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守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
肆の章:四国巡礼の旅
34/46

危機回避とは斯くするものぞ

 皆川ユウキは今、高知県に居る。

 さっさと香川県に行きたいのだが、彼の宿と足を手配してくれている芦屋ミツルが仕事で高知に立ち寄ったのだ。

 芦屋ミツルは、ひょんな事から「最強の霊能力者」とされてしまった。

 今回の依頼は、そんな虚名から起こったものだが、案外簡単に解決出来た。

……全くもって、彼の実力ではないのだが。


 芦屋ミツルに依頼をしたのは裏社会の住人である。

 裏社会の商売人と言っても、万人に阿漕な訳ではない。

 身内と思う者には優しく接する者もいる。

 今回の依頼人もそういう類の人物で、非情な取り立てとかで恨みを買いまくっている一方で、近しい人たちから慕われてもいた。

 芦屋ミツルのツレという形だが、ユウキも「客人」として手厚くもてなされていた。


 芦屋は依頼人に掛かった呪いを払った後、念の為にもう1日留まる事になっている。

 その間、ユウキは暇なので高知市内をぶらつく事にした。


 繰り返し言うが、この依頼人は恨みを多数買っている。

 事務所から出て来て、しかも黒服に「行ってらっしゃい!」と挨拶されているユウキを見て

(あの若いのは、あいつの息子か?)

 と勘違いした者が居た。

 本当なら自分を破滅させたあの金貸しを殺してやりたい。

 だが警備が厳重過ぎて無理だ。

 ならば、息子を誘拐してあわよくば金を脅し取ってやろう。

 ダメでも息子を殺してやれば、あの男にも家族を失う悲しみを知らせてやれる。

 悲壮な覚悟を決めた男が、ユウキを背後から付け狙った。


 ユウキは割とフラフラ歩き回る癖がある。

 その町を隅々まで見たいと思い、その時の思いつきでテキトーな場所にも入り込む。

(よし、人の居ない場所に入るな)

 そう思った男は、ユウキに襲い掛かろうとした。

 だが

「痛っ」

 標的であるユウキの首が、変な方に曲がる。

 こちらを見られそうになった為、男は慌てて無関係を装う。

「……痛ててて……。

 なに?

 そっちには行くなって言うのか?

 痛っ!

 そうなのね、分かった分かった。

 まったく、会話が出来ればこんな肉体言語使われなくて済むのに……」

(あいつ、何を一人でブツブツ言ってるんだ?)

 守護霊である長沼五郎三がユウキを殴りつけて、危険そうな場所から遠ざけた。

 ユウキは見えない、聞こえないから、一々殴られて「はい」か「いいえ」かを聞く事になる。

 最近では「はい」は右、「いいえ」は左の頬を張られるで二択の質問は可能となった。

 その様子を傍目から見ると、いきなり変な動きをする怪しい人にしか見えないのだ。


 ユウキがそこから立ち去るのを見届けた男は、行こうとしていた場所に暴走バイクが突っ込んで来たのを見る。

(運が良い奴だな。

 バイクとぶつかりでもしたら、やりやすかったのに)

 男はそんな事を考えながら、またもユウキを付け狙う。


 ユウキは公園の中を歩いていた。

 この公園、夜間は物凄く治安が悪いようだ。

 そんなユウキの近くで、何かが叩き落とされるのを、付け狙っている男は見る。

 枯れ枝が頭上で弾けたように見えたが、その枝にはサシガメが居たのだ。

 サシガメに刺されると結構痛い。

 日本の種ではないが、重大な病気を媒介するものもいる。

 その虫が、誰も触っていない筈なのに砕け散っていた。


 高知では朝市がよく開かれている。

 朝市と言いながら、午後3時過ぎまでやっていたりする。

 そこで、おのぼりさんというか、実に油断だらけで歩き回るユウキは、彼を「金貸しの息子」と勘違いした男以外からも狙われた。

 スリが近づく。

 しかしそのスリは、突然後方に物凄い勢いで吹っ飛んでいった。

 周囲の人間は変な人を見る目になっている。

 ユウキは事情を察したが「オーマイゴッド!」と目の上をもみもみしていた。

 スリは覚えたように何かを言っていた。

「ひ、ひと思いに……右で……やってくれ。

 違う?

 左??

 違う!?

 両方ですかぁ~~~~??」

 このスリ、どうやら見えているようだ。

 それだけに恐怖は人一倍だったろう。

 いっそ、何も分からないままボコボコにされた方が良かったかもしれない。

 そしてスリは、周囲から見れば謎の顔面崩壊と気絶をしていた。

 スリの懐から財布が抜き出され、路上にばら撒かれる事で、近くの女性が自分が被害に遭った事を知る。

 そして誰かが呼んだ警察によって身元が照合され、逮捕されていった。


(何だろう?

 あの金貸しの息子、何か凄いモノに守られてるかのように、災難を避けている。

 何となく本人は気づいていないっぽいけど……)

 ちょっと離れた場所から見ていると、危ない場所には近づく前に「何かに殴られた」ような感じで回避しているし、突発的なものは彼に近づく前に迎撃されている。

 ふと思い当たって、男は懐に入れてあるナイフを取り出してみた。

 ナイフは根本から折られている。


(ヤバい。

 やっぱり何かあいつにはある。

 危害を加えようとしたら、俺もあのスリと同じ目に遭わされる……)

 男はユウキを狙うのはやめにした。

 守護霊は、男が金貸しを狙う事は止めていない。

 むしろ「報復するなら立派なものだ」と思って、応援している。

 だが、勘違いとはいえユウキを狙う事は許さない、それだけである。

 本来ならスリ同様ボコボコにされた所だが、心意気を天晴れと看做され、警告だけに留まっている事を、当事者全員分かっていなかった。

 とりあえず、ユウキは高知市内で犯罪に巻き込まれる事は避けられた。




 なお、長沼五郎三による危機回避は高知が初めてではない。

 京都に居る時も、ユウキは無自覚に危機回避出来ていた。

 時には頬を張る(そっちには行くな)、腹パン(それは食うな)、髪を掴まれて後ろに引き倒される(止まれ)等と肉体言語を使用されながら。

おまけ:

この日も高知市宿泊の2人だが、ついでに第三十三番札所・雪蹊寺と第三十二番札所・禅師峰寺を巡礼する事とした。

自動車で浦戸大橋を通過する。

「この浦戸大橋は、飛び降り自殺が多いんだって」

「へー」

妙な観光案内をする芦屋ミツルと、興味無さそうに聞く皆川ユウキ。

この自動車が通過する辺りで、見える人には数多くの「飛び降り」が見えていた。

ここで死しても自分が死んだ事を認識しておらず、何度も死ぬ瞬間を繰り返す哀れな霊たちだったが、物騒な武士と魔剣と魂喰いの気配が近づいて来るのに恐怖を感じ、生存本能により逃げようとして海に飛び込んでいる光景であった。

……生きている時に働いていれば良かったのにね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正しく肉体言語ですよね。でも正直警告も痛すぎると思うのですが。
[良い点] 今話もありがとうございます! >ユウキは見えない、聞こえないから、一々殴られて「はい」か「いいえ」かを聞く事になる。 何とも難儀な……(苦笑い)。 >頬を張る(そっちには行くな) >…
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