(番外編)最強の霊能者・芦田ミツルの日々
番外編の短編集です。
これが本当のラストになります。
■オレオレ詐欺との戦い
大学卒業後、芦屋ミツルもまた普通に就職する。
ただし、副業である祓い屋も継続していた。
裏社会で「最強」の名が売れてしまい、廃業するに出来なくなった。
そんな芦屋は、一族の婆さんが騙されそうになっている事を知る。
半分痴呆が入っているその婆さんは、既に一回「息子」が言うままに数十万円を振り込んでいた。
それで「鴨」として目を付けられ、何度も「息子」が犯した失敗の尻ぬぐいで金を振り込もうとする。
「どうにか出来ないものかねえ」
相談を受けた芦屋は、どうせ警察が捕まえても金なんか戻って来ない、だったら……と相手への攻撃を考えた。
芦屋がその婆さんの家に泊めて貰った時、やはり電話が掛かって来た。
どうも今度の「息子」は、交通事故で妊婦を轢いてしまい、多額の金が必要と言っている。
「婆ちゃん、ちょっと代わって」
そう言って電話を受け取ると、腰の妖怪の生首を電話口に当てた。
「くぁwせdrftgyふじk」
その首、デュラハンという西洋妖怪が小脇に抱えていたモノが何やら話す。
その声を聞いた相手は、電話の向こうで息絶えていた。
首無し騎士デュラハン、そいつが抱えている首は、相手に死を告げるという……。
■妖怪にだって好みはある
芦屋ミツルの腰には2つの妖怪の生首が括り付けられている。
1つは西洋からやって来て四国に居着いた首無し騎士のデュラハン。
もう1つは魅入った男子を取り殺していたバスケ選手よりも遥かに長身な女性の怪異。
両方ともかつて付き合いがあり、居候もしていた皆川ユウキという男に取り憑いていた武士が、本体を破壊した上で、首だけ芦屋にくっつけてしまったものだ。
2頭とも本来の力を失っていて、芦屋から生命エネルギーを分けて貰って生存しているような状態である。
いずれは力を取り戻し、復活するだろう。
だがこいつら、最近は山奥の生活に戻るより、人間にくっついて都市の生活を体験してみようと思ったようだ。
ジタバタしてもすぐに体が復活する訳でもないし、どうせなら今の生活を満喫しよう。
……自分の体を破壊した霊を恨んでも、祟っても、勝てやしないのだし。
霊とか妖怪に人間社会における場所は意味が無い。
取り憑いた人間と同じ場所に居るか、自分を縛る場所に留まるかくらいしか出来ない。
中世の騎士も、田舎の山村で害を為す怪異も、当分の間を過ごす日本の都会での生活に、すっかりハマってしまったようだ。
「男の人がコンサートに来るの少ないんですよ!
誰担当(推し)ですか?」
某事務所の男性アイドル集団のコンサートに通っている芦屋に、女性が声を掛けていた。
男子も全く来ない訳ではないが、チャラい恰好の芦屋のような男性が、一回だけでなくファンクラブに入って、事あるごとに参戦するのは中々居ない。
「誰担かって?
ジュニアのさぁ誰それ君。
これから伸びると思うよ」
「凄ーい!
結構良いとこに目を付けてるじゃない!」
(俺の腰のこいつがね……)
コンサート前の会話で、推し被りがあったり、どこが良いかの意見交換で盛り上がる。
男性にしては、女性と同じような視線での評価なので、話し掛けた女性ファンも嬉しいようだ。
それもその筈、チャラ男の芦屋は男子アイドルのファッションとか髪型に興味はあっても、歌とかダンスに興味は無い。
コンサートに行きたいと騒ぐのは、腰にくっつけられた女の妖怪の生首なのだ。
元々この妖怪、目が合った男子を取り殺すような存在だ。
美形男子を好きになる素養はかなり有ったと言える。
最近では歌う時のどの仕草がセクシーとか、ダンスがちょっと下手だけど頑張って姿にキュンと来るとか、そんな事を言い出している。
なお、この妖怪は美少年好きであり、渋い感じに成長した三十歳以上の同じ事務所のアイドルには興味が無いようだ。
(こいつ、力と体を取り戻したら、元居た山村に帰らないで、あの事務所近辺に居着くんじゃないだろうな?
それ以上に、元の怪異に戻れるのか? ここまでハマってしまって)
不安を覚えつつ、コンサート前にはトイレに行き、個室で腰の生首に釘を刺す。
「絶対、好きな相手を応援したくなっても、人間と同じように声を出さないでや!
君の声は魔力があるから、周囲を気絶させたり、推しを殺したりしかねないからね!」
「ポ……」
ちょっと不満そうな怪異であった……。
なおデュラハンの首は、たまにスポーツでの日本対アイルランド戦があれば、食い入るようにテレビを観るようになっていた。
■チャラ男は女性には優しい、どんな女性であっても
その昔、一世を風靡した都市伝説があった。
「私、綺麗?」
マスクをした女性が子供に声を掛けて来る。
そしてどんな回答をしても、マスクを外して
「これでもか?」
と耳まで避けた口を見せ、驚いた相手にカミソリで襲い掛かって来るという。
整形手術に失敗した女性の霊で、その手術を行った医者の頭のポマードの臭いがトラウマとなっている為、ポマードを持っていれば逃げられるとか言われた。
「私、綺麗?」
芦屋ミツルにそう言って女が話し掛けて来る。
「わーお、綺麗、綺麗、ビューティフル!
その黒髪とか最高!
俺とデートしたいの?」
チャラ男のチャラ男たる所以、浮ついて言葉で相手を褒めまくる。
「これでも……」
マスクを外そうとした女に、
「ちょっとマスクは人前じゃ外さないように。
ほら、今病気流行ってるやん。
外では取っても良いけど、人と話す時は取らないでって言われてますやん」
そう言ってマスクを外させない。
ちょっと調子が狂った相手に
「君、凄く可愛いんだけど、ファッションセンスが昭和だよね。
どう?
俺がコーディネートしてあげるから、デートしようぜ」
そう言ってナンパしていた。
かくしてマスクを外させないまま、最新のトレンドの服や靴、更に帽子やアクセサリーを身につけさせた。
想定していなかった事態に、着いていけない感じの女。
一通り買い物を楽しませた後、人気の無い場所で芦屋は女に言った。
「君さ、本当はこの世の存在じゃないでしょ。
そして、俺の腰にくっついている呪物2つも見えているでしょ。
君、俺を敢えて攻撃して、反撃喰らって消滅する気だったの?」
その言葉に女は驚いていた。
図星である。
彼女はマスクを外し、耳元まで裂けた口を見せながら語った。
「私は本当は違う理由でこのような顔になりました。
なのに、面白おかしい噂が集団の念となり、私を邪悪な存在としてこの世に留めさせたんです。
何十年かして噂も消え、変な念から解放されたのに、私は中途半端な存在としてずっと消える事も出来ず。
だから、貴方なら、貴方の腰のその2人ならどうにかしてくれると思った……」
「だと思ったよ。
こいつら見えているなら、大概の霊は近寄って来ないからね。
お陰で、除霊の依頼とかあっても楽だよ。
その場所に行くだけで、相手の方が逃げていくから。
でも、君は敢えて近づいて来た。
君は死にたいのかな、って思った。
でも、ただ死ぬ事も無いやん。
楽しもうや。
死ぬ前にさ、女の子だったらファッションとか、色々やってみたら良いやんか。
メイクはさ、マスク外せないからちょっと無理やったけどさ。
ずっと辛い思いだけしてるのって、寂しいっしょ」
「…………」
「で、どうする?
もう少し遊ぶ?
それとも……」
ここでもう終わり、呪物2つの同時攻撃を喰らって消滅するか?
だが、女の答えは意外なものだった。
「まだ当分楽しむ事にしま~す!
どうせ死ねないんだしぃ。
確かにずっと嫌だとか、苦しいとか思っていてもダメよねえ。
私がこの形になった昭和と今では色々違うし、刺激があって良かった。
もう悪霊みたいな形からは解放されたし、人を襲う理由も、変な噂でそんな存在になる事も無いからね。
だったら、今まで出来なかった分、今から楽しむ!」
こうして怪異は消える事なく、害を為す事も無く、この世に留まってしまった。
■犯罪者相手でも
芦屋ミツルは特級呪物とも言えるモノ2つを腰にくっつけられている。
生命力をちょっとずつ吸われている感じはあるし。自分は長生きは出来ないとも達観していた。
「まあ、人間いつか死ぬんだし。
生きてる間は楽しまないよ損っしょ」
という快楽主義者なので、割とあちこち旅行したりしている。
ある海外旅行での移動中の便での事だ。
日系キャリアでなく、安い便を選んだのだが、そこには少数だが複数のテロリストが乗り合わせていた。
この飛行機をハイジャックし、仲間の解放を要求するのか、それともどこかの施設にぶつけて乗員諸共テロ行為をする気だったのかは分からない。
彼等にとって不幸だったのは、芦屋ミツルと乗り合わせた事である。
悪意を感じた呪物2つは、自動防衛モードに移行する。
彼等はテロリスト全員を見つけ、彼等には見えないながらの、死の言葉を宣告したり、一瞬恐怖を与えて心臓を停止させたりして、要は取り殺した。
「乗客の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
座席で倒れている乗客を見つけ、CAが呼び掛ける声が英語と現地語だから分からないまま、芦屋は眠っていた。
彼は今や、そこに居るだけでテロすら防げる「最強の霊能者」となっていたのだった。
後書き:
初のホラー(?)ジャンルの投稿となりました。
幽霊の寿命は約四百年という説を下敷きに、「だったらその倍の霊が居たら、どんな感じになるのか?」と思って構想を練りました。
そうしたら、鎌倉時代に生きていた人物の霊となり、
「そんなDQNが令和の世に甦ったら、ただで済む筈が無い」
と面白く思って書き始めました。
いつもの「何かギャグを入れないとモチベーションが保てない」病もあって、色々なネタをぶち込み、
「これ、ホラーじゃなくてコメディだろ」
というツッコミを受けまして、ジャンル替えしようか悩みましたが、最後まで突っ走る事にしました。
あとは昔の2ちゃんねる「洒落にならない怖い話」とかを参考に、
「七人ミサキは1人殺すと、その1人を補充する為にしつこく追いかけて来る。
だったら全員ぶっ殺したらどうなるんだ?」
てな展開を妄想し、その実行役に鎌倉武士を割り当てました。
高次元宇宙とかの話は、ぶっちゃけ「シン」と「2202」(これだけで元ネタ分かるっしょ)から。
SF好きなので、物理学的な説明を入れがちですが、それは控えて「こうである」程度にしました。
八尺様ですが、どこかで「実は可哀想な目に遭った女性の魂の集合体」みたいな説も読んだので、毒だけ抜いてそれなりに楽しい生活をさせようかな、とか思った次第でして。
あと登場人物の元ネタを書きます。
名前の由来ですが、皆川ユウキは長沼氏の流れの皆川氏と、小山党有力氏族・結城家の家名から取りました。
幸徳井晴香は、江戸時代初期に陰陽頭を務めた幸徳井友景と、安倍晴明の「晴」からです。
芦屋ミツルはやはり陰陽師の蘆屋道満から。
エミリア・ミハエラは悪魔払いを題材とした映画「エミリー・ローズ」と、元ネタの事件の被害者アンネリーゼ・ミシェルから、東欧風のどこか分からない感じの名前にしました。
という訳で、元ネタをバラした所でこの小説は〆たいと思います。
拙作のご愛読ありがとうございました。