VS宇宙人
前回同様、この回もネタ回ですので(真面目な)ツッコミはご無用に。
(真面目でないのは大歓迎)
(シンには反応があっても、ジェットマンへのツッコミがないところが悲しき)
「私は、貴方たちの概念では宇宙人と言える存在です」
ユウキと晴香を居酒屋に誘った男が、そう語り始めた。
普段なら
(なにこの毒電波受信系)
と相手にしないのだが、先程超常現象、異世界での体験をしたばかりで、法螺吹き野郎と決めつける事も出来ない。
(もしかして、俺たちにそれを信じ込ませる為に、別次元に俺たちを誘い込んだのか?)
そういう疑問も持つし、一方で信じたくない部分が
(あれは催眠術。
俺たちは幻覚を見ていただけ)
と言い聞かせて来たりもしている。
「皆川さん。
貴方のお友達の芦屋ミツルさんって、『最強の霊能力者』って事になってますけど、あれ嘘ですよね。
全部、貴方を御守りしている、そちらの方がされた事ですね」
黒服の男はそう語って来た。
「どうしてそれを?」
「私はずっと前からこの世界を観察していたのです。
だから、地球人たちが分からない事でも、私には分かるのです」
「ふー-ん、どこの宇宙人だか知らないけど、何光年離れたか分からない星からご苦労様な事だ」
「気遣ってくれてありがとうございます。
そのお心遣いへの返礼として、教えて差し上げます。
貴方たち地球人は、光速を超えるものは無い、だから地球で起きた事を遠方の星から観測したら、早くても数年後、酷い場合は数百万年後でないと分からない、そう思っていますね。
文明の発達段階で、そういう結論になるのは理解出来ます。
同じ三次元だけなら、その公式は決して誤りではないのですから。
ですが、この宇宙は三次元ではないのです。
貴方たちが先程体験したように、異なる世界も存在するので。
ここに一枚の紙があります。
ここには二次元の世界が展開されています。
二次元の住人にしたら、この紙の表面が世界の全てでしょう。
しかし、三次元の視点で見れば、同じ紙にも裏表がある。
この表の二次元に対し、裏の二次元も存在する。
両者は隣同士に居ながら、お互いを認識する事は決してない。
高次元から見れば、三次元も同じなのです。
それが先程の世界。
同じ三次元でありながら、決して認識出来ない、貴方たちから見て裏の三次元世界。
まずは、そのように次元が幾つも存在し、隣りあわせの世界も存在するという事を認識していただきたい」
黒服の男の男の説明に、ユウキはSFアニメの知識を総動員して答える。
「なるほど。
次元が上がった世界では、最高速度は光の速度というのは変わってくる。
だから我々の常識は通じないって事だな」
その言葉に、黒服の男は困ったように笑う。
「速度という概念自体が、既に三次元的な常識に囚われているのです。
一々移動する必要も無ければ、それを時間で割り算する必要もない。
ほら、2つの光源があれば二次元上には2つの影が落ちるでしょう。
我々は同時に複数、下位次元に投射する事も出来るし、2つの紙を見比べて両方を読むように、同時に複数次元の情報を見る事も出来る。
移動などしなくても、そこに存在する事は出来るし、知りたいと思えば情報伝達する電磁波を介さずとも知る事が出来る。
君たち地球人は、意識の上では四次元人だけど、行動様式は3.5次元人に過ぎない。
真に四次元人として覚醒すれば、速度という概念が変わって来るでしょう」
「3.5次元?」
「分かりやすく言ったまでです。
縦横高さという軸の他に、地球人は時間という軸を理解している。
しかしその時間軸を、下流に降る事は出来ても、遡る事が出来ない。
だから3.5次元人なのです。
四番目の軸は半分しか使用出来ていない。
いや、機械に頼らねば高さ、つまり重力に沿った移動も下流にしか行けず、逆らう事が出来ない。
肉体というものに縛られているからそうなのです。
しかし、その束縛から自由になっているモノもいる」
「それが霊……」
今まで黙っていた幸徳井晴香がやっと口を開いた。
霊は重力に縛られず、上下方向にも自由に移動しているのを、彼女は何度も見て来た。
黒服の男は頷き、本題を切り出す。
「貴方たちは面白い。
高次元宇宙の住人からの視点は、おそらく貴方たちが水槽に入れた観賞魚を眺めるそれと同じです。
もしもその観賞魚が、突然水槽という障壁を透過し、自分たちと同じ行動を始めたら貴方たちは驚き、調べようとするでしょう?
我々にもそれは同じなのです。
多くの地球人は、細胞死によりその存在が消滅します。
中には存在自体が残っている人もいる。
更にごく僅かですが、貴方たちが神霊と呼ぶ者たちの住まう領域まで達する地球人も居る。
貴方たちは聖人とか神とかと呼んで、その人たちを讃えています。
讃えるという事は、そこに達したと知る事。
これも驚く事ではありますが、残念ながら高次元に達した地球人も、下位の次元に干渉は出来ない。
たまに神託なんて言って意思を伝えていたりしますが、それくらい。
ところが貴方をお守りしている方、その方は次元を超えて干渉する能力を持っています。
それは我々のように、下位次元に自身の投影体を作り出すやり方でなく、直接です。
我々にとっても、これは初の事なのです」
(長沼さん、あんた一体何者なんだよ!
高次元宇宙人ですら理解不能だって言ってるぞ!)
ユウキの内心のボヤきを他所に、黒服の男は続ける。
「これは実に興味深い。
そこで我々は、貴方をお守りする霊を手に入れたいと思ったのです。
研究する為にね」
「何だって?」
「ですが、私は暴力が嫌いでね。
この私にたった一言、『守護霊を貴方にあげます』と言ってくれませんか?
それだけで十分です。
貴方は守護霊を制御出来ず、引きずられている様子。
貴方にもメリットはある。
Win-Winってやつですよ。
どうです?」
「断ります。
確かに手に負えない、制御出来ない霊だけど、俺の先祖だ。
御先祖様を他人に渡すなんて出来ない。
例え迷惑を掛けられてもだ。
甘んじて迷惑を受け入れるよ」
なんか嬉しそうに肩を叩く感覚があった。
力の加減がおかしいから、とても痛い。
「そうですか。
私に守護霊を委ねる事がベストな選択だと思うのですがね。
まあ私は、地球人がそういう非論理的な思考をするのはよく知っています。
私には苦手な事です。
ですが、はいそうですと言って引き上げるのも性に合いません。
どうです?
飲み比べで勝負しませんか?」
「乗った」
(あれ、俺は何でこんな言葉を発しているんだ?)
意識はあるのに、体も発言も全然違う意思が動かしている。
黒服の男が笑う。
「まさか、貴方本人と戦えるとは思ってもいませんでした。
そちらの子孫の方なら、下戸だから勝てると思ったのですがね」
「いいから、酒だ、酒!
まるで飲まぬ奴ゆえ、久方ぶりに飲めるとあって嬉しいぞ」
「目的の為には手段を選ばない、私の苦手な言葉です……」
そうして飲み比べとなる。
暫くして黒服の男が
「私の負けだ。
まだ飲む事は出来るが、これ以上は意味が無い。
私は帰るとしよう」
そう言って席を立った。
「飲み足りん」
(勘弁してよ、御先祖様!
俺の肝臓はそんなに強くないんだって)
ユウキの身体を乗っ取って、酒を水のように飲む長沼五郎三。
ともあれ、彼が高次元宇宙に連れて行かれるのは阻止されたようだ。
しかし黒服の男が何故か戻って来る。
身構えていると、申し訳なさそうに言って来た。
「負けを認めるのが遅過ぎました。
余りにも飲まれるので、会計がとんでもない事になっていました。
捲土重来、私の苦手な言葉です。
ですが、この場合はあなた方の前に戻って来ざるを得ませんでした。
申し訳ないですが、割り勘でお願いします」
武力行使こそしなくても、やはり誰かに迷惑をかける鎌倉武士であった。
(そして翌日、ユウキは重度の二日酔いで動く事が出来なかった)
おまけ:
その馬は、かつて阪神競馬場で予後不良となり、安楽死させられた。
多くの馬がそのまま召されてしまったにも関わらず、その馬はまだこの世に留まっている。
「最後にもう一回、競り合いたい」
重賞馬の誇りであろうか。
その名誉を欲する念に、阪神競馬場を訪れていた長沼五郎三と、愛馬・至月が反応する。
夜、寝静まった頃、その馬の前に流鏑馬姿の武士が馬に乗って現れる。
「競い馬をせんと願いや?
わしがその願いに答えんとす、如何に?」
そう言って、強制幽体離脱で引っ張り出した芦屋ミツルの霊体(肉体とはちゃんと繋がっている)を引き渡した。
「ちょっと!
俺、乗馬なんかした事ないっスよ。
勘弁して下さい!」
確かに載せて走らせると、すぐに落馬をしてしまう。
重賞馬の方も不満なようだ。
そこで馬飼いを連れて来る。
こちらも乗馬はした事ないが、元は暴走族、バイクに乗っていた分筋が良かった。
「ポーポポポー、ポポポー、ポポポポー、ポポポポー。
ポポ、ポッポッポポポッポー、ポッポッポポポッポー、ポポポポー!」
妖怪の生首のファンファーレによって、2頭立てのレース開始。
片方は騎手としては上位だが、馬の方がサラブレッドには及ばぬ日本固有種。
片方は馬はこの上ないが、騎手は元暴走族の若手。
直線は良いが、カーブで混戦となる。
なにせ、初めて乗馬した少年は、右曲がりがやや苦手な鎌倉武士よりも大回りとなってしまい、最終コーナーを曲がって直線に入った時にはかなり遅れを取ってしまった。
この状況に、サラブレッドの魂が燃え上がる。
全力疾走、快心の走りで軍馬を抜き去り、ゴールした。
競走よりも、快心の走りが最後に出来た事に満足したのだろう。
その馬は成仏していった。
長沼五郎三はその馬に向けて合掌。
(意外に良いとこもあるんだなあ)
自分が強制幽体離脱させられている事も忘れ、この鎌倉武士の情け深い部分に感心した芦屋ミツルであった。