強力過ぎる守護霊が憑いているという事
皆川ユウキが四国までやって来た理由は、背後のご先祖様・長沼五郎三共々、崇徳上皇から呼ばれたからである。
その用事も済んだ。
後は帰るだけだ。
そう思っていた。
だが、事はそう簡単には運ばない。
宿をチェックアウトし、車に荷物を運んでいたら
「ここまで来て、私の所に足を運ばないとは失礼ね」
と女性から声を掛けられた。
絶対この場に居る筈のない、幸徳井晴香が立っていた。
ユウキは驚くものの
(あれ? 前にもこんな事あったぞ)
とすぐに冷静になる。
「何の用ですか、稲荷様。
ていうか、私の所って何です?
伏見稲荷ならこの前行ったじゃないですか」
そう答えると、晴香の姿をした稲荷神は溜息を吐く。
「行ったから良いのじゃなく、信仰するからには折を見て参詣しないと駄目なの!
第一、この四国は狸がのさばっている場所じゃない。
そんな場所にいて、私に挨拶の一つもないとか、失礼にも程があるわ。
まさか狸に宗旨替えする気じゃないよね?」
(面倒くせぇ~~……)
稲荷神は、末代まで加護を授ける代わりに、相当嫉妬深いとも言われる。
その気質が、女の子の姿を借りて喋らせると、より一層生々しく出て来る。
なんかもう、行かないと祟られそうな雰囲気だ。
「で、何処に行けば良いんですか?」
「豊川稲荷とか屋島稲荷がここから近いから、そこで良いよ。
正一位最上位稲荷神社とかにして欲しいけど、まあ妥協するわ。
上皇さんも妥協したようだし」
「妥協?
崇徳上皇が?」
「そう。
なに天皇寺なんかでお茶濁そうとしたのよ。
本当は白峯陵まで来ないと駄目なのに、中々来ないから、ここで妥協したみたい」
(間違ってたのか……)
やんごとなき怨霊、しかも出張して来た学問の神という怨霊まで一緒に妥協させたとあって、また冷や汗が吹き出すユウキ。
(俺、いつか呪われるんじゃないだろうか?)
一抹の不安に駆られてしまった。
やんごとなき方々の呪いは、怪異を送るとか、危害を加えるなんてものではない。
何故か知らない内に、責任が有りまくる立場に置かれてしまい、本人の能力の他に経済的な余裕や時間的にどうにも出来ないという「実力不足」によって苦しめられ、高転びして大怪我を負う「位打ち」なんていう陰険な呪いもある。
そんなのは、これから就職するけど、真っ平御免被りたい。
ユウキの悩みとは別に、何だかんだで屋島の方には行く事になった。
運転手を務める芦屋ミツルが、鼻の下を長くしてやって来た。
「ユウキ君、帰りは瀬戸大橋を通るけど、その前に屋島に行くね。
いやあ、さっき逆ナンされちゃってさあ。
四国の女も、芋っぽいと思ってたけど、中々イケてる子いるよねえ。
ちょっとデートするから、ユウキはロープウェイか何かで観光しててよ。
運転手特権だから、異論は聞かないよ。
大体、もう用事は済んだんだよね」
(これは、稲荷様の仕業だな!)
稲荷神は「自分は狐じゃないから」「狐って君たちが言ってるのは、私の使いに過ぎないから」と言ってはいるが、十分女狐的な要素もあるのではないか?
この四国では、狸と狐が現役で人を騙しに来るようだ。
そんなこんなで屋島稲荷に置いてきぼりにされたユウキに、またも幸徳井晴香の姿で稲荷神がやって来る。
「おや?
背後の武士が居ないね。
うーん、どうも戦いに行ったようだね」
「戦い?
何の?」
「どうも、この四国にチョッカイを掛けている連中が居てねえ。
この四国は神秘的な力が有るから、それを利用しようとしたのは悪くない考えだよ。
まあ私たち神がそれを許す訳も無いけど、武士が始末つけるなら丁度良いわ。
私たちは本来、干渉しないのだから」
「はあ……」
「武士が留守ってのも丁度良かった。
神が干渉しないって話も含めて、ちょっと重要な話が有るの」
そう言って、結局屋島から町の方に移動し、また讃岐うどんを食べられる店に移動する。
「じゃあ、話そうか」
油揚げを乗せたうどんをフーフーしながら食べる、晴香の姿の稲荷神に
(やっぱり狐じゃないのか?)
と感じたりもした。
「上皇さんから、スカウトされたんだって?
あの武士に、上皇さんの北面武士にならないかって」
「何で知ってるんですか?
あの場に居たんですか?
天神様が言うに、色んな神は住む次元が違うって事でしたが……」
「私が同じ次元に居たのかって?
違う違う。
どの空間かを探すのは、神であっても至難の業だよ。
目印をつけた者が居ない限りね」
「目印……、もしかしてずっと持っていろって言った、あの宝玉ですか?」
「正解。
あれで聞いていたのよ」
「あれ、盗聴器なんですか?」
「人聞き悪いわね。
ちゃんと君に加護を授ける神具よ。
その他の能力もあるだけで」
そして、稲荷神はユウキの方を向く。
「そう、神も悪魔も自分の眷属が居ないと、他の世界には関われないの。
宇宙が数多くあるって話は聞いたでしょ?
その中に、銀河ってのは何兆も在って、その中に数千億の太陽が在り、そこにある大地に数限りない生命が暮らしている。
そんなんだから、
『自分たちがが確認している知的生命体は130億近く存在する。
その中の一つが消えたところで、宇宙は何も変わらない』
なんて超越的な思考に至る者も出るのよ」
「それ……最近の映画の……」
「そうなの?
私の知り合いがこれを言ってたんだけどね」
(まさか、実在するのか?
その発言者も、持って来た天体制圧用最終兵器も……)
「本来、そういう超越的な存在は、自分に働きかけでもされない限り、一々気づかないものなのよ。
なのに、君の周囲では狙ったかのように色んな事が頻発する。
どうしてか分かる?」
「話の流れ的に、目につくモノがある。
それ、ご先祖様?」
「正解。
君の守護霊らしき事をしている武士は、高次元や並行世界からでも、見る人からしたら目立つ存在なのよ。
一番それを分かっていないのが、取り憑かれている君なんだけどね」
皮肉っぽく笑う稲荷神。
「だから、あの武士には上皇さんの元に行って貰うのが、君に降りかかる色んな事を回避出来る最前の策なんだけど、あの霊は心残りがあるようで、まだ行けないって言ってたね」
「まだまだ現世を楽しみたんでしょ」
「それもあるけど、一番は……いや、言わないでおくわ。
その心残りを解消するのは君だから」
「へ?
俺?」
「その事を伝えたかったの。
いやあ、上皇さんがスカウトしてくれて良かったわ。
道を示してくれたんだからね」
そう言って、うどんの出汁を美味しそうに飲む。
「あとは君次第だから。
頑張ってね!」
結局そう言って稲荷神は姿を消した。
(我がこの姿になり、それに相応しい言葉使いでいたのに、まだ気づかぬか。
まあ仕方ない。
外から言えば、上手くいくものも拗れてしまう。
まさにあの者次第であろうぞ)
稲荷神はある面で鈍感も良い所のユウキについて、そのように思った。
結局夜、ユウキを迎えに来た芦屋は、かなりの夢見心地で
「もう四国サイコー!
また来ようね。
でも、ホテル出る時にもう居なかったんだよ。
何も言わずに先に帰るとか失礼やんなぁ」
(狐か狸か知らないが、完全に化かされたな!)
真相を知るユウキは、何も言わない事にするのだった。
おまけ:
宇宙は11次元宇宙とされる。
そこから165通りもの三次元宇宙が有り得るとされる。
その内の一つ、ユウキたちの三次元世界と隣接する三次元世界から侵略者が密かに四国に来ていた。
「この地は我等にとって快適だ。
皇帝陛下の為にも、四国空母化計画を早く進めるのじゃ」
「将軍、我等四大隊長にお任せあれ!」
女優の高〇淳子似の女幹部がそう胸を張った。
どうも彼等は、霊的に四国をこの世界から切り離し、拠点とするつもりなようだ。
時々邪魔をしに来る妖怪狸を、その軍事力を使って撃退している。
四国を霊的に日本から切り離し、彼等の物にする計画は順調かと思われた。
だが、そんな面白そう……否、悪い企みをこの男が許す筈もない。
……たまたま近くに居たから、感応されてしまった不運もある。
四国の狸たちの導きも、有ったような、無かったような……。
「なんだ、貴様は!」
そう問い掛けられるよりも前に、問答無用で敵集団を蹴散らす武士と馬。
まあ彼にしたら、鏑矢は放ったのだから、気づかなかった方が悪いのだ。
「霊的な企てだから、散々我々の計画の邪魔をしたアイツには気づかれていない筈だ。
なのに、何故こんな奴がここに居るのだ?」
武士は再び鏑矢を放つと、四国と日本との霊的な繋がりを断とうとする装置を破壊する。
「おのれ、この愚か者めが!
許さんぞ!」
「ヒャヒャヒャーー! 怪魔異生獣、行くが良い!」
雑兵とは格が違う化け物が、その武士に襲い掛かる。
こいつは弓矢では倒れない。
力も強く、相当に厄介な怪物である。
だが、武士には強力な武器があった。
その武器・魔剣を抜くと、刀身が光り輝く。
そのまま刺突!
すると、怪物の背中から光の粒子が花火のように吹き出す。
大量のエネルギーを注入された怪物は、爆発四散した。
その時奇跡が起こるまでもなく、異次元からの侵略者の先兵を撃退した「通りすがりの鎌倉武士」。
「まさかこの力、奴のリボル〇インと同じ威力だと言うのか?」
「一旦退くのだ、計画を立て直す」
「おのれ、覚えておるが良い!」
如何にもな捨て台詞を残して彼等は去って行った。
こうして四国は救われたのであった。