力を手にした日3
お父様は相手の言葉に、嬉しそうに少し笑って、立ち上がる。そうして、棚の上にあったあるものを手に取った。
「これでお詫びになるなんて思いはしないが……。私たちからの気持ちだ。受け取ってくれ」
そう言って、お父様は一人一人に石を手渡す。
みんなは石を眺めて、それぞれ感想を漏らす。
「うわー……すっげー」
「綺麗だね~……ね? まきちゃん」
「うん。これって、エメラルドなのかな?」
「エメラルドって、なんだ?」
「宝石のことよ、空谷」
「うへぇ……だったらもっとすげー」
どうやら、気に入ってはもらえたようだった。でも、あの石の本当にすごいところは、綺麗なところじゃない。あれにはもっと特別な力がある。そのことについて、お父様は説明を始めた。
「それは、私たちの星にある石でね。持っている人の強い願いを一つだけ叶えてくれるんだ」
「なんでも!? マジで!?」
「ああ。君たちが今、一番望んでいるものをなんでも与えてくれるよ」
「一番、望んでいるもの? う~ん……こころちゃんの一番望んでいるもの……ってなんだろう?」
「それは、人それぞれだろうね。ある人は、自分の大切な人の為に。ある人は、自分を変えるために。けれど、深く考える必要はないんだ。本当に一番望んでいるものっていうのは、どんなときでも決して変わることはないからね」
決して変わらない願い。
ぼくは……どうだろう? 何を望んでいるんだろう?
石の奇跡は一生に一度だけ。だからこその、一番望んでいるもの。ぼくはまだそれを願ってはいない。大切なことだから。ずっと悩んでいて。そして、結局望みたいほどのものは何もなかった。
それならと、将来のとき、思いついたら使おうとそうしてきた。それが……今なのかもしれない。彼女たちを見ていて、望んでいるものが分かった。ぼくの願いは……決まった。
「でも、その力は君たちの純粋な心を……優しい心を持っていて、初めて叶えてくれるんだ」
「う~ん……こころちゃん、よくわかんない」
難しそうな顔をするその子にお父様は笑みをこぼす。
「そうかもね。でも大丈夫。今の君たちのままで、ずっといれれば、その力は君たちに宿ってくれるよ」
そう言ってお父様は話を終える。それを聞いて、何か考えるところがあったのだろう。みんなは思い思いに目をつぶって、石を両手で握りしめた。そうして願う。自分の大切なことを。その場に光が溢れた。
「……何か変わったか?」
「う~ん。どうだろうね~」
「あ、でも石は消えてるみたいだよ?」
「あ、ホントだ。まきのいうとおりどこにもないよ」
みんなそう言って不思議がる。そうしているみんなにもう一度、最後の説明をお父様は始める。
「石に宿った力はすべて、君たちの中に吸収された。もう君たちは願ったものを手に入れたんだ」
そうなのだろう。でも、石が消えたということは、その石に宿る力すべてを使ったということ。つまりは、それだけに強い願いがあったということだ。
「でもその力が完全に君たちのものになるまで、時間はかかるだろうね」
「それってどのくらい? こころちゃんがおとなになるよりもさき?」
「そうだね……10年くらいかな?」
「じゃあ、それまで、あたしたちが願ったものってどうなるの? 使えないの?」
「ううん。そういうわけじゃないよ。体になじむのにかかる時間だ。それまでの間も問題はない」
「じゃあ、体になじむってどういうことだ?」
「今のままじゃ、まだその間は力が不安定なんだ。それが安定することを言っているだけだよ」
お父様がそう答えると、みんなはふ~んと頷く。そこでお父様は、でもね、と一番大事な話を始めた。
「これだけは約束してほしい。それは君たちが本当に望んだこと。だから、絶対にその願いを変えてはいけないよ。捨ててはいけないよ。でないと、石の叶えた願いの力と君たちの心が反発し合って、君たちを苦しめてしまうから」
「よくわかんないけど、わかったぜ!」
一人の男の子が、元気よくそう答える。それを見てお父様は笑った。
そうして、お父様はぼくとお母様のもとに向かってくる。そして、ぼくに手をのばし声をかけた。
「さぁヒカリ。帰るよ」
ぼくたちはまだ、この地球にきたばかりだった。けれど、事故を起こしてしまう。あんなことがあったのだ。旅行を中止して帰るというのも当然だろう。
「ええー!? もう帰んのかよ!?」
「こころちゃん、もっとなにかお話ししたいよ!」
みんなは口々に不満を言う。それにお父様はごめんねと、優しい声で答えていた。
でも、ぼくも決めたんだ。
「お父様、お母様」
そう言って、ぼくは二人に向き直る。ぼくのその真剣な様子に二人もすぐに見つめてくる。そのことが少ながらず、ぼくを怖気づかせた。
(勇気……)
それを持とうと思った。思わせてくれた。だから、今も勇気をもって答えるんだ。
「……ぼくはこの星に留まりたいです」




