信頼と不安
「お願いします」
西御門さんの後ろ姿に声をかける。
「いいさ。俺も城廻の話は実はそれほど信じてはいないんだけどな。けれど、本当にそのヘッドギアを使う事で城廻の祖父に会えたとしたら……絶対にこっちに戻すんじゃないぞ」
僕は薄暗い事務所のような部屋で、ヘッドギアを頭に着けて横たわっている。茜と一緒に来たばかりの西御門さんの事務所だ。
脇では西御門さんが真剣な表情で機械を操作している。
窓の向こうで点滅を繰り返す、赤いネオンサインを眺めていた僕は、それにも飽きて目を閉じた。
機械がうなる音が耳に心地いい。
遅い時間のせいか、それがこのヘッドギアの効果なのか、僕は急に眠さを感じた。数回しか会った事のない他人の家で、無防備だなと一瞬ためらってみたものの、それが今回の目的だと思い、睡魔に身を任せる事にした。
なぜか、南米で蝶を噛み締めたという十二所店長との話を思い出した。
『それが人にも作用するとして、人の意識が朦朧とするわけなんでしょ? それって、危険なんじゃ……』
『そう。そういう僕も、その青年が善意の人だったから良かったものの、悪意があれば、意識が朦朧としている僕を殺す事も、金品を奪う事も簡単だったとも言えるわけだ。彼がそばにいてくれたから良かったものの、放っておかれたら動物に襲われていた危険もあるしね。よく考えると恐ろしいことなんだけれど』
僕が目を覚ました時、西御門さんは、僕の安全を確保しながら笑顔で迎えてくれるのだろうか。




