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美咲さんの家で

 背中にシャツが貼り付いている。汗がしたたり落ちてゆく。

 僕は綾乃さんに誘導されて、焼け付く様なアスファルトの坂道をひたすら登っている。

 それほど長い距離を歩いたわけではないのだけれど、午前中とはいえ真夏の日差しに照りつけられた上り坂は、体力がみるみる消耗してゆく。

 大きく息をついたあと、道路の中央にひかれたセンターラインの先を見上げると、少し先は空につながっていた。頂上は近い。

 背中から、額から、汗があふれるのを感じながらさらに歩いていると、大きな住宅街に出た。


「やっと上に着いたわね。美咲の家はこの近くだから」


 隣を歩いている綾乃さんが僕を見上げるのが視界に入った。なので僕は綾乃さんの顔を見下ろした。

 可愛らしい白い額には、グラスに貼り付いた水滴の様な汗がうっすらと浮かんでいる。

 ツインテールの小さな頭に頷いてから、僕は周囲を見まわした。


 白いガードレールで車道から仕切られた歩道の脇には、規則的に背の高い街路樹が並んでいる。家々を分ける柵の向こう側にも緑が溢れた庭が続く、緑豊かな住宅地だった。


「いつ来ても感心するくらい綺麗な住宅街だね。どの家も大きいし」

「うん。美咲の家も、お父さんはなんか有名な人らしいし、きっとそういう住宅街なんだと思う」

「そうなんだ? すごいな……」


 言いながら僕は、彼女達が通うのはこの辺でも有名なお嬢様学校だということに気がついた。やはりそういう事なのだろう。


「すごいらしいんだけどね……。でもね、今回はその事が逆に作用しているの。世間体を気にするあまりにね、美咲がいなくなった事も秘密裏に処理しようとしたらしくて、警察に捜索を依頼したのがいなくなってから二日も過ぎたあとらしいから」

「えと……今日で美咲さんがいなくなって今日で何日目だっけ?」

「四日目、ね。先週の日曜日にメールがあって、その翌日からいなくなったから」

「そうか」


 微妙な日数だと思った。

 四日程度なら、家出ならば日常の小遣い程度でなんとか過ごすことができるだろう。けれども、もし事故や事件に巻き込まれているとするとそろそろ危険な日数が経過していることになる。


「とにかく、美咲さんの家に急ごうか」


 僕の気持ちを知ってか知らずか、綾乃さんは不安そうに小さく頷いた。


 坂を上がりきって平坦な場所に出たせいか、それとも緑の多い環境のためか、坂の上の住宅地に吹く風は涼しい気配を含んでいた。歩道を覆う街路樹に日差しが遮られて、背中の汗も徐々に乾きつつある。

 綾乃さんは相変わらず僕の腕をしがみつく様に抱えながら歩いている。

 しばらく歩いて少し大きめの交差点に差し掛かった時、袖が引っ張られる様な感覚があった。綾乃さんの側の袖だ。

 僕は綾乃さんを見下ろす。と、綾乃さんは、僕の袖をつまむ様に引っ張っていた。


「あそこが美咲の家」


 綾乃さんの指差した先には、一軒の白い家があった。


「えーと。まだ早かったかな? 家の周りには誰もいないね。茜の方が先に来ていると思っていたんだけれど」


 僕は同意を求めようと綾乃さんの顔を覗き込んだ。


「うん。確か一時間後に美咲の家の前に集合って言ってたよね」


 綾乃さんは携帯で時間を確認しながら答える。


「そろそろ一時間くらい経ってるよね?」

「一時間を……少し過ぎている気がする」


 僕の顔を不安そうに覗き込む綾乃さん。


「何かあったのかな? 電話、してみようか。茜とはいえ、少し心配だし」

「翔太さん、『茜とはいえ』って、それちょっとひどいから。でも、確かにちょっと心配」


 すかさず突っ込みをいれつつも深刻そうな顔を僕に向ける。


「とりあえず僕がメールしてみるよ。茜もこっちに向かっている所だと思うし」

「メールなら私がしてもいいんだけど、まぁ、それはどっちでも。そうね、お願いしてもいい?」

「うん。茜のメルアドは昨日登録してもらっているし、試しに使ってみようと思う」


 日差しが強くて液晶がよく見えないので、美咲家前の歩道に木陰を作っている街路樹の下に移動する。


 ちょうどいい高さにガードレールがあったので、その上に座ってメールを打ちはじめると、綾乃さんも僕の横にちょこんと座り、僕が打っている携帯の画面を覗き込んだ。


「ごめんなさいね。関係ないのにいろいろと付き合わせちゃって」


 申し訳無さそうな綾乃さんの表情。


「いや、確かに関係はないんだけれど、いろいろと足を踏み入れちゃったからね。今はなぜだかすっかり関係者って気がしているよ。綾乃さんが気にする必要は全くないから」


 僕は綾乃さんに笑顔を作ってみせた。この娘に気を遣わせるわけにはいかない。この娘のせいで今回の件に関わる事になったわけではないのだから。


「そ、そうよね。関係、しちゃってるよね。関係なくても、関係しちゃえば……」


 綾乃さんのかわいらしい声で発せられた『関係しちゃう』という言葉に僕は反応してしまった。


「か、関係しちゃうって?」

「あっ。そういう意味じゃ……」


 綾乃さんの耳がうっすらと赤くなってゆく。

 掛け値なしにかわいらしいと思った。

 僕は黒ずくめの華奢な身体を抱きしめてしまいたい衝動に駆られた。


「あ、綾乃さん……」


 綾乃さんの瞳を見つめる。


「はい?」


 状況がつかめていない表情で視線を僕に返す綾乃さん。


『ピピピピピ』

 僕のポケットから甲高い電子音が響いた。


 絶妙のタイミングで、僕の携帯が鳴ったのだ。そう、鳴りやがった。いいタイミングで。

 悔しいけれど、こういう時のお約束なのだろう。


「はい。翔太です」


 機嫌の悪い声で、仕方なく僕は電話に出る。


『翔太です。じゃないわよ。あんた、何やってんのよ』


 茜の声だ。


「なんだよ、茜かよ。何やってんのよって、おまえこそ何やってんだよ。待ち合わせの時間、とっくに過ぎてるし」

『なによ。私ならちゃんと美咲の家に来てるわよ』


 僕は左右を見回す。それらしき人影はない。


「嘘つくなよ、そんなのすぐ分かるっての。こっちは美咲さんの家の前にいるんだから」

『家の前? 残念でした。私は家の中にいるんだから』

「中?」

『そんな暑い所で私がいつまでも待ってるわけないでしょ? 少しは私の性格を理解しなさいよ』


 そうでした。あなたの性格はそんな感じでしたね。


『早く来なさいよね。あなたはいいにしても、綾乃が暑いでしょ?』

「って、僕の事はどうでもいいのかよ?」

『綾乃は、この真夏に黒い服なのよ?』


 ……理解しました。


 僕はガードレールに座り込む綾乃さんに目を移した。天使の様な微笑みには、確かに、いつになく力ない気がした。


「と、言う事らしい。茜が美咲さんの家の中で待っているから、僕たちも行こうか」


 綾乃さんは、笑顔で小さく頷いた。


「これから行くから」


 わざとぶっきらぼうに告げたあと、僕は携帯を切った。



 アイアンで作られた白い門扉を押し広げて、僕たちは家の敷地の奥に進む。割石で舗装された玄関へと向かう通路の左右には、手入れの行き届いた観葉植物が並んでいる。

 初めて訪問する家、それも僕と同じ年の女の子が住んでいる家だ。僕は少しだけ緊張しながらベルを押した。


「はーい」


 玄関から僕よりも少し年上の女性が顔を出した。


「こ、こんにちは。僕たちは茜さんに呼び出されて……」

「あ、聞いていますよ。どうぞ、入ってくださいね」


 玄関から顔だけを出したその女性の、茶色がかった背中まで伸びた髪が、夏の熱風にたなびいた。

 優しそうな笑顔だった。


「おじゃまします。えーと、美咲さんのお姉さんですか?」


 背中を小さく叩かれた気がした。綾乃さんが何かを合図している。


「いえ、美咲に姉はいませんよ」


 玄関の女性は口元を軽く緩めた。


「えーと?」

「私? 私は美咲の母です。よろしくね」


 女性は、美咲のお母さんは、首を小さく横にかしげて、髪をかきあげながら僕に微笑んだ。

 綾乃さんの合図はこの事だったのか。僕は自分の失言に慌てた。


「ここまで歩いてきたのね。暑かったでしょ? 冷たいものでも入れるから、応接間で待っててくれる?」


 美咲さんのお母さんは、なぜかとても嬉しげにキッチンへと向かった。

 僕は綾乃さんに振り返る。


「まずかったかな?」

「ううん。結果オーライみたいよ。美咲のお姉さんって言われて機嫌良くしているみたいだし」

「そうなのかな?」

「私にはそう見えたけど。それより、早く応接間に行きましょう。きっと茜も待っているから」


 綾乃さんは、僕の隣に移動すると、両腕でぼくの腕を抱える。……腕に、何か柔らかいものがが当たる感触がした。


 綾乃さんのエスコートで玄関を上がり、一番最初のドアを開けると、そこには剣呑な眼差しをこちらに向ける、短髪の少女がいた。


「いらっしゃい。っていうか、ずいぶん仲が良さそうじゃない。いつの間にか」


 茜は右腕の肘を曲げて横に突き出すと、左手で右腕の肘を指差した。


「いや、これは違うんだ」


 そのアクションに気づいた僕は、とっさに綾乃さんの腕を振りほどいた。『なんで僕はこんなに慌てながら取り繕っているのだろう』と素朴な疑問を心の奥でうっすらと感じながら。


「何がどう違うのかわからないんだけど、まぁ、いいわ。違うと言うなら一応は許してあげる」


 許された理由も、怒りを買った訳も分からないのだけれど、どうやら僕は許された様だ。まぁ、なんにしても波風が立たないのは良い事だ。茜から何か被害を被る事が無い事だけは理解して、僕はなぜか安堵の感情を噛み締めながら、ソファーへ向かった。


 座り心地の良いソファーから見える窓の外の景色は、緑に包まれていた。手前には庭木の緑が広がり、その奥には街路樹がそびえている。

 なにげなく外の風景を眺めていた僕は、一本の街路樹に目を止めた。つい今しがた、僕と綾乃さんが木陰で茜からの電話をとった時の、見覚えのある木の姿だった。



「茜、ここからさっき僕たちが待っていた場所が丸見えなんだけど」


 茜は僕の方を見る事も無く答えた。


「そうね。ここから二人が待っているのがよく見えたわね」

「で、なんでここから声をかけなかったんだよ?」

「そんなの、どうでもいいじゃない。結局、電話してあげたんだし」

「つか、暑い中外で待ってるのが分かったんなら、早く声をかけろって」

「気づいたのは電話をする少し前よ。仕方がないじゃない。それより間違いが起こる前に電話してあげたんだから、逆に感謝しなさいよ」


 間違い……やはり見られていたのか、どうりで良いタイミングで電話がきた筈だと思った。同時に、僕はまずい立場に立った事を悟った。


「間違い?」


 綾乃さんが困惑した表情で僕と茜の顔を見比べる。いけない、さっき、抱きしめようとした事が綾乃さんにバレたら、どう考えても軽蔑されてしまうだろう。


「そ、それは感謝するよ、茜。で、この話はそこで終わりにしよう」

「間違いって? ねぇ、間違いってなに?」


 縋るような目で僕をみる綾乃さん。


「私から説明してあげようかしら?」


 腕を組みながら、僕を見下ろす様な目で見つめる茜。


「説明するな……いや、しないで下さい。茜さん」


 全身から、血の気が失せてゆくのを感じた。

 絶体絶命の危機に陥った僕を救ってくれたのは、ドアを叩く音だった。



「お待たせしましたー。冷たい飲み物と、買い置きのクッキーくらいしかないけれど、どうぞ」


 弾んだ声でそう言いながら、ノックの後に入ってきたのは美咲さんのお母さんだった。


「ごちそうさまです。でも、その前に美咲の部屋に案内してください。美咲に貸していたノートを探さないといけないから。ね、茜」


 徐に立ち上がる綾乃さん。

 そんな綾乃さんを見上げながら頷く茜。


「せっかく飲み物まで出していただいているのに申し訳ありません。でも、ノートが気になってしまって」


 茜が普通に話している。暴言ではなく普通に丁寧語まで使って。


「そう、じゃぁ先に美咲の部屋に行きましょうか。ノートの事については、もう茜さんから話は聞いています。うちの美咲が借りたままいなくなってしまって、ご迷惑をかけてしまったみたいで」

「いえ、迷惑なんて。私たち、ノートの貸し借りはよくしてるんです。けれど、今回は夏休みの宿題で分からない所があって、どうしても美咲に貸したノートを見たくて。美咲がいないのに勝手に部屋に入るのもどうかと思っているんですけど」

「本当にねぇ、美咲ったら……」

「本当は美咲が帰ってきてからノートを返してもらうべきなんですけど、宿題の回答欄を一カ所だけ空欄で残すのも気持ち悪くって。本当に、美咲が悪い訳ではないし、私たちも美咲の行方について心当たりを当たってみようって話していたんです」

「気を遣わせてしまってごめんなさいね。でも、もう警察には連絡しましたし、美咲の事はそんなに気にしないでくださいね。私も取り乱してしまってあなたたちに連絡しちゃったから、心配をかけてしまって」

「いえ、私たちも美咲の事は心配で。私たちもこの後、心当たりを当たってみるつもりなんです。何か分かったらお知らせしますね」

「ありがとう。でも、あんまり気にしないでね。せっかくの夏休みなんだし。美咲の部屋、知ってるわよね。探したい物が分かっているのなら二階の美咲の部屋、適当に探してもらっても構わないですよ。それとも、一緒に探した方がいいかしら?」

「いいえ。たぶん簡単に探せると思うんで、お気遣いなく。私のノートですし。……ね、綾乃は一緒にきてくれる?」

「いいですか?」

「茜さんと綾乃さんなら、美咲といつも仲良くしてもらっているんだし、構わないですよ」

「ありがとうございます。信用してもらって。あ、翔太はダメだからね。男の子を美咲の部屋に入れる訳にいかないから。ここで待ってなさいよ」

「……分かってるよ」


 僕は茜に答えた。


 なんでこいつは他人には普通に接することができるのに、僕だけには高飛車なんだろうと思いながら。綾乃さんはこちらを振り返り、無言のまま顔の前に手を上げて『ゴメン』のポーズをした。



「えーと、初めまして……ですよね、翔太さん」


 美咲さんのお母さんは、首を傾げながら僕に微笑みかけた。


「初めまして、です。なんか、あまり関係ないのに上がり込んでしまってすみません」

「いいんですよ。美咲の友達なんでしょ? 同年代の男の子の友達は珍しいんだけど」

「ええ。って、いうか、美咲さんとは……」


『面識はありません』とは、言えなかった。


「ふふっ。なんとなく分かってますよ。美咲の友達っていうよりは、茜さんのボーイフレンドでしょ?」

「え、あ、茜の? 違いますって!」


 僕は慌てて否定した。


「そうなのかしら? 茜さんの様子をみていると、そんな感じがするんだけど」

「違いますってば!」

「ふふ。まぁ、それなのに何で綾乃さんと一緒にうちに来たのか不思議だったんですけどね」

「いや、それも違いますから!」

「あら、綾乃さんと一緒に来たじゃない」

「あ……」

「ふーん。なんとなく分かったわ。あなたと二人とは知り合って間もないわけね」


 ……なんで分かるのだろうと思った。これが、大人の、いや、女の勘ってやつなんだろうか?


「なんで分かったのかな? って、思っているんでしょ?」

「いや……」


 僕は初めて大人の女性の恐ろしさを知った。もしかすると、僕の考えている事なんか全てお見通しなのかも知れないとすら思った。



「美咲も、どうせならあなたみたいな子と遊んでいれば良かったのに」

 

 美咲さんのお母さんは、寂しそうに微笑みながら視線を落とした。そして、その後ため息をついた。


「あなたみたいなって……そういえば、さっき『同年代の男の子の友達は珍しい』って言っていたけれど、どういう意味なんですか?」

「美咲はね、普段からあんまり家に寄り付かない子でね。……学校帰りにはいつもどこかに寄っているみたいで、夜遅くならないと帰って来ないんです」

「はぁ」

「夜遅くに、車が家の前に停まる音がしたかと思うと、玄関が開く音がして……美咲が帰ってくる事が多いので、おそらく誰か男の人にでも送ってもらっているんだと思うんですけど」

「車を運転するっていうことは、少なくとも僕たちの年代ではないと……」

「そう。うちにもいろいろ事情があって、私が美咲を叱る事はできないので……けれども、高校生の娘が夜遅くまで帰って来ない事も、車を運転する様な年上の人と付き合っている事も、娘の為には良い訳がないので、どうしようかと悩んでいたんですけれど。それが今回、美咲の行方がわからなくなった事と関係があるのだったら、はっきり注意できなかった私にも責任があると思うと……」


 美咲さんのお母さんは、ゆっくりとテーブルの上に視線を移した。寂しそうな、心細そうな表情が浮かんだ。その表情は、僕には本当に娘を心配をしている母親の姿に見えた。


「最悪の状況って、そんなに起きないものですよ。僕たちも心当たりを探そうと思っていますし、何より通報をしたのなら警察も動いてますし。とにかく、無事に帰ってくるのを待ちましょう」


 今の僕には、そんな無責任な気休めの言葉しか出なかった。そんな僕の頼りなささえ見透かす様に、美咲さんのお母さんは、こちらにちらりと視線を向けると、寂しそうな笑顔を作った。




 階段を降りる足音が聞こえてくる。と、思うと部屋の扉がいきなり開いた。


「翔太、ノートあったわよ」


 茜が満足げな表情で部屋に入ってくる。おまえ、そんな元気そうな笑顔で……ちょっと空気を読めよ。


 僕は、思わず自分の顔を押さえた。


「これで夏休みの宿題は完了ね。ね、綾乃」


 続いて部屋に入ってきた綾乃さんに向かって振り返る茜。


「ええ。見つかってよかった。早速、宿題に取りかかりたい所なんだけれど、ねぇ」


 綾乃さんはテーブルの上の、まだ手をつけていない飲み物に目を向ける。


「せっかく、飲み物も用意してもらっているんだし、少しは……ね?」


 茜の着ている服を軽くつまんで、小声で合図をする綾乃さん。


「あら、気遣いはいらないわよ。もともと美咲が綾乃さんのノートを返さずに居なくなったのがいけないんだから。夏休みの宿題は早めに片付けた方が後が楽よ」


 美咲さんのお母さんは、茜に向かって振り返る。自分の気遣いのなさに、一瞬固まる茜。


「ごちそうさまでした!」


 僕は茜をフォローするために、美咲のお母さんに声をかけた。


「いえいえ。美咲が帰ったら、またみんなで遊びにきてくださいね。翔太さんもね」


さっきまでの寂しそうな顔を押し殺したように、美咲さんのお母さんは僕に笑顔を向けた。





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