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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ただの平民だがシリーズ

やっとの思いで王妃になったが、王と王女に不満です。

作者: motto

 令嬢が王子様と結婚してハッピーエンドという話が多くある中、その後の話に焦点を絞ってみようと思い書いてみました。ご一読、ご感想など頂けると嬉しいです。

 建国祭の日、王宮内の広場には多くの国民や来客が集まっていた。

 建国祭は王国において最も重要な行事の一つで、近隣諸国の王侯貴族が招待され、我が国の貴族達より祝辞をもらい、王族全てが一同に民たちの前に姿を現して、建国を祝うのだ。

 すでに広場に通ずる扉の前では王が待機しており、少し丸みがかった背を向け、後からやって来た王妃を一顧だにせずにまだ開かぬ扉をじっと見つめていた。

 対照的にシッカリと背筋をピンとはる王妃は女神のように美しく、その高貴な容姿に相応しく豪奢な出で立ちをしていた。

 王妃は王の隣に立つが、両者はいっさい眼を合わせず無言。

 どこかピリピリとした空気をその場に放ちながら王と王妃は薄暗い扉の前で静かに佇んでいた。


 私は大国の王妃だ。

 王に並び下々の者たちに傅かれ、ひれ伏す様を見下ろす立場にあり、国で最高の贅沢と快楽が許される存在だ。

 伯爵令嬢として蝶よ花よと育てられた私は、持って生まれた美貌にさらに惜しみなく大金を注ぎこみ磨き、この世の全ての美を併せ持つかのような完璧な美貌を手に入れた。


白銀の髪は星々の煌めき

碧き瞳は天上の宝石

淡雪のような繊細な肌

天使のようなしなやかな手足

女神のように完璧な造形を持つ目鼻


 当然そんな令嬢に男たちは憧れ恋し、女たちは僻み、醜く嫉妬した。

 伯爵に侯爵、公爵と様々な貴族の男に愛を囁かれたが、歯牙にもかけなかった。

 私に相応しいのはこの国で唯一にして最高の座しかないと思っていたからだ。

 その為の教育も受け、その為の工作も父が率先して行ってくれた。

 そして幾人ものライバルを蹴落とし破滅に導いて、令嬢は晴れて王妃へとなったのだ。

 そして早くに子宝にも恵まれて名実ともに国母となって君臨したのであった。

 誰もが尊敬し崇拝する王妃になったわけだが、しかし、不満がないわけではない。


 不満の第一は夫である王のことである。


 王は私よりも十五歳も年上で、第三王子でありながら棚ぼた的に王になった経緯もあり、きちんとした帝王学は身に着けておらず、いい意味では温和であるが弱腰さが目立ち、議会の場ではどちらが臣下なのかというほどのへりくだり様でとても見ていられるものではなかった。

 まだ戴冠する前、長い間の留学から帰ってきたばかりの第三王子を見たときには驚き、そしてひどく落胆したものだ。

 この国で最も多い見飽きた茶髪に彫は深いも凡庸な顔、細身で背はそれなりに高いものの背筋は丸く、どこかおどおどとした雰囲気を醸し出す覇気ない姿、それは私の夢見た王子様とはかけ離れたものであった。

 そして、その容姿に期待は外れず武威は弱く、剣は振れずに魔法すら戦いに役に立たない一属性しかもたないありさまであった。


 はっきりいえば、この歴代最高の王妃たる私にはまったく相応しくない王であったのだ。


 しかし、なによりも気に喰わなかったのは、あれほど宮中で噂と羨望の中心であった私に当初こそ意識をむけたように見せかけていたが、それもつかの間で王の義務を果たすように私に子どもを孕ませた後は興味を失ったように、公の行事以外で関わり合う事はなくなったのだ。

 それはひどく王妃のプライドを傷つける事であった。

 あの凡庸な男が、美の結晶である私を一顧だにしないなんて許せるものではなかった。

 正直言えば他の男との浮気も考えたが、そんなことをしてばれでもすればあの王はなんの躊躇いもなく私を切る・・・・そう簡単に考え至る程に王は徹底的に私に興味がなかったのだ。

 王妃になる為に狂いそうなほどの努力をしてきた。

 そうやすやすとこの立場を失うつもりはない。


 だが・・・・・悔しかった。


 最高の権力を手に入れても、簡単に手に入るような凡庸な男からの寵は得られなかったのだ。

 だから私は自分自身の美を徹底的に追及することにした。

 民草の称賛と貴族からの賛辞を得、こんな宝石を遊ばせている王を見返してやるのだ。

 その為に血のにじむような努力をし、さらに多くのお金を湯水のごとく使った。


 だが10年経った今に至ってもなお、王は王妃に決して眼を向けることはなかった。


 最近では、あれほど激しかった王への怒りや悲しみ等の感情の起伏も失われ、諦めの境地に至っていると感じている。



 そして第二の不満は娘である王女だ。


 王女は生まれてからすぐに乳母に託しており、王妃は抱き上げたことすらなかった。

 それからときおり行事で眼にする事はあっても、会話を交わすことは数えるほどであった。

 王女はまだ幼いが自分に似て白銀の髪に碧い瞳をもった美しい容姿をしていた。

 自分の美以外では大きな興味を寄せなかった王妃もその姿だけは記憶していた。

 そんな王女の様子は晩餐会やお茶会の中で噂されて聞き及んでいた。


 まず王女はわずか3歳にして周辺諸国の言語を習得した神童として名を馳せた。

 続いて4歳にして王国将軍を手玉に取る程の武威を示し、5歳にして文官達をうならせる政策案を議会へ提出した。

 さらに6歳では、わが王国の南部を長年苦しめていた邪竜ジルドフィードを単身討ち取り、7歳にして戦場に出ては敵国に対して無慈悲までの凄まじい戦果を挙げたという。

 はっきり言って異常、完全に化け物のような存在である。

 そのあまりに夢物語のような話と存在に実感は持てず、そして王妃自身の美の追求には関わりないものであったこともあり大して心も動かされなかった。

 だがあるとき湯水のように使ってきた金を差し止められて、怒りにまかせて訪れた財務大臣の部屋で母子は初めてまともな会話をする事になる。


 財務大臣の机の上には多くの書類が積まれており、忙しく動き回る文官達に幼さ残る少女が次々に指示を出していた。


「なぜあなたがここに?財務大臣はどこにいます。出しなさい。」

「財務大臣?ああ、アレは要らない。横領の罪で先日投獄した。もう出る事もない。」

「横領ですって・・・それでなぜあなたがここにいるの?」

「財務大臣の後任を選定するのに時間がかかる。決まるまで代行している。」

「そう、なら話は早いわ。私への資金提供が滞っているの、早くなんとかしなさい。」

「・・ああ、あの金は無駄だから王の権限で全て凍結させた。」

「なっ、王妃である私の命が聴けないのっ!」

「だから王の命で止めた。予算を組んで欲しいなら、この仕事をやれ」


 王女は積みあがった書類から一抱えはある束を取り出して王妃の目の前にドサリと置いた。


「わ、わたしに働けというの!」


 わなわなと怒りに震える王妃に剣呑な眼を向けて王女は言う。


「当然だ、それは本来、王妃が行う公務・・・・・やらないのなら王妃など要らないな」


 幼い王女の辛辣な一言、それに底知れぬ闇を抱えた瞳と圧倒的な覇気に王妃は気圧され背中には大量の冷や汗が流れた。その雰囲気に飲まれたように周囲の文官達も動きを止め、しん・・・と室内は静まり返った。


「やるか、やらないか、答えろ」


 王女の問いはいやに響いた。


「・・やります」


 とても短い時間だけ逡巡したが、小さく王妃はそう答えるしかなかった。



 王女が王妃へ宛がった仕事の内容は孤児院や病院への傷病兵の慰問や地方の領への表敬などであった。

 最初はいやいや行っていたが、孤児院で見た純粋な子ども達の笑顔に心を温められ、王妃に会えて感涙する傷病兵と共に痛みを分かち合い、見たこともなかった辺境の美しく雄大な自然に感動をした。

 この世界は自分が思っていたより遥かに広く、多様な人々で構成されていることを王妃は初めて知ったのだ。

 そうして王妃は徐々にだが確実に前向きに仕事を取り組むようになっていった。


 そんなある時、孤児院を訪れた際に一人の笑わない少年に出会った事をきっかけに、王妃はある事に気付き衝撃を受けたのだった。

剣呑な瞳に動かない表情。

 それは王女の・・・・・・・・娘の目と表情だった。



 そんなよしに、王妃はある王女暗殺計画を知る。

 実は王女暗殺計画やその実行を耳にするのはこれが初めてではない。

どんな凶悪な刺客も狡猾な罠もあの王女にとっては歯牙にもかからず、粉砕していたから、それがいまや平常となってしまっていたのであった。


 だが今回の暗殺はこれまでの比ではない、それは「神竜殺しの蜜」と呼ばれる神代の時代に神竜を葬ったとまで謳われる猛毒に手を出そうとする一派がいるというのだ。

 その毒は一滴ですらドラゴン100匹を殺す力があると言う。

 さしもの王女も神の域まで達した物をも殺してしまう毒には敵わないであろう。

 王妃は自分の伝手と権限、そして自由にできる資金をフルに使って、その猛毒を横取りしたのであった。


「まあ、こんなことをしても罪滅ぼしにもならないのかもしれませんけどね」


 片手に余る小さな瓶を机の上に置くと王妃はため息をついた。


バンッ・・・


 大きな音に身を竦めて見ると、ノックもせずに扉を開けて数名の騎士と文官を伴い王女が王妃の部屋に入ってきたのだった。

 王女は王妃を見て、続いて机の上の小さな瓶を見つめる。


「これは・・・」


 弁明しようと立ち上がってはみるものの、これでは私が誰かを殺そうとして毒薬を手に入れたと言われても弁明できない状況だ。結局、何も言い出すこともできず騎士により小瓶から離され部屋の壁側に寄せられてしまう。

 しばらくして、検査官らしき者が小瓶を何やら調べて王女の耳元へ報告に行く。

 王妃とは離れた場所で立ちながら腕を組み眼を閉じてその報告を聴いていた王女だが、報告が終わると眼を見開いて王妃の方へ歩いて来て目の前で止まった。


「あまり目障りにしていると・・・消すぞ」

「なっ、実の・・・実の母親に向かってなんて口をっ、私はあなたを・・・」


ズガアアアアアンンッ


 王妃の身体のすぐ横の壁に王女の蹴りが飛ぶ。蹴りによって壁は大きく陥没し、続けざまに粉々に砕かれて大きな穴が出来上がった。


「ひいぃっ!」

「もう一度、言わすか・・・それとも言わなくて済むようにするか・・・どうする?」


 王妃を覗き込む王女のその瞳には死神が写り込み、王妃に対する絶対の拒絶の意志が宿っていた。


「あああ・・・」


 王妃は必死に答えようとするが、恐怖と絶望に引きつった口からはまともな言葉が出ることはなかった。

 その様子を見てかひとりの文官らしき男が進み出てきた。


「王妃様、恐れながら申し上げます。私めは王女の臣下にて筆頭文官を務めさせていただいていますワグス・フォン・サインバルタと申します。ただいま王女は現宰相の犯罪の内定を進めており、今回、王妃様が押さえていただいた毒は物自体が貴重で入手が非常に困難な為、宰相を糾弾する大きな物証となる予定だったのです。」

「わ、わたし・・そんな・・・し、知らなくて」

「王妃様の子を思う心情をすれば、今回の事はやむなき事。しかし、これ以上の危険な立ち入りは無用との王女殿下の心の内を受け入れていただきたいのです」


 やさしくしかし、王妃の意見を挟むべくもなくワグスと名乗った筆頭文官は王妃に問い、王妃は小さく頷くしかなかった。


「ご理解いただけて幸いです。王女殿下もこれでよろしいですか?」

「ああ」


 そんな気のない返事をしつつ王女は机の上に置いてあった毒薬の小瓶をおもむろにつまみ上げると蓋を開けて一気に呷った。


「「「「な゛っ」」」」


 その場にいたすべての人間がまさかの王女の行動に固まった。


「まずい・・・・」


 そう言うとカラになった瓶を投げ捨てて、王女はいたって平然とした様子で部屋を出ていってしまった。


「で、殿下っ!!」


 唖然としていた王女の臣下達も気を取り直して、王女に続きあわてて部屋から出て行った。


「な、なんなのよ・・・」


 後に一人残された王妃は座り込んで茫然とそう呟いた。



 私は王妃として、妻として、なにより母として間違えていたのかもしれない。

でも、その事に気づいて今まさにそれを正そうとして、動いてみたらこの有様だ。

 その後、この毒薬騒動の話がどう王に伝わったかはわからないが、王妃は王より自室にて謹慎を言いつけられた。

事実上の軟禁状態である。

 そして軟禁されて早一週間、王や王女へ言伝を頼んでも、まったく返答はもらえなかった。


 そんなある日、自分の浅慮と新たに生まれてしまったかもしれない誤解に後悔しつつ、行けなくなってしまった慰問先に向けて王妃は手紙をしたためていた。


「あら、もうこんな時間・・・」


 時計を見るとすでに夜の八時を回っていた。

 美容を特に大切にする王妃の夜は早い、自分付きの侍女には八時前には必ず一言かける事を命じていたのだが、そんな声は聴こえなかった。


「どうかしたのかしら?」


 訝しがって、扉を開き外を確認するが扉の前で待機しているはずの兵も見当たらなかった。

 いよいよもっておかしいと思った矢先、自分の部屋へ振り向いて目に入ったのは4名の黒ずくめの男達であった。


「!!っぁ・・・・」


 大声を出そうと試みる前に、今度は背後から腕を捻られ口を塞がれてしまった。


「・・・・・・・!?」

「お初にお目にかかります王妃様。我らはある貴き方よりの使者でございます。」


 うやうやしく礼をとりながら黒ずくめの男の一人が歩み出てくる。


「・・・・・・・」

「声を出されると困るので、どうぞそのままでお聴き下さい。まぁ、時期に声すら出せなくなるでしょうがね」

「!?」


 なんとか黒ずくめに抑えられた腕を外そうと試みるも万力のような力に筋が痛むだけでテコでも動かなかった。

 そして目の前のほうの黒ずくめの男は鈍く光る大きな刃を王妃に見せつけてから王妃の頸にピタリと当てた。


「わが主は王妃にとてもお怒りです」

「・・・」

「あと少しであの悪魔を地獄に送り帰らせる薬が手に入ったところを、これまで散々恩を売った相手に邪魔されるなど、心外であったらしいのですよ」

「・・・・・!?」

「あるじからの一言です。『どうやらあなたの存在を消す事で王や王女にわずかなりとも傷を与えることはできそうだ。喚き散らすのが聴けないのが残念だがせいぜい無様な最後を迎えるがよい』とのことです」

「・・・・!!!!」

「クックックッ、では、さらばです」


 そして暗殺者が首筋のナイフを躊躇いなく引いた。

 鋭い痛みと共に喉の奥から熱い塊が溢れだす。

 すでに暗殺者の手は口から離れていたが声は出ず、その口からは真っ赤な血が溢れだした。

 床に倒れ伏し、茫然と部屋の出入り口を見つめる。


 夢うつつか、なぜか王が悲壮な顔をして走ってくるのが見えた。


 なにを・・・今さらそんな顔を・・・・・ははっ、この私に興味すら抱かぬ王の顔を最後に幻に見るなんて・・・私は王を・・・・


 これが死ぬ・・というこ・・・と・・


 急速に意識が薄れて周囲の光が暗転し暗闇だけが濃くなっていった。


 もう痛みはない・・・・


「レイアァッ!!!」


 ひと際大きな声で自分の名が叫ばれ、意識が急浮上する。

 居るはずも無い王が、王妃の首の傷を手で塞ぎつつ、すさまじい速さで回復魔法を行使していた。


「俺は、俺は認めんぞっ!!お前が死ぬなんて認められるかっ!!!まだなにも始まってないっ・・・・・・俺は、お前になにも伝えていないんだっ!死ぬことは絶対に許さぬっ」


 首につけられた傷はみるみるうちに癒えて完全に消えた。


「・・・な、なんで・・・?」

「まだ動くな、安静が必要だ・・・今、使いを走らせている。」


 王妃は血が足りず上手く回らぬ頭で現状を確認した。


 周囲の暗殺者は全て斃れ伏しており、一人娘の第一王女がつまらなそうに手についた返り血を払っていた。


 そして、目の前にはよく見なれた顔で、よく見なれない表情の男がいた。


 涙を流して私を抱き支えるこの男は誰?


「王?・・・」

「すまないレイア・・・俺は、何としても君だけは護ると決めていたのに」


 どうやら本当に王であるようだが、とても信じられない。


「なぜ?」

「丁度、元宰相を捕らえていた時にすでにお前のところへと刺客を送ったと知り、急いできたのだ・・・・今は休め、落ち着いたら全て話そう・・・」


 王に抱きすくめられ、睡眠魔法でも使われたのか、王妃の意識は今度こそ、心地よい眠りの中へ消えた。



 この国の王、元第三王子の母親は側妃で、王子の少年時代に証拠はないが正妃によって毒殺された。

 王子の母親は男爵家の身分の低い出であり、王の寵も厚かった母を亡くして主な後ろ盾もなくなった第三王子は王家にとっては居ても混乱の元となる存在であり、早々に離宮を宛がわれ、使い道があるとされた同腹の妹とは生き別れてしまった。

 そして、そんな唯一の肉親である妹も数々の心労から心身に病を持ち、若くして自らその命を絶ってしまった。

 第三王子は亡くなった母や妹の墓の前で誓いを立て、少しでも同じような悲劇が繰り返されないようにと医療魔法の進んだ国へ留学し、熱心に医療の道を学んだ。

 だがなんの運命の悪戯か・・・先王崩御の折に第一王子は失脚し、第二王子は戦場で討ち死にするという異例の事態が起きたのだ。

 いらないはずの第三王子に白羽の矢が立ち、国という大きすぎる責任が王子の元へと突然に転がり込んできてしまったのだ。

 それまで長い時間を海外で過ごした王子には当然、宮廷においても信の置ける家臣はおらず、魑魅魍魎とも思える貴族達が跋扈する中、王としての役割を全うしなければならなかった。

 そして、そんな折にあてがわれたのが伯爵令嬢であった。

 伯爵令嬢は美しく、その心の在り方は独りよがりではあったが純真でもあった。

 王にはそんな純真さが心地よく思わず心を奪われたが、王妃に子が宿った時に亡くなった母親と妹の最後が頭にちらついた。

 寵を与えれば、与えたほどに今の宮廷内ではいい的でしかない。

 そして、それからの王はあえて王妃に興味のないように内外に示した。

 数年の時が経ち、すべてが変わり始めたのは王と王妃の間に生まれ成長した第一王女によってであった。

 第一王女は幼少の頃より聡明で、なによりもひたすらに強かった。

 その知は民草を育てるのに長け、政でもその才を示し民の生活は一気に向上した。

 戦に出れば全戦全勝、その力は国の地図を塗り変えた。

 宮廷内においても、まだ幼さ残り母に似て美しい容姿でありながら、魑魅魍魎の貴族どもを駆逐し、あるいは飼い慣らし、古き慣習を破壊した。

 王はそれを一切止めず、王女の行動を全て支持した。

いまや宮廷においては王女の敵はなく、また王の護りたかったものを脅かすものはないかと思われていた。

 そんな時に起きたのが元宰相一派による王妃暗殺未遂事件であったのだ。



 建国祭の日、王宮内の広場には多くの国民が集まっていた。

 シッカリと背筋をピンとはる王妃に少し背の丸い王。

 王の歩は王妃に合わせ、王妃の手はしっかりと王の腕に回されていた。


「あのとき、私に何を伝えたかったのですか?」


「ん、ああ、それはだな・・・・・」


 どこかイタズラを思いついたように冗談めかして王妃は王に問うと、王は少し顔を赤らめながら口ごもった。


「ふふ♪言わなくても伝わっていますよ」

「はは、まいったな。・・・だが言わせてくれ・・・・俺はお前を愛している。こんな不甲斐ない夫だが一緒についてきて欲しい」

「ええ、どこまでも一緒に行きます。こんなに立派な夫をもって私は幸せです・・・私も・・・・・・・貴方を愛していますよ。」


 お互いに顔を赤らめながらも相手をみつめ、そう言うと抱きしめ合って小さくキスを交わした。


「さぁ、皆がまっております、そろそろ行きましょう、ルドルフ」


「ああ、そうしよう、レイア」


 二人寄り添い向かう先で白く光り輝きを増しながら宮廷広場へと繋がる扉は開かれていった。



王様:ルドルフ

 凡庸な容姿で、使える魔法属性も治療魔法1つのみという武威の低い王。だが悲しい過去を乗り越え、王宮内を掌握するとふところ広く寛容で深慮に長けた賢王として名高い治世を敷く。そしてまた正妃一人しか妻に迎えることはなく大変な愛妻家としても後世に知られている。ちなみに毒薬事件の折に軟禁したのも元宰相の一派から王妃を護る為でした。


王妃:レイア

 長い間の王への誤解も解け、すさまじいデレ期が到来して第二子をもうけた。王に似た茶色の髪を持つ女の子で、王妃はめちゃめちゃ嬉しそうであったという。そんな第二王女出産をきっかけに娘である第一王女との関係も良い方向に転じる。


第一王女:ソフィア

 超ハイスペックな完璧超人に見える王女の唯一の欠点は感情表現が少し苦手?壁ズドン(意訳:危ないから関わっちゃダメよ)毒薬グビリ(超訳:私は平気だから心配いらないよ)的な・・・。そんな王女もある平民の少年との出会いと恋をきっかけに変わり、そのうち王家を捨てて市井に身を落とすのはまた別の物語・・・。


※追伸:このお話は以前に投稿した「ただの平民だが」シリーズともリンクしています。そちらでも王に王妃に王女の活躍をご覧いただけますので、合わせて読んでいただければ幸いです。


※建国祭には王族全員が参列するきまり。


(〃゜д゜;ここに娘がいるんだが甘々だなあのバカップル テクテク (( (*--) ̄ー ̄)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 王族に嫁ぐと言う事は王族としての勤めを果たす義務が生じる 贅沢をする事のみに関心があった伯爵令嬢が改心して王妃としての責務に目覚めた展開は良かったです [気になる点] ソフィア……どこの…
[一言] 終わりよければ全てよし、なんでしょうが、ちょろすぎる王妃に納得がいかない。 寵愛していることがばれるのが危ないというのであれば、事情を説明すれば言いだけの話では? 王妃には何も出来ないから放…
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