なんてこった!!プリン編
さて、どうしたものか。
うち、朝霧の目の前にはプリンがひとつ、机に偉そうに置かれている。そのプリンの神々しさと言ったら、飢えてるうちらには充分すぎるほどだった。
しかし、時として残酷である。
うちは魚肉ψという少し…いや、だいぶ変わったチームに所属しているが、そのチームにはうちを含め四人いるのだ。四人…つまり、ひとつのプリンを四人でわけようとする…なんて邪道なことも出来ず、今ここで小さな戦争が勃発していた。
「ろろろは引っ込んでてよ!!」
「きあろこそ遠慮したら!?!」
「お前らうるせぇ!!俺が食べるんだよ!!」
「じゃあ間を取ってうちで!!!」
「「「はぁ!?!?」」」
小一時間このような感じである。
ぐるるる、と威嚇しながら睨みあう様子はまるで獣そのものだ。
すると一人、すっと手をあげる。
驚いてその手をあげた主を見ると、なんと先程まで声を荒げていたカロであった。
「ねぇ、やっぱこういうのは良くないと思うんだ…」
わかりやすい猫かぶりだ。
どうせ「私はおりる!」などと言って周りが遠慮してしまうパターンだろう。見え見えだぞカロ、と内心にやけていたが甘かった。
「じゃんけんにしない!?」
きらきら、と目を輝かせていうそれは無知な少女のようで。
じゃんけん。
それは神が人間に与えた世界一平等な決め方。
じゃんけんはカードゲームのように作戦を練れるはずもなく、運だけのゲームなのだ。こいつ、自分が勝つことに賭けたな。
「いいね、じゃんけん。俺やるよ。」
この勝算のわからないゲームに一番乗りしたのは笹太もといみづだった。みづは強気に笑いながら「お前らはどうなの?しないなら降りたってことにするけど」と言う。これは飲み込むか別の案を出すの問題じゃない。やって食べるかやって食べないかの問題なのだ。このゲームを勝ち残ったらプリンを手にできる…しかし、降りたら自ら負けを認めたも同然だ。みづはうち達にやれと言っているのだ。
「わかった、僕もする。」
観念したように冷や汗をたらしながらろろろが口に出す。すると、カロとみづとろろろがどうなの?と言いたげにこちらを強く見る。こんなの……こんなの、
「………わかったよ、じゃんけんね。」
受けるしかないじゃないか。
ー****ー
まさかの展開だ。じゃんけんで決めようなどと誰が予想しただろうか。実は内心、皆でかわりばんこで食べようぜーくらいの気持ちだったのだ。それがまさかここまで大きくなるなんて。
「…いくよ?」
張り詰めた声で、カロが小さく呟く。うちとろろろとみづはこくり、と頷いた。
「最初はぐー!」
バッと拳を前に出す。皆も同じように拳を出す。
「じゃーんけーん…」
ここからだ。
人間は急ぐとパーかグーしか出せなくなるらしい。間をとってチョキを出そうか、と思ってしまうが万が一、相手がパーじゃなかったら?グーしか出してなかったら?自分は最初に負けることになる。それだけは避けたい。しかしこの状況で急ぐ、なんて言葉は存在しない。つまり誰もが用意できているのだ。誰がグーを出すか、誰がチョキを出すか、誰がパーを出すかわからない。まさに戦場なのだ。
「(仕方ない、あいこに期待しよう!)」
そう決心し、私は次の言葉で勢いよく
「ぽんっ!!」
チョキを出した。
「(頼む!!!あいこあいこ!!!)」
恐る恐る皆を見ると、グー、グー、パー、と見事にならんでいた。助かった!しかしカロはうちに安堵する暇を与えず次の言葉を紡ぐ。
「あーいこーで…」
どれだ?どれを出すんだ?
さっきカロはグーを出した。みづもグー、ろろろはパー。
カロは前と同じ手は使わない主義だ。みづは惑わせるパターンが多い。一番厄介なのはろろろだ。パターンが読めない。頭をフル回転させてる途中でカロがあの言葉を口にする。
「しょっ!!」
「……………ぁ、」
しまった。
「よっしゃー!!!」
みづ一人がパーを出した。
うちらは三人ともグー。つまりプリンはみづのものとなったのだ。
もうだめだ。目の前が真っ暗になった。しかしその時、救世主が現れたのだ。
「待った!!!」
大声で、ハッキリと異議を唱えたのはカロだった。
「りりちゃん!!誰も『勝った人がプリンを食べれる』なんて言ってないでしょ!!」
なんていう屁理屈だ。しかし一命は取り止めた。
「はぁ!?お前ふざけんなよ!普通はそうだろうが!!」
確かに普通はそうだ。もしうちが勝ってたら同じこと言うだろう。
「『負けるが勝ち』て言うじゃんさぁ!ワンモアワンモア!!」
お願いー、と手を合わせて駄々をこねるカロ。しばらくしたらみづが面倒になったのか、「わかった、勝った人がプリンだからな。」と溜め息混じりにいった。
よっしゃー!とろろろとハイタッチするカロ。本当にこいつせっこいな。
そしてまた、じゃんけんの幕開け。
「じゃーんけーん…」
今度はワンクッションなしの勝負だ。きっとここで勝敗が決まる。誰もがそう確信した。
「ぽんっ!!」
結果は…………
「あっはは、ごめんねー!」
満面の笑みで勝利をかっさらったのはろろろだった。
「ちょっと、私もなんだけど?」
カロもいた。
「あーあ………カロがあんなこと言わなかったら俺プリンゲットできたんだけど。」
どうやら負けたらしく、じろり、とカロを睨むみづ。カロはウッ、と声を詰まらせ「ろろろ!勝負きめよ!」と逃げるのであった。ちなみにうちも負けた。はー、と溜め息をして自分の拳、グーを見つめる。まさかここで負けるとは。まるで蜘蛛の糸だ。
負けたものは仕方がないので、ろろろvsカロのじゃんけん対決を観覧する。
「ろろろいくぞ!!じゃーんけ……っあ」
今まさに激闘が始まる。そんなときだった。我が家で勝っている猫が机にのり、プリンを蹴飛ばしたのだ。べしゃり、と机の上から床に落下し、猫がその床に落ちたものをなめる。
呆然。開いた口が塞がらなかった。うちらがここまでして争ったあの時間はなんだったのか。
すると気のせいか、猫がこちらを見て嘲笑った気がした。
「え…………ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?!????!?!?!?」
このカロの叫びにみづはうるさい、と言えなかった。