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異世界でオッサンは勇者になれるか?  作者: 高戸 賢二
4章 異世界道中膝栗毛

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39話 ケンジィ躍動

《ケンジィ! 助けて!!》

レイラの声だ!!

間違いない!!

レイラからの念話がハッキリと伝わった。


「レイラ、大丈夫だ! 今すぐ行くから、待ってろよ!!」

俺はレイラに念話を飛ばす。

俺は時間停止スキルを発動し、レイラの声を辿った。

不思議とレイラがどのあたりにいるか、なんとなくわかる。

レイラと何かが繋がったような気がした。


森の中の方へ飛ぶ。

すると見慣れないものが目に映った。

大きな磨りガラスの壁。

森の一角を囲うような箱形の大きな磨りガラスがある。

こんなの時間停止中に見たことがなかった。


中にレイラがいる!

直感的に理解した俺は、いつものように磨りガラスも抜けようとした。

ドンッ!

磨りガラスに行く手を阻まれた。

今まで時間停止スキル発動中に抜けられない場所なんてなかったぞ。

俺は上から横から何度も磨りガラスの中への侵入を試みる。

地面に潜って、地下からの侵入を図るも全部失敗した。

中にレイラがいるのに、中に入ることができない。


仕方なく俺は磨りガラスの周囲を回る。

どこかに穴とかないかな。

中の様子はぼんやりとしか見えない。

・・・いた!

レイラが磨りガラスにもたれかかって座っている。

俺はレイラのすぐ側に飛んだ。

時間停止中は中がよく見えないので、スキル解除をした。


磨りガラスは透明になった。

中がよく見える。

レイラが・・・酷い。

ボロボロじゃないか。

かわいい顔に傷がつき、鼻血も出ている。

体中も傷だらけ、腹からは大量出血の跡。

思わず叫んだ。

「レイラァーッ!!」

レイラを抱きしめようとするが、見えない壁にぶつかった。

さっきの磨りガラスか。

レイラは俺を振り返りながら見ている。

レイラが左手を見えない壁に這わせたので、俺も左手をレイラの左手に重ねた。

やっと見つけた。

一人でこんなになって、よくがんばったな。

涙が出そうになる。

俺は泣かないけど。


・・・許さん!!

俺の愛娘に何てことしやがるんだ!!

どこのどいつだ!?

俺の愛娘の敵は!!

・・・あいつか!


人間にも見えるが、肌は血の気がなく土色だ。

整った顔だが表情はなく、仮面にも見える。

マネキンに似てる。


「レイラ、大丈夫か? 動けるか?」

「・・・何とか。 動かないとやられちゃうよね」

レイラは痛みをこらえながら、生まれたての仔馬のように震えながら、見えない壁伝いに立ち上がった。

頼むぞ。

レイラが死んだら、俺がここに来た意味がなくなるんだから。

俺が中に入るまでは、がんばって避けてくれ。

「さあレイラ、脱出するぞ!」

「了解」

レイラが気丈に返事をした。


マネキンは俺たちを見ていた。

俺たちの感動の再会にあてられたか?

「日 誰だ? 日」

ん?

マネキンがしゃべった?

いや、今のは・・・日本語か?!

俺は耳を疑った。


この見えない壁は、体は通らないが中は見えるし音も聞こえる。

こちらの声も、マネキンに届くはずだ。

「日 お前は何者だ? 俺の娘に何してんだ? 日」

可能な限りドスを効かせた声を出した。

12歳の体は、まだ声変わりもしていないので、甲高く迫力もない。


マネキンは俺の方を向いている。

目も動かず、表情もないので何を考えているかはわからないが。

「日 君こそ何者なんだ? 日本人なのか? 日」

マネキンは口も開かずにしゃべった。

どういう原理で声が出てるんだ?

「日 常識を知らないやつだな。 質問をしているのはこっちだ。 まずはこっちの質問に答えろ 日」

マネキンは少し怯んだようにも見える。

俺の方が正論だからな。

「日 もう一度だけ言ってやる。 お前は何者だ? 俺の娘に何してんだ? 日」

「日 この女子が君の娘? 子供の君の娘なのか? 日」

「日 お前、頭悪いみたいだな。 質問に答えろ、と言ってるんだ。 日」

ヤベェ・・・イライラしてきた。

「日 頭悪い? 僕のことを頭が悪いと言ってるのか? 日」

・・・こいつ、社会人じゃないな。

会話が成立しない。


そういえば、ヘレンが 「スカーダイに現れた魔力と同じ魔力が微かに残ってる・・・」って言ってたな。

ひょっとして、コイツがそうなのか?

俺はレイラを見た。

レイラが並みの相手にボロボロになるはずがない。


怒りがさらに込み上げてきた。

「日 もういい。 お前は殺す。 日」

クレアからは「今回の目的はスカーダイに現れたという大きな魔力を持つ者の正体を掴むことと、可能であれば痕跡から殲滅してください」と言われてる。

ましてや俺の可愛いレイラをここまで傷つけてくれたんだ。

万死に値する。

「日 僕を殺す、だと? ふざけるな! 勝手にこんなところへ連れてきて、こんな体にしたくせに!! 日」

マネキンが怒り出した。

結局、俺の質問に答えてないじゃないか。

アイツ、まだガキだな?

・・・挑発してみるか?

「日 おい! そこのゴミ!! ショボいマネキンのくせに俺の娘に何してくれてんだ!? ゴラァ!? 日」

マネキンが俺を睨んだ。

「日 ゴミ? この僕を『ゴミ』と言ったのか? 日」

「日 ゴミが喋んじゃねえよ!! 生ゴミは消えろ!! くせえんだよ!! 日」

マネキンは怒っているようだ。


「日 この僕を生ゴミだと!? 消えるのはお前だ!! 日」

マネキンの手から俺に向かって魔力弾が放たれた。

レイラは避けたな。

アイツ頭に血が上っているのか、自分でやったことを忘れているようだ。

魔力弾は見えない壁に当たって爆散した。

当然、俺は無傷だ。

「日 アホんだらぁ!! てめぇで張った結界を忘れたのかよっ!! ゴミだから脳みそはねえのかぁ!! 日」

「日 うるさいっ!! 日」

マネキンから再び魔力弾が放たれた。

俺は時間停止スキルを発動させた。

かかった!

磨りガラスは無くなっていた。

俺は見えない壁はマネキンが作った結界だと予想していた。

それでハッタリをかましてみたんだが、見事に嵌ったようだ。

マネキンは結界を消して、俺に魔力弾を放ったのだ。


中に入れればこっちのものだ。

俺は両手にスティレットを持ち、マネキンへと飛んだ。

喰らえ!初見殺し!!

両手のスティレットをマネキンの両目にあてがった。

いつもの狩りといっしょだ。

スキル解除!


ドシュッ!!!


俺のスティレットがマネキンの両目を貫いた。

「日 グアアァァァッッッ!!! 日」

マネキンの悲鳴が森に木霊する。

悲鳴はこっちの言葉でもいいんじゃないか?

「日 目が・・・目が!! 日」

顔面を押さえて悶絶しているマネキンに、俺はスティレットであらゆるところを串刺しにした。

グサッグサッグサッグサッ・・・

「日 ゴミが!! とっとと消えろ!! 日」

マネキンに痛みなんてあるのか?

「日 うるさい!! 日」

マネキンの気配が変わった!

俺はひとまず距離を取った。

直後、マネキンが全身から魔力を放出した。

一歩遅ければやられるところだった。

危ない危ない。


「日 くそっ! 女子も道連れだ!! 日」

マネキンがレイラに小石を投げた。

大量の魔力を小石に注いである。

レイラに当たらなくても近くで破裂すれば、無数の破片がレイラを襲うだろう。

「レイラ!!」

レイラが力を振り絞って右に避けると・・・消えた!?

《キャアアアアァァァッッ!!》

レイラの悲鳴が頭に響く。

声の方向は・・・上?

「日 引っかかったな! あの女子はもう助からないよ。 ンフフフ! 日」

お前の思い通りにはさせない!

(時間停止!!)

レイラがいたところを見ると、一枚の磨りガラスがある。

声のする上へ飛んでみると、遥か上空に一枚の磨りガラスがある。

その下にはレイラの姿が!!


マネキンのスキルが読めてきた。

一つは結界。

これは確認した。

もう一つは空間と空間を繋ぐスキル。

ドアのない「どこ〇もドア」だ。

このスキルでレイラをここに飛ばしたのだろう。

空間を操るスキルってとこだな。

クレアが言ってた「空間操作系の固有能力」か。

俺の「時間操作系」と並ぶ、神や魔王が扱えるレベルの固有技能だったな。


そのまま俺はレイラの真下に移動した。

スキル解除して叫ぶ。

「俺を踏め!!」

俺よりレイラの方が落下が早く、俺を踏めば落下速を殺せるはずだ。

レイラの体重が俺にのしかかる。

「ぐえっ!!」

仰向けで解除したので腹を踏まれた。

レイラは俺を踏み台にして上に跳び、落下速を落とした。

これを何度も繰り返し、速度を落としながら落ちていく。

腹を踏まれるのはきついので、途中から腹這いになって背中を踏んでもらうようにした。

レイラがピンヒールを履いてなくてよかった。

俺にそんな趣味はない。


だいぶ地上が近づいた。

もう大丈夫だろう。

俺はレイラを抱きかかえる形でスキルを解除した。

「しっかり摑まってろよ」

俺時間巻き戻し!!

スキルを発動させると、レイラの体重も感覚も消えた。

このスキルを発動させると、俺の時間が逆になっているため周囲と干渉しなくなる。

くっついていたものが薄皮一枚離れ、お互いを認識しなくなる。

逆に言えば、離れていたものがぶつかろうとすると、お互いを干渉しないように薄皮一枚で止まってしまうのだ。

つまり・・・

地上にピタリと薄皮一枚開けて、止まるのである。


俺はレイラを抱きかかえ、ピタリと地上に舞い降りた。

ヤベ・・・

俺、かっこよすぎじゃね?

目の前のレイラを見ると、目がハートになってるよ。

まぁ娘に惚れられるのも悪くないよな。

呆然と立ちすくむマネキンを見た。

「日 くそっ! 覚えてろよ!! 日」

テンプレな捨て台詞を吐いて、マネキンは虚空へと消えた。

アイツ、見えてたんかな?


「・・・ありがと、ケンちゃん・・・」

レイラが顔を赤くして言った。

鼻血は止まったみたいだが、顔も頭も頬も傷跡がある。

血が乾いてレイラの顔を汚していた。

それでもかわいい顔だ。

俺はレイラを抱きしめた。

「多少傷ついたみたいだけど、レイラが生きててよかった」

レイラも俺を抱きしめ返す。

「レイラは俺の『宝物』だからな。 レイラのピンチにはどこからでも駆けつけるさ」

「ケンちゃん・・・♡」

レイラの顔が真っ赤だ。

あれ?

これって愛の告白?

そう言う意味じゃないんだって。

ふとレイラを見ると、レイラは目を閉じて口を細めている。

だから違うんだって。

俺はレイラの頭をポンポンした。

「傷を治す方が先だろ」

「・・・そうだね」

お前、相当痛いんだろ。

脂汗が出てるじゃないか。


レイラが自分に治癒魔法をかける。

俺もレイラに治癒魔法をかけた。

クレアに教わったシンクロ魔法だ。

レイラが内側から、俺が外側から治癒をすることで効果が倍増するとのことだった。

特に俺の魔力はレイラの魔力で補充したり増やしたことで、レイラとの親和性が高い。

傷一つ残らない、綺麗なレイラに戻してくれるだろう。


夜の大森林は暗闇だったが、夜目を強化して強行突破した。

夜の森が危険なのは承知しているが、二人でいれば怖いものなどなかった。

二人でいることを確認するように、俺たちは移動中ずっと手を繋いでいた。

暗闇を障害物だらけの大森林を高速で走っているのに、俺たちはお互いの手を

離さなかった。

俺とレイラが大森林を抜けたのは夜明け近くだった。


リディとヘレンは野営地で寝ないで待っていてくれた。

二人には心配かけたな。

あとでレイラといっしょに謝っておこう。

元々はレイラが単独行動をしたのが、いけなかったのだから。


東の空が明るくなってきた。

長い一日だった。

あ、そういえば・・・

隣のレイラを見た。

「? なぁに?」

いまだに手を繋ぎっぱなしだった。









人形も、主人公には「マネキン」と呼ばせるようにしました。

《 》の部分は念話になります。

作者も忘れて( )になってる場合もありますが、気が付き次第修正します。


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