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守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
弐の章:呪術師との対決
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呪い返し

 ある医師が、レントゲン写真を見ながら患者に告げる。

「非常に言い辛い事です。

 奥さんを残されるのは残念な事だと思います。

 ですが、気持ちの整理をつけて、思い残す事が無いように……」

 明言はしていない。

 しかし、深刻な表情から放たれたその言葉を気に病み、ついに本当の病を得て死んでしまった。

 実際にはその患者は、特に死に至る病など得ていない。

 医師からの言葉によって、病を呼んでしまったのだ。


「これが呪いってやつだ」

 呪いについて質問された芦屋ミツルは、皆川ユウキにそう答える。

 言葉による呪詛であれ、呪物から発せられる気であれ、呪法による攻撃であれ、相手に届ける事で効果を発揮する。

 効果を及ぼされたものは、破滅へと向かっていく。

 この「発動」と「効果」の間にあって呪いを媒介するものが媒体だ。

 遠くで呪っても、相手に届かなければならない。

 呪いを伝える媒介が「呪い返し」において重要なものとなる。


 先の医師の場合、媒介するものは会っての言葉、呪詛となる。

 レントゲン写真は、呪詛の効果を強める為の道具と言えた。

 しかし、これが呪い返しのきっかけになってしまう。

 この医師の音声を録音していたり、レントゲンを実際に入手すれば、嘘によって相手の精神を誘導した事が知れる。

 医師という地位にある者が信用を利用したという事で、少なからず責任も負わされる。

 この地位が高い故の反動の大きさを「高転び」と呼んだりもする。


「要は、媒介するモノによって術者と標的が繋がっている時、逆に相手を知る事も出来るし、呪いを逆流させる事も出来るんだ」

 その切り札が、芦屋ミツルへの呪いの依頼主から出た三尸の虫である。

 彼は呪術師の身元を知られないよう、口封じに殺された。

 そのやり方は、道教でいう「生まれつき脳・臓腑・足腰に宿り、その者の欲を刺激する一方、その者の罪状を天帝に告げ、死を招いた後で自らは自由になる三尸」を何らかの方法で暴走させ、生命を奪うものであった。

 暴走させた三尸には、術者の何らかの痕跡がある筈だ。

 それを探れば術者にたどり着く、筈だ。


「どうやるんだ?」

 ユウキの質問に、芦屋はいつものヘラヘラした感じで

「分かんねえ」

 と答えた。

 思わずズッコケるユウキ。

 まったくたまったものではない。

 芦屋を呪おうとした男が急死した事で、一番近くに居て、しかも直前まで口論をしていたユウキと芦屋は警察から事情聴取をされたのだ。

 いい迷惑だ。

 検死の結果「急性脳出血」とされ、また死ぬ直前に奇行が有った事を多くの者が目撃していた為、彼等は死とは無関係とされた。

 それでも、ポルターガイストは起こるわ、ボヤを起こされるわでアパートを追い出される事になるわと、この呪い騒動はユウキに散々迷惑を掛けている。

 騒動を持ち込んだ芦屋にもウンザリしているが、それに責任を感じてか、更に利用する為かはともかく、住む場所を提供してくれる分こいつは良しとしよう。

 呪術師の方は、いい加減にどうにか懲らしめてやらねば。

 それなのに「分かんねえ」と言われては……。


「知ってるでしょ、俺、そういう能力低いのよ。

 見れる、聞ける、ちょっとした奴なら気の循環でどうにか出来る、その程度なんだよ。

 呪い返しは基本、誰か分からないけど呪って来た相手にカウンターをする呪法。

 呪いをかけた奴を、呪いの痕跡を辿って探り当てる方法があるって事も、知識では知ってるけど実際のやり方は知らないし……」


 彼等は忘れていた。

 その術師の呪いの媒体であったカラスの形をしたモノ、それは既に長沼五郎三の愛馬・至月が喰っている。

 つまり至月は、呪いの大元にたどり着く事が出来るのだ。

 ユウキと芦屋が言い争いをしている間に、長沼五郎三は至月に跨り、ふらりと外に出て行った。

 ほんのちょっとして、背後で威圧感を放っていた武士が居なくなっている事に気づく。

「ちょっと、サムライさんが居ない」

「あ、そう言えば深刻な肩こりが消えている」

「ちょっとそこの守護霊さん、どういう事?

 うん、自分は留守居役。

 相手を討ち取ってくればそれで良い、話してから殺すとか、そんなんじゃやられるだけだ。

 そう言って出陣しました…………って、ちょっと待った!」

「本来の守護霊に待ったって言っても、全然意味無いのでは?

 力関係、鎌倉武士の方が全然上みたいだし」

「でも、どこの誰かも分からないし、俺の呪い返しの力なんて大した事ないし」

「芦屋さん、歴史を知ってますか?」

「俺、勉強は苦手やねん」

「鎌倉武士って、ああいう生き物。

 相手が分からなかったら、辺り一帯を皆殺しにすれば良いだろ?

 ナメられたら殺すのではなく、ナメて来そうな奴等は先んじて殺す。

 うちの先祖、捕縛して連れて来いと命じられた相手を、どうせ助命されんだし先に殺しておこう、ってやって処罰されてるんだよ」

「なにその、暴力団以上のDQNは……」

「見て来ただろ?

 何の罪も無い浮遊霊を、喜んで殺して来ている姿を……」

「ちょっと待って、本来の守護霊が何か言ってる。

 うん、うん……。

 はあ…………」

「そこで納得してないで、聞こえない俺にも何を言ってた教えてよ」

「サムライさんが言うには

『あのモノたちが成仏出来ないのは、御仏に死んだ事を知られていないからだ。

 だから自分がまた殺して御仏に知らせている。

 それでも成仏しないなら、何度でも殺すだけ。

 自分は功徳を積んでいる立派な武士だ』

 だそうで……」

「絶対それ、取ってつけた理屈……」

「だよね……」

「もう御先祖の好きにさせようか。

 どうせ止められっこないし……」

 グロいモノが見えない、断末魔の悲鳴も聞こえないユウキは、あっさりと放置宣言。

 そりゃ関わり合いにならなければ、彼には何の問題も無いし。

 勝手に先祖が悪意を持った相手を、我関せぬ場所で始末してくれてるだけだから。


 霊にとって、地図や座標としての場所は意味が無い。

 自分が死んだ場所や、自分の興味がある場所なんかは意味を持つが、そこは史跡であろうが近代的なビルの中だろうが大して意味を持たない。

 霊は通常の物理法則にも縛られない。

 だから至月に乗馬した長沼五郎三は、至月の導きのままにあっという間に呪術師の元に移動し、襲い掛かった。


「なんだ、お前は!

 そうか!

 お前が芦屋ユウキの使役する魔物か!」


 呪術師は致命的な間違いを犯した。

「魔物」と言ったが、長沼五郎三は自分は立派な人間だと思っているので、侮辱に感じた。

「使役する」と言ったが、彼は鎌倉殿以外の主を持った覚えは無い、侮辱だ!

 そして「芦屋」と言ったが、武士の名前を間違うとか何事か!!!!

 無礼にも程があるわ!

 激怒した武士に、矢を討たれ、物理的に殴られ、太刀により守護霊を引き裂かれ、代わりに悪霊をわんさか取り憑かされ、とどめに家に火を放って引き揚げていった。


 だが奇跡的に呪術師は一命を取り留める。

 偶然仲間が訪ねて来た為、瀕死の彼を助け、数こそ多いがまだ弱い奴等しか居なかった悪霊を全部追い払う事に成功した。

 ただし、当分呪術師は動く事が出来ない。

 相当に恨んでいるが、報復はもう少し先になろう。


 当人たちは何もしていないのに、呪い返しは勝手に発動されていた。

 しかも倍返しどころではないレベルで……。

※坂東の武士は、漢字の書き間違いには怒りませんが、読み間違いをされると刀を抜いて斬りかかってきます。

名前は先祖より続く大事なものであり、これを間違ったりすると殺しに来ます。

読みさえ合っていれば、漢字の方は当て字でも、平仮名でも可です。


(今日のおまけはおやすみします)

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが、知性を持った蛮族と書かれただけはありますよね。 [気になる点] 結果的に子孫(元寇)の報復になっているのがなんとも。 [一言] 結局、どの時代でも人間の本質は変わらないんですよね。…
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