表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
弐の章:呪術師との対決
18/46

諦めが悪い呪術師

「傷は癒えたかな?」

 一見好々爺に見える男が、返り討ちに遭った呪術師に声をかける。

 つまりこの爺さんも、名うての呪術師という事だ。

 これらの会話は、日本語ではない別の言語で行われている。

「師匠、助かりました。

 どうにかまた稼業を再開出来ます。

 ですから、上納金はしばらくお待ちください」

「上納金は待つさ。

 じゃが、お前は愚かじゃな。

 自分の実力もわきまえずに、強力な呪物を使ったと聞く。

 そんな事をしたら、成就しても己に跳ね返ってくるのは分かり切った事ではないか」

「成就していないのです」

「なんだと?

 あの魔像は危険極まりない呪物だぞ。

 祓う者を逆に取り殺し、その生気を吸ってより禍々しく変わる。

 相手が聖者であればある程、取り殺す力も増す。

 時間を掛けて邪気が収まるのを待つしか無い代物じゃ。

 わしとて、あの呪いを鎮める方法は分からぬぞ」

 術によって呪いを祓ったのではなく、呪いごと焼き討ちして完全破壊したのだ。

 並の力では呪いが更に暴走するだけだが、例えて言うと炎上している油を、大爆発によって吹き飛ばして鎮火したようなものである。

(※爆風消火とは実際にある手法)


 老人が敵の恐ろしさを測っている時に、それが出来ない呪術師は

「師匠、あの者だけは呪い殺さねば気が済まないのです。

 どうかお力添えを……」

 と言って来た。

 老人は溜息を吐く。

「力を貸してどうなる事もないじゃろう。

 術者が未熟でも、効果は絶大じゃ。

 未熟者はその反動を御せぬだけの事。

 相手を殺すような強力な呪いは、お前自身にも跳ね返るから慎めと言った。

 だが、お前に跳ね返ろうが、普通は相手を確実に殺すのじゃぞ。

 呪法ならばお前の腕の問題かもしれないが、呪物は術者も相手も選ばぬ。

 それで失敗したとは、どのような相手なのかの?」

 呪術師は説明する。

 相手は芦屋ミツルという若造で、霊能力があり、しかも昔の日本の侍を使役魔としている、と。

 彼はいまだに盛大な勘違いをしていた。


「それで、呪物以外にはどのような術を使ったのか?」

 それについても詳しく話す。

 次第に老人の眉間の皺が深くなっていった。

「もうやめよ」

「は?」

「蟲毒は相当に強力な呪法じゃ。

 それを跳ね返す相手など、普通の人間ではない。

 いや、人間なのかどうかすら疑われる。

 わしでもそんなのとは戦いたくない」

 老人の言は半分当たっている。

 芦屋ミツルが蟲毒を跳ね返したのは、腰にぶら下げられた妖怪の首のお陰だ。

 跳ね返された呪いが行き着いた先には、ここ数年だけの生の虫たちを使った呪法ではとてもかなわない、八百年には届かないが、それくらいの期間存在し続けた規格外(チート)な霊であった。

 老人は

「我等の事を話そうとした者は口封じをしたのじゃろう?

 だったら、もうこの依頼については忘れよ。

 我々は勝てる相手にだけ勝つのじゃ。

 世の中には、到底勝てない相手もおる。

 それに喧嘩を売っても、命を落とすだけじゃぞ。

 相手が悪いとあらば、お前が逃げたとて恥とは思わぬよ」

 そう伝えるも、呪術師は全く納得していない。

(絶対に殺してやるぞ、日本人め。

 師の爺ぃが諦めようが、俺は絶対に諦めねえからな)


 だが、どうしたら良いだろう?

 師匠ですら術ではどうしようも無いと言う。

 弟子である呪術師はそれ以下の技量しかない。

 そもそも、痛い目に遭わせる、悪縁を背負わせるくらいの呪いしか出来ない男なのだ。

 事故死したりしても、それは結果でしかなく、呪いの効力で殺す事は出来ない。

 ただし呪物を使えばそれも解決するし、彼は呪物に関する知識は結構あった。

 実力で敵わぬなら、強力な呪物を使ってしまえ!

 もう俺の誇りをここまでズタズタにした日本なんか知らん!

 仲間たちの商売の場所を潰す事になるが、知った事じゃない。


 そうして呪術師は、厳重管理している特級呪物「両面宿儺」を盗み出す。

 これは日本神話に出て来るそれではない。

 その名を冠しただけの呪物だ。

 大正時代に見世物小屋に売られたシャム双生児。

 あるカルト教団が、そういった人たちを買い集め、密室に入れて殺し合わせる。

 人間版の蟲毒を作る。

 そして、生き残ったシャム双生児を、強制的に即身仏したという代物。

 その後、呪物はその男と共に日本各地の見世物小屋を巡回する。

 行った先では噴火、爆発事故、水害、鉄道事故、そして地震が起こった。

 最後にその呪物を作った男は、関東大震災の前に自殺し、血文字で

「日本、滅ブベシ」

 と遺したという。

 この呪物ならば!

 かつて、自分の使役魔では人知れず相手の家まで運ぶ事が出来ないと諦めた代物。

 だがもう相手の家とかどうでも良い。

 呪いを全力解放し、ここら一帯を滅ぼせば、芦屋ミツルにも害は及ぶ。

 もう戦略兵器級呪物を使うのに、何の躊躇いも無い!




 以降は日本語の話となる。

 関西の何処かで両面宿儺の封印が解かれた瞬間、例の護符が反応した。

「熱い……」

 胸ポケットに入れていた護符から焦げた臭いがした。

 そしてある部分が真っ黒に変色している。

 それを見た皆川ユウキは、そっと大学を出た。

「ちょっと待って」

 幸徳井晴香が呼び止める。

「反応があったの?」

「うん」

「ちょっと見せて」

「いいよ」

 そう言って手渡した護符は、黒くなっただけではなく、仏絵と梵字の所が焼け焦げたようになって穴が開いていた。

「これ、シャレにならない。

 早急に対策しないと。

 その胡散臭い、誰だっけ?

 その人にも連絡して、早く何とかして」

「何とかって言われても……」

「これ、増長天と広目天が焼けてるから、相手は南西の方角に居るよ」

「それだけでは何とも……」

「他にも護符はあるよね?

 あれは結界の中に入っている間は、黒くならないから、そのまま持ち出して、近くに行ったら反応をさせて詳しい位置を割り出すとかすればいいよ」

「そんな面倒臭いやってる暇あるの?」

「…………やっぱり、何もしなくて良いかも」

「は?」

「肩こり、良くなってない?」

「あ……。

 まさか?」

「後ろでお爺さんの霊が、私、留守居役って言ってる」

「やっぱり、御先祖飛んで行った?」

「うん。

 危険と思ったのか、流石に怒った表情してたけど。

 その留守居役のお爺さんが言ってるよ、

『余計な事はしなくて良い』って言ってたって」

「はあ……」

「とりあえずは待とうか。

 あ、でもその胡散臭い人には連絡しておいてね」


 京都から南西の方角にある、とある場所にて。

「何でだぁぁぁぁ!!!!」

 両面宿儺と呼ばれた呪物のミイラが、突然首を飛ばされ、体がボロボロと崩れていく。

 怨念のようなモノが解き放たれた筈だが、それが何者かに食われている感覚がある。

 至月という魂魄捕食者(ソウルイーター)が、怨念も邪念も全部食っていたのだ。

 両面宿儺が作られたのは大正時代。

 至月が死んだのは寛永年間(西暦1624~1644年)と推定。

 長沼五郎三が生入定したのは宝治三年(西暦1249年)。

 呪物としては強力でも、八百年近く存在した「山の神を抑えていた神体」だった霊と、四百年近く神社の中にいた神馬の霊の前では、まだまだ若かったようだ。


 そして呪術師の目の前に、殺意に満ちた目つきで弓をつがえた鎌倉武士が立ちはだかる。

※呪術師が勝てないといった対象。

・もっと強力なのに呪われてる相手(下手したら術者も一緒に呪われる)

・完全な結界を張れる上位の術者やアイテム持ち

・あまりにも心が清らか過ぎて、呪いの念が付け入る隙のない人間

・ごく稀にいる、神仏の加護を受けている者

・放っておいてももうすぐに死ぬ病人や老人

→これはオーバーキルになる事で、余った分が術者に返って来てしまう為

・人外(いずれ出て来ます)


(今日もおまけは休みます)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] むしろそんな呪詛なんてかけたら、いろいろヤバい神霊が目覚めそうな気がしまくるんですけど。
[良い点] 実質神二柱相手にしてるようなもんだからな、そら勝てんよwww そして遂にキレた鎌倉武士の所業やいかに。 [気になる点] 様子見してましたが、さすがにこの内容でホラーはジャンル違いかと。コ…
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] >長沼五郎三が入滅したのは宝治三年(西暦1249年)。 『入滅』だと輪廻から未来永劫無縁となり、転生も神霊化もしないはずなので、単に「没した…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ