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異世界でオッサンは勇者になれるか?  作者: 高戸 賢二
3章 異世界戦闘力強化
30/229

30話 スカーダイ事変(後編)

スカーダイに出現した転移門からは、何体もの獣人が出てきていた。

祭りの余韻に浸っていた人々は、状況を把握できないままパニックに陥っていた。

逃げ惑う者、泣き叫ぶ者、酔った勢いで獣人に向かっていく者、入り乱れて王都は幾多もの死人、怪我人が続出したそうだ。

リディとヘレンは獣人と戦うよりも、まず人々の避難を優先した。

クリューガーの時もそうだったが、基本的に魔王軍は戦う意思のないものは襲わない。

獣人たちは向かって来る者、邪魔をする者だけを速やかに排除していった。

獣人の目指す場所は、光の束が落ちたスカーダイ城だ。


リディたちは人々を誘導しながら、様子を窺っていた。

今回の彼らの目的は、魔王軍と戦うことではなく、魔王軍の情報を収集することにあるからだ。

すると転移門から一際大きな影が姿を表す。

頭と肩口から大きな角を生やした、巨大な存在。

大きな牛にも竜にも見える大きな影は、周囲を一瞥した。

リディは目を合わせてしまった。

リディの背筋に悪寒が走る。

リディは目を合わせた一瞬で「殺される」と悟ったらしい。

万に一つも勝つ可能性のない存在。

圧倒的であり、次元の違う存在。

リディの心が折れていた。


大きな影はリディから目を背ける。

興味を失ったように。

そこに現れたのは勇者ゼゼルであった。

勇者としてスカーダイの危機に立ち塞がろうとしたのだ。

ゼゼルに魔力感知がないのが幸いしたのか、大きな影にも臆していない。

獣人たちは勇者を無視していた。

逃げ惑う人々と大差ないと感じていたのか。


無謀にも勇者ゼゼルは大きな影に斬りかかる。

リディとヘレンは動くこともできずに、見ていることしかできない。

大きな影の肩口の角から雷撃が、ゼゼルに向かって放たれた。

勇者ゼゼルは死体も残らない、灰となっていた。

大きな影はもう一度リディを一瞥すると、転移門に消えていった。


大きな影が見えなくなったことで、リディは大きく咳き込みながら地に跪く。

「呼吸すらできなかったんだ。 自分の命があんなに軽く感じたことはなかった」

「私は跪いて動けなくなったリディを引き摺ってでも逃げよう、と思っていました」

ヘレンはリディよりも冷静だった。

「生き延びること」を最優先に行動しようとしたのである。


ヘレンとしては大きな影がいなくなったことに安堵していた。

「アレさえいなければ逃げ切れる」

心が折れたリディは戦うことができない。

ヘレンはリディに肩を貸して、まるで二人三脚のように王都の外へ向かった。

するとヘレンたちの背後、スカーダイ城の付近から爆音と人々の悲鳴、獣人の断末魔が聞こえ出した。

振り返ると、獣人も人も万遍なく、爆散している。

ヘレンは目を疑ったが、人も獣人も体の真ん中から爆発し四散していくのだ。


ヘレンは魔力感知を上げる。

見たこともない大きな魔力を持つ者が、辺り構わず自身の魔力の塊をぶつけていた。

姿は確認できなかったが、ヘレンは戦慄した。

今、魔力の塊を放っている者の魔力は、先ほど消えた大きな影の魔力に匹敵するか、それ以上のモノだったからだ。

しかも人も獣人も見境なく爆散させている。

ある意味、魔王軍より危険な存在だった。


周囲は人も獣人も四散して、血と肉の破片だらけの地獄図と化していた。

すでに立っている者はわずかしかいない。

すると、明らかにヘレンを標的とした魔力弾が向かって来る。

「リディが体を張って助けてくれたんです」

リディはある程度魔力が大きかったお蔭で、爆散は免れた。

しかしその代償は大きく、体には無数のヒビが入り、魔力を喪失してしまった。

言わば魔力タンクに穴が開いてしまったような状態だった。


「周りの人も魔物も次々と爆発していくのを見て、私も死を覚悟したのですが・・・」

大きな魔力を持つ者はスカーダイ城の方へ向かっていった。

「・・・サラン殿の魔力を、城の方から感知しました」

「とにかく、この隙に逃げ出そうと、必死にここまで来たんだ」


この世界は魔力のない者には厳しい。

旅をするにも、魔力を体力強化に使わなければ、すぐに体調を崩してしまうだろう。

何しろ国と国の間には人里は皆無だ。

サバイバル生活をしながらの旅では体力があるのは当然で、体力を維持するためにも魔力は必須なのである。

リディとヘレンが、スカーダイから遠く離れたこのクリューガー村まで来るのは難儀だったに違いない。


「・・・そうだったのですか。 二人ともご苦労様でした」

クレアがリディとヘレンを労う。

「早速リディは治療しましょう。 以前ほどではないにしろ、魔力は使えるようになりますよ。 二人とも、ゆっくり療養してください」

魔力タンクの穴が塞がれば、魔力1%オーバー注入で魔力を大きくすることができる。

1年で37倍になるのだから、魔法を使うことも可能になるだろう。

元がヤ〇ルトの俺でも魔法を使えるようになったのだから。


今日のところは解散となり、俺は自分の部屋に戻った。

ん?

何でレイラが当たり前のようについてきてるんだ?

お前の部屋はあっちだろ?

「え~、いっしょに寝ようよ」

レイラが無邪気そうに言う。

・・・お前な~

俺は溜息を吐いた。

「嫁入り前の娘が、男の部屋で男といっしょに寝てはいけません」

ちょっときつめに言った。

俺だって男なんだぞ。

10歳の体だけど、55歳のオッサンなんだからな。

「ぶぅ~。 ケチ!!」

レイラがふくれっ面をした。

子供か!!


その後「じゃあ少しだけお話ししようよ」と言って部屋に入ってこようとするレイラを、部屋に入れないようにするのに苦労した。

部屋に入れたら、そのまま俺のベッドで寝るレイラが容易に想像できたからだ。

今夜はいろいろ考えたいこともある。

祖竜とは別の魔王軍・・・

それに大きな魔力を持つ、人も魔物も無差別に攻撃する何者かの存在・・・

サランとかいう元クリューガーの魔導師がやったこと・・・

スカーダイは滅亡してしまったと考えていいはずだ。

俺がこの世界に来て10年で、二つの国が滅亡したことになる。

今後の行動やら目的やら、見つめ直さなきゃならないだろうな。

レイラを追い出し、ドアを閉め、振り返ると・・・

俺のベッドにレイラが座っていた。

俺は頭を抱えた。

・・・いつの間に。

「ケンちゃん、遅いよ。 早くこっちに座って」

・・・こいつ、こんなところで身体強化したのか。

レイラの戦闘能力なら、確かにこれぐらいは楽勝なんだが・・・

あきれてものが言えない。


他愛もない話を数時間したあと、予想通りにレイラは俺のベッドで寝てしまい、俺は毛布に包まって椅子で寝ることになった。

・・・体が痛い。





もうすぐ旅立てそうです。


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