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幼馴染みになった日

「う、う~ん……」

「ほら、起きなよ。実」

「いて! だ、誰だよ、今蹴ったの!」

「あたしだけど、悪いの? ねぼすけ」

「なんだとー! ……って、ここどこ? オレたちなにしてんの?」

「あんた……自分で誘っておいて、そういう事、言う? 呆れるわ……って、なんかさっきも思った気がするんだけど……これがデジャヴってやつ?」

「まぁ、とにかく空谷も起きたことだし、早く帰りましょう。なんだか知らないけど、ここでみんなして気絶してたみたいだから。結構、時間経ってるわ」

「うわー! あんまり遅くなると、こころちゃん怒られる~!」

「まぁ、夜に子供が出歩いている時点で手遅れでしょうけど……」

「うぅ~……でも、いいもん! こういうときはまきちゃんがいれば、少しだけ罪が軽くなる! うちの親はまきちゃんにあまいからね!」

「えぇ!? や、やだよ~。そんなやくわり~……」


 子供たちがそう言って騒いでいるのを、ぼくは少し離れたところからみていた。タイミングを見計らっていたけどみんな起きたし、さっきまでのことも忘れている。ここで出ていこう。ぼくはみんなのほうに向かって歩いていく。


「あの……」

「うん?」


 そうしてぼくが声をかけると、男の子が反応してこっちを見た。それにつられるように、他の女の子たちもぼくに視線を向ける。男の子はぼくのことを何秒か眺めると、怪しむように聞いてきた。


「お前、誰?」

「えっと……」


 その質問に、ぼくはどう答えるか悩む。

 ぼくが宇宙人であるということは言うわけにはいかない。だから答えるべきは地球人? いや、地球人は自分で自分のことをそう言ったりはしないだろう。

 それに、こんな人気のないところにいた理由も答えないといけないだろうし。そうやって、戸惑っていると、男の子は興奮した様子で声を張り上げた。


「あ、もしかしてお前もオレたちと同じで、ここにUFOを見に来たのか!!」

「んなわけないでしょ。アホか」


 一人の女の子がそういってチョップする。チョップを受けた男の子は、頭を押さえて「いってー……!」っと、その場にしゃがみ込む。

 それに苦笑いしながらも、ぼくは返答する。


「あ。う、うん。そうだよ」

「あってた! ということは、この子もこころちゃんたちと同じでアホだってことだよ!」

「私のことまでアホ呼ばわりはやめてほしいのだけれど」


 そのテンションの高い反応に、長い黒髪の女の子は呆れたようにため息をつく。う~んやっぱりこの子だけ、他の子と違って、ずいぶんと大人びでいるな。この子がみんなをまとめる立ち位置なのかな? そうでなくても、この子はしっかりとしているし、見習っていこう。


「でも、子供一人で夜に出歩くものではないわよ。まぁ私たちも人のことは言えないけど」


 そう付け加えつつ、その子はぼくに注意してくる。ぅ……いきなり言われた。どっちかと言えば、ぼくがみんなのために何かいろいろとやってかないといけないのに。ちょっと情けない。


「う~ん……。にしてもお前、ここらじゃ見ない顔だよな?」

「あなた、名前は?」

「名前?」


 ぼくはヒカリだ。でも、それはぼくの星での名前だ。もし言ったら、何かの拍子にぼくの正体がばれてしまうこともあるかもしれないし……。この星に留まるからには、この星……特に、日本と言う国にあった名前のほうがいいはずだ。別の名前を考えたほうがいいよね? でもどんな名前なら……。

 そうやってまた黙って答えないでいると、男の子が驚いた声を上げた。


「ま、まさか、お前! 記憶喪失か!」

「え?」

「だってそうだろ! 自分の名前を忘れるなんてアホでもないことだぜ!?」

「そりゃ、そうでしょ。アホを超えた実だって、それくらい知ってるんだから」


 わぁ……何気にものすごくひどいこといっているよ。けれど、その実という子は気にする様子もなく、話を続けていく。


「それにさっきまで何だか知らないけど、オレたち気を失って倒れてたし! なんか超常現象が起こったんだ! そのときの影響で、こいつも!」


 というより、原因がぼく側にあるんだよね……。みんなが気を失っていたのは、お母様が記憶を消したからだし。

 熱くなって語る男の子に「はいはい」っと、話を終わらせて、ぼくにたずねてくる。


「空谷のバカな言動はおいておいて。それでどうなの? 自分の名前わかる? 住んでいるところは?」

「えっと……その」


 そういえば、名前を聞かれていたんだったよね。記憶喪失がどうこうのせいで、名前を考えている時間、なかったな……。

 それに、住む場所なんて一切考えてなかったよ。どうしよう。

 とにかくまずは名前。えっと二つあるんだよね。名字といわれる部分と、そのまま名前っていうものの。名字は……。


「……海導」


 どうにか考え出してそう答える。けれど相手の子は、さらに深く聞いてくる。


「海導? それって名字よね? 下の名前は?」

「…………」

「……これは本格的に、実の言ったとおりかもしれないね」


 考えてみたけど、あまりいい感じのものが思いつかなかった。こんなもの、適当に決めて適当に言えばよかったんだけど。その適当が、ぼくにはまだ分からないんだよね。日本語については勉強したけど、日本人の名前についてまでは勉強してないから。

 元気そうな声で一人の女の子が言う。


「きおくそーしつだったら簡単だよ! 同じような刺激を与えれば、元に戻る! テレビでみた!」

「けど、どうしようか? 記憶喪失じゃ、自分の住んでいるところもわからないよね?」

「……うん」


 その言葉にぼくは頷く。記憶喪失ではないけど、住む場所がないのも事実だし。今は彼女たちに頼るしかない。


「とりあえず、誰かが一晩泊めてあげればいいんじゃない?」

「じゃあこういうときは実ちゃんの出番だね!」

「なんでだよ! めんどそうなことをオレに押し付けなんなよな」

「っていうか、ふつうに考えたらあんたでしょ。この子は男だし。同性のあんたのほうがあたしたちより、話とかもあうだろうし。気兼ねもないでしょ」

「っぐ! まぁ、別にいいけど」


 ぼくのことは抜きで話は進んでいって、最終的に男の子はしぶしぶと言った様子で納得した。

 ぼくとしては迷惑をかけるようなら、断ってもらったほうがいい。ぼくはそのことを伝えようとするけれど、みんなは話を進め、別のほうに変わっていく。


「じゃあそれでいいとして。彼の名前も決めないとね」

「う~ん……。あ、月でよくね?」


 空を見上げ、天に輝き光を照らしているそれを見て、男の子は呟いた。


「あんたね……。上見て月があったからって……それは安直すぎるでしょ。それにそんな適当な理由じゃ可哀想」

「じゃあ、月で夜だから月夜つきよ

「女の子の名前みたいだよ。それじゃ。せめて月夜げつやっていわないと」

「でも、月夜なんてみせられたら、つきよって読んじゃうわ、あたしなら」

「だったら、明るい夜ってことで。みょうやなんてどうかしら?」

「あー……いいんじゃない?」

「えー。それも安直だろ~」

「けど、こうして今日こころちゃんたちとこの子が出会ったってはっきり分かる名前だと思うよ。特別な感じがする」

「そう言われると……よし! じゃあ、お前はこれからみょうやな!」


 男の子に肩を叩かれる。その様子はとても無邪気な感じで、ぼくのことを嫌がっているようではなかった。ぼくを泊めるって話のことはあんまり気にしてないのかな? だったら、いいんだけど。

 そういえば、ずっとぼくが質問をされていたから忘れていたけど、ぼくはまだこの子たちの名前を知らないんだった。

 ぼくは、一つお礼を言ってからみんなに対してたずねる。


「うん。ありがとう。名前をつけてくれて。それで、えっと……君たちは?」

「あ、そうか。まだ自己紹介してないもんね」


 そう言うとさっそく、その子が一番最初に自己紹介をしてくる。


「あたしは医十院治恵。よろしくね」

「わたしは才城雪音よ」

「オレは空谷実だ! よろしく!」

「朝日心だよ! よろしくね!」

「うん。よろしく」


 ぼくは4人にそう答える。……で、最後にもう一人。その子に目を向けると、びくっとして体をこころちゃんの後ろに隠す。


「あはは……ごめんね~。まきちゃんはひとみしりがはげしいから」


 こころちゃんはぼくに苦笑いでそう言うと、そのまきという子をほらっと、ぼくの前に押し出した。


「あ……うぅ……。完本真記です」


 ぼくを見てそれだけ言うと再び、こころちゃんの後ろに隠れた。

 そんなまきちゃんの行動に自分を思い出した。

 家族を思い出した。

 友達を思い出した。

 そうしたら、自然と涙が零れ落ちていた。


「? どうして泣いているの?」


 こころちゃんは不思議そうに聞いてくる。ぼくは涙をぬぐって返す。


「ちょっとだけ悲しくなったんだ」


 目の前でみた。そして広がっているこの光景が。

 まきちゃんはぼくと同じだった。

 見ず知らずの誰かに、恐れを抱いていた。

 関わるのが怖くて、誰かの後ろに隠れていた。

 ぼくはそんな自分を変えるために……勇気を持った。

 けど――


「今のぼくにはずっと一緒に友達もいないし、お父様やお母様もいない。一人なんだって……」


 わかっていたはずなのに。

 どうしようもなく、おとずれる喪失感。

 目の前でそれを突き付けられた。

 ぼくは自分の大切だったもの全部を捨ててここに留まった。

 もちろんそれは一時の別れ。また会うことはできる。

 でもそれまでは、ぼくは……一人なんだ。


「一人じゃねーよ」


 俯き、暗い顔をするぼくにみのるくんが声をかけてきた。顔を上げると、みのるくんは笑ってボクに言った。


「みょうやにはもうオレたちがいるだろ」

「そうそう、もう友達だよ?」


 ちえちゃんもぼくに笑いかけてくる。それが……心にしみた。ぼくはみんなのために頑張るんだって、一人でって意気込んでいたけど、そうじゃないや。

 ぼくがみんなを助けて、でも、ぼくもみんなに助けてもらって。そうやってたがいに支え合える関係。そっちのほうが、すごくいいよ。


「……うん」


 だからぼくは、そんなみんなの優しさに笑った。


「ありがとう。みんな」

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