89話 珍道中
朝になりました。
今日もすがすがしい朝です。
朝焼けが綺麗。
結界は風も防ぐようで、テントは飛ばずに済みました。
テントいらなくないですか?
でもテントがないと、私の寝顔が丸見えなので、テントはあった方がいいですかね。
というか、テントの張り方、もっと上手にできませんか?
リディさんは旅慣れてるはずですよ。
リディさんでも、こんなに大きなテントは張ったことがないということでしょうか?
彼は座ったまま、熟睡しています。
見張りの意味は?
というか、結界を張っているなら見張りは必要ないのでは?
・・・言いませんよ。
だっていっしょに寝たくはありませんから。
彼を起こして、私は歩き出します。
「あれ? 朝食はないの?」
昨夜で持ってきた食料は無くなりましたけど?
「あー。 食べ物がないのか。 取ってくるよ」
彼は消えました。
また城に戻って補充してくるのでしょう。
ちょいちょい城に帰る旅って、何なんでしょうね?
彼が戻った後、朝食を食べて、歩き出しました。
今日で3日目ですか。
というか、もう3日もお風呂に入ってませんけど。
あ~お風呂に入りたい。
せめて水浴びでも。
彼はもっとひどいでしょう。
黒のフルメタルアーマーを身に着けているのですから。
汗がすごいです。
・・・近寄りたくありません。
彼は鈍感です。
私しか見えていませんが、私の気持ちには気づきません。
もう3日です。
旅立ってからじゃありません。
お風呂に入ってない日数です。
・・・同じかもしれませんが。
無言で歩き続けて、すでにお日様は高いところにあります。
振り返ると、まだ城は見えています。
こんなペースで歩いていたら、目的地に着くのはいつになることやら・・・
そういえば、どこに向かっているんでしょうね?
私は地理とか何も記憶にないので、ここがどこかもわかっていないのですが。
「そろそろ狩りに行ってきます。 君はここで待ってて」
そういうと彼は私の周りに結界を張ります。
結界の中は無風なので、あまり居心地がよくないんですけどね。
文句は言いません。
彼は私のためを思って、やってくれているのですから。
人の好意に文句をつけてはいけません。
ただ、彼の好意はズレてるんですよね。
子供のやることだから仕方ない、と自分に言い聞かせてます。
彼が小さな弓矢を持って、どこかに消えていきました。
狩場を変えるみたいです。
そりゃあ、この辺りの大草原では何も取れないでしょう。
まだ彼は一度も狩りを成功していません。
魔物を倒すほど強いのに。
何で慣れない弓矢を使うのでしょうか?
魔物を倒すよりも動物を狩る方が簡単だと思うのですが。
素人考えなのでしょうか?
というより、狩りは弓矢でなきゃダメだとか思っていませんか?
日が傾いたころ帰ってきた彼は・・・手ぶらでした。
今日もダメだったのですか。
・・・はあ。
美味しいお肉、食べたかった。
仕方がないので、今夜はお城で保存してある狼肉で我慢しましょう。
まずは彼を労ってあげましょうか。
《狩りは明日、また頑張りましょう》
がっくりうなだれている彼の頭を撫でてあげます。
「はいっ!!」
いい返事です。
《じゃあ、帰りますよ》
「はいっ!! い、いや・・・でも・・・」
私は彼を睨みます。
《帰って食事をして、お風呂に入ります》
彼はなかなか返事をしません。
あなただって、本当は帰りたいんでしょ?
《私が汚れたままでも構わないというのですか?》
「あ・・・」
《あなたも相当汚れてますよ》
彼は私の念話にハッとした後で、自分の臭いを嗅ごうとしています。
フルメタルアーマーを着たままではわからないでしょうに。
そのことに気が付いた彼が、上半身の鎧を外したところ、
もわっ・・・
私は思わず鼻をつまみました。
狩りで相変わらず動物を爆発させていたのでしょう。
彼の体臭と動物の返り血の臭いが混ざった、物凄い悪臭です。
彼でさえも自分の体臭に咽ています。
「げほっ、げほっ・・・すみません・・・」
・・・自分の体臭に、そんなに咳き込む人を初めて見ました。
記憶はありませんが。
《さあ、帰りますよ。 あなたは先にお風呂に入りなさい。 私はその間に食事の用意をしますから》
「え・・・いいの?」
彼は驚いたように私を見ます。
《そんなくさいままで、私の料理を食べる気ですか?》
さらに彼が驚いています。
自分の臭いを嗅いでは咽ていました。
そんなにくさかったら、料理の味もわからなくなるでしょ?
はあ・・・
本当に鈍い人・・・
彼の能力で3日ぶりに城に戻りました。
すごく懐かしい感じがします。
たった3日なのに。
彼をお風呂に追いやり、私は厨房で食事の準備です。
狼のお肉は保存庫に入っています。
保存庫も魔道具で、中のものは魔力がある限り腐ることはありません。
原理とかはさっぱりわかりませんが、これも初代王が作ったとか。
初代王って、本当にすごいお方だったんですね。
改めて尊敬します。
できた料理はいつものドームの部屋に持っていきます。
先に食べるのは申し訳ないので、一応は彼を待つことにしましょうか。
しばらくしてから、彼が現れました。
「探しちゃったよ。 何で食堂で食べないの?」
ここがいいからに決まってるじゃないですか。
私はこの部屋が一番好きで、落ち着くんですから。
それよりも気になることが。
《ちゃんとお風呂のお湯を入れ替えたんでしょうね?》
ハッと驚く彼の顔。
・・・やっぱり気が利きませんね。
自分がどれだけ汚れてたか、気が付いてなかったのかしら。
「す、すぐに入れ替えてきます!」
彼は走って扉から出ていきました。
彼は急ぐ時ほど、何故か走ります。
自分の能力の方が早そうなのに。
そして、またもや扉は開けっ放しです。
・・・学習しないですね。
「先に食べてて!」
遠くから彼が言ってるようです。
念話として届きました。
・・・少しは学習しているようです。
食事の後、彼にお風呂を沸かしてもらい、お風呂に入ります。
は~、極楽極楽。
今日はお風呂に香りのいい果実を入れました。
育ちすぎて食べられない果実を入れてみたんです。
大正解。
気持ちいい~♡
「よし、お風呂も入ったし、戻ろうか」
彼はフルメタルアーマーに着替えていました。
はあ?
これから寝に戻るんですか?
寝るだけなら、このまま城のベッドで寝ればよくないですか?
戻るって言ったって、まだテントも立てていないんですよ。
外はもう真っ暗なのに。
《この暗闇の中で、あなたはテントを立てるんですか?》
彼は驚いています。
気が付いていなかったみたいです。
3日ぶりにベッドで寝ました。
やっぱりベッドがいいですね。
ついこの前まで苔むした石畳で直接寝ていたはずなんですが。
翌朝、私たちは昨日の場所へ行きました。
まだ草原は超えていません。
でもお風呂に入って、ベッドで寝て、リフレッシュできました。
彼は大きなリュックを背負い、
「さあ、行こうか」
と歩き出します。
彼も元気を回復できたみたいです。
というか、こんなに頻繁に城に戻るなら、大きなリュックなんていらなくないですか?
その日の夕暮時、彼が野営の準備を始めたので、
《帰りますよ》
と念話しました。
「え~っ 今日も帰るの?」
彼は不服そうです。
でもあなたの能力で簡単に城に戻れるんですよね?
あなただって、忘れ物を取りにちょいちょい城に帰ってるじゃないですか。
こんな壊れそうなテントでお風呂に入らずに寝るよりも、城に戻って食事して、お風呂に入って、ベッドで寝た方が疲れも取れますよ?
めんどくさいから説明しませんけど。
それくらい気づかないのかしら?
《帰ります!!》
「・・・はい」
渋々と言った感じの返事です。
あなただけ一人で野営してもいいんですよ?
・・・かわいそうだから言いませんけど。
代わりに頭を撫でてあげます。
彼は嬉しそうです。
翌日は旅に戻らずに、溜まっていた洗濯と、畑の世話をしました。
たった4日なのに洗濯物が山のようです。
ベッドのシーツも洗濯です。
3日ぶりにベッドで寝たときに、ちょっとカビ臭かったんです。
今度から、自分の洗濯ものは彼に自分でやってもらいましょう。
彼のは特に臭いがひどいですから。
畑も雑草がたくさん生えてます。
草取りも彼にやってもらいましょうかね。
翌日から私たちの旅はこうなりました。
城での朝食のあと、厨房で食器を洗ってから前日の位置に戻って歩き、夕暮れに城に戻り、お風呂、夕食、ベッドで寝る。
5日目は城で、洗濯、掃除、畑仕事、旅はお休み。
結構、快適な旅になりました。
・・・旅と言えるのでしょうか?
ようやく大草原を抜けて、森が見えてきました。
もう2季になりますかね。
暑くなってきました。
暑い時期でも、日陰の多い森なら歩くのも悪くありません。
森には動物がたくさんいるはずです。
そろそろ狩りを成功させましょう。
たまにはかっこいいところ、見せてくださいね。
言っておきますが、好きになることはないですよ。
私にはサラン様という一生を捧げた人がいるんですから。
・・・美味しいお肉が食べたいんです。
ムラキはまだリディの体に慣れていません。
他人の体臭のように感じてしまうので、咽てしまいます。




