表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護霊(?)は鎌倉武士  作者: ほうこうおんち
壱の章:目覚めた鎌倉武士
1/46

謎の武士に取り憑かれた男

 京都の某文系大学生の皆川ユウキは、その日卒業研究の為に栃木県のとある山を訪れていた。

 彼が研究しているのは鎌倉時代の武士について。

 彼もまた、平安時代末期から存在する武家である。

 それもあって、彼の先祖の事績を調べて、それを卒論にしようと思い立ったのである。


「痛い」

 たまたま手をついた岩で、彼は怪我をしてしまう。

 見ると、尖ったものが岩の間に挟まっていた。

 拾ってみると、それは(やじり)のような、赤錆びた金属片である。

 平根と呼ばれる、幅広く扁平で重ねも薄く、両側が刃になっている狩猟用のものだ。

(何か、特殊な能力でも芽生えそうな矢だな)

 とか思いつつ、不思議に惹かれるものを感じたユウキは、

(後で調べてみるか)

 と、その金属片を持ち帰る事にした。


 それが全ての始まりであった。




「うう……肩と腰が重い、疲労が抜けてない」

 大学に戻り、ゼミでパソコンを弄りながら、どうにも辛い状況に愚痴を零す。

「お前ももう年だな」

 そうからかわれるが、一人だけ真っ青な顔色の人物がいた。

 その娘の名は幸徳井晴香。

 先祖は陰陽師だそうだ。

 本家筋ではないが、それでも家伝の巻物や書物、日記などが遺されていて、そういうのを読みたくて史学を学んでいる。


「ちょっといい?」

 晴香がユウキの袖を引く。

 そして深刻な表情で

「どこで拾って来たの?」

 と聞いて来た。

「どこでって、この鏃?」

(誰にも言った事無いのにな)

 不思議な気分にとらわれながら、それを見せる。

「それも……だけど、後ろの……。

 あの、ちょっと胡散臭いと思われるかもしれないけど、私、見えるの……」

「見えるって、何が」

「霊……」

 ユウキは

(これは怪しい宗教か何かの勧誘か?)

 と怪しんだ。

 大学はそっち関係が多いから。

 だが彼女は真剣な表情で、

「その矢の持ち主で、多分、凶暴な武士」

「武士って凶暴じゃないのか?」

「えーと、レベルが違う。

 ユウキ君さあ、肩と腰が重い他に、夜に金縛りに遭ってない?

 あと風呂に入っていて、誰かの気配を感じない?」

(それは疲れているからじゃないか?)

 そう思いっ切り疑い、

「いや、無いよ」

 と話を打ち切ろうとする。

「別にお祓いしろとか、そんな事言わないから。

 ユウキ君が私を疑ってるのは分かる。

 こんな話をしたら、頭おかしいか、詐欺とか霊感商法の手先とか思われるのも自覚している。

 だけど……正直見ていられないのよ」

 演技とかでなく、深刻そうだった。

「分かった、分かった。

 話だけは聞くけど、何が有るんだよ」


 幸徳井晴香は、所謂「見える人」である。

 祓える人ではないから、見えても見えないふりをする、関わり合いを持たないようにして生きて来た。

 そんな彼女が、見たくなくても見えてしまい、目に余る所業があった。


「ユウキ君の後ろにいる武士の霊の前に、うちの大学にも霊が何人か浮遊していたり、地縛されているんだけどね……。

 その霊が……全部ユウキ君の腰の所に居るの……」

「は?

 なに、俺、取り憑かれているとか?」

「そんな可愛いものじゃない!

 その後ろの武士が、首を取って来たの!」

「……………………。

 何言ってるのかちょっと分からない」

「武士の霊が、他の霊の首を取って、貴方の腰にぶら下げてるの!

 霊って、成仏出来ない者の無念の塊みたいなものだから、首を取られてもすぐには死なない。

 いや、元々死んでいるんだから、消滅しないと言った方がいいのかな。

 元々の無念の他に、理不尽に首を取られた苦痛の念を放ちながら、貴方の腰に下げられてるのよ」

 そりゃあ、そんなのを見てしまったら、顔面蒼白になるのもよく分かる。

「で?

 俺にどうしろって言うんだ?」

「どうにかして!」

「は?」

「そんなもの見せられる私の気分にもなって!

 私にはどうにも出来ないから、ユウキ君にどうにかして欲しいの!」

「そんな事言われてもなあ……。

 俺には見えないし、信じられないし」

「分かるよ。

 分かる。

 普通こんな事無いから。

 私も普通の霊なら黙っているつもりだった」

「……それもそれで酷くね?」

「でも、本当に目に余る……ひっ!」

「どうしたの?」

「その武士が、霊の生首で蹴鞠をしている……」

「……何それ」

「とにかく、その霊がどこの誰なのか、調べてどうにかして欲しいの。

 用はそれだけ。

 手助け出来るならするけど、それが何者なのか分からない以上、今はどうする事も出来ない」

「陰陽師の子孫なんだろ?

 そういう能力が有るんじゃない?」

「陰陽師を誤解しないで。

 私のとこは、単なるカレンダー職人なんだから!」

 彼女のその能力は陰陽師由来ではなく、彼女特有のもののようだ。




 一方的に言われ、何が何だか分からないが、何かの勧誘とかもなく、どうにも消化し切れない感情のまま、研究室を出る。

「こういう時は気分転換が必要だな」

 彼は弓道のサークルに入っていて、4回生の今も籍はある。

 気晴らしに矢でも射ようと顔を出した。


 的には当たるが、端の方ばかりである。

 久しぶりだから仕方ない、そう思っていると、頭の中に声が響く。

『あな心憂し。

 むげに弓馬の道を心得ず』

 そして、身体に何かが乗り移ったような感覚があった。

 そんな状態で放たれた矢は、的のど真ん中に命中した後、それに深く突き刺さり、そこから的は裂けてしまった。

「皆川さん、スゲー。

 いつそんな事出来るようになったんですか?」

「普通、的が壊れるとか有りませんよ」

 感心する後輩たちを他所に、ユウキはさっきまでの話を思い出していた。


(確かに何かが取り憑いてる。

 俺、ヤバいかもしれない……)


 この武士が何者か、調べないと気が済まなくなってしまった。

このジャンル初の挑戦です。

(ジャンル違いなら引っ越します)

19時に第2話をアップします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一目見て、「これは面白そう!」と思い、 即座に「ブックマーク+☆5つ+いいね!」のコンボをさせていただきました。 [一言] ほうこうおんち さんの作品は、完結済みのものも連載中のものも、 …
[一言] 導入から名作の予感!! 今作も楽しみにしております。
[良い点] 鏃、鎌倉武士、剛弓ときて、さぞや名のある武士の霊だと見受けられますね。 [気になる点] 幽霊の首を落としたり、首で蹴鞠をしていたりと身の毛もよだつ光景に相違ありませんね。 [一言] 鎌倉武…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ