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守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
弐の章:呪術師との対決
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呪術師は執念深い

この章、ちょっと殺伐としているので、あとがきの方でもう一個ストーリーを書きます。

「幸徳井さん、ちょっといい?」

 ゼミ生間の連絡用LINEを使って、幸徳井晴香を呼び出した皆川ユウキは、自身に呪いの影が無いかを視て貰った。


「……だから、そういう人と縁を持つのをやめなさいって言ったのに」

 事情を説明するユウキに、晴香は呆れたように溜息を吐いた。

 本当に、霊や妖怪なんかより人間の方が始末に負えない。

 霊や妖怪は、波長が合わなければ何もして来ない。

 見えない人は、それらから害される事はないのだ。

 だが人間は、全方位に迷惑を掛けて来る。

 迷惑を掛けにやって来る。

「なんか、迷惑掛けたようでごめんなさい」

「そうよ!

 ユウキ君、気をつけた方が良いからね。

 幸か不幸か、霊的なものは『見えない』人だし、強過ぎる守護霊がいるから、向こうの方から避けて通ってるけど、本体の方が他人に利用されやすいオーラを纏ってるからね。

 人間の方が、災いから避けるよう注意しないと」

「……でも、今回余計な事をしたのは、背後の長沼さんなんだけど」

「しょうがないじゃない。

 鎌倉武士なんだもん。

 動物霊を見たら、矢を射かけるに決まってるじゃない。

 鎌倉武士に自重しろとか、馬に二本足で走れって言うより無理な話なんだからね」

「……よく理解出来た」

 確かギンシャ〇ボーイとかいう馬は二足で走っていたように思う。

「でも、とりあえずユウキ君に呪いの影は見えない。

 聖なる気を放つ悪魔超人、神聖蛮族霊(ホーリーバーバリアン)というべきおかしな霊だから、呪いとか弾くと思うよ。

 でもまあ、確かにその人が言ったみたいに、周囲の人間に災厄が飛び散らないよう、注意しないといけないわね」

「分からないんだけど、呪われてる人にはそれ以上の呪いは来ないのに、強力な守護霊を持つ方には呪いが来るって、どういう事?」

 その質問に晴香は

「暴力団に例えると、より強力な暴力団に集られてる人に、それより弱い暴力団が近づかないようなものなの。

 例えそこにいるのが下っ端の構成員でも、バックが怖い、上位の組織なら手を出せない。

 下手したら抗争になるからね。

 貴方のとこには、暴力団は居ないからやって来るんだけど、貴方を守ってるのはアメリカ海兵隊みたいなものだから。

 しかも地位協定がないから、基地に近づいた瞬間に全力で発砲をする。

 怖いのはこっちなんだけど、分からないのよねえ。

 そして、無差別に発砲するから、流れ弾が来そうでこっちも怖いのよ」

 そう言うと、晴香はどこかに電話をし始めた。

 そして

「手配出来た。

 ちょっとしたアイテムを作って貰うから、それを渡すまでゼミは休んだ方が良いよ」

 と言って来た。

「言っちゃなんだけど、今の俺って呪い無効、精神攻撃無効、憑依なんかの状態異常無効状態なんでしょ?

 呪いは効かないのでは?」

「ユウキ君はそうでも、他にとばっちりが行くのが問題!

 ユウキ君に先んじて、後ろの長沼さんが勝手に呪いを打ち破って、まき散らかすから。

 さっきも言ったでしょ、貴方を守っているのは、地位協定の無いアメリカ海兵隊みたいなものだって。

 呪いが飛び散るのもあるし、長沼さんのパワーが周りに被害を出すのよ。

 そしてユウキ君は『見えない』し、どの道制御出来ないでしょ。

 今回の護符は、呪いの気配を察知して反応するから、その時は人から離れて欲しいの」

「そういう事か……理解しました」

 ユウキは、しばらく自宅待機をする事にする。

(まあ、取り越し苦労であれば良いけど、全く呪い霊も感知出来ない上に、長沼さんがそれを勝手に弾いているから、知らず知らずのうちに他人に迷惑を掛けているかもしれないな)


 ユウキの淡い期待は外れる。

 晴香が自宅待機をさせたのは正解であった。

 それは零感のユウキにも分かる形で襲い掛かって来た。




「集めたぞ……。

 虫を百匹も集めたぞ……。

 これを殺し合わせる……。

 共食いをさせる。

 それで最後に生き残った1匹を……」

 これは呪法の中でも有名なものであろう。

 呪術師はこの邪法を使い、強力な呪いを放った。

 目標は、依頼主が憎む芦田ミツル。


 しかし、この呪術師はまだ気づいていない。

 芦田ミツルは既に、もっと呪われている為、今更この程度の呪いでは効果が無かった。

 妖怪の首という特級呪物に弾かれた呪いは、彼の周囲の人間を襲おうとする。

 それは、前回呪いの媒介を潰して喰った、長沼五郎三の愛馬・至月の方へと向かって行った。

 ユウキには呪いの余波は及んでいないが、呪いそのものを喰ってしまったモノは、いわば呪術師からマーキングされたようなものである。


 呪いが厄介なのは、まだ強い相手を恐れる霊や妖怪と違い、強い相手にも向かっていく事である。

 感情が無いのだ。

 呪いに対し、より強い呪いが掛けられると、その力によって消滅するか、呪う対象を見失って周囲に迷惑を掛ける。

 今回は術者の呪いの力をトレースして、そのままユウキの家に向かう。

 この時、霊ならば長沼五郎三の神聖さに惹かれるとか、逆に余りに強さを恐れて逃げ出すだろう。

 だがユウキは呪われているわけではない。

 だから反発が起こるわけではない。

 呪いの媒介は、ユウキの背後に居る長沼五郎三が乗っている馬目掛けて突き進む。


 長沼五郎三にしたら、面白い遊び相手が来たようなものだった。

 ユウキが外出しないから、彼は退屈でならなかった。

 外出する事は出来るが、それは彼がマーキングした場所限定であり、彼の館であるユウキ自身が出歩かないと新しい場所には行けない。

 例え行けても、認識出来ないのだ。

 それは「霊にとって場所とは意味を持っていない」という幸徳井晴香の説明の通りである。

 大体、彼が生きていた時代と現代では全く異なる。

 ビルを見たって、それが何か分からない以上、長沼五郎三には意味を成さない。

 彼の時代から存在した京都御所とか下鴨神社とかだから、彼は喜んだのだ。


 そんな訳で、退屈を持て余していた長沼五郎三は、愛馬を襲おうとした呪いを相手に大立ち回りを演じる。

 一瞬で潰せば良いのに、あえてぶっ叩いては逃がし、また襲って来る呪いを太刀で削いでは、また敢えて逃がす。

 要は遊んでいた。


 だが物理的に人間を殴れる霊の遊びである。

 それはポルターガイスト現象という形で現れた。

 姿は見えないのに、ブーンという虫の羽音が、あちこち逃げ回ってるのが分かる。

 倒れる本棚、割れる食器。

 壁にガンガンぶつかる音がして、隣人からはうるさいと怒鳴られ、ついには大家から

「皆川さん、迷惑行為は困ります」

 と注意を受ける事になる。


(なにこれ、俺が悪いの?

 俺の肉体にも精神にも被害は及んでないけど、騒々しい人間だって悪評が立つじゃないか。

 これって、呪いか?

 それとも嫌がらせなのか?)


 害を被ったのはユウキだけではない。

 やはり呪いは術者にも跳ね返っていた。


「痛い、何か切られた感覚がした。

 グハッ、どこかに叩きつけられたように思う。

 ウウウウ……何か突き刺さった……。

 あ、また何かに食われている感覚が……。

 なんだよ、呪い返しにしては度が過ぎているじゃないか……。

 おのれ、芦屋ミツル……。

 この恨み、晴らさでおくべきか……。

 お前がどんな強力な霊能者であろうと、絶対に倒してやる……」


 呪術師はしつこかった。

 そして勘違いにはまだ気づいていなかった。

おまけ:

皆川ユウキという真面目っぽい人間にも趣味はある。

その日、彼はサッカー日本対ブラジル戦をテレビ観戦していた。

「おおー」とか

「あー、惜しい」とか声が漏れる。


「痛っ!」

急に殴られた。

現世に強制介入可能な守護霊が、恐らく事情を聞きたいのだろう。

「これは日本と、海の向こうにある国との蹴鞠の試合のようなものです。

 蹴鞠と違って、相手の陣地に鞠を蹴り込んだ回数が多い方が勝つものです。

 相手の国は、物凄く強いので、こうやって応援しているんです」

守護霊たる鎌倉武士・長沼五郎三はよく分かっていない。

国という概念が薄いのだ。

なにせ、彼は元寇すら起きていない時期に人身御供となった為、挙国一致のような事が分からないのだ。

ただ、ブラジルの足技には魅了されたようだ。


その晩、また本来の守護霊に留守を任せて外出。

現世の蹴鞠の名人の枕元に立ち、夢に強制アクセス!


「ひっ、また貴方ですか?

 蹴鞠の技は教えましたやろ。

 まだ何か?

 え?

 後ろに鞠を蹴って、他の者に渡す技?

 相手に当たって鞠を奪う技?

 おサムライはん、サッカー見ましたな?

 それはバックパスとかボール奪取とかで、蹴鞠の技やおへん。

 教えろ?

 そない無体な事言わはってもなぁ……。

 無理やったら分かる奴を教えろ?

 ほな、それはまた今度で頼みます。

 今はそん人も寝とりますやろ?」


とりあえず、その日は引き下がったようだ。

目が覚めた後、競技者は頭を抱える。

「僕、サッカー選手に知り合いいいひんのに、どないせって言うんや……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうの好き!
[一言] 周囲に害や迷惑をかけないためには、人里離れた場所に隠棲するしかないですね。 世捨て人や、山伏、修験道者ってこういうバックグラウンドを持ってる人だと考えると理解できます。
[良い点] やっぱり大人しくしていたら暴れだしましたか。
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