表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
肆の章:四国巡礼の旅
31/46

人知れぬ戦い

魔剣「出かけるなら、俺も連れて行け!

 休んでいるのは性に合わん。

 断っても、勝手に荷物の中に紛れ込むからな」

ユウキ「そんな事が出来るのなら、危機になったら飛んで来れば良いのでは?」

魔剣「それじゃ風情が無えだろ。

 旅ってのはな、移動中も楽しいもんなんだよ」

ユウキ(あれ? 時間とか距離とか、高次元の存在には意味が無いものなのでは?)

魔剣さん、三次元生活を満喫しているようで、瞬間移動すりゃ済むところを、わざわざ過程を楽しんでいる模様。

「四国に行くなら、八十八ヶ所巡って来たら?」

 皆川ユウキの同居人・芦屋ミツルがそのような事を言い出した。

「嫌だよ。

 面倒臭い」

「金と車なら、俺が出すよ」

「え?

 あんた、免許持ってたの?」

「デートとかするのに必要やんか。

 普通学生の内に取るっしょ?」

「いや、電車もバスもあって普通に困らなかったから、俺、免許持ってないけど」

「え?」

「え?」

 同じ大学生でも、こんな感じで価値観は違った。

 これが地方の大学なら、移動手段として自動車免許を取る人も多いが、都市圏で足に困らないとなると取らない学生も出る。


 それはともかく、レンタカーの手配、宿の確保、その他旅費一切をこの男が持つと言っていた。

 当然裏があるに決まっている。


「俺、変に有名人になってさぁ、依頼が結構来てるんだよ」

「……そういう事だろうと思った」

「全部説明しなくても分かってくれて嬉しいよ」

 こうしてちょっと大学をサボり、四国巡りをする羽目になってしまった。


 レンタカーを借り、大阪南港に向かう。

 ここから東予港に向かって船出をした。

「行きたいのは香川県なんだけど……。

 普通に瀬戸大橋渡った方が早くない?」

「まあまあ。

 大丈夫だから」

(何が大丈夫なんだよ)

 ユウキは不満を持ちつつも、金と足の面倒を見てくれる以上、任せる事にした。


 フェリーは無事に東予に到着。

 その後、ドライブをしながら、道後温泉に到着した。

 この日の宿は温泉宿だ。


「いや~、疲れた、疲れた!」

「そりゃ朝6時に到着してから、ここにチェックインするまでに10ヶ所も寺を回ったらそうなるだろ」

「寺って言わないで、札所って言おうよ」

「それで、この行為に何の意味があるんだ?」

「ユウキ君、旅に目的を求めちゃいけないよ。

 ぶらっと楽しもうよ」

「俺は目的がある旅なんだってば!」

「北海道のローカル番組みたいに、サイコロで行き先決めないだけマシやんか。

 そういや、あの番組の八十八ヶ所巡ってたな」

「それはどうでも良いよ!

 香川に向かえば良かったのに、何で愛媛を西に行って、高知通って、徳島を経て最後に香川なんだよ!

 完全に遠回りじゃないか!」

「いやいや、これは逆打ちって順路なんだよ。

 何が起こるかなあ……。

 って、悪かった、謝る。

 ふざけないから。

 だから、刀仕舞って!」

 ユウキは悪魔が宿った刀を手にしていた。

 こいつはこいつで

「俺を使って、何を斬る?」

 と五月蠅い奴なのだが。


 とりあえず、ユウキの機嫌を直す為に、旅館では豪華な食事を振る舞う。

 そして、自分への依頼主が高知に居るという事で、四国を左回りにするという事情を説明した。

 ナメた事言わず、ちゃんと説明すれば納得してしまうのは、ユウキの良い部分だろうか、悪い部分だろうか……。

 その日は何事もなく、温泉に入ってリフレッシュして眠る。

 相変わらず守護霊みたいな事をやっている先祖の鎌倉武士・長沼五郎三は、どこからか霊の首を刈って来ては、ユウキの腰を首置き場にしている。

 背後霊として長沼五郎三、愛馬の至月、馬飼いの元暴走族、そして本来の守護霊現パシリと4体も憑いている為、肩凝りも中々酷い。

 温泉に入って、血行を良くして、疲れを取って眠った。

 深く眠ってしまい、翌日の出発は予定よりも遅れる。

 2日目は予定よりも進まず、四十一番札所の龍光寺に参拝した後は、宇和島市内のホテルに宿泊となった。




「おい、どこに行く?」

 ユウキの荷物の中の魔剣が、出かけようとしていた長沼五郎三に声を掛ける。

 人間2人はもう熟睡していたから、この会話は霊たちだけのものだ。

「何?

 海の方に巨大な何かが居た?

 それと戦って来るだと?

 面白い、俺も連れて行け!」

「ポッ」

「そこの妖怪、お前も行ってみたいのか?

 良し、こいつも連れて行こう」


 こうして長沼五郎三は、大鎧の弦走韋(つるばしりのかわ)に妖怪の生首を付け、大悪魔の宿った魔剣を携え、愛馬・至月に跨って宇和島の沖合に移動する。


 そこには牛鬼という妖怪が居た。


 この牛鬼、古くは源頼光と戦ったという記述がある。

 更に、源頼光の父・源満仲にも殺されかけている。

 時代は下り江戸時代初め、讃岐国青峰で山田蔵人高清なる弓の名手が牛鬼を退治。

 明和三年(1776年)には土佐国で、近森左近という武士がやはり弓矢の一撃で牛鬼を退治している。

 つまり、武士は天敵であった。

 鎌倉時代の事を記した文献「吾妻鏡」にも牛鬼は出て来る。

 建長三年(1251年)、浅草寺に牛のような妖怪が現れ、僧侶たち24人が悪気により病に侵され、7人が死亡したというものだ。

 この建長三年は、長沼五郎三が人身御供となったわずか三年後である。

 生きていたなら戦っていたかもしれない。

 だが、霊体となって立ち合えるとは、何と言う幸せか!


 牛鬼は、ここ二百五十年ほど、人間に害を為していなかった。

 それなのにいきなり襲われてしまう。

 見ると、あの忌まわしき源満仲や頼光と同じような感じの武士が、どう見ても禍々しい刀と、生首を付けた鎧を纏い、魂喰らいの馬に乗って突進して来るではないか!

 大妖の類である牛鬼は、この凶悪な襲撃者を迎え討とうとする。

 だが馬に乗って疾走して来た武士が、黒い魔力を放出する刀を振るい、牛鬼を真っ二つに斬り裂いた。

 これが人間なら祟ってやれた。

 しかし、相手が自分よりももっと悪っぽいモノばかりだ。

 祟るに祟れず、牛鬼は消滅する。


 先に述べたように、牛鬼は太古より存在する大妖である。

 死んではいない。

 力を失っただけで、いずれまた発生するだろう。


 それでも悪魔と妖怪と暴れ馬と鎌倉武士は、中々に強い大妖と戦えて満足している。

「中々楽しかったぞ」

 魔剣がそう述べた。

 彼等は夜が明ける前に宿(皆川ユウキと芦屋ミツルの肉体)に戻った。


「いやあ、よく眠れた」

「昨日温泉入ったのも良かったと思うよ。

 ね! ユウキ君、来て良かったでしょ」

 間抜けな会話を交わす人間2人。

 彼等に取り憑いているモノたちが、羽根を伸ばしに行った為熟睡出来たという事に、まだ気づいていなかった。

おまけ:

「とりあえず、魔除けの数珠を買っておいたよ」

運転手の芦屋ミツルがそう言って来た。

だが、第四十六番札所の浄瑠璃寺を訪れた時である。

「あれ? 数珠、どこに行った?」

芦屋が首を傾げた。

更に

「あ、パンクした。

 左の後輪だ」

とアクシデント発生。

「おかしいなあ。

 魔除けをちゃんとしてるのに……」

同乗者の皆川ユウキが呟く。

「腰に怪異の首、そして俺の鞄の中には魔剣。

 魔除けなんか持ってるから、そいつらが悪戯したんじゃないのか?」

結局、この後は魔除け無しで行く事になった。


魔剣「何も寄って来ないと、旅がつまらんからな」

生首「ぽ!」

馬飼「っスよね~」

武士は黙って頷いていた。


※浄瑠璃寺、どうでしょう、怪奇現象で調べれば何故ここかが分かるでしょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] >出かけるなら、俺も連れて行け! 魔剣形態だと一人称は「俺」なのか……。 [一言] 続きも楽しみにしています!
[気になる点] まあ最近お祭りも無くて牛鬼も暇だったでしょうから、いいんじゃないでしょうか(宇和島民) [一言] 四国はあれですよ、たまに狸が轢かれてますから。
[一言] 水曜どうでしょうのやつか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ