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守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
壱の章:目覚めた鎌倉武士
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なんか凄く強力な霊のようだ

 皆川ユウキと幸徳井晴香は山を降りて宿に戻った。

 結構収穫はあったし、卒研にも役に立つ。

……言えないような話もあるが……。


 この背後霊・長沼五郎三郎の菩提寺と思われる寺に行った事は、別の効果もあったようである。

「ユウキ君の腰にぶら下げられていた、五郎三さんが取った霊の首だけど、無くなっているよ」

「あ!

 言われてみれば腰が軽い」

「もしかして、なんだけど、寺に行った事で成仏したんじゃないかな」

「行った?

 首にして持って来ただけじゃないか」

「だとしても、寺に来て成仏出来たんなら良かったじゃない。

 今まで、首だけになっても恨めしそうにこっちを見たりして、気分悪かったからね」

「で、この五郎三さんの霊は成仏しないのかな」

「うん、後ろで元気に刀を振り回している」

「何だかなあ……」


 この長沼五郎三郎という霊は、生前に「手柄首を取れなかったから、自分はこんな目に遭っている」という無念を残していた為、霊となっても首を取る事に執着していた。

 そして鎌倉武士らしく

「誇りを傷つける者は殺す!」

 であった。

 さらに言えばこの武士、結構な短気者であったようだ。

 長沼氏の祖である長沼宗政には、このようなエピソードがある。


 鎌倉幕府内の内戦で死んだ畠山重忠、その末子で出家していた重慶という者が、怪しい者たちを集めて何かを企んでいるという噂が立った。

 時の将軍・源実朝は長沼宗政に重慶を捕えて来るように命じる。

 宗政は重慶の首を斬って持参した。

 源実朝が

「畠山重忠殺害の経緯から見て、その子が反乱起こしても仕方がない。

 それでも、まず取り調べてからだった。

 それをあっさり戮誅するとか……。

 粗忽なのもいい加減にせよ」

 と言うと、それを伝え聞いた宗政は

「どうせ女たちが助命をするに決まってるから、予め殺しただけだ!

 何が悪い!

 大体最近の鎌倉殿は武功を軽んじること甚だしくないか?

 故右大将(源頼朝)の頃はそんな事無かった!

 最近は歌だの鞠だの! まるで女々しい!」

 と激怒しまくったと言う。


 五郎三郎は、恐らくはこの長沼宗政の庶流ながら、性格は大いに引き継いだ、いやむしろ出自が低い分だけ「武士らしさ」に拘った可能性がある。

 そんな凶暴な武士なのだが、菩提寺の住職からは

「特に禍々しい気配はありませんよ。

 どちらかと言うと、何か神々しい感じが、貴方の背後からはします。

 私も未熟なので、霊とか神様とかは見た事ないんですけどね」

 というように言われていた。


「なんとなく、仮説なんだけど……」

 晴香が語るには

「この五郎三さん、長い事人身御供となって、山の神と向き合って来たわけでしょ。

 記録を読むと、五郎三さんが人身御供になった後、怪異は収まったみたい。

 つまり山の神を抑え込んだか、説得したか、もしかしたら討ち取って、その後ずっと山の神としてあそこに居た。

 だから神様みたいな感じになっちゃったんじゃないかな」

「でも、危険なんでしょ?」

「能力的には神様みたいになっても、性格は変わっていない。

 昔の武士って怖かったって言うじゃない。

 人徳によって神様になったのではなく、神性を吸収して神様っぽくなっただけで、中身は昔の鎌倉武士のまま。

 それを知らない霊が、神々しさを感じて、救って欲しいと寄って来る。

 昔の武士って、勝手に触ったりされると怒って刀抜くとかあるでしょ。

 それで近くに居た霊を惨殺していた」

「…………それ、面倒臭いじゃない。

 霊は救いを求めてやって来る。

 でも近寄られた方は、自分を馬鹿にしていると思って殺しにかかる。

 トラブルの方から近寄って来て、それを更に悪化させた上で、俺の腰にぶら下げるんだろ?」

「そうね」

「そんなのが俺に憑いてるのか……」

 頭を抱えるユウキに、晴香が肩を叩いて慰める。

「悪い事ばかりじゃないよ。

 その人、守護霊になったのかもしれない。

 ユウキ君の事を、強力に守護していたし」

「いたし?」

「えー-っと、そうか、ユウキ君は『見えない人』だから気づかなかったのか。

 山から下りる時、凄いものを見たんだけど」

 晴香は先程見たものを伝える。


 それは山が少し開けた所に居た。

 遠くの方でくねくねくねくねと揺れ動いている、人のようなモノ。

(あ、これは見てはいけないものだ)

 直感的にそう思った晴香は、咄嗟に目を背ける。

 チラッと見ただけだったが、何か精神が曳かれ、夢見心地になるような恐ろしさを感じた。

 あのまま見続けていたら、戻って来られないように思えた。

 目を背けていても、妖気のようなものを感じる。


 しかし、目を背けた先に居た長沼五郎三は、何故か嬉しそうであった。

 舌なめずりをすると、矢を番える。

 そのまま、くねくねとした謎のモノの方に矢を放った。

『ギィィヤァァァーーー』

 この世のモノではない、おぞましい声が聞こえる。

 どうも一矢では仕留めきれなかったらしい。

 長沼五郎三は二の矢を番えると、またそれを放った。

 またも精神の奥底をゾッとさせる声が響いたが、それが聞こえなくなると共に、漂っていた妖気が消える。


「そんな事が有ったんだよ。

 貴方は全く気付いていなかったみたいだけど」

「…………」

「あれ、もしかして気付いていたの?」

「ねえ」

「はい?」

「俺、その時の記憶無い」

「え?」

「そういえば俺、どうやって山を降りて来たんだ?

 疲れていたから思い出せないんだと思ったけど、そういえば全く覚えていない。

 意識が戻った時には、寺に居たんだよな」


 やはりこの鎌倉武士の霊、憑依している人間にとって守護者なのか、何かを奪っている存在なのか、よく分からない存在であった。

次話は明日の17時に投稿します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 目にするだけで意識を持っていく悪霊を消滅させる鎌倉武士。人から見ると世のため人のためになっているのが、逆に恐ろしいですね。 [気になる点] じきに完全に乗っ取りそうですね。
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