表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『異世界に行きたくない男』VS『異世界に行かせたい神』

『異世界に行ってほしい神』VS『行きたくない男』

作者: 神楽 斎歌

 それは忘れもしない二十才の晦日の事だった。

 年越しそばの準備も終わり、最近の定位置であるこたつという楽園に潜り込みテレビをつける。まだ気になる番組には時間がある。ただ、ぼーっと眺める。もう一年が過ぎるのか~

 今年は色々あったな~ 来年はどんな年になるのかな………

 そして、もう少しで除夜の鐘の音が響き始めるかという時、俺はまるで眠るかのように意識を失った。

 いつの年も年を越えるときは眠らず、むしろ二時ぐらいまで起きている俺が寝落ちは有り得ない。そう、いつもの年越しだったとしたら………


 ☆*†*†*†*†*†*☆


 えー、現在目の前には頬にくっきりと手形が赤く残っている男がしゃがみこんで泣きながら拗ねております。

 どうしてこうなった?

 いや、言い訳をさせてもらいますと目を開けた途端に至近距離に男の顔面があったら殴りますよね? いや、そういう状況になったら殴りましょう。

 という訳で全力で殴りました。パーで………

 すごい音がしました。顔が吹っ飛んでいきそうになってました。

 怖かった………


 流石に平手打ちしただけで殺人犯になりたいわけではありませんので、死ななくて良かったですけど、大の大人、しかも男がうじうじしてるのって腹が立つんですね~ 初めて知りました。

 あまりの事に口調が変わるほどだった。


 しかし殴られる雰囲気に気がついたのかその男はユラリと立ち上がった。その気迫は顔が残念なことになっていなければ、怯えてしまうと思うほどだろう。

 たとえるならば、ライオンだと思ったら犬だったときの残念な感じだな……


 しかし、あのうじうじとした態度を見た後だと明らかに無理をしていることがよく分かる。

 しかしここはどこで、この男は誰なんだ?

 さっきまで焦っていたからか見えていなかった部屋の全貌が明らかになった。


 一番目を引くのは、パソコンみたいなものだろうか。あまりに大きいため壁に張り付いているように見える。また、その部屋はゴミ屋敷みたいにモノが溢れていた。地味に見てはいけないモノが混ざっている気がする。

 そのことに気がついたときに慌てて男に目を向けた。人の部屋を見て正気を失いたくない。

 そして、この部屋の持ち主であろう、目の前のその男は堂々と突っ立ていた。しかし、その目は泳いでいる。

 どうやら話そうとしているようだが自身に注目されていない事に慣れていないらしい。と、いう事で男をじっくりと見ることにした。

 まあ、真っ赤な手形がついていなかったら、顔は整っているのだろう。しゅっとした目に薄い唇………

 男の顔を見ても面白くない。しかし、部屋を見るのも危険度が高い。

 そんなことを考えていたら、やっと男が口を開いた。


「あー、ゴホン。お主は僕が喚んだのだ。お主は地球のしかも日本から喚んでやったのだ。感涙に咽び泣くがいい」


 男の顔が憎たらしいぐらいのドヤ顔になっている。やっぱり殴りたい。

 しかし、それにしてもいきなり男に顔を覗き込まれるという不快な展開のどこに感涙する所があるのか? 意味が分からない。


「いやいや、知ってますよね? ほら、神に呼び出されたり、無双したりハーレムとかって今話題のあれだよ」


 凄く焦った顔をした男がまくしたててきた。それに敬語になっている。


 あれ? なんか聞いたことがあったような?

 でも、コレが神だとか有り得ないな。俺は神はすべて女神だと信じている。男とか爺さんとかは認めん!

 よって心当たりがない………


 しばらくすると、自信満々な態度が萎れていった。

 肩を落とし、また、うじうじとした態度に戻った。いや、さっきよりうざい。

 男が人差し指を地面に『の』の字を書いている様子は生理的に受け付けられない。

 なので、正解だと思うものを言ってあげることにした。


「ああ、ようするに異世界に行けという事か?」


 そう答えるのと同時に、信じられない速さで男が飛びかかってきた。もちろん足で蹴っ倒した。


「ぐっ、そ、そう、それです。やっぱり知ってるじゃないか。僕で遊ぶなんて怖いもの知らずだね~  というか、僕の心配した気持ちを返せ~」


 いや、男の涙目と上目遣いって吐いて良いですかね?


「よし、これで僕もランクがCランクからBランクに上がれる。これで後輩に馬鹿にされるというものは無い」


 なんだか、色々あるみたいなので情報を吐いて頂かないといけないな~

 そう考えるのと同時に逃げ腰になった男は怯えながら後ずさる。

 そんなに怯えなくてもそんなにヒドいことはしないよ~


「いやだ。なんか目が据わってる~ 怖い。わかりました。話します。話せば良いんでしょ」


 男は居住まいを正した。そして、どこからか持ってきた椅子に座った。


「ああ、大人しい人だと思っていたのに……… とんだ人選ミスをしてしまったもんだな~

 こほん、まず私達神はランクづけされている。そのランクはその神の知名度と比例するのだ。だから有名な神と知名度が低い神との格差が広がっていた。そこで、最近の『異世界に人間を送って知名度上げよう』作戦が思いのほかうまくいった神が増えたのだ。だからこのブームに乗ろうかと思ったのだ。異世界に行った人間が有名になればなるほどランクがあがる仕様になった。これぐらいです」


「ほー、俺の事を利用すると………」


 睨んだだけなのに、目が潤みだした。そこまで怖がらなくても、なにもしなければ俺だって何もしないのに………


「とりあえず、元の世界に戻せ。そういうのは立候補者にやらせればいいんじゃないか? いきなり喚ばれても困るだけだし、俺みたいにやる気ないやつもいることだしな~ さあ、早く。家に、あの楽園に返せ」


 そう、意識を失ったのが正月が始まる前だった。

 年越しそばが伸びてしまうし、友からのメールも溜まってしまう

 それに楽しみにしていたテレビの番組も始まってしまう。

 全く嫌なタイミングで喚びやがって………


「いやいや、さっきは人選ミスとか言いったが選べないです。そもそも、自身と相性が良くないとこちら側に喚ぶことすら出来ない。だから僕は君しか喚べない。それよりさぁ~ 行こうよ異世界。ゲームとかと同じ体験が出てきて、楽しいよ~ 今なら出血大サービスでチートとかもつけちゃうよ~」


 そもそも、異世界とか危険なところに進んで行く日本人がいるだろうか?

 異世界に行くには覚悟がなくてはいけない。戦う覚悟だ。

 だいたい知識とかで活躍している人って凄いと思う。だいたいガス、水道、電気は蛇口を捻れば綺麗な水が出てきて、スイッチを押せば明るくなって、火がつく。俺にはそれぐらいの知識しかない。

 だいたい、外国にも行きたくない人なのだ。それなのに簡単に帰ってこれない場所なんかに行きたいなんて冗談でも有り得ない。

 たとえ行ったとしてもすぐに死ぬ未来しか見えない。これこそ本末転倒だと思う。

 そもそも有名になるためには動かなければならない。しかし、動けば一人で生きていけるほどの知識と経験が必要だ。そんな物は持ってないし、また死が近くなる。そんな恐怖のなか見知らぬ人のために動くことが出来るだろうか? もちろん出来る人もいるだろう。しかし、俺には逆立ちしたとしても無理だ。


「ランクCのくせに……… チートとか良く言うよ……… そんなことをいわれても無理なものは無理だ。残念だが諦めろ」


 さっきから気になるものがある。それは男の後ろに見え隠れしている赤いボタンだ。

 そのボタンはこのごちゃごちゃした部屋の中で異様な存在感を放っていた。

 そのボタンには小さな文字で『魂戻し』と書かれていた。


 ………明らかに怪しい。

 しかし、これ以上酷いことにはならないだろうという確信から押してみることにした。幸い男は部屋から何かを探そうと背を向けたままゴソゴソとしている。


 俺はごく自然な仕草でボタンを押した。


 ☆*†*†*†*†*†*☆


 目を開けるとそこは懐かしの我が家だった。

 還ってきたのだ。あのおかしな場所から。


 蕎麦はそこまで延びていなかった。また、テレビもまだCMが終わっていない。


「あれはやっぱりおかしな夢だったのだろう。あー、変な夢を見たな」


 大きく上に向かって伸びをする。


 しかし、あんな所にボタンがあるのは詰めが甘すぎる。俺の夢にしてはクオリティがあまり良くないな。


 そう思ったときだった、その音が聞こえたのは………

 テレビは砂嵐が走り、電気はチカチカと点滅する。


「そんな簡単に逃がすわけがないでしょうが。たとえ地獄の底だっておいかけていきますからね~」


 その言葉とともに俺は再びあの空間へと戻された。


「ふっ、すぐにボタンを見つけて還る」


「今度こそ異世界に行ってもらう!」


 ☆*†*†*†*†*†*☆


 こうして前代未聞の『異世界に行ってほしい神』VS『異世界に行きたくない男』との終わらない戦いが始まったのであった。


 

ありがとうございましたm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ