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俺たちの能力3

「くそー……負けたー……」

「まだ言ってるのかよ。それ。未練たらしいな」


 放課後になってもまだ、体育で負けたことが余程悔しいのか、実は何度もそう呟いていた。


「もとはと言えば、明夜が怪我なんかして抜けるからだぞ」

「悪かったよ」

「つーか、治恵! お前は戻って来いよ! なに明夜と一緒にサボってるんだよ!」

「別にいいじゃない? あのままやったところでどうせ勝てなかっただろうし」

「なんだよ。悲観的な言い方だな」

「だって……ねぇ?」


 そうして治恵は俺のほうに目を向ける。

 まぁ、そうだな。あの後の展開は雪音から聞いたが、ほとんど俺たち二人がいなくても何ら関係のないミスの連発で逆転されたって言ってたし。

 実のエラーとか、実の送球ミスとか、実のダブルプレーとか。その辺りを語ってるときの雪音は、相当機嫌がよかったな。嬉々としていた。

 落ち込む実を励ますように、心は背中を叩く。


「元気だしなよ! 実ちゃん! 実ちゃんは頑張った。それだけ十分じゃないですか」

「ああ、ありがとうな。心」

「そうよ、空谷にしてはよく頑張っていたわ。胸を張って誇りに思うといいわ」

「お前が言うと、嫌味にしか聞こえねーんだよ!」

「ええ、実際にそうだもの」

「たちわり―な、おい!」


 そうやって実は大声を上げる。対して雪音はまた機嫌がよさそうで、実の様子を見て笑っている。絶好調のようだ。


「だって、まさか完本さんの打った球であんな……」

「っぐ! そ、それは忘れろ!」


 実は何やら恥ずかしそうに叫ぶ。真記が何かしたのか? 聞いてなかったことに、少し気になっていると心は思い出したように声に出した。


「あーあれはすごかったよね~。まさか、運動神経皆無の超文化系人間の真記ちゃんが、ヒットを出すなんて」

「へぇ~。すごいじゃないか」


 驚きつつも、素直な気持ちでそう言って真記を見る。それに真記は恥ずかしそうに、顔の前で手を振った。


「そ、そんな偶然だよ」

「それでもだよ。当たったってことは、ちゃんとバットを振ったんだろ? 真記なりに頑張ったんだろ? だったら、やっぱりそれは、すごいって褒めたっていいじゃないか」

「あぅ……で、でも」

 それでもまだ否定するようにする真記に俺は、思わず頭を撫でる。

「えらいえらい」

「あ……。えへへ……」


 俺の行動に真記は最初、びくっと反応するも、すぐに顔を綻ばせて嬉しそうに笑った。そうしていると、心が少し怒ったように割って入ってくる。


「みょうやーずるい! 私も~。なでなで~」

「っわ! くすぐったいよぉ。心ちゃん」


 心が真記に抱き付いたせいで、俺からは奪われてしまった。それはまるで「ふ……真記はあたいの女……。誰にも渡さないよ」と言われているかのよう。っと、そんな馬鹿な考えは一瞬で吹き飛んだけど。

 それよりもやっぱり、この二人を眺めていると、心が和むな。心だけに。


「……あ、で? 真記がヒット出して、どう実が関係するんだ?」

「う! 忘れて無かったか」


 思い出したように切り出すと、実は顔を引きつらせる。真記のほうに気がいってはいたが、それでも雪音のあの言い方は頭の中に残っていた。

 雪音が続きを話し出す。


「完本さんの打ったボールは空谷のほうに向かったの」

「ふーん……。それでエラーでもしたのか?」

「そ、そう! そうなんだよ! それだけ! それだけだから!」


 実は必死になって強調する。なんというか、ここで話を止めようとしている。それ以上を知られたくないって想いがひしひしと伝わってくる。なおさら知りたくなった。

 雪音はその言葉を肯定したうえで、続ける。


「ええ、確かにエラーをしたんだけど……面白いのはそこから先」

「面白いとか言うな!」

「そのボールは空谷の体にあたったの」

「? 別に面白くはないぞ? エラーだし、それくらい普通だろ?」

「当たった場所が面白いのよ」

「え……? ……どこ?」


 雪音はもったいぶった言い方をする。俺はさっさと答えてほしくて、特に考えもなし、そう聞く。けれど雪音はその反応に、初め言葉を失い、その後は呆れたように言った。


「ここまで言ったのにまだ分からないなんて、とぼけるのが上手ね……。まさか、女性の口から直接言わせたいのかしら?」

「え? ……ああ~……なるほど」


 その言葉にようやく理解する。実の体に当たった場所。そしてそれが面白くてかつ女性が言うのがためらわれる場所。答えは一つだろう。男性の一番の弱点。……股間。

 その場にお腹を抱えて倒れ伏す、実の姿が容易に想像できた。そしてその光景を思い描いて、眺めていると次第に笑いがこみ上げてきた。


「……っぷ」

「笑うな!」


 思わず吹き出して、実が怒鳴ってくる。俺はすまんと謝るが、その声も震えていた。


「だって……笑えるだろ。状況的に」


 ただでさえ、珍プレーとか言われるようなものなのに、それが真記の打った球であることがさらに評価を高めている。やばい、思い出したらまた笑いが……。


「ちょっと、まだあたしだけわかってないんだけど」


 そうして口に手を抑えて、必死に耐えていると、治恵が不機嫌そうに答えた。一人だけ状況に呑み込めてなければ、そうなるのも無理はないか。だが、俺の女性に向かってその場所をそのまま言うのは気が引けるな……。


「とりあえず、治恵が蹴りやすそうな場所を蹴ってやるといい」

「やめろよ!?」

「ついでに、ダメージが一番高そうなところを狙うといいわね」

「雪音も付け足すな!」

「ダメージが高そうなところね……」


 俺たちの言葉を受けて、治恵は実を眺める。治恵は思うところがあったのか、足を振るった。


「あぐっ!?」


 実は小さい悲鳴とともに、その場に崩れ落ちる。そして、蹴られた場所である左足を抑える。


「とりあえず、すねを蹴ってみたけど。弁慶の泣き所ともいうし」

「ダメージは高そうだな」

「でも、もっと上の場所ね」

「ふ~ん……じゃあここか」


 雪音が付け加えた言葉で、理解したのか、治恵はその場所を踏みつけた。


「お……っつ、ぐぅ……」


 追い打ちを受け、実は声もなく沈んでいった。


*****


「ふぅ……」


 風呂から上がり、部屋についてベッドの上に座ったところで一息つく。さて、あとは寝るだけだ。

 今日も一日平和だったな。まぁ、そんなことは今日が始まった時点でわかっていたことだけども。

 そう言えば、治恵に未来予知のことで色々と言われたな。


「未来を変えようと思って行動をしたことがあるのか……か」


 一度もない。興味もなかった。それが俺の力なんだって、そう思ってもいた。

 けど、同時に俺は思ったはずだ。俺たちはみんな、知らないうちにこの力を手に入れてそして使いこなしていた、と。誰に教わったわけでもないのに。俺たちはどういう力を持っているのか、知っていたんだ。

 だとしたら、それは思い込みで、勘違いだったとしてもおかしくはない。


 実際、どうなのだろう? 俺は変えることはできるのだろうか?

 今だって別に、興味はない。それをやることはなにか、大切なことを失いそうな。今をなくしそうな。そんな気がして。

 俺は楽しい日々を過ごしていたいんだろうな。ずっとこのまま……みんなと、一緒に居たいって。そう思っているんだ。


「そして、その日々を先に見たくなんてないよな」


 だからやっぱり、気が向いたらやってみるでいいさ。そうだな……夕飯、何を食べるのか未来予知したら別のものでも食べるとか。そんなくだらないことでもやってみよう。

 そんなことを考えながら、俺は少しずつまどろみ、眠りに落ちていった。そうして今日も一人きりの家の中、一日を終えた。

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