幼馴染み同士の変わった日常2
(もう、私たちで教えてしまうという手があるけれど、どうする?)
(それは最終手段だけど……背に腹は代えられないか)
どうするか決まったところで、実たちの話に再び耳を傾ける。
(んで、そこで俺は言ってやったわけだ! 俺に触るとやけどどころじゃすまないぜ……? ってな!)
(きゃー! 実ちゃんかっこいいー!)
(ふ、ほめるなよ。照れて、もっと熱量が大きくなるぜ?)
(あ! だったらそれで火事を起こして、テスト中断させちゃうってのはどう?)
(それだ! よし、心! もっと俺をほめたたえろ!)
(よっ! 実ちゃん世界一! 大統領!)
……どんな状況だよ。ものすごく話が脱線しまくっているようだけど。そこまで時間立ってないはずなのに。もう、真記のこと忘れているようだし……大丈夫かな?
(……って! さすがにそこまで熱くはなれねーよ! そんなになったら俺死んじまうじゃねーか)
(それもそうだね~。やっぱり、真記ちゃんに頼るしかない!)
ああ……結局戻ってきた。じゃあ仕方ない止めに入るか。俺は二人にも伝わるように話しかける。
(お前らな。真記に頼るのだけはやめておけよ)
(む! もとはと言えば、みょうやーとゆきちゃんが教えてくれないのが悪いんだぞ!)
(悪いのはテスト中なのに堂々とズルしてカンニングしようとするお前らだ)
正論を返すが、既に相当盛り上がっている心達には通じないようだ。ぶーぶー、と文句を垂れてくる。
(酷いよね、実ちゃん。心たちのことなんて何にも考えてないんだから! 明夜の鬼!)
(全くだぜ。自分は頭いいからってよ! どうせお前も、先に問題とか見てたんだろ!)
(俺だって実と同じで、そんなくだらないことに力なんて使わねーよ)
(どうだか……そう言う意味じゃ、真記も真記だよな。あれだったらある意味カンニングし放題じゃん。それこそズルだろ)
(元から頭いいんだから、真記も使わないだろ。どっちかと言えば、答え合わせの自己採点で使うくらいで)
(よ~し。だったら、答え合わせしようって名目で聞けばいけるね!)
(おお! 心、その手で行こうぜ!)
(はぁ……。そりゃ真記なら優しいし、お前らから聞かれたら、答えてくれるだろうけどな。その人の優しさに付け込んで……ってやり方が気に食わないし、いやらしい)
((う……))
淡々と抑揚なく告げると、調子のよいことばかり言っていた二人もさすがに委縮する。
(でも、だったら俺たちはどうしたら……)
(そこは安心しろ。雪音がちゃんと教えてくれる)
(え~~! でもゆきちゃんに教わるとなるとさっきみたいに条件を出されるし~)
(条件? 一体どんなのだ?)
実が不思議そうにたずねる。まぁ雪音が言ったもので、心も教わるのを遠慮したようなものだからな。どうせろくでもないことだろう。
(それはもちろん、さっきと同じ――)
(見返りなんかいいから。とにかく、真記にだけは迷惑かけるなって)
雪音が何か言っていたが、それを遮るように俺はそう二人に伝えた。
(…………)
(マジかよ! やったぜ! 雪音!)
(ありがとう、ゆきちゃん!)
(……う、うん。いいのよ、別に)
嬉しそうに感謝の言葉を述べる二人に、雪音は口ごもりながらそう返事をする。
(明夜……)
その後も、助かった~、っと盛り上がっている二人をよそに、雪音は落ち込んだような低いトーンで俺の名前を呼んだ。
(うん? なん――)
その声色を心配に感じつつ、そう聞こうしたところで、右足に衝撃を感じた。それは重い物を投げつけられたようなもので、勢いに押されて足が数センチ動く。
(いっつぅ~~~!)
そうして感じた痛みに俺は、思わず頭を机に押し付ける。こちらも勢いのせいでおでこをぶつけ、痛い。
しかも、ぶつけた時の音と、この状態のせいか、また視線を感じる。とにかくは、一旦元の状態に戻ろう。
数秒して痛みが引いてきたところで、何事もなかったかのように顔を上げて姿勢を正す。
教師は不審そうに俺のことを見ていたが、しばらくすると視線を外した。
ホッと胸を撫で下ろす。と同時に、雪音に話しかけた。
(お前な! こんなときにいきなり念弾飛ばすなよ!)
(あら? いきなりでなかったらいいってこと?)
そう言う意味じゃない!
心の中で突っ込み、俺は妙に疲れて、ため息をつく。
くそ。何を言っても、適当にあしらわれる。やっぱり、雪音に言葉では勝てないな。
そんなことを思っていると、雪音は何やら俺たちを気遣うように聞いてきた。
(それはそうと、三人ともいいの?)
(((え?)))
(時間、もうないけど)
そう言われて時間を確認する。残り時間1分。
(((あー!)))
知らないうちに、もうそんな時間にまで! 心達に気を取られて、完全に忘れてた~!
まだ2問しか解いてねーよ!
(お前らのせいで、全然問題解けなかったじゃねーか!)
(ふ……明夜を道連れにできたなら、それだけで十分だったよ、我が人生)
(うぉ~~!! このままじゃ一問も書けずに終わっちまう! と、とにかく早く教えてください。雪音様~!)
(う~ん……暇つぶしにもなったし、私はそろそろ退散するわね)
(え? ちょ……嘘だろ! 雪音~!)
実は何度も雪音を呼びかけるが、返事は帰ってこない。
(ああああああ!! もうダメだ~!)
そんな叫びをあげる実の声を聴きながら、俺はため息をついて、その場所から意識を切断した。
その後俺は必死になって問題を解いたが、結局半分も終わらなかった。