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潜入

 十二所さんが経営する『nest of moth』は、駅近くの繁華街の一角にあるビルの一階にひっそりと開業している。辺りは飲食街が集まり、夜遅くでも人通りが絶える事は無い。

 店の中から聞こえるBGMの音、ゲームセンターから流れてくる効果音や繰り返し流されるゲームの音楽、街を歩く人々の話し声。今は夜中に近い時間帯だということを、ともすれば忘れてしまうような騒音が渦巻いている。

 人々は気の向くままに、携帯を操作しながら、話しをしながら、前も見ずに闊歩している。

 僕は、雑然としたこの辺りがあまり好きではなかった。


「翔太、平気? 元気がないけれど」


 茜が心配そうな顔をする。


「大丈夫。今日は歩き過ぎたね。一日にいろいろな事があって疲れた気がする」


 言った後、茜も同じだと気づく。彼女も今日は僕と同じく歩きづめだったはずだ。


「茜は、大丈夫?」

「うん、なんとか。今日は一日翔太といられたし」


 言ってから何かに気づいた表情になり、先を歩く里奈を見つめる。


「ん。なんでもない」


 それから僕にそう告げた。



『nest of moth』の前には、先に来ていた西御門さんが待っていた。


「話はしてあるから、一緒に入って十二所と会うか」


 重そうな木製のドアを西御門さんが開ける。


「よお、さっき話したバイトの件なんだけど、お願いしたいのはこの子達だ」


 西御門さんは、陽気そうな声で十二所さん、——店長に話しかける。


「バイトって、さっきのって、お前らか」


 十二所さんは僕たちの顔を一人ひとり見比べる様に眺めた。


「な、西御門、何か企んでいるだろう。なんで、こいつらなんだ?」

「既に知り合いだと思ってな。使いやすいだろう? それにこいつらも夏休みの小遣いが足りないらしいんだよ。高校生だから使わないとは言わさないぞ? 実際こいつらの友達を使っていたんだろう」

「どうしてこいつらに連絡できたんだ? 西御門」


「俺が管理させられているいる求人サイト、ほら、お前の所も求人を出しているだろう? この界隈の居酒屋やスナックの求人を纏めているサイト、あれに登録してきたんだよ。それでお前の所に応募するのが分かったんだ。全くの偶然だ。俺もお前の所から鈴音を引き抜いちまったからな。それのお詫びの意味で先に知らせてやったんだ。採用するもしないもお前次第なんだけれどな。な、人は足りないんだろう?」


「本当にそれだけなんだろうな? 西御門」


 怪訝な顔をする店長。


「本当にそれだけさ。ちなみに知っての通り、俺の所は求人サイトだからこれは紹介じゃない。手数料は取れないんだ。お前がどんな顔をするか面白そうだから見に来ただけさ。驚いた顔、それから疑う様な表情、結構、面白かったぜ。じゃ、俺はこれで失礼するからな」

「待てよ」


 後ろから肩をつかもうとする店長を交わして、西御門さんは店から出て行った。



「おまえら、なんだってあんな奴に……」


 店長は怪訝そうに見つめながら僕を問いつめる。


「三人で夏休みのアルバイトをしようっていう事になって、求人サイトを見ていたら店長さんの店が載っていて、で応募をしたら西御門さんから連絡があって一緒についてきてくれるって言うのでお願いしたんです」


 僕は用意してあった通りに答える。求人サイトにここの求人があったのは確かだ。けれども西御門さんが管理しているサイトというのは嘘だ。当然僕たちはサイト経由で応募なんてしていない。


「私たち、アルバイトは初めてなんで、不安だったのもあって、ここなら十二所さんがいるから大丈夫かもって思って」


 これは茜に用意された台詞だ。


「仕事、できるんだろうな」

「私はアルバイトの経験もあるからホール係は問題ない。注文は任せて欲しい」


 里奈の台詞。店中の男達の視線が里奈に集まる。

 里奈の場合、アルバイト経験と言ってもモデルのアルバイトだけなのだが。

 けれども、それでもその容姿は武器になる。ルックスはホール係に必要な要素だろう。里奈の容姿は、完全にそのレベルを満たしている。


「とりあえず一日使ってみて、できそうならっていう条件でどうです? 実際の所、僕たちも少し不安だし」


 店長は、一瞬だけ考える様子をみせて、深くうなずいた。

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