっけ?」
「居るよ。
前九年の役とか、保元の乱とか習っただろ」
思わず返事をしてしまう。
(しまった)
と思いつつも、その男はにこやかな表情で
「そうそう、そうだった。
習った、習った」
と言って来る。
「なんていうかさ、凄く古いオーラが漂ってるんだよ。
霊とか神……ここで言うのは土地神とか付喪神とかだけど、あと妖怪とかって、古ければ古い程強力なんだよね。
神とか妖怪はともかく、人間の念が残った霊は、大体四百年で消えるんだけど、君のそれは当てはまってないよ。
もしかして、神様下ろしたりした?」
「そんな事してませんよ」
「そうか、そうだよね。
でもなんか、君、神様の舞台装置みたいな感じになってるよ。
まあ神様って言っても、土地神もいれば、祟り神もいるわけで。
どっちかっていうと、祟り神っぽい感じもするね。
いや、ごめんなさい!
謝ります!」
「…………?
怒ってませんが?」
「君じゃなく、その背負ってるサムライの方。
俺に矢を向けて来た。
物騒だよ……」
「霊の矢に当たったらどうなるんですか?」
「知らん」
「は?」
「そんな経験した事ないし、したいとも思わない。
でも、なんか悪い事が起こりそうだと直感した。
物凄い殺気だったから……」
「はあ……」
どうにもよく分からない。
見えない以上、急に怯えられたり、変な事を言われたりと、どっちかと言ったらこの場を離れたいとも思ったりする。
だが、離れる前に質問してみよう。
もうラーメン屋は前の人まで案内され、自分たちにも注文を聞きに来た。
こいつとは離れられるだろうし。
「この人、守護霊じゃないんですか?」
「うー----ん…………。
守護霊と言えば守護霊だし、違うと言えば違う。
君の事は守っている感じだね。
君、このお侍さんの遠い子孫か何かだね。
その縁があって、他の人よりは大事にしてるけど、守っているのはそういう情ではないっぽい」
「と言いますと?」
「なんというか、武士が馬を大事にしている感じ。
君に取り憑いて、それであちこちに行けるようになって喜んでいるっぽい。
それで、自分の乗る馬に危害を加えたら、ぶち殺すって感じかな」
「はあ……、自分は馬っすか?」
「そんな感じ」
「じゃあ、勝手に憑いたこの人はともかく、俺の守護霊はどっかに消えたんですか?
守護霊は交代するとか、オカルトあんまり知らない俺でも聞いた事ありますし」
すると、チャラ男はじっとこちらを覗き込む。
「いや、君の守護霊は別に居る」
「守護霊が2人居る?」
「守護霊が複数居るのは珍しい事ではないよ。
いや、守護霊というか指導霊っていうか、兎に角背後霊ね。
凄い人は、守護霊の他に守護神っていうか、神様が遠くから見守って加護を授けていたりするけど。
話が飛んだね。
多分、君のご先祖様だと思うんだけど……」
「そのご先祖様が?」
「更にその先祖に当たるお侍さんの肩揉んだり、飛び回って何か調べものしてるのかな?
簡単に言うと、パシられてる」
「ご先祖ぉぉぉぉ!!!!」
確かに、自分の父も祖父も親戚も、威張り腐るタイプではなく、腰が低く他人の為に動き回る人が多いけど……。
「ラーメン、順番来たみたいだね。
君、先だし、入って食べて来な。
あ、俺、こういう者だから」
チャラ男は名刺を渡して来た。
そこには大学名とサークル名、調べたらスポーツ系と言いつつ、飲み会主体のようなものだった、それが記載されている。
チャラ男の名前は、芦屋ミツルと言った。
「君、俺の事疑ってるようだし、名刺とか貰わないよ」
「……そもそも作ってませんがね」
「大丈夫、用が有ったら俺の方から行くんで」
「はあ……」
「そんな強力な霊背負ってる人、見つけるの簡単だから」
こうして胡散臭い男、芦屋ミツルとの腐れ縁が始まってしまった。
次話は明日18時に投稿します。