44話 モノづくり
俺たちはクリューガーの片隅で野営をしている。
ヘレンが言うには魔獣は今のところ近くにはいないらしい。
正直疲れた。
リディとヘレンは俺以上に疲労の色を見せている。
レイラだけが元気いっぱいだ。
レイラが火蜥蜴の肉で料理してくれている。
魔物も食べられるのか。
元が動物ではないので、味はあまりしないらしい。
代わりに魔力、体力の回復は大きいので、今の俺たちにはごちそうだ。
レイラの味付けなら間違いない。
レイラは土魔法で、大きな竈と鍋を生み出した。
野菜抜きの火蜥蜴肉鍋。
略して火鍋。
食器類は街の焼け跡から使えそうなものを拝借し、洗って使っている。
今回もメチャ美味だ。
「まいう~」と言いたくなる。
魔力体力が漲ってくるのがわかる。
火蜥蜴は綺麗に解体して、分別してある。
ヘレンはこういったことも得意である。
ヘレンの指導の下、みんなで手分けして火蜥蜴を解体した。
角や牙はもちろん、革も骨も爪もあらゆるところが貴重部材だ。
肉は食糧というか滋養強壮剤になるし。
問題はこれだけ大量の部材をどう持ち運ぶかということだ。
元々7.8mはあった巨体だ。
捨てていくのはもったいない。
何かいい方法はないかな。
食事しながらヘレンに相談してみた。
「旅をしているときに、自分で持ちきれないほどの獲物はどうしてたんだ?」
「持ちきれないものは、普通は捨てていくわよ。 でも今回はね・・・」
魔物なんて普通は狩れないからな。
火蜥蜴の革で作った革ジャンと革ズボン、革の手袋と革のブーツで火耐性はかなり高くなるはずだ。
軽くて防御力の高い服が出来そうだ。
角や骨も剣や槍などの武器に加工できそうだし、牙だって俺のスティレットにしたいぐらいだ。
ラノベにあった、アイテムボックスが欲しいところだな。
空間魔法でなら何とかなるのだろうか。
「明日は荷車でも作ろうか? ここでなら荷車の材料は揃いそうだし」
リディが提案してきた。
作るときたか。
面白そうだ。
モノづくりの血が騒ぐ。
「設計図はあるのか?」
「せっけいず? 何だいそれは?」
設計図を知らない?
困ったな。
俺が書くか。
どうせならベアリングとサスも欲しいぞ。
う~ん・・・紙と書くものが欲しいな。
あ、そうだ。
「火蜥蜴の部材の中で、あまり使われない物とかあるかな?」
「そうね・・・目玉とか内臓、脳とかはあまり使われないかもしれないわ」
ヘレンが答えてくれた。
「よし。 レイラ、鉄の桶を魔法で作ってくれないか? 火蜥蜴の不必要部材を入れるから」
「そんなものを入れてどうするの?」
「ちょっとクリューガー村まで行ってくる。 クレアに部材のお裾分けだ。 ついでに報告と紙と書く物を貰って来るよ」
ラノベとかだとドラゴンの目玉は貴重なモノだってよく言うしな。
クレアなら有効に使ってくれそうだ。
食事の後、俺は早速時間停止でクリューガー村へと飛ぶことにした。
まだ夕暮れだ。
一応クレアに念話しておこう。
《クレア、聞こえるか? 今からそっちに行く》
《今からですか? 急ですね》
《報告とお土産がある。 楽しみにしててくれ》
暗くなる前に行かないと、道がわからなくなるからな。
急ごう。
クレアと念話したおかげで、大まかな方向がわかる。
大きなバケツを持ち、俺は時間停止をした。
それにしてもレイラが魔法で作った鉄の桶だが、見事なまでに俺のよく知っているバケツだった。
クレアにはいろいろ聞きたいこともある。
特に部材加工の魔法と、部材が腐らないような保管の魔法はぜひ知っておきたい。
何となく理屈はわかるんだけどな。
クリューガー村の広場に着いた。
夕暮れどきだというのに静かだ。
村人が・・・いない?
クレアの気配はあるが。
フェラリーは?
フェラリーの部屋に行ってみよう。
時間停止でフェラリーの部屋に飛ぶ。
あ・・・!!
フェラリーの裸を見てしまった。
・・・湯浴みが終わって着替え中だったようだ。
ごめんな、フェラリー。
これは無かったことにしよう。
バレたら後が怖い。
クレアの部屋の前でスキル解除をした。
扉をノックして「クレア、入ってもいいか?」と尋ねる。
「カギは開いています。 どうぞ」
無事に許可を得た。
「お土産だ。 火蜥蜴の目玉とか内臓が入ってる。 クレアなら有効活用してくれるかと思って」
「火蜥蜴ですか? それは貴重ですね」
俺はクリューガー王国での出来事を報告した。
魔蟲に襲われたこと。
火蜥蜴と戦ったこと。
そして・・・
「祖竜が現れたんだ・・・」
しかしクレアは俺が思ったほど驚いていない。
「どうせ戦わなかったんでしょう? アイツの行動はだいたいわかりますから」
クレアの言うとおりだった。
祖竜は俺たちを襲いに来たわけではなかった。
火蜥蜴を始末しに来たのだ。
魔王軍というのは人間も襲うが、今回の火蜥蜴のような天然の魔物も襲うらしい。
祖竜は詳しいことは話さなかったが、魔王軍というのが治安維持軍のようなイメージを受けた。
人間だってむやみやたらに襲っているような感じではない。
明らかに魔王には意図がある。
魔王は倒すべき敵なのか?
「だから言ったでしょう?《それを見つけるのもケンジィたちの目的の一つです》って」
クレアに同じ言葉を言われた。
祖竜が不機嫌だったのは、自分の獲物を横取りされたからだ。
八つ当たりで暴れ出さなくてよかった。
祖竜のヤツは、レイラも気に入ったようだ。
去り際に「そこなる『ケンジ』と共に歩むがよい。 さすれば失ったものも取り戻せるやもしれんからのぅ」と言われたのが、余程嬉しかったようだ。
祖竜まで俺とレイラをくっつけたがっているのか?
アイツ、絶対に男と女とか、恋愛とかに関心があるようには見えないんだけど。
「気に入るはずですよ」
クレアがぼそっと呟いた。
あとはクレアに魔法のことを聞くだけだな。
魔法でいろいろなものの加工が出来れば、モノづくりは飛躍的に進歩する。
「それはですね・・・例えば水に魔鋼の粒を混ぜて、削りたい物を中で高速回転させれば、球体は簡単に作れます。 同じように・・・」
要は研磨剤で削るということだな。
俺でもできそうだ。
それから保管だ。
結界魔法が近いと思うんだが。
「それはレイラに念話で教えておきましょう」
クレアは本当に何でも知ってるんだな。
さて、暗くなる前に戻ろうかと思ったところに、フェラリーが入ってきた。
「ケンジィ!!」
フェラリーが抱きついてきた。
やべ、さっきの裸を思い出しそうになった。
煩悩退散煩悩退散。
何と綺麗な平城京、泣くよ鶯平安京、いい国作ろう鎌倉幕府・・・
フェラリーにそのまま頬にキスをされてしまった。
この娘は思った以上に大胆だ。
「レイラとはうまくやってるの?」
そこでレイラのことを聞くのかよ・・・
女心はわからん。
結局フェラリーが入ってきたことで、土産話に花が咲いてしまった。
ブランと出会ったこと。
クルガの民のこと。
クルガ馬のこと。
魚を食べたこと。
フェイモスの王が変わったこと。
「フェイモス王国にはこれから行くところだから、詳しいことはまた今度だな」
すっかり暗くなってしまったので、今夜は久しぶりに自分の部屋で寝ることにした。
ベッドで寝るなんて、本当に久しぶりだ。
そのことをレイラに念話をしたら、
《浮気者!! 外泊するなんて!!》
と拗ねられた。
浮気か!?
外泊か!?
言いたいことは山ほどあったが、余計なことは言わない方が良さそうだ。
「ごめんなさい」
素直に謝っておくことにした。
翌日、早朝に野営地に戻り、レイラのご機嫌をとり、早速荷車製作に取り掛かった。
荷台はリディとヘレンが街の瓦礫から使えそうな柱などを流用して組み上げた。
固定具は火蜥蜴の骨から削り出している。
火蜥蜴の骨は魔鋼の塊だから、丈夫だろう。
今回の肝はベアリングと板バネだな。
ベアリングはレイラにお願いした。
大量のパチンコ玉を作ってもらう。
大雑把に削り出した火蜥蜴の骨を、水と魔鋼の削りかすを混ぜた研磨剤に入れて、魔法で高速回転させる。
多少大きさはバラバラだが、似たような大きさのものを揃えれば、何とかなるだろう。
俺はベアリングの外輪と内輪を製作した。
板バネは長い骨が無かったので、文字通り木の板で作った。
耐久性に問題がありそうだが、次のフェイモス王国まで保てばいいのだ。
それならば、ここまでやらなくてもいいのだが、そこはそれ。
モノづくり魂に火が点いてしまったのだから。
工作好き男子として、そこは勘弁してほしい。
結局、荷車の完成に10日ほど費やした。
やっぱりモノづくりは楽しい。
リディも目が輝いていた。
ヘレンとレイラはちょっとうんざりしていたかもしれない。
そこは男子と女子なのかねえ。
完成した荷車だが、ところどころに不満は残るものの、概ね満足だ。
「いい仕事ができました」
現代技術として、板バネとベアリングを出しました。
ちょっと機械に興味のある人なら、構造ぐらいはわかりますよね?




