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"牛頭馬頭" 〜〜ゴズメズ〜〜

 猫爺達が一階で山賊集団:"ZIGジグ=ZAGザグ"と戦っている頃。


 ヒナタは球体と化した”ネコ丸”を抱えながら、二階の校長室に向かっていたのだが……。


「な、何で、ここを通してくれないのニャ!?」


 自分の祖父や仲間達が稼いでくれた時間を使って、後は校長室で待つ妖怪火車王:カリンに”ネコ丸”を届けるのみ。


 そのはずだったのだが、現在彼女は何故か味方である妖怪達から襲撃を受けていた。


「へへっ、チンタラしてっと当たっちまうぞ、ヒナタの嬢ちゃん!!」


 牛の角を頭部から生やした豪快な印象と胸部の女性が、ヒナタに向けて拳銃を放つ。


 ヒナタは慌ててそれらを回避するが、彼女の眼前に向けて空気を切り裂くような破砕音と衝撃が響き渡る。


「ッ!!ニャニャッ!?」


 へたり込むヒナタに対して、馬の耳を生やしたスマートな身体つきをした女性が鞭を手にしながら、凛々しい視線と共にヒナタを見下ろしていた。


「何度仰られたところで貴方をこの先の校長室に入れるわけにはいきません、ヒナタ様。……我等の任務は、この場におられる火車王:カリン様のもとへ、誰も近づけさせないことなれば……!!」


 現在ヒナタを妨害しているのは、カリンの護衛妖怪として選出された地獄の猛者である二人組の妖怪:牛頭ごず馬頭めずであった。


 本来二丁拳銃の使い手である牛頭が片方しか使わず、馬頭も鞭による追撃をしてこなかった事からも、本気で自分を害するつもりがない事はヒナタにも分かっていた。


 だからこそ、理解出来ない。


 裏切ったりしたわけではないのなら、何故、同じ味方の妖怪である自分に対して攻撃してくるのか――。


 ヒナタが決死の表情を浮かべた状態で、二人に問い詰める――!!


「こんなところでヒナタ達が争っている場合じゃないニャ!!……今ここには強大な山賊達が、この”ネコ丸”を狙ってここに向かっているんだニャ!……みんなが必死に戦ってくれているのに、これじゃ何もかもがおしまいになっちゃうのニャ……!!」


 泣きそうになりながらも、必死で懇願するヒナタ。


 ――だが、そんな彼女を前にしても、馬頭は動じることなく冷徹な面持ちのまま否定の意思を告げる。


「何度言われたところで答えは同じです。……特に今の貴方は、なおさらですね」


「ッ!?ど、どうしてなんだニャ!?ヒナタが、強大な”ネコ丸”を持っているからなのニャ!?」


「……それもありますが、ヒナタ様。現在、カリン様が校長室で抑え込んでいる怪異が何か、お分かりになられますか?」


 そう言いながら、馬頭が自身の背後にある校長室への扉を一瞬視線を向ける。


 答えられずにいるヒナタに対して、言い含めるように馬頭が説明を再開する。


「この場でカリン様が封じておられるのは七つの強大な怪異の一つである”生きとし生ける全ての者達に叛逆の意思をもたらす、愛すべからざる光”です。――現在カリン様が制御しているとはいえ、相手は怪異の一つ。それも完全とは言えません。……そんなところに、非力な”猫又”である貴方がこの場に残った僅かな怪異の瘴気に呑まれないという保証はどこにもないでしょう?」


「そ、そんな……」


 馬頭の言葉に打ちひしがれているヒナタに対して、牛頭が更に追い打ちをかける。


「……何よりカリンとヒナタ、お前等は昔からの幼馴染だったらしいじゃねぇか。妖怪界の御意見番と言われている猫爺の孫とはいえ、お前が”七大妖怪王”の一角にまで上り詰めたカリンに対して、本当に何も想うところがないって言い切れるのか?」


「……ッ!!」


 牛頭の発言を受けて、ヒナタの胸がズキン……!!と痛む。


 同じ猫妖怪でありながら、ずっと単なる”猫又”である自分と違って、”妖怪火車王”と呼ばれる領域にまで到達したカリン。


 そんな彼女に対して、ヒナタが劣等感にともいえる複雑な感情を持たぬはずがなかった。


 妖怪王になったとはいえ、カリンの気さくな性格上、会う機会ならば幾度かあった。


 それでもヒナタは顔を合わせる事が気まずくて、色々用事を作りながら言い訳するように、カリンと出会う事を頑なに避けていた。


(……でも、ヒナタは”ネコ丸”を守るように、お爺ちゃんや皆に託されたから……!!)


 そんな反論が出かかるも、なかなか痞えて言葉に出来ない。


 そうしている間にも、ヒナタの中で自身に対する疑念が膨れ上がっていく。


 ――本当に、自分がここまで走ってきたのは、そんな純粋な”使命感”からなのだろうか?


 自分ヒナタはこの”ネコ丸”を託されたという使命さえあれば、妖怪王であるカリンとやっと対等に並び立つ事が出来る、という対抗意識だけで動いているのではないか。


 いや、それこそ馬頭達が言う通り、非力な猫又である自分でもこの強大な”ネコ丸”さえあれば……。


 そんな事を思いついた自身の思考の恐ろしさに気づき、瞬時に顔面蒼白になるヒナタ。


 そんな彼女の様子を見ながら、馬頭が相方に諫めるように遠回しな静止の声をかける。


「……カリンではなく、カリン様と言わないか。あの方も単なる火車であった頃とは、違うのだぞ?他の者達に見られたら示しがつかないじゃないか……」


「あ~……悪い悪い!けど、アタシ等より遥かに偉くなったってのに、アタシの事を”姐さん!”なんて言いながら、三下感丸出しなまんまのアイツも大概だって~の!」


「まったく、貴方ときたら……話を戻しますが、ヒナタ様。我々もそのような判断から、貴方をこの先のカリン様に会わせるわけにはいかないのです。ですが、現在この場所が山賊達の襲撃に遭っており危機に陥っているのも紛れもない事実。……ゆえに、ヒナタ様。その”ネコ丸”を私達に預けてください」


 馬頭の発言を受けて、固まるヒナタ。


 だが、そんな彼女に構うことなく馬頭は言葉を続ける。


「ヒナタ様はこの場に残った僅かな瘴気にすら蝕まれる可能性がありますが、この場の護衛に任されるだけの実力を持った私達ならば、それに耐えられる自信があります。……邪な賊共に渡すわけにはいかない以上、その”ネコ丸”は私達の手から安全にカリン様に渡されるべきです」


 ヒナタでは叛心に呑まれる危険性がある。


 そのために、強い力を持った妖怪である自分達が確実にカリンに”ネコ丸”を届ける。


 これ以上とない正論に違いない。


 それでも頷くわけにはいかない、と漠然とした感情に突き動かされるまま、ヒナタはやっとの思いで口を開く。


「それは出来ないニャ……この”ネコ丸”は他の妖怪に無理矢理取り込まれそうになったから、ヒナタみたいな猫妖怪以外には怯えてしまっているんだニャ……!!」


「……拒絶反応が出る、という事ですか?確かに私達相手ではそうなる可能性もありますが、カリン様までの距離はあの扉一枚を隔てた先です。それくらいならば、我等だけで充分届けられます。……猫爺様から与えられた使命も、ここまで辿り着かれた時点で充分達成出来た、と言えるはずですよ、ヒナタ様」


 正論でヒナタの逃げ道を防ぐ馬頭。


 それでも無言のまま渡そうとしないヒナタを目の当たりにしながら、埒が明かないと判断した馬頭が牛頭に呼びかける。


「やむを得ません。こうなったら、多少手荒くなるとはいえ彼女から”ネコ丸”を速やかに回収しますよ」


「オゥさ!……猫爺の孫とはいえ、聞き分けのない子供には、ちぃっとばかり灸をすえないとな……!!」


 鞭を携えながら冷徹に有言実行しようとする馬頭と、流石に銃を撃つ気はないようだが、腕をゴキリ、と音を鳴らす牛頭がジリジリとヒナタに迫る。


 このまま行けば、確実に痛い目に遭わされるのは目に見えている。


 それなのにヒナタは、言葉に出来ぬ感情のまま、震える身体で”ネコ丸”を抱き続けていた。


 そんな彼女を見下ろしながら、馬頭が鞭を勢いよく彼女のもとに振り下ろそうとしていた――そのときである!!





「オィオィ、オタカラを強奪するのは俺らの本分のはず。……なのに、護る側のはずのお姉さん方が、いたいけな猫耳少女を恫喝する、ってのはいくら何でもあべこべすぎじゃないですかね?」





 軽薄そうな喋り方ながらも、はっきりと自分達を糾弾するような意思が込められた問いかけ。


 それを耳にした馬頭は瞬時に声のした方へと振り返る――!!


「貴様……何奴なにやつッ!?」


冷奴ひややっこ、ってね。……この場にお姉さん方が知らない人間がいる以上、答えは一つしかないと思うけど?」


「ッ!?……そうか、貴様がこの場に現れた”山賊”とやらか……!!」


 馬頭達の前に姿を現したのは、一人の茶髪の青年――裕太ゆうたであった。


 飄々としていても、彼が誇る強大な戦闘力を察知した牛頭と馬頭がそれまでから一転、警戒状態に入る。


 そんな彼女達などお構いなしで、裕太が何の気なしに話しかける。


「あぁ、ゴメンゴメン!ちょっとばかり、やり取りを聞かせてもらっていたんだけどさ。……馬耳お姉さん達は随分その猫の女の子が叛逆しないか心配していたみたいだけど、『誰かに勝ちたい』とか『大きな手柄を立てたい』くらいの気持ちは誰にでもあるんじゃないの?……それを疑い始めて全否定していたら、同じ集団に属していたところで何ひとつ大きな目標なんて達成出来ないと思うけどな」


 現に、ヒナタと馬頭達が問答をしている間に、一階で戦っていた裕太がこの場に辿り着く事を許す形となってしまっていた。


 その否定出来ない事実を前に、押し黙る牛頭と馬頭の二人組。


 裕太はそのまま「てゆうか」と言葉を続ける。


「その娘が裏切る事前提で話しているけど、彼女よりも強いお姉さん方が、その”ネコ丸”とかいうオタカラの強大な力を使って裏切る可能性の方が怖くない?お二人さんが絶対に裏切らない!っていう保証は、一体どこにあるのかな?」


「ッ!?」


 その発言を聞いて、驚愕の表情を浮かべるヒナタ。


 対する牛頭と馬頭は、目に見えて分かるほど射殺すような視線を裕太に向けていた。


「……オイ、小僧!!テメェ、アタシ等が簡単に瘴気如きに蝕まれたり裏切り根性かますようなしょうもない輩に見えてんのか、コラッ!?」


「?うん。少なくともお姉さん方よりかは、怖い目に遭いそうになりながらも必死に”ネコ丸”っていうオタカラを守ろうとしているそっちの子の方が、強い意思を持っているように俺は見えるけどね?」


 その発言を耳にした瞬間、感情を顔から消し去った牛頭が二丁拳銃を静かに裕太へと構える。


「……こうなりゃ、とことんやっちまうぞ。相手がガキとはいえ、ここまでコケにされたんなら容赦する必要もないだろ」


 それに対して、馬頭が同意を示す。


「当然です。ましてや相手はこの場に侵入してきた不遜な”山賊”。生かしておく理由など微塵もありません……!!」


 そう答えるや否や、牛頭の二丁拳銃が盛大に火を放つ――!!


 瞬きすら許されないほどの強烈な連射と、その間隙を縫うように巧みに振るわれる馬頭の速度と威力が込められた鞭の技術。


 それらを目の当たりにしながら、ヒナタはこの二人が自分と対峙したときはまるで本気でなかったのだと改めて気づかされる。


「す、凄いニャ……これが護衛妖怪の実力……!!」


 だが、ヒナタの驚愕はそれだけでは終わらなかった。


 裕太は銃弾の軌道を見切りながら、その隙となる部分に馬頭の鞭が振るわれている事を分析すると、自ら高速で振るわれる鞭へと飛び込んでいく。


 自殺行為ともいえる裕太の振る舞いに軽く動揺しながらも、馬頭はそのまま攻撃を仕掛けるが、それすらも裕太は紙一重で躱し、距離を詰めていく。


 裕太の常人離れした戦闘能力の前に驚愕する牛頭と馬頭だったが、表情に出さないだけで内心激しく焦りを覚えているのは裕太も同じだった。


(銃弾の乱射は苛烈なだけで、数の多さに注意すればまだ軌道も読みやすい。……それよりも厄介なのは、この馬耳お姉さんの鞭捌きだな……!!)


 変幻自在な軌跡を描いて振るわれる馬頭の鞭術。


 銃弾よりも威力という面に関してはマシかもしれないが、筋肉ではなく皮膚を通して神経に直接響くこの”鞭”という武器による攻撃を受けてしまえば、どれだけ痛みを覚悟していたところで我慢できずに、身体が硬直して動けなくなる事は必定である。


 この二人の前で一瞬でも動きを止めてしまえば、それが瞬時に絶命に繋がる事は誰の目から見ても明らかであった。


(どっちがマシか選ばせるように見えているけど、こんなのは一発でも受けた時点でデッドエンド不可避の出来レースだからな……!!まぁ、その心配もそろそろいらないか!)


 そんな事を考えている間に、裕太は二人に接近していた。


「クッソォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 牛頭が猛々しく叫びながら、ありったけの銃弾を裕太に向かって撃ち放つ。


 だが、裕太はそれらを全て躱して眼前に姿を現すと、勢いよく掌底を牛頭の胴体に向かって放つ――!!


「カ、カハッ……!!」


 そのままズシィィィ……ン!と音を立てて、崩れ落ちる牛頭。


 相方が一瞬で倒された事に対して動揺しながらも馬頭が鞭を裕太に振るうが、先程までと比べて明らかに精度も何もかも落ちており、自慢の武器は容易く裕太に掴み取られた。


「こ、この……離しなさい!!」


 冷徹然としたそれまでの態度から一転、激しく取り乱す馬頭。


 そんな彼女に構うことなく、裕太は鞭をグイッと強く引き寄せると、そのままこちらへ倒れ掛かってきた馬頭に当身を喰らわせ意識を刈り取っていた――。








(ご、護衛妖怪の二人組をこんなあっさりと倒すなんて……これが、本物の”山賊”の力なのかニャ!?)


 驚愕で動けないままでいるヒナタ。


 けれど、彼女の中ではそれとは別の”違和感”とでも言うべきものが、浮上していた。


(……山賊なら、何でこの二人に何もしていないんだニャ?)


 牛頭と馬頭には怖い目に遭わされたが、客観的に見ても両者とも美人であるとヒナタは判断していた。


 にも関わらず、この”山賊”を名乗っているはずの青年は、まろび出そうな爆乳の持ち主である牛頭が仰向けで倒れ、スレンダー美人の馬頭が自身に身体を預けながら意識を失っているにも関わらず、何の凌辱行為にも及ぼうとしていないのだ。


 困惑していたヒナタだったが、次に青年からもたらされた言葉はある意味当然ともいえる一言だった。





「……さて、と!それじゃ、ネコのお嬢さん。その”ネコ丸”っていうオタカラを強奪させてもらおうか?」





 ――ヒナタを覆う事態は、まだ何一つとして好転などしていなかった。

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