俺たちの能力2
それらのことを念頭に置いたうえで、もう一度考える。
……確かに不思議だ。普通の人間が持ってはいない力をどうして俺たち六人は、持っているのか。その理由も知らないのに、俺たちは普段から使用している。
さらにいつから持っていたのか。それさえも、今となってはもう記憶にないほどに昔のことだった。気づいたら、持っていて、しかもちゃんと使いこなしてきた。考えれば考えるほど不思議なことだ。
とはいえ、子供のころから自分たちが持っているこの力はおかしなものだと理解していたから、俺たち六人だけの秘密として、一応他の誰にもばれないように今まで過ごしてはきた。だから雪音もバッターボックスに立った実に妨害する程度しかしなかった。だって本来なら飛んでいった打球を曲げて誰かのグロープの中にでも入れればいいのだから。そうしないのはやっぱりばれないようにするためだ。
そしてその昔下した判断は間違ってなかったと、今なら本当にそう思う。
こんな尋常ならざる力だ。受け入れられない人間だっている。怖がれることだってある。悪用される可能性だって。
これは俺たちの力だ。俺たち自身のもの。
だからこそ、自分で決めなきゃならない。向き合っていかなきゃならない。この力と。でも、そう考えるならやっぱり、これから先もこの力のことは、誰にも知られちゃならないんだろうな。ずっと俺たちだけの秘密で。
「まぁ不思議だけど……でも、その力があるからこそ、こうやって治恵には怪我を治してもらったりしているし。感謝していることもいっぱいある」
色々と考えて、俺はそう答えた。実際に治恵だけじゃなく、みんなに助けてもらったことが結構ある。……実はなにかあったか、思い出せないけど。
「う~ん……そう言われると、あたしは明夜の力に助けてもらったことなんて記憶にないわね」
「まぁ、そうだな。というより、頼まれたことがなかったからな」
たまに、実と心が俺に聞きに来るくらいだ。実は自分で見ろって突っ返すけど。
「じゃあ、ちょっとだけ見てみるか? お前の明日のこと」
「私生活を見られるようで、気持ち悪いけど」
「そう、気構えんなよ。こんなもの、よく当たる占いみたいなもんだから」
「ん~……まぁ今頃あんたに見られて困るようなことなんてないからいいか」
そう言うと、治恵は俺に身を預けるように体から力を抜く。俺は治恵の手を握り、目を閉じる。そうして、未来予知を行った。
「…………」
「……どう?」
少しして目を開いた俺に、ちょっと不安そうにたずねてくる。そんな治恵に、俺は微笑んで答えた。
「普通に、何事もない、いい一日だったよ」
「……なんか、つまんないね」
治恵は拍子抜けしたようにそう言う。
「もっと面白いこと言われるの期待してたのに」
「でも、明日の面白いことを知ってしまったら明日それが起こってもつまらないでしょ」
「そうかもしれないけど、折角未来を知れるのにさー……」
「未来なんて、知らないほうがいいと思うけど?」
「うわ、そんな力持っている人が言う? そんなこと」
俺の返しに、治恵は驚きの声を上げる。まぁ確かに、そう言う反応か。
けど、俺としては本当にそう思ってもいるしな。未来なんて知れたところでほとんど役には立たないんだし。
「そう言えばさ、あたし今まで甚だ疑問だったんだけど。あんたってその力をどう使ってるの?」
「どうって?」
「例えば、今日けがをしたけど、それって知っていたの?」
「まぁ……一応?」
「なんで疑問形なの……」
そうして治恵は呆れたようにため息を吐く。確かに変な返事だ。俺も自分で何言ってるんだよって呆れる。
「俺は起きたらその日の一日のことを見るんだけど、基本的にはざっとでさ。1~2時間に毎に見た一度の様子、だけで判断するから」
「うわ、適当。その程度でしか使ってないって結構宝の持ち腐れね」
「そうは言うけどな……」
これでも大体、20秒くらいはかかる。30分に一回で一分くらい。本気で一日を見ようとしたら、三十分から一時間はかかるだろう。でないと、そのあまりの情報量に俺の頭がパンクする。しかも、それやったところで俺にはそんなに有益なものだとは思えないし。時間が無駄だ。
「俺の力は未来予知だ」
「知ってるけど……いきなり何?」
「ところで、ここで俺は未来を変えることはできると思うか?」
俺のその問いかけに治恵は首を傾げる。
「だって、俺は未来予知をできるんだぜ? 未来予知をしたところで、そこで見るのは結局未来予知をした自分でしかなく、それと違う行動を取ることなんてのはできないんだ」
「頭がこんがらがりそうなんけど……。まぁなんとなくわかった」
治恵は頭を抑えてつつ、呟く。
そう。俺が見ているのはあくまでも、未来予知をし終えた自分だ。行動を変えようとしても、未来予知をした先の自分も同じことを考えているはずで……という、パラドックスが発生する。
つまりは、どう頑張ったところで俺は、未来を変えることはできないのだ。
そこで治恵は、けど、と話しかけてくる。
「考えている理論は分かったけど。実際に、明確に未来を変えようと行動したことってあるの?」
「特にやったことはないけど……」
というより、変えようとしたことも、『未来の自分もやったこと』だってくらいにしか考えてないからな。俺の行動=未来の自分だし。
「だったら、試してみたらいいじゃない。本当に未来が変わるのか。そのための力でしょ?」
「う~ん……。まぁ気が向いたらな」
俺は適当に、興味なさ気に返す。そんな俺に治恵は不満げに見つめてきたが、それ以上は何も言わなかった。
「まぁ、いいわ。でも、未来予知が全然役に立ってはくれなかったから、何かおごりね」
「えぇ!? それはちょっと横暴だろ!?」
「なによ。私の力に感謝してるんでしょ? だったら少しくらいはそれを形で返しなさいっての」
その後もそうやって色々と話し込んでいるうちに時間は過ぎ、チャイムが鳴った。
体育のほうは、俺と治恵の二人が抜け7人になったうえに、実も3打席目以降のシミュレーションはできてなかったようで。雪音の妨害もあり、ボロボロにされた挙句、負けてしまったようだ。