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守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
参の章:異界のモノとの戦い
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VS魔女

 以前、悪魔払いを依頼して来たエミリア・ミハエラという女性がいる。

 彼女は幼き頃に戯れで悪魔召喚(サバト)を行い、悪魔憑きになっていた。

 その活動を封じていた司祭の死後、異変を感じ、様々に調べて「最強の霊能力者」と言われる芦屋ユウキに悪魔払いを依頼した。

 その行動は正解だった。

 彼女に悪さをしようとしていた悪魔は、芦屋ミツルと同じ家にいた皆川ユウキの守護霊たる鎌倉武士によって、問答無用で矢を撃たれて退散した。

「お前みたいな言葉の通じない奴なんか相手にしていられるか!」

 と捨て台詞を残して。


 彼女はその時に言っていた。

「お友達と皆で、悪魔召喚(サバト)をしてしまった」

 と。

 そして、その時の友達の中には、悪魔を封じた司祭の死亡後に、急に言動がおかしくなって精神病院に入院した者もいる。

 消息を絶ってしまった者もいる。

 そして、エミリアすら予測し得ない「悪魔に身を委ね、魔女となった」者も存在するのであった。


 エミリアは学校からの帰り道、異空間に引き込まれる。

 異空間、そこは日本の夜空とは思えない、紫色の空や緑の光が仄暗く灯った場所。

 不思議な音楽が聞こえ、妖精がダンスをしている。

 いや、違う、妖精なんかではない。

 それには顔がなく、ただグルグル模様であったり、ペンキでも塗られたようなべったりとした潰れたものが在った。

 見るも感じるも怖気がする。

 そこで彼女は聞いた。

「ウフフ、ウフフフフフ……」

 聞き覚えのある笑い声。

 そして異形と化した、かつての友人。

「会いたかった。

 おいでよ、また一緒に遊ぼうよ」

 紫色の空に、そこだけ漆黒になっている空間があり、真ん中には幼い時の面影を残した友人の顔が在った。

 その空間からは、蜘蛛の足のようなものが伸びて来て、エミリアを捕まえようとする。

 更に

「皆で一緒に遊ぼうよ」

「また仲良くしようと」

 と声がする。

 見ると、やはり友人たちの顔がそこに浮かんでいた。


 もしもエミリアが悪魔に魅入られたままであったなら、そのまま取り込まれてしまっただろう。

 だがエミリアは悪魔払い……というか悪魔すら恐れを為して逃げ出すような事をされた。

 彼女は悲鳴を挙げながら、元来た道を全力疾走し、どうにか異空間から逃げ出した。

 そして、こんな事を相談出来るのは一人しか居ないと、「最強の霊能力者」芦屋ミツルの元を再度訪問したのであった。




 芦屋ミツルは、退魔能力は全くもって大した力を持っていない。

 今までは、大学で見かけた低級霊を陰陽道的に、気の巡りを良くする事で払う程度であった。

 成り行きで呪術師と特級呪物を撃破し、「最強の霊能力者」なんて言われるようになってから舞い込む仕事は、正直手に余るものばかりである。

 それでもこの胡散臭いチャラ男は、良い面を持っている。

 相手の話をじっくり聞くのだ。

 これはチャラ男ゆえに、女の子の話をじっくり聞いて相談に乗ってあげる事とも通じている。

 まず芦屋は、その女の子の事を詳しく聞いた。


 その子は内気な少女であった。

 それ故に、皆の気を引きたくて、降霊術遊びを広めたのである。

 女の子たちは、そのオカルトにどっぷりハマっていく。

 そうなると、通常の交霊文字盤(ウィジャボード)や魔法のキノコによる変性意識(トランス)では満足出来なくなっていく。

 皆と仲良く遊びたい一心で、彼女は禁断の果実に手を伸ばしてしまった。

 結果、多数の少女たちの集団狂騒となり、町は大騒ぎとなってしまう。

 どうにか悪魔憑き状態は解消されるも、少女たちは離れ離れにされ、町から遠ざけられた。

 首謀者であったその子は、辺鄙な田舎町の修道院に入れられ、恐らくは悪魔が抜け切るまで奉仕活動を強要される。

 人一倍寂しがりなその子は、友人たちに毎週のように手紙を送りつけていた。

 だが、年月が経つと女の子の交遊関係も変わって来る。

 特に都市部の学校に進学させられた子は、冴えなく構ってちゃんなその子を相手にしなくなっていった。

 エミリアも無視をし始めた部類であった。

 そのエミリアが最後に受け取った手紙は、血文字で

「ずっと友達。

 離さない」

 と書かれていて、余りに不気味だったので思わず破り捨てた。


「絶望したか、悪魔に魅入られたか、その子は魔女になったのだろう」

 芦屋の何ともテキトーそうな発言に、思わずユウキはツッコミを入れる。

「魔女って何だよ。

 絶望したから悪魔に魅入られて、誘惑に負けるんじゃないのか?

 連続したものを、何で並べて言うんだ?」

 だが芦屋は真面目に答える。

「こっち風の言い方をしたら妖怪変化かな。

 だけど一番しっくり来る表現が魔女。

 悪魔に魂を売って魔女になるのも居るけど、余りの恨みとか無念とか絶望とかが、自ら魔女に変えてしまう事もあるんだ」

「なんで分かるんだ?」

「こいつがそう言っている」

 そう言えば、芦屋の腰には強力な妖怪の生首が括り付けられている。

(いつも思うんだが、ポポポポ言ってるだけの女の生首と、よく意思疎通出来るのよな)


 そう思っていると、急に電気が消えた。

 部屋の中の様子がおかしい。

 妙な渦が巻いているように見える。


「見・ツ・ケ・タ……」

 テレビが急に点くと、そこに女性の顔が浮かび上がる。

 そしてテレビ画面から、零感のユウキにも見える、小さい変な奴等が溢れ出して来た。


 だが、突然テレビに映る顔がヒステリックに叫ぶ。

「私を裏切ったのか?

 なんでそんな女と!」

 後で聞いたら、そんな事を言っていたそうだ。


 使い魔たちの顔が全て、魔女と化した友人の顔に変わり、血の涙を流しながら芦屋に向かって殺到する。

 だが、芦屋の腰には特級呪物がぶら下がっているのだ。

 一瞬、女の生首が芦屋の腰の辺りに浮かび上がると

「ポッ!」

 音声としては小さい筈なのに、妙に脳に響く声で叫ぶと、使い魔たちは崩れ去ってしまう。

(そうだよ。

 この妖怪、魅入った男を殺す本来は凶悪な奴だったんだ)


 もしかしたらこの妖怪も、悪魔と化した女性と同じような経緯で魔堕ちしたのかもしれない。

 もしかしたら、この妖怪は悲しい思い、辛い思い、人間時代の無念さの集合体なのかもしれない。


 そんな感慨を他所に、テレビの中から本体が現れる。

 それはヘソから上は人間の女、それより下は蜘蛛となっていて、腹部には多数の女性の顔が浮かんでいる。

「殺す、殺す、殺ス、コロス!」

 エミリアの母国語は知らないが、言っている事は何となく伝わった。

 殺気を放ったその瞬間、ユウキの自動過剰防衛装置が発動する。


「あ、ジャパニーズサムライ」

 半透明ながら、エミリアにも零感のユウキにもハッキリ見える鎌倉武士。

 狂気に取り憑かれ、理性を無くして襲い掛かる魔女に、問答無用で矢を放つ武士。

 狩股の矢は、容赦なく蜘蛛の足を切断していく。

 鏑矢が当たった部分は、魔の塊が一気に飛散し、消え去っていく。

 恨み事を言い、呪いの言葉を吐き続ける魔女に対し、武士の方は一言も発しない。

 無慈悲に、ただ矢を放つのみ。

 魔女は苦しむ。

 やがて悲痛な声で

「エミリア、助けて。

 痛いよ、怖いよ……」

 と泣きながら助けを求め始めた。

 思わず立ち上がり、フラフラとそちらに歩き出す留学生。


「それはその魔女の罠だ!

 耳を貸すな!」

 芦屋がそう怒鳴り、腰の何かを掴んだ。

 再び姿を現す女の生首。

 またも、音量としては無い筈なのに、全身に痺れが走るような声を発する。

 それにより、力が抜けてへたり込むエミリア。


「ギャーーーー」

 魔女が悲鳴を挙げた。

 武士が腹部の女の顔を掴み、首を取るように切り落とした。

 切り取られた女の首、エミリアの友人の一人なのだが、それは苦悶の表情を浮かべる。

 そして馬の霊に喰われていった。


「やめてー---!!!!」

 もしかしたら、もう死んでいるかもしれない。

 それでも友人が、見知った顔が切られ、苦しみ、馬に喰われる有り様を見るのは辛い。

 エミリアは残酷な事をしないよう、鎌倉武士に頼み込んでいた。


 だが

(現代日本語だって通じるか分からないのに、そっちの国の言葉で言ったって通じるわけがない。

 それに、何言ったって聞く耳持たないんだから、無意味だよなあ)

 ユウキはそんな風に思っている。

 正直、鎌倉時代の武士の気風に毒され過ぎだ。


 守護霊・長沼五郎三は多数の首を取っては愛馬・至月に餌として与え、魔女をズタボロにしていく。

 そして最後に魔女の首を刎ねた。

 ついにエミリアは失神してしまう。

 だから見ていなかったのかもしれない。

 首を刎ね飛ばされ、死んでいく最中のその友人の顔は、何かから解放されたかのように安らかな表情になっていた事を。


 最後の首に対し、長沼五郎三は手を合わせ供養する。

(お、DQN武士にも情けがあったか?)

 そう思ったユウキは、間違いを即座に悟る。


「え?

 なに?

 何で失神したその子の腰に、その生首を結わえ付けてるの?

 これで朋輩は終生一緒に居られるだろうって?

 いやあ、おサムライさん、慈悲深い事するねえ~って、違うから!

 それ、悪趣味だから!」

 芦屋のノリツッコミを聞きながら、ユウキは頭を抱える。

(やはり鎌倉時代のノリにはついていけんなあ)

元ネタは、デビルマンの獣ジンメン、仮面ライダーアマゾンの十面鬼ゴルゴス、まどマギです。

ジンメンの人質戦法にデビルマン(不動明)は苦しみ、悩み、覚悟を決めますが、鎌倉武士だとその過程をすっ飛ばすだろうな、と。

キン肉マンのサイコマンが、人面プラネットに囚われた仲間の超人に

「死んで利用されるなんて、恥を知りなさい」

と言って、躊躇なく全部潰してましたが、あれに近いノリになるでしょうね。

(わしのような武士に殺されるのはこの上無い名誉だろ!

 名誉に決まっておる。

 答えは聞いてない、というノリですな)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジンメンとは、かなりエグいチョイスですね。あれ基本的に殺す以外に救う方法ないですからね。 [一言] なお、マジンカイザーSKLの漫画版でジンクスを打ち破った模様。
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