表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
伍の章:様々な旅立ち
42/46

魂(コン)活

 皆川ユウキが眠っている枕元で、守護霊のような事をやっている鎌倉武士・長沼五郎三と、元々ユウキを守っていた数代前の先祖、長沼五郎三の家人のような立場に落ち着いた元暴走族の少年、そして名のある大悪魔だが「存在」の最大の核である名前を知られた事で、刀に封印されて魔剣と化したモノ、それらによる禍族会議が開かれていた。

「やはり、あの姉ちゃんが良いんじゃないっスかね。

 俺らの事も分かっているし、話が通じるし」

「そうだな。

 主にはあの女が良いだろう」

 馬飼と魔剣の意見に、長沼五郎三も本来の守護霊も頷く。


 先日、ユウキは結婚詐欺師から狙われていた。

 この呑気な男は、それに気づきもしていない。

 気づかぬ内に、その気になる前に、守護霊たちが始末したのだが、そこで彼等は思った。

「同じような事にならないよう、適当な女子とさっさと結婚させよう」

 と。

 それで相手について問うたのだが、これは半分以上意見が一致すると確信しての議題であった。

 霊感、危機回避能力、気遣い、器量、どれを見てもあの女性より上はいない。

 後の3つよりも、第1の条件を満たす人がまず居ないのだが……。

 本人の意思?

 容姿や体つき?

 そんなのは霊たちにはどうでも良い。

 本人の意思等なんてものは、結婚する上で必要ではない。

 あくまでも御家の事情優先なのだ。


……現代人である馬飼い(元暴走族)が何か言いたそうにしているが、言えば危害を加えられるから黙っている。

(ユウキさんも気の毒っスね。

 でもまあ、あの姉ちゃんは可愛いし、強引にでもくっつけて貰って良いかもしれないな。

 どうせ決まった恋人も居ないわけだし)


 遠く離れた京都にて。

 朝起きた幸徳井晴香は悲鳴を挙げる。

 鏡に血文字で和歌が浮かび上がったのだ。

 鏡に血文字でメッセージを送るのは悪魔の術である。

 長沼五郎三から、相手宛てに文を送る方法を聞かれた際、

「それならば俺様の得意技だ」

 と言われた為、使わせて貰った。


「えーと、何々?

『君に恋ひ(いた)も術なみ下野(しもつけ)の 小山が下に立ち叫ぶかも』

…………なんて下手な恋の和歌なの……。

 思いっ切り万葉集のパクりだし……」

 それは仕方がない。

 長沼五郎三は和歌に関しては素養がほとんど無い。

 一応武士の教養くらいは身につけているが、それも独学。

 どこぞの女性を勝手に攫って来て手籠めにした挙句に嫁にしてはいけません、と鎌倉幕府及び小山本家から言われているから、相手の女性に恋文を出す事くらいは弁えた。

 注意されるという事は、する奴が多数居たという事。

 大体、長沼五郎三の母親だって、彼の父親が……(以下略)。

 まあ注意されているのは、所属がハッキリしている女性だけだ。

 御成敗式目にも

「人妻に手を出すような人間は所領半分を没収、出仕を停止する」

 と有ったりするし。

(右不論強姦和姦 懷抱人妻之輩 被召所領半分 可被罷出仕 無所帶者可處遠流也)

 道端に供も付けずに一人で居る女性は落とし物と同じ扱いだったりする。

 この場合、法師はお持ち帰りして「功徳」を授ける行為をするのは、当時よく行われた事だったりして……。

 なお法師でない場合、御家人だと百日間出仕停止、郎党の場合は頭の半分だけ髪を剃り落とされるペナルティが課せられる。


 そんな訳でどうにか和歌の勉強はしたが、センスは無かった。

 それでも長沼五郎三的には、こちらの意思は伝えた、と第一段階クリアと勝手に判断する。

 そして、以前に晴香に告げた事を実際にやり始めた。

 それは深草少将のように百日枕元に通う事である。


「あの!

 凄く迷惑!

 私、霊に求婚されても困るんだけど!」

「???」

 長沼五郎三は首を傾げる。

 馬飼いに

「あの内容、ご主人がこの子に求愛していると勘違いされたんですよ」

 と言われて、やっと何を言われているかを理解した。

 そして馬飼いが色々と説明して

「ああ、なるほど、ユウキ君と付き合えって言う事ね。

 確かに嫌いじゃないけどさ、好きでもないんだよ。

 ここ3年も何も連絡してないし。

 一方的に言われても困るんだけど。

 え?

 既に親族の許可は得た?

 どういう事?」


 よく見ると、晴香の守護霊である江戸時代くらいの宮中の女官が、鎌倉武士から何やら貰っていた。

 どうも、霊魂同士で既に結納を交わしているような感じである。

「ちょっと!

 貴女、私の守護霊でしょ!

 なに、物欲で懐柔されてるのよ!」

 仕方が無い。

 江戸時代くらいの公家は、摂家とか清華家とかでなければ貧しいのだ。

 武家とか東国人とかを軽蔑してはいても、実際に豊かな方の機嫌を取り持つものなのだ。


 その夜はとりあえず帰って貰う。

 しかし朝起きると、両親から

「晴香、皆川さんって知っているの?」

「その(ひと)とは付き合っていたのか?」

 と質問される。

 どうも夢枕に武士が立った上で、丁重に挨拶をされたようだ。

「夢だと思ったんだけどね、何か結納の品とかって言って、これを置いていった」

 それは高価そうな反物である。


(親にも挨拶が済んでいるの?)

 晴香の両親は「見えない人」なのだが、流石に枕元に置かれていた高級反物を見るにつけ、何かが起こっている事は察したようだ。

 そして、それはちょっと逆らうと面倒臭いようなモノである事に……。

 そんな親を置いて晴香は出勤する。

 彼女も大学卒業後は家事手伝いとかではなく、普通に企業勤めをしていた。

 その出勤途中、声を掛けられる。

「こっちだよ」

 その声の方を見ると、稲荷神社の狐の石像が話掛けていた。

「え?

 ええ!?

 稲荷大明神?」

「そうだよ」

「え?

 悪いんですが、うちは稲荷さんを信仰してないんですが」

 お稲荷さんは、中途半端な信仰をすると、かえって恐ろしい目に遭う。

 だから迂闊に信仰しないようにしていた。

 その返事にお稲荷さんは怒るとかはしない。

「信仰しろって言いたいとこだけど、それは良いわ。

 貴女、良い縁に恵まれてるから、結婚した方が良いよ。

 関東に引っ越す事になるけど、悪い奴じゃないから。

 守護している霊も、物凄く強いし」

「……それ、皆川ユウキ君の事?」

「そう!

 彼は我を信仰している家系だし、嫁げば貴女も信仰する事になるから、我には丁度良いしね」

「いや、誰と付き合うとか、自分で決めますから」

「まあ、悪くないから。

 我のお告げだと思って、その気になっておきなさいね」

(あの鎌倉武士、稲荷大明神にも根回し済みなの?)

 粗暴とばかり思っていた武士の、思わぬ手際の良さに舌を巻く晴香。


 更に晴香が会社に着くと、いつもは下心丸出しで近づいて来る男が、顔を見た瞬間目を背けた。

「なに、あれ?」

 付き纏われるのも鬱陶しいけど、怖い物を見る目で見られるのも腹立たしい。

 同僚の女の子を介して理由を聞いてみた。

 すると

「昨日、金縛りにあって目が覚め、見たら甲冑を着て馬に乗った武士が胸の上に立ってたんだって。

 そして、うちの嫁に手を出すなって言って、首筋に刀を突き付けたって。

 朝起きたら、首筋が切れていたって。

 頸動脈までは行ってないけど、下手したらやられたって。

 あんな怖い武士に取り憑かれているとか、ちょっとお断りだって、怯えながら言ってたよ。

 まったく、変な奴だよね~」


 同僚の女性は、その男を馬鹿にしたように笑っていたが、晴香は頭を抱えていた。

(あの武士、脳筋の癖に外堀から埋めていくとか、なんでこういう事には頭が回るのよ!)

 と誰に言っても信じて貰えない事を、心の内で叫んでいた。


 なお、長沼五郎三は魔剣を使い、晴香に繋がろうとする縁とか、運命の赤い糸とかをぶった切って歩いているのであった。

おまけ:

ユウキが所用で宇都宮に行った時の事である。

守護霊(?)の長沼五郎三は、面白そうな気配を感じて、愛馬・至月を駆って明神山の方に向かった。

そこには3メートルもの巨体で、刃のような毛と百の目を持つ妖怪・百目鬼(どうめき)が居た。

面白そうな相手、すわ勝負!

そう言って鏑矢を射かけると、百目鬼は

「その気配、まさか俵藤太か!?」

と言って、全速力で逃げ去った。

百目鬼はその昔、俵藤太こと藤原秀郷に胸を矢で射られて退治され、力を失ってしまったのだ。

秀郷の子孫にあたる長沼五郎三にも、似た気配があったようだ。

鬼をその名だけで撃退する先祖に、

(自分はまだまだ及ばないな)

と思う長沼五郎三であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いい迷惑でしょうが、当人も迂闊でしたね。
[一言] 人間の被害者3号誕生ですなぁ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ