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異世界でオッサンは勇者になれるか?  作者: 高戸 賢二
5章 異世界人形ムラキ
53/229

53話 スカーダイ脱出(挿絵付)

挿絵付です。

挿絵と言っても大した絵ではありませんが。



リディたち一行は地図を頼りに城から出ようとしている。

アーチャの捜索依頼の時に、フェイモスの宰相ベベルから渡された地図が役に立っていた。

リディは、なぜフェイモスの宰相がスカーダイ城の地図を持っているのかわからなくて、地図を受け取ったときに宰相に直接聞いている。

宰相の話によると、近隣5か国のうちクリューガー城を除く4つの城の構造はほとんど同じだということであった。

おかげでここまでの脱出は思った以上にスムーズだ。


あの人形は転移に近いものを持っている。

どこまで逃げれば安全なのかはわからないが、とにかくできるだけ遠くに逃げる必要があった。

ケンジィが人形を足止めしている。

ケンジィを信じていないわけではないが、魔力の大きさが天と地ほど違う。

リディはスカーダイで魔物も人も爆散していくのを直接見ている。

例えケンジィと言えども、足止めは長くない。

リディはそう感じていた。


レイラも不安を募らせる。

あの人形の異常さは、実際に戦ったレイラがよくわかっている。

ケンジィは自分と違って、あの人形を撃退した。

しかし、万が一・・・

ケンジィのことは信じているが、万が一もしものことがあったら・・・

不安が頭から離れない。

もしもケンジィがいなくなったら。

もしもケンジィが死んでしまったら。

自分はどうなってしまうのだろうか?

レイラは自問自答するが答えは出ない。


今回のレイラの不安はいつも以上だ。

嫌な予感が頭から離れない。

レイラの場合、確信に近い「勘」なのだが。

その勘がずっとレイラに警鐘を鳴らしていた。

自分が不安がると、他の3人が心配する。

特にアーチャは戦えないお姫様だ。

アーチャを不安がらせるわけにはいかない。

わかってはいるのだが、レイラは不安を隠せないでいた。

《ごめんなさい。 アーチャの方が不安だよね。 戦えないんだから》

《いいえ、あなたたちに助けてもらって感謝してます。 城から出るなんて、考えもしなかったから。 今はちょっとワクワクしてます》

そう言ってアーチャは微笑むのだった。


今の状況がワクワクなんて、レイラには考えられない。

アーチャの2年間というのはなんだったのだろうか?

記憶を失くし、何もない空虚な2年間だったのではないだろうか。

レイラは自分に置き換えてみる。

・・・耐えられない。

ケンジィがいなくなるのも怖いが、ケンジィを忘れてしまうなんて、もっと考えられなかった。

アーチャには好きな人がいるのだろうか?

アーチャは記憶を失くしている。

好きな人の記憶も失くしてしまったのだろうか。


レイラは心の底からアーチャを助けたいと思った。

恐れるだけじゃなく、とにかく今できること、しなければいけないことに全力を尽くそう。

微笑むアーチャを見て、レイラは決意を新たにするのだった。


レイラの纏う空気が変わったことに、リディもヘレンも顔を合わせて頷いた。

ケンジィがいないだけで、レイラがまさかこんなにも脆くなるとは思ってもみなかったのである。

このまま敵に出くわしたら、きっとレイラは脅えたまま何もできずに殺されるだろう。

そんな覚悟すらしてたほどだ。

特にヘレンは城を出た辺りから、魔力を持った視線を感知していた。

何事もなく街を出られるとは思えない。

敵がどこでどこから仕掛けてくるか、頭を働かせていた。


リディは覚悟を決めていた。

この家族とも言えるチームのリーダーである。

自分がアーチャを連れてここから出るという判断に責任を持っていた。

愛するヘレンはもちろんのこと、妹分のレイラ、救出対象のアーチャ、この3人は何があっても殺させない。

例え自分の命を失くすことになっても3人を守りきる覚悟でいた。

フェイモスで防具を新調できたのは幸運だった。

オレはツイている。

自分に言い聞かせるリディだった。


アーチャにとって、レイラをはじめとした一行はすでに恩人と呼ぶに等しかった。

アーチャにはドーム状の部屋に住んでいた2年の記憶しかない。

それより前のことは2年前の事件により喪失していたからだ。

20歳にして諦めていた空虚な人生に、希望をもたらしてくれたレイラたちには感謝しかない。

その気持ちはこの逃亡劇が失敗に終わっても変わらないだろう。

この人たちは自分のために命を懸けてくれているのだ。

自分なんかのために。

アーチャは自分の名前しか覚えていない。

声も音も失ってしまった。

この国の姫だったという事実は理解していても、国がない今となっては何の意味もない。

自分の価値を見いだせなかったアーチャを守る人がいるなんて想像もしていなかった。

私のためにこの人たちを死なせるわけにはいかない。

例えまたドーム部屋の生活に戻るとしても、それはゼロに戻るだけなのだ。

マイナスではない。

アーチャもまた覚悟を決めていた。


城門から街に出たところで、ヘレンの足が止まった。

ヘレンの視線は街の建物の一角に向いている。

視線の先に向かって、レイラが火魔法を放った。

それが開戦の合図だった。

ヘレンが見ていた建物よりはるか遠い街角から、数十匹のネズミがレイラたちの元に向かってきていた。

「魔獣よ!!」

ヘレンの叫びに呼応するかのように、レイラは前線に飛び出し、リディはアーチャを自分の背後に隠す。

ヘレンはリディの前に立った。

この戦いはアーチャを巡る戦いであることを3人とも理解していた。


「・・・火炎剣!」

レイラはドラゴンスレイヤーに炎を纏い、鼠魔獣を次々と火達磨にしていった。

レイラの攻撃を掻い潜った鼠魔獣も、ヘレンの槍によって体を貫かれている。

まだリディは攻撃も防御もしていなかった。

これなら強行突破できる!

リディがアーチャの手を引こうとしたとき、城から外壁の門に通じる大通りの真ん中に青く光る丸い模様が浮かび上がった。

「魔法陣!?」

ヘレンが呟くと、丸い模様の中心から眩い白い光の壁が噴出した。

白い光の壁は、徐々に実体化していく。

魔法陣から出現したのは大きな観音扉。

扉が左右に開きだし、中央から光と煙が噴き出した。

「て、転移門・・・」

ヘレンの言葉にリディは強行突破を諦めた。

魔王軍の本拠と繋がっていると言われている転移門。

あのときと同じだ。

リディとヘレンに悪夢がよみがえる。

「気を付けて! その門から魔王軍がやってくる!!」

ヘレンが叫ぶとリディは槍を構え、アーチャと共に転移門から遠ざかろうと後ずさりする。

レイラは鼠魔獣の掃討をやめ、ヘレンの隣でドラゴンスレイヤーを構えた。


転移門の扉が完全に開き、中から人型の影が次々と浮かぶ。

人型ではあるが、人間でないのは明らかだ。

大きく異形な人型の影は、転移門から出ると姿を鮮明にする。

狼、虎、牛、馬・・・それらは頭部こそ動物だが、二足歩行で手には剣を携えていた。

獣人ライカンスロープ・・・!」

獣人が数十体、転移門から現れる。


敵が出揃うのを待つ必要はない、とばかりにレイラは大規模爆炎魔法の呪文を唱える。

「・・・フレイムボム!」

マグマのような粘性を持った炎が5つ、レイラから放たれた。

転移門の正面、左右、上、そして裏からもマグマ状の炎が襲いかかる。


ドドドッドカ~~ンッッ!!!


飛び散る獣人の手足や肉片。

今の攻撃で十体足らずの魔物を仕留めることができたか。

しかし転移門には傷一つついていない。


「ずいぶんと威勢のいい姉ちゃんだな~」


転移門から大きな声が聞こえた。

転移門の中から一際大きなシルエットが浮かぶ。

リディとヘレンには見覚えがある影。

フェイモス付近で倒した熊魔獣と同じくらいの大きさだが、溢れる魔力、質量を伴った筋肉、頭と肩口から生えた角、どれをとっても高位の魔物だと全員感じた。

大きな影は転移門から足を踏み出し、全容を露わにする。


挿絵(By みてみん)


「魔王の言うとおりにしてみれば、禁式の生き残りを見つけられるとはな」

「そこは獣竜様、『魔王様』か『魔王陛下』と呼ぶべきか、と」

大きな魔物の隣にいる小柄な黒いライオンの獣人が窘めるように言った。

小柄と言っても、人間として大柄なリディよりも大きいのだが。

「あ? 魔王は魔王だろ? いいじゃねえか、何でも」

「そんなだから獣竜様はいつまで経っても側近になれずに前線なんですよ」

「魔物は戦ってナンボだろ? いいじゃねえか。 黒獅子は細けえな」

「はあ・・・ 獣竜様には敵いません」

獣人もリディたちも、獣竜と呼ばれる巨大な魔物と黒獅子との会話に動くことができないでいた。

人語を離す魔物は、ほぼもれなく高位の魔物だ。

知能が高いことを意味する。

この獣竜がここの指揮官であることをリディたちは認識した。


リディの心が再び折れそうになる。

しかし、今は守らなければいけない人がいる。

命を失っても守ると決めたのだ。

リディは必死に折れそうな心に抗う。

心が折れるのは死んだあとだ。

自分に言い聞かせた。


「さて・・・そこの禁式の生き残り。 魔王の頼みだ。 命をもらうぞ」

獣竜はアーチャを指差した。

「そこは獣竜様、『魔王様の命令』というべきか、と」

「黒獅子はいちいちうるせえ! 俺様に命令できる奴はいねえんだよ!」

「はあ・・・ 獣竜様・・・ もう好きになさってください」

「おう! 俺様はいつでも好きにしてるぜ」

獣竜と呼ばれる魔物は、隙だらけにしか見えない。

先ほどから戦闘中にはあり得ないほどの無駄話をしている。

それでもレイラは動けない。

(強すぎる)

レイラが獣竜を見た時に感じたすべてだった。

魔王軍の幹部とはこれほどまでに強いのか。

せめて、ケンジィがいれば・・・

レイラは首を振った。

(ケンちゃんに頼ってばかりいられない!)


レイラは意を決して飛び出した。

ここの司令官は、あの「獣竜」だ。

獣竜さえ倒せれば、この場を凌ぐことができる。

「・・・雷撃剣!」

レイラはドラゴンスレイヤーに雷撃魔法を纏わせ、獣竜に襲いかかる。


ガキィィィッッ!!


レイラの剣を受け止めたのは黒獅子だった。

レイラを見て、獣竜が言う。

「ん? お前は・・・ そうか! 爺のやった禁式の生き残りじゃねえか!」

「だから、何?」

「爺が見逃してんだから、何かあるとは思ってたんだが・・・なるほどねぇ!」

レイラは後方に飛び退きながら、獣竜に問う。

「どういうこと?」

「なあに、姉ちゃんには関係のねえ話だ。 いや、あるか? 姉ちゃん、今ここで死ぬか?」

獣竜の目に殺気が籠る。

レイラは平然と正面から受け止めた。

「ほお・・・やるねえ・・・」

獣竜がニヤリと笑う。

意識ごと刈り取られそうな獣竜の殺気を、何故レイラが受け止められたのか、レイラにもわからない。

事実として、レイラは獣竜の殺気を受け止めた。

何かを考えたわけではなかった。


「見せかけだけじゃねえといいけどな」

獣竜の肩の角が光り、雷撃がレイラに放たれた。

レイラは横っ飛びで雷撃を躱す。

かつて勇者ゼゼルを死体も残らない灰にした雷撃だ。

「お前ら、それなりに腕が立ちそうだな。 ちょっとは楽しませてくれよ!」

獣竜の言葉に、動きを止めていた獣人たちも攻撃を開始した。


4人はそれぞれの覚悟を胸に、魔王軍との戦いに挑もうとしていた。



獣竜はべヒモスです。

とはいえ多少のオリジナルは入れましたが、なかなかかっこよくはならないものです。

モンスターは難しい・・・

ゲームのデザイナーさんを尊敬します。

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