第7話
前回までのあらすじ……レッドルビーをブラッドルビーへと変え、ブラッドルビーに込められた闇の力を解放。そして魔王がついに姿を現す。
―――ブースターで村へ向かうリオナ達。だがリオナの魔力は村に到着するその前あたりで尽きかけていた。魔力が尽きた場合、その場で動けなくなるほど疲弊するのはわかっていた。
「ここで降りよう……よっと」
少し遠いが、ここからでも歩くには十分の距離だ。
「リオナちゃん」
エアリスから声がかかる。どうした?もしや足でも捻ったか?
「ごめん……リオナちゃん……あたし……あたし……」
大丈夫だよ、と声をかけ、
「心配になってるのは私も一緒だよ。エアリスちゃんと同じ気持ちだもん。でも、震えてるだけじゃだめなのは、その通りだと思うの。必要なのは、後悔しない選択の仕方なんだと思う」
「後悔しない……選択?」
エアリスの頭を撫でながら、俺は優しくこたえてあげる。
「そうだよ。いつもお母さんがそういってたの。後悔する未来を選んじゃだめだって。できる事を精一杯やるの。後悔はそのあとでいいって」
「後悔しない……私にできる事……」
うん、そうだよねとエアリスは呟く。
「あたし……後悔したくない。お父さん、お母さんに会いたい。会うためには……動き出さないと!!」
よかった、立ち直ってくれたみたいだ。
「その意気!そうときまれば、行こう、私たちの村へ!」
「リオナちゃん、あたしね、風魔法のフライ、つかえるの。さっきまでリオナちゃん、頑張ってくれたでしょ?だから……」
エアリスは目を瞑り、詠唱を開始する。
「……“フライ”!」
足元の魔法陣から風が巻き起こり、エアリスは宙に浮く。
「つかまって、リオナちゃん!」
うん!とうなずき、しっかりとエアリスに摑まった。
「待ってて、お父さん、お母さん!!」
バシュンッ!
風を巻き起こし、俺たちは村へと急いだ。胸騒ぎがいまだ収まらぬまま―――。
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―――村へと近づくにつれ、血のように赤く染まる空が、リオナにも確認できるようになった。
なんだ……あの空……!?
しかもなんだか、悪寒というか……肌がピリピリする感覚がある……。これ以上近づくのはヤバイっていうか……そんな感じが。
「つ……うッ……」
エアリスも感じ取っているようだ。これ以上近づくのは……
「リオナちゃん……!
あたし頑張る……がんばるから……その手を離さないでね」
……エアリスの気持ちを信じよう。エアリスも、俺を信じてくれているんだ。
だが、俺達二人の表情は少しずつ絶望により険しくなっていく。
ガーディアンズ、そしてさっき見たヘルハウンド、みたことない魔物……それらがそこら中に倒れて絶命している。
……村の住民や子供たちも……。
「エアリス、あそこ!あそこの人、まだ生きてる!」
エアリスに指示し、生きている人に声をかける。
「どうしたんですか!?しっかり!」
ガーディアンだろうか。
必死に声をかける。ひどいケガだ。
だけどギリギリ急所を外していたのか。
しかし出血が……。
「き、きみたち……こんなところにいちゃだめだ……早く逃げ……」
絞るように声を出して俺達に忠告する。くそっ、せめて止血だけでも!
俺は自分の着ている上着の裾をビリビリっと破ると、出血している箇所に巻き付け応急処置を行っていく。
「や、やめるんだ……そんなことをしても……ヘルハウンドが血の臭いを嗅ぎつけ、確実に殺しにくる……君たちだけでも生きてくれ!」
力んだことで傷が痛んだのか、痛みを堪えている。
「教えてください!お父さんは……ガイ・レッドハートは無事なんですか!?」
ガイの名を出すなり、ガーディアンはハッとなる。
そうか、君が……とつぶやき、少し考えて、ぽつぽつ話はじめる。
「君のお父さんは、戦っている。ど真ん中で、凶悪な魔人と戦っている。……いいか、絶対に近づいちゃ駄目だ。君たちだけでも逃げてくれ!逃げて……」
ワォーーーン……
「まずい!!早く逃げろ!!ヘルハウンドに感づかれた!ここは僕がひきつけるから、早く!!」
「あっ……」
俺達の返答を待たずして、ガーディアンはヘルハウンドへと向かっていった。傷だらけの体に鞭打って。
くそっ……あんな傷じゃ……。
グイッと突然俺の服が引っ張られる感覚がした。
「リオナちゃん……ごめん……あの人には逃げろって言われたけど……お父さんお母さんに会いたいの……」
気持ちはわかる……俺も会いたい。
「……だめ。これ以上は危ないんだよ。あの人も、傷だらけの状態で、私達のために体を張って」
「リオナちゃんは、会いたくないの!?」
エアリスが大粒の涙を流し俺に訴えかける。会いたいさ。会いたいさ!
「会いたいに決まってるよ!!私だって、私だって!」
わなわなと震える拳を抑えようとするも、止まらない。目頭だって熱くなってきた。
ハッとなったエアリスが、涙を拭き、呟いた。
「……ごめん……リオナちゃん……ごめんなさい!!」
言い切ると同時に、エアリスが自分の住んでいた家の方角へ走り出してしまった。
「エアリスちゃん!!だめ!!」
溢れてしまった涙を拭い、エアリスを追いかける。シフトアップを使えば追いつけるのだろうが、魔力がもうほとんどない。動けなくなってしまえば、それこそ終わりだ。
―――運よくヘルハウンドに見つかることもなく、エアリスの家にたどりつくも、家が半壊し、火の手も上がっていた。
「おどうざん!あがあざん!!どこ!?」
エアリスは涙ながらの声で大きく呼びかけている。
俺も必死にあたりを捜索する。
と、家の周辺より少し離れたところで二人の人影らしきものが倒れてるのが見えた。少し暗いが、あの服や容姿は、間違いない!!
「エアリスちゃん、あそこ!!」
指をさすと、エアリスはすぐさま二人のもとへ駆けつける。
「おどうざん!……おがあざん!!」
体を揺らし、必死の声で呼びかける。
……だけど、反応が返ってこない。
……俺は二人の脈拍を調べる。
…
……
………
「……動いて……ない……」
サー…ッと俺の顔から血の気が引いた。
しかも、二人の体が既に冷たくなっている。少し痩せているようにも見える。斬られた跡や噛みつかれたあとがあるのに、血液が少しも出ていない……。それなのに!
「……嘘」
ワナワナとエアリスは体を震わせる。
「嘘嘘嘘嘘!!リオナちゃん、嘘言わないでよ!!やめてよ!!そんな……」
エアリスはさらに父と母の体を揺らし、悲痛な声をあげる。
「ねえ!お父さん!お母さん!!ねえったら!ねえ!!ねえ!!」
涙で自分の服がびしょびしょになるほど、エアリスは泣き腫らしている。
……どうしてだ……惨すぎる……こんな現実……エアリスにはあまりにもひどすぎる!!
グルルルゥ……。
奥の方から、獣の声がした。まさか、ヘルハウンド!?
エアリスは泣くのをピタリとやめ、ゆっくりと立ち上がる。
「あんたたちが……あんたたちが来なければ……
うあああああああッ!!」
襲い掛かるヘルハウンド。まずい!!間に合わない!
しかし、エアリスの風魔法、エアの詠唱が間に合い、ヘルハウンドへと風の刃が放たれる。
いや、詠唱などしていなかった。まさか無詠唱!?
「みんな死んじゃええええええええ!!」
エアが次々と無詠唱で放たれる。もはや無差別に、四方八方に放っておりあまりに危険な状態だった。
「エアリスちゃん、だめ!!……くぅ」
「があああああああ!!」
……俺の声が……届いてないのか?!
―彼女の綺麗な茶色の髪の毛が、風の属性を現すかのように緑色へ変化していく。
胸元のアクセサリーが割れた音がすると同時に、耳が長くなる。
瞳も、青色から金色へ変化していく。
彼女のその見た目はまるで―――。
「エルフ……?」
読んでいただきありがとうございます!
エアリスはどうなってしまうんでしょうか!次回へ続きます!