”妖怪火車王:カリン”
大変お待たせいたしました!
――妖怪火車王:カリン。
七大妖怪王の一体にして、ヒナタにとって幼馴染である”火車”の少女。
だが、最近は疎遠になっていた事や切羽詰まった状況である事もあり、ヒナタは何から切り出したら良いのか分からない。
そんな状況で先に口を開いたのは、カリンの方であった。
「事情はよく分からないッスけど、とりあえず、あの二人を何とかしたら良いんッスよね?ヒナタちゃん!」
それは、両者の間に出来た立場の違いや距離を感じさせない、気心の知れた気軽な口調であった。
昔と変わらないカリンの態度に、ヒナタも咄嗟ながらに力強く返答する。
「……う、うん!そうなんだニャ、カリンちゃん!!」
それとともに、”ネコ丸”を妖怪王であるカリンに託さなければならない!と、ヒナタは思い至ったのだが……。
(ネ、”ネコ丸”ってどうやってヒナタの中から取り出したら良いんだニャ!?)
現在自身の中に宿りし強大なエネルギー体:”ネコ丸”。
その力の一端を使いこなす事が出来たモノの、それをどうやって分離したら良いのかヒナタには分からない。
そんなヒナタの反応を待たずして、カリンが颯爽と前へと躍り出る。
見れば、能面とも機械ともいえるような無表情のまま、”山賊”である青年:裕太が物凄い速度でこちらに迫ろうとしていた。
いくら妖怪王であるカリンでも、”ネコ丸”を取り入れた自分すら倒しかねない力を持ったこの山賊とマトモに戦うのは危険極まりない――。
ヒナタがそんな想いを叫ぼうとするが、カリンは構わずに裕太に向かっていく。
「よーし!それじゃあ、これでも受けてみるッス!!」
カリンがそのように勢いよく宣言するのと同時に、突如空中に燃え盛る車輪が出現する。
その数、およそ四輪。
焔を纏った車輪が急回転しながら、盛大に裕太のもとへと飛翔していく――!!
如何に裕太が優れた戦闘能力を持つとはいえ、所詮は生身の肉体である事には変わりない。
このままいけば、死角を埋めるように放たれた車輪を前にその身を焼かれ、轢殺されるより他にない……はずであった。
「――この身体で防ぐのは困難と判断。よって、我が機能の一部を行使する――」
そう言うや否や、裕太の身体から突如凄まじいほどの強風が溢れ出していく――!!
それは、生命の温もりや人の情などを一切感じさせない全てを凍てつかせる極限の嵐であった。
無機質な全ての意思を剥ぎ落したかのようなこの如きこの権能は、才能や技術という言葉では説明がつかない常軌を逸した能力であるのはもちろんのこと、意思の力で未来を切り開くとされる”山賊”という存在からは到底かけ離れたモノであった。
(何だ……?裕太、一体お前に何が起こっているというんだ!?)
これまで行動を共にしてきた自分でも全く理解する事が出来ていない事象を前に、那智が歯がゆい表情をしながら裕太の背中を睨み続ける。
だが、那智が迷っている間にも裕太から生じた極限の冷気は車輪の炎をかき消し、遂には完全に凍結させる事に成功した。
突如全ての動きを停止させられた車輪は、ズドン……!!と音を立てながら校長室の床に墜落していく。
氷漬けになった状態で床に転がっている車輪の一つを裕太は軽く蹴飛ばすと、自身の眼前に飛んできたのを掴みあげる。
自身の攻撃の手段が突如無効化されたにも関わらず、カリンはなおも余裕の表情を浮かべる。
「フッフ~ン!何となくだけど、自分は君が今どういう状況に置かれているのか分かってきたッス!!……それじゃあ、これがあと一押しの確認って事でよろしくッス!」
刹那、カリンの呼びかけとともに室内が急激に燃え始めたかと思うと、ヒナタ達の目の前に信じられない光景が広がっていた――!!
「い、一体何なのニャこれは!?」
突如広がり始めた炎に驚いてヒナタが少し目をつむっていた間に、室内は様変わりしていた。
真っ先に特筆すべきはその広さであり、ここが校長室である事を忘れるくらい広大な業火が至るところで燃え盛る領域が展開している。
カリンの気軽な印象とは裏腹に、この空間はあらゆる罪人の悪行を許さぬ”処刑場”ともいえる厳粛な空気に満ちていた。
尋常ならざる光景を前にしているにも関わらず、それでも裕太は表情を一向に変える様子を見せない。
そんな裕太を楽し気に眺めながら、カリンがにしし、と笑みを見せる。
「それじゃあ、実際君が今どうなっているのか……じっくり見極めさせてもらうッスよ!」
カリンに率いられるかのように、彼女の背後の炎から鬼気迫る表情をした亡者の軍勢が裕太達へとなだれ込んでいく。
試練と言うにはあまりにも過酷な妖怪火車王としての猛攻が、自身の意思も真実の答えも見出す事が出来ていない二人の”山賊”達に押し寄せようとしていた――。
設定とか今までの展開とか、どのくらいの人が覚えてるんだろう?(汗)




